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こういう話が好きなんでしょ?

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高校二年。
俺はジャンケンで負け、B組代表として生徒会に入った。

まあ、そんなに大変ではないだろう。
その予測は一瞬で砕かれることになる。

「あなたの事情は知らないけど、私は本当にこの仕事がやりたくて入ったの」
A組から桐原さんが生徒会にやって来た。きっかけはそれだけ。

彼女は学校で一・二を争う有名人だった。
美人なことで。そして、キャラが濃いことで……。

最初の会合にて、桐原さんは満場一致で生徒会長となった。
俺は副会長となった。

それからは、ありとあらゆる雑用を押し付けられた。
そして仕事が遅いとすぐに叱りの言葉が飛んでくる。

「髪型がダメ。ちゃんとして。生徒にナメられたら終わりだから」
彼女は鞄からワックスを取り出して俺の髪型をセットした。
「うーん、まだ微妙。美容院紹介するから来週行ってきて」

彼女は先生や三年の先輩の前に現れる時は純度百パーセントの笑顔で応対した。
この徹底っぷりには恐ろしさしか感じなかった。

彼女の俺に対する駄目出しは会う度にエスカレートしていった。
「話つまんないんだけど。違う話題ないの?」
「モノ知らなさすぎだよ。いちいち説明させないでよ」
「え、成績悪過ぎでしょ。勉強くらいできるものだと思ってたんだけど」
「笑顔がキモい」

その度彼女は俺に手本を見せて、直るまで練習させられた。
それらのアドバイスのどこにも言い返せるところが無かった。

そのうち、髪型や服装や態度の一つ一つに気を遣うようになった。
入学した頃からの友達とこんな話題になった。
「お前最近変わったよな」
「そうかな」
「なんかリア充オーラ増してない?」
「自分じゃ分かんねえよ」

修学旅行があった次の生徒会でもダメ出しを受ける。
「あんたの私服、ちらっと見たんだけどダサいよ。まあ、予想通りだったけどね。買いに行こう。来週の日曜日ね。どうせ暇でしょ?」
まさか見られていたとは……。

待ち合わせに早く着いてしまった。
男のサダメとして長時間待たされる事かと思いきや、桐原さんは俺よりも早く来ていた。

女の子と二人きりで出掛けるのはそれが初めてだった。
「なんて言うかさ、センスの悪い人と一緒に歩きたくないんだよね。もっと早く手を打つべきだった……これは私の責任、はぁ」
「何かあったの?」
「私の友達があんたの事見て笑ってたんだよ」
全身をコーディネートされ、貯金は全て無くなった。

瞬く間に日々は過ぎ、学園祭の季節となった。
クラスの出し物と生徒会の出し物の準備に往復する毎日だ。

「テープ無くなりそうだね。ハサミも足りないし。ちょっと買い足してくる」
去年は適当に参加していた俺も、今年は企画や準備に積極的に関わるようになった。
むしろ、クラス内では中心となって仕事を回していたんじゃないかとすら思うほどだ。
自分でもはっきり分かる程要領が良くなったし機転が利くようになった。

しかしそれでもまだ桐原さんと生徒会の仕事をすると罵られることが度々あった。
「ちょっと、仕事遅いんだけど」
「男なんだからそれぐらいパッパと運びなさいよ」
言い方がキツくて一瞬ムッとするが、彼女の言う事はいつも正しいのだ。
七時で下校しなければならないため、各自家で準備をした。

時々桐原さんの家に一緒に行って準備をすることもあった。
結局学園祭の前日は彼女の家で夜中の三時まで作業し、彼女はベッド、俺はソファで眠ることになった。

学園祭当日、生徒会の仕事にクラスの仕事に、瞬く間に時が過ぎて行った。

休憩中、桐原さんの友達とすれ違いざまに話し掛けられた。
「修学旅行のあと、キリと服買いに行ったんだって?」
「うん、俺なんかと一緒に仕事してるのをバカにされたのが嫌だったみたいだからね」
「あの時、私がキリに何て言われたか聞いてる?」
「いや」
「『アイツはちゃんと出来るやつだよ。投げ出さないで頑張ってるもん』」
「……」
「その言葉の意味、今になって分かったよ。最近、良い感じだよね。見直したよ。悪口言ってごめんね」
吹き抜けではブラバンの演奏がけたたましく響いていた。

学園祭が終わった時刻に、桐原さんからメールが来た。
片付けを手伝ってほしいとのこと。俺はすぐに生徒会へ向かって駆けていった。

彼女にはまだ叱られてばかりだが、クラスの皆の俺を見る目がだいぶ変わった気がする。
遊んでいる時、自分が場をリードすることが増えた。
自分のボケで皆が笑う回数が増えた。
そして、自分の中でも変化が起きた。
高校に入って何もやりたいことの無かった俺だけど、生徒会に入って、いや、桐原さんと出会って、ついに一つだけやりたいことを見つけたのだ。

「やりたいこと? 何?」
桐原さんが聞く。
俺は一回深呼吸して言った。
「好きだ。俺と付き合ってくれ」

「……ちゃんと言えたね。ふふふ、おめでと」
そう言いながらも、桐原さんが少しだけ驚いた顔をしたのを俺は見逃さなかった。
彼女に抱きしめられた俺はそのまま唇を重ねた。
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