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幕間

「とても興味深い話ではではあったのですが、人類滅亡は。肝心の滅亡の原因は。いつまでたっても人類が滅亡してないですよ」
 黙って10時間も話を聞いていたが、我慢の限界だ。私は堰を切ったようにまくし立てた。
「君たちを最も強く突き動かす感情はなんだい」
 この星の人間と我々の体感時間に差でもあるのか、ニッポニアは一向に滅亡の原因を話そうとしない。悪びれもせず意味不明な質問までしてくる始末だ。
「けむに巻こうとしても無駄ですよ。その手には乗りません」
 ニッポニアはただ荒涼とした砂漠をダイニングの窓から見ていた。風がガラス化した砂をさらい、礫が転がる。
「また、だんまりですか。分かりましたよ。こちらが質問に答えたら、あなたも話してくださいよ。我々を最も強く突き動かす感情でしたね。それは使命感です」
 意外にもニッポニアは私たちのことを褒めた。
「なるほど、使命感か。俺たち人類もその高尚さを持っていれば、滅びの道は歩まなかったかもしれない。残念ながら、人類を最も強く突き動かす感情は恐怖だよ」
「恐怖。それが原因だって言うんですか」
「そうさ。尊王攘夷思想だって、得体のしれない外国人が攻めてくるかもしれないという恐怖から起きた。京都で繰り返された暗殺テロの応酬にしたってそうさ。恐怖が明治維新を興した。そして人類滅亡もやはり恐怖から始まった」
「私が聞きたいのは観念的な話ではなく、直接の原因です」
 技師長が割って入り、私をなだめた。
「まあ、待ちなさい。私に名案がある。ここですべての話を聞くのは惜しい。もうすぐ第2着陸隊がやってくる。大勢の前で話してもらおうじゃないか」



 ニッポニアの話と地球の歴史に整合性があるかどうか。結果はニッポニアが語った江戸時代末期の話と歴史に大筋の一致が見られたが、細部には違いが散見された。例えば史実では三種の神器の|天叢雲剣《あめのむらくものつるぎ》はずっと壇ノ浦に沈んだままであり、徳川慶喜が手に入れようと新撰組や佐々木只三郎らを動かしたなどという事実はない。考古学者が調査した結果である。ニッポニアの話はまるっきり嘘だとは言い切れないが、完全に嘘でない分たちが悪い。ご先祖譲りのホラ吹きの才能とみるべきだろう。
 母船から第2着陸隊60名が降り立ち、入植のための準備が行われた。もちろんニッポニアに許可はとってある。技師長の指揮のもと最初に建造されたのは墓だった。第1着陸隊の船長ら3名と全人類の共同墓地である。ついで住宅地が次々と建てられた。ニッポニアが手伝ってくれたために、完成まで4ヶ月とかからないだろう。最期に技師長は第2着陸隊のために舞台を用意した。舞台袖から技師長があおる。
「これだけの人数を集めた。つまらない長話をしてみろ。暴動が起きるぞ」
 ニッポニアの体は我々の20倍ほどもあり、この脅し文句はとても滑稽に聞こえる。
 好奇心旺盛な我々によって埋められた観客席を一望とすると、ニッポニアは舞台に立った。そして、マイクいらずの大きな声で再び語り始める。
「俺が大学4年生だったころの話だ。当時人文学部史学科だった俺は卒業研究のため祖父を訪ねた。自分のルーツ、先祖をさかのぼれるだけさかのぼって系図を作るのが目的。先祖に筆まめな人がいたらしく、祖父から上中下之介日記なるものを読ませてもらえた。そこで俺は先祖、祖父、自分に共通点があることを発見する。3人とも同じ悪夢にうなされていたことだ。順を追って話したいので、まず祖父の体験談を語ろうと思う」
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