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女流武者 御剣桜華 第九幕 夜明けの疾走

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 備前城を取り戻したその翌日の朝、備前城の掃除を済ませた鋼獅朗とその家臣たちは宴の準備に取り掛かっていた。もちろん桜華と東雅はそのことに気付かず、疲れて眠っていた。備前の城では、準備に取り掛かっていた家臣たちが城の掃除で疲れ果てて寝転がっている鋼獅朗に話しかける。
 「鋼獅朗様・・桜華殿が来ていないが・・前日の戦いで疲れてしまったのか?」
家臣の言葉に、鋼獅朗がやつれている表情で答える。
 「ええい・・。疲れているのは私とて同じだ。とりあえず今は寝かせてくれ・・。お前たちは宴の準備に取り掛かってくれ。雲之介がいなくなった今、残りの武士たちは強制的に私の家臣となって働いてもらっておるのだ。では俺は眠る・・。」
鋼獅朗はそう言うと、天守閣へと向かっていく。天守閣の広間に来た鋼獅朗は、布団に寝転がり、眠りに着く。
 「・・家臣たちよ・・宴の準備は任せたぞ・・・。」
鋼獅朗がそう言うと、布団にもぐりこみ、しばらく眠りに着くのであった・・。

 桜華と鋼獅朗が眠っている間に、備前城では鋼獅朗の家臣たちが宴の準備が進められていた。城の大広間では、雲之介によって暮らしを脅かされていた平民や農民が数多く集まり、宴の始まりを待っていた。
 「早く宴を始めてくれ!!おらもう待ちくたびれたぜ・・。」
農民は牛を引きつれ、宴の始まりを待つ。鋼獅朗の家臣の一人が、宴の始まりは夜だということを説得する。
 「すまぬ・・。今は宴の準備の最中だ。この国の領主である鋼獅朗様はこの国を取り戻すために戦い、疲れて眠っているのだ。だからこの場はゆっくりと静養させてくれないか・・。また夜に来てくれ。」
家臣の言葉に、農民は首を縦に振って答える。
 「わかった・・・。また夜に来るよ。おらの友達も誘ってみるべ。」
農民は牛を引き連れ、備前城の門を後にした。
 「雲之介が倒れたことで備前は・・徐々に活気を取り戻しつつあるな・・。このままずっと平和が続いてくれればよいのだがなぁ・・。」
家臣の一人がそう言うと、再び城の中に入り、宴の準備に取り掛かるのであった。

 夕暮れ時、宴の準備も終わりに近づいたそのとき、宿で休息を取っていた桜華と東雅が目覚めた。目が覚めた二人が外を見ると、そこには赤い夕焼けが目に映る。
 「今は・・夕方のようだな・・!!しまった、眠りすぎた!今日は夜に備前城で宴があるのだったな・・。東雅殿、城へ急ぐぞ!!」
桜華と東雅は急ぎ足で備前城の門の前へと急ぐ。もうすぐ宴の始まりを告げる領主の挨拶の時間が、刻一刻と迫ってきていた。二人は城の門を開け、城の天守閣へと向かっていた。
 「桜華殿・・早く天守閣へと急がなければ、領主殿に怒られてしまいますぞ・・。」
東雅がそう言うと、桜華は東雅の手をつなぎ、城の廊下を走っていく。数分後、二人は疲れきった様子で天守閣へとたどり着いた。
 「はぁはぁ・・鋼獅朗殿・・遅れてすまぬ・・。」
疲れきった表情の二人がそう言うと、鋼獅朗が答える。
 「昨日はよく眠れたかな・・。さぁ、私の宴の開始の挨拶が終わるまで、ここで休んでくれ・・。」
鋼獅朗が桜華にそう言うと、天守閣のテラスから平民たちにそう言った。
 「私が新しくこの国の領主となる龍牙鋼獅朗と申す。これからは雲之介の悪政におびえる必要は無くなった。これからは平和で豊かな国づくりに貢献していただきたい所存でございます・・。新しい領主となった記念として、この城にて宴をはじめる!!皆のものよ、城に入るがよい・・。」
鋼獅朗がそう言うと、平民と農民が歓声をあげる。家臣たちが門を開くと、平民と農民たちが一斉に城の中へと入り込む。
 「宴だ!!待ちに待った宴だっ!」
平民が嬉しそうな表情で城へと入りこむ姿が桜華の目に映る。中には牛を引き連れて来る農民の姿も見受けられた。
 「平和になったな・・。しかしこの宴が終われば私の両親の命を奪った虎雅を倒さねばならん。麻蛇羅家は皆殺しにしなくてはならない・・。そのためにも、もっと家臣を集めなければならない・・。」
桜華がそう言うと、東雅が桜華を元気付ける。
 「私はあなたの家臣です。これから先、何が起こるかわかりませんが、がんばりましょう!!それより早く大広間に行きましょう。早くしないと食べ物が無くなってしまいますぞ。」
東雅がそう言うと、二人は宴を楽しむため、一階の大広間へと向かっていった。二人が向かった後、領主挨拶を終えた鋼獅朗が大広間へと向かうのであった。

 備前城の大広間では、城下町の平民や農民たちが宴を楽しんでいた。鋼獅朗の家臣たちもその中に混じって宴を楽しんでいた。桜華と東雅は遅れて鋼獅朗の家臣たちと合流した。
 「桜華殿・・遅かったでござるな。早く宴を楽しもうぜ。そこの男の者も・・早く早くっ!!」
鋼獅朗の家臣たちが桜華と東雅を引っ張ると、二人を席へと座らせた。鋼獅朗の家臣たちと飲み物を飲んだりして、二人は宴を楽しんだ。

 長い宴が終わり、宴会場と化した大広間から平民たちが消え、そこには酒に酔いつぶれた鋼獅朗の家臣たちが倒れていた。
 「これはひどい・・酒の力というものはひどいでござるな。人の心を高揚させ、最後には眠ってしまう効果があるとはな・・。」
東雅が倒れている鋼獅朗の家臣たちを見て、そう呟く。
 「さぁ、私たちは外の空気でも吸うか。東雅殿もどうか?」
桜華がそう言うと、東雅が首を縦に振り、こう答える。
 「そうですね。宴は一晩中続いたのだからな。私も外の空気を吸いたくなった。早く外に出て空気を吸おう。この場所に居続けたら気分が悪くなりそうだな。」
桜華と東雅は外の空気を吸うため、備前城の外に出た。二人は外の空気を目一杯吸い、城へと戻ろうとした瞬間、二人の前に鋼獅朗が現れた。
 「おお・・桜華殿と東雅殿ではないか・・。このたびは備前を取り戻すために協力したことをとても嬉しく思っている。ところで、桜華殿の旅の目的は両親の命を奪った虎雅への復讐か・・。奴はこの備前から遥か遠い大和を領地としている。奴の家臣と戦うには、旅を続け、多くの家臣を仲間にすることだ。東雅殿よ、桜華殿のことを頼んだぞ。備前を取り戻してくれたお礼として、馬車と百両を持っていくがよい。これから厳しい旅になるが、あきらめずにがんばるのだぞ。」
鋼獅朗がそう言うと馬小屋から馬を桜華たちの元に持ってくると、すぐさま馬車を取り付ける。東雅は馬車に乗り込むと、すがすがしい気分で鋼獅朗にそう言う。
 「鋼獅朗様。いい馬車をありがとう。この中は風通りもよく、休憩にも最適だな。鋼獅朗様、ありがたく受け取っていただきますぞ!!」
東雅がそう言うと、鋼獅朗が答える。
 「もう夜が明けるころだな・・さぁ、お前たちはもうここには用は無いはずだ。さぁ、虎雅を討つために先へ進むのだ!短い間だったが、お前たちと旅してきたことは忘れないぞ・・。桜華よ、必ず虎雅を倒して元気な顔をもう一度見せてくれ!!」
鋼獅朗がそう言うと、桜華は馬にまたがり、発進の準備を進める。そのころ東雅は馬車に入り、一眠り着いていた。
 「では、鋼獅朗様、今から私たちは先に進む。虎雅を倒した暁には、元気な顔をみせようぞ・・。」
桜華は馬を走らせ、夜明けの道を駆け抜けていった。桜華の姿が見えなくなったのを確認すると、鋼獅朗が小さな声で呟く。
 「桜華よ、虎雅を倒せ・・。お前にならきっとできる。家臣を集め、必ず倒してくれ。」
鋼獅朗は桜華の身を案じながら、備前城へと戻るのであった。

宴が終わり、桜華は馬を駆り、夜明けの道を進んでいく。
次の国で、桜華と東雅を待ち受けるものとは!?
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