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第16章 裁きの雷

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 閃光が視界を覆い、耳をつんざく轟音が響いた。
 あまりに突然の出来事であり、シュジェは何が起きたか理解できない。周囲を見回す。
 すると、10メートルほど離れた位置にいたヨハネスとガルーザが地面に倒れている。急いで2人に駆け寄る。
 「酷い‥‥」 ヨハネスが無残に黒焦げになっていた。身体から煙が立ち昇り、肉が焦げる臭いが鼻を突く。一目で絶命していることがわかる有様だ。
 「ガルーザは‥‥まだ息がある!」
 どうやら落雷がヨハネスに直撃したらしい。ガルーザはうめき声を上げ、上体を起こす。
 「‥‥何事だ!?」 轟音を聞きつけ、イヴ達が飛空艇から姿を見せる。
 「ガルーザ、大丈夫?」
 「何が‥‥起こったんだ」
 「落雷よ。ヨハネスが死んだわ」
 「‥馬鹿な」
 一同が騒然としていると、上空に飛行している物体が視界に入った。
 「あれは‥鳥‥?」
 格納庫の天井に視線をやると、確かに鳥の様なシルエットが浮かんでいる。だが、かなり大きい。5mはあるだろうか。それに、よく見ると―
 「機械の鳥だ‥!ヒューマンの兵器か!」
 すると、格納庫中に声が響いた。
 「エル・シド様の仇は討ったわ‥。あなた達も黒焦げにしてやる!」
 雷鳥が羽ばたくと、両翼から炎が迸る。
 ―ゴォォォォオ
 ウェンディが両手を掲げ、空中に激流を起こす。炎を消化し、雷鳥を呑み込む。
 「ウンディーネ‥!邪魔臭いわね!」
 テッサが叫ぶと、水流に電撃が流れる。
 「うっ‥!」
 「ウェンディ‥!」
 ウェンディが感電し、倒れた。
 「‥大丈夫よ!気を失ってるだけ‥!」
 雷鳥が空中で旋回する。
 「そのウンディーネを殺せば、邪魔な精霊はいなくなる‥。何としても始末するわ!」
 ウェンディ目掛けて再度電流が宙を奔る。が、シュジェが彼女を抱えて間一髪回避する。
 「何故精霊を狙う‥!何が目的なんだ!?」
 ガルーザが叫ぶ。
 「‥それがエル・シド様のご遺志!必ずこの世界をヒューマンの支配下に置いてみせるわ‥!」
 「哀れな女‥!」
 ネスビットがいつの間にか飛空艇の翼に登り、雷鳥目掛けてグレネードを投げる。
 「ナイスだ、ネスビット!」
 ―ズドーン!!
 イヴが正確にグレネードを撃ち抜くと、雷鳥の間近で爆発した。雷鳥がふらつく。
 「くっ‥。この程度の爆発、屁でもないわ‥!」
 雷鳥は爆炎の中から急降下し、ネスビット目掛けて突進する。
 「きゃあっ‥!!」
 ネスビットは咄嗟に身体を捻るが、避けきれず背中から鮮血が飛ぶ。
 「ネスビット‥!」
 イヴがかろうじでネスビットを受け止める。
 「全員黒焦げにしてあげるわ!」
 雷鳥の頭にある一本の角がバチバチと音を立て、発光する。
 次の瞬間、周辺一帯に放射状に電撃が迸った。
 5人は避けられず、悲鳴を上げて感電する。
 「ぐぁあああ!!」
 「とどめよ‥!」
 もう一撃食らわせようと雷鳥の角が光る。
 ―ビシャァァン!
 「きゃぁぁー!!」
 突如飛空艇を突き破り、焔龍が雷鳥を襲撃した。テッサが悲鳴を上げる。
 精霊サラマンドラは雷鳥を咥えたまま壁に激突する。
 一同は地面に倒れながら天井を見上げる。
 「くっ‥宝玉のないサラマンドラなど‥、只の龍よ‥!」
 雷鳥は壁の中から脱出すると、必殺の一撃を食らわせようと照準を合わせる。
 次の瞬間、閃光が格納庫全体を覆い、轟音が轟いた。
 「‥ヨハネスを殺した落雷だ‥!」
 ―ズドーン
 焔龍が地面に崩れ落ちる。
 「馬鹿な‥サラマンドラまで‥。」
 イヴが呟き、一同は呆然とする。
 「今度こそ終わりよ‥。最大出力でお見舞いしてあげるわ!絶対に避け切れない!」
 テッサが宣告すると、閃光が5人の視界を覆った。
 ―終わりか‥。
 轟音が轟く。
 一呼吸置き、瞼を上げると、5人の前に巨人が佇んでいた。
 「‥あれは何‥!?電撃を防ぐなんて‥。」
 テッサは得体の知れないものを前にし、咄嗟に距離を取る。
 巨人はバサリと翼を広げると、屈んだまま指を伸ばし、雷鳥目掛けて蒼紫色の焔を奔らせた。
 雷鳥が焔に包まれる。
 「きゃぁぁぁ!何よこれ‥!」
 テッサが叫び、焔を消そうと旋回するが、蒼紫の焔は勢いを変えることなく雷鳥を侵食する。
 翼が燃え落ち、雷鳥は墜落した。
 「熱いわ‥助けて‥!」
 テッサは雷鳥の残骸から這い出し、悲鳴を上げる。
 巨人は不気味に笑い、テッサを観察する。
 「‥誰だか知らないが、やめてやれ。もう十分だ!」
 イヴが告げるが、巨人は声が聞こえないかのようにテッサを見つめる。テッサは苦痛に身をよじる。
 「ククク、やはりヒューマンは焼き殺すに限る。聖帝とやらを握り潰した時は、つまらなかったからな。」
 巨人が愉しそうに呟く。
 「あんたが‥エル・シド様を‥?許さない‥絶対に殺してやる‥!」
 「グハハハハハ‥!!」
 焔は今やテッサの身体全体を包んでいる。イヴとネスビットが駆け寄り、焔を消そうと努力するが、焔は一定の勢いを保ったままテッサを焼く。
 「くそっ‥消えない!!」
 ―ククク‥。
 「パイモン‥やめてやれ。」
 巨人が声のした方を向く。
 一呼吸置いて巨人が指を鳴らし、テッサを覆う焔が消えた。
 「お優しいことだな‥。」
 そう言って、巨人は地面に倒れている精霊サラマンドラに視線をやる。
 「なるほど‥証拠集めは順調のようだな。」
 「‥‥まあな。」
 「ククク‥お前の魂は俺が担保に取っている。勝手に死ぬことは許さんぞ。」
 それだけ話すと、悪魔は姿を消した。


 炎の宝玉は雷鳥の動力部から見つかった。宝玉のエネルギーを利用して雷鳥を動かし、落雷を発生させていたようだ。
 精霊サラマンドラは間もなく息絶えた。
 しかし、聖域―聖都の北部に位置する火山の中枢らしい―が無事なら再生するとの話であり、炎の宝玉はイヴ達に託された。
 ちなみに、テッサは一命を取りとめ、イヴが急いで医療チームを手配した。
 ウンディーネの幼精―ウェンディの姉―は城内の牢獄に幽閉されていた。精霊サラマンドラから居場所を聞き、急いで救出した。彼女はウェンディを見て驚いていたが、ウェンディが手を差し伸べるとそっと手を握った。
 「もうちょっとお城で豪遊したかったなぁ‥。」
 神聖教会に戻るとネスビットがぼやいた。
 「聖帝は性に合わん‥。神父の方が気楽でいい。」
 「聖帝らしいことなんて何もやってないじゃない。っていうか、いつの間にか私までテロリストになってるし!」
 「ネスビットが一番暴れてたな。」
 イヴが口元を緩める。
 「背中も斬られるし、もう最低‥!」
 「‥しかし、全員無事で良かった。ヨハネスなんか、絶対駄目だと思ったからな。」
 ガルーザが礼拝堂の入口近くの壁に寄りかかり、呟く。
 「悪魔と契約していなければ、間違い無く死んでいたわ。」
 「魂を奪われれば、死ぬより辛い目に合う。‥あとはアンリ君次第だな。」
 そう言ってイヴはウェンディを見る。
 ウェンディは教会に着いてからずっと聖母像の前で立ち尽くしている。
 ―ギィィ
 すると、蝶番を軋ませ、礼拝堂の扉が開いた。
 「‥ただいま。」
 アンリは礼拝堂に入ると、にっこりと笑った。
 「アンリ!」
 ウェンディがアンリに駆け寄り、とびつく。彼はウェンディを抱き留める。
 「ウェンディ‥!心配かけてごめん、無事に戻ってきたよ。‥ウェンディも無事で良かった。」
 アンリは彼女の頭を撫でる。
 「おかえり‥。無事で何よりだ。シルフとの決闘はどうだった‥?」
 ガルーザがアンリと握手をする。
 「僕が勝ったよ‥。ガルーザから預かった森の宝玉と、シュジェから貰った薬のおかげだ。」
 アンリはポケットから宝玉を取り出し、ガルーザに渡す。
 「‥それと、クインの剣のおかげだ。これがなかったら、僕は死んでいた。」
 半分になった剣を掲げ、アンリは呟いた。
 「‥激しい死闘だったみたいだな。怪我はないのか?」
 「それが‥、シルフに右腕を斬られて、結構深い傷だったはずなんだけど‥目が覚めたら治っていたんだ。‥これは僕の気のせいかもしれないけど、気を失っている時に夢の中でクインに会った気がする‥。もしかしたら、彼女が宝玉を通じて治してくれたのかも‥。」
 「‥そうか。」
 ふと視線を感じてアンリが顔を上げると、ネスビットが不満顔で彼を睨んでいる。
 「‥えーと、どうかした?ネスビット。」
 「あんたのせいでひどい目にあったわよ‥。このロリコン剣士!」
 ―‥‥。
 ご機嫌斜めのようだ。
 「‥そういえば、ヨハネスとは合流できた?」
 「ここだ‥。」
 アンリが右を向くと、ヨハネスが壁の陰に佇んでいた。
 「ヨハネス‥、久しぶり。無事で良かった。」
 「‥お前もな。」
 2人は握手をする。
 「それで、シルフとやらからは風の宝玉を受け取ったのか?」
 「いや‥、彼にも協力をして貰うことになった。かなりの助けになるはずだよ。」
 アンリがそう言うと、シルフがふいと姿を現した。背もたれに腰掛け、シュジェの隣に座っている。
 「我は烈風のシルフ。アンリとの決闘に敗れたため、助太刀をすることになった。感謝するんだな‥。」
 ―ドス!
 と、突然シュジェがシルフの脇腹に膝蹴りを入れる。
 「‥何をする‥。」
 シルフが悶える。
 「昨日のお返しよ。」
 昨夜胸を揉まれたことを根に持っているようだ。
 「こいつが風の精霊‥?大丈夫か‥?」
 ヨハネスが呟いた。
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