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「うんこお嬢様とホームルーム」

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 教室の中にはクラスメートのほとんどが既に登校してきていた。早くも友達になったのか数人で話し込んでいたり、一人でぼんやり窓の外を眺めていたりと、それぞれが思い思いに教師が現れるまでの時間を過ごしているようだった。ただ、みなのその顔に浮かぶ表情は緊張したものだったり、どこか警戒したものだったりと、なんとなくギクシャクしたものに感じられた。
 ああ、みなさんも自分と同じなのですね、と少し安堵を覚えながらも、智子も自分の席に座っておとなしく教師が来るのを待つことにした。
 なんとなく、先ほど見回したクラスメートの面々の頭が智子には気になった。
 入学式の時にはそうではなかったような気がするし、あるいはただ気がつかなかっただけなのかもしれないが、クラスメートの髪の毛の色がなんというかこう、うんこみたいな人が多い気がするのだ。
 もしかすると、髪をうんこ色に染めるのが校則かなにかのだろうか、と一瞬不安になったが、姉が高校に入学してから髪をうんこ色に染めたことはないし、またクラスメートの面々には少数ではあるが自分と同じように黒い髪の生徒も見受けられる。
 じゃあこれは、流行りかなにかなんだろうか、と思ったが髪をうんこ色に染めるのが流行になるなんて有り得ないですよね、と智子は自分の考えを笑い飛ばした。
 智子にしてみれば、髪をうんこ色に染めるなんて行為はとても正気の沙汰と思えなかった。ましてそれが学校側から強要されるのだとしたら、まさに悪魔の所業に等しいものだった。もしそのような、悪逆非道な行いが校則によって定められているのだとしたら、智子はこの学校を入学一日目で退学することも辞さないつもりでいる。髪をうんこ色に染めるという行為は智子にしてみればそれほど有り得ないことだった。退学するときは全校生徒に向かって「てめぇら正気の沙汰じゃねぇぜ!」と勇ましく宣言してから、学校を後にしようと内心で決意した。そうすれば、自分の宣言に心打たれた民衆たち自然と集いやがて学校側に蜂起、そして革命へと至るでしょう。さながらその姿は百年戦争後期、イングランド軍からオルレアン解放へと導いたジャンヌ・ダルク。人々はやがて自分をジャンヌ・智子と崇め、この高校にその名を知らしめることになるのです。しかし悲しいかな、ジャンヌ・ダルクはやがて異端審問に掛けられ火刑に処される運命。ジャンヌ・智子も生徒会長である姉の謀略に陥り生徒総会で嫌疑に掛けられることになるのです。そして審判、判決へと。「退学ですー」という姉の無慈悲な宣告によりジャンヌ・智子はこの学校を去ることに。許し難しうんこ会長。しかし、ジャンヌ・智子の名はこの高校の伝説として末永く語られることになるのです。そう、この高校を去ることになってもジャンヌ・智子はみなの心の中に……。
 と、そこまで考えたところでふいにチャイムが鳴り響き、智子の思考は中断されて我に返った。
 どうして自分は高校入学一日目の朝に、この学校の歴史を変えることを考えていたのでしょうか、と今更ながら不思議に思ったが、すぐに教師が教室に入ってきたので智子は慌てて居住まいを正した。
 そうして教師の出欠確認に智子はすまし顔で何事もなかったように返事をしたのだった。
 そして、智子の次の出席番号の生徒が名前を呼ばれたのだが――一向に返事が聞こえず、教室はにわかに沈黙に包まれた。
「なんだー入学初日から遅刻かー」と教師がぼやき、他の生徒たちもひそひそと囁きはじめたので、智子もなんとなく後ろを振り返って見たときだった。
 突然、がらがらと大げさな音を立てて教室の扉が開き一人の女生徒が現れた。
「すいません! 学校に来る途中に鳥の糞が頭に落ちてきて一回家に帰ってシャワー浴びてから学校来たので遅刻しちゃいました!」
 教室は再び沈黙に包まれた。
 あら、と智子は思い、教師が「ふーん」と呟いた。
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