トップに戻る

<< 前

第三話八咫鏡

単ページ   最大化   

 何とか落ち着きを取り戻す。自分は誰だ?倉橋秀一。今何をしている?ドッペルゲーム。ここはどこだ?ビルのガラスの中。よし。大丈夫だ。まず、ここからでるにはどうすればいいのだろう。ガラスの中は、幅1メートルほど、奥行きは10メートルほどの空間だった。まさか実際にガラスの幅が1メートルもあるわけはないから、自分が今、精神状態で、ビルから落ちても死ななかったのと同じ様な現象だろう。
 脳に、ある考えが浮かぶ。入ったときと同じように、ガラスに触れればいいのではないだろうか。試しに、ビルの内側の方のガラスに触れてみる。すると、見る見るからだが吸い込まれ、ビルの中に出ることができた。ビルの中にいる人々全員の注目か自分に集まっていることに気づき、もう一度ガラスに手を当て、出ようとするが、出れない。外は太陽光が反射して、ガラスに人の姿が映っていたが、中は薄暗く、ガラスには何も映っていない。どうやら姿を反射する物にしか、あの力は使えないようだ。仕方なく、いそいそとドアから外にでる。ふと、自分が衣類以外何も持っていない事に気づく。金がなければ、地図が買えない。一度家に戻るか。と想い、家に向かう。

秀一は、家のドアの前にいた。小さなマンションの、1階にある、小さな部屋だが、日当たりがとてもいい。しかし、大きな問題が発生した。鍵も持っていない。職業柄、合い鍵をポストに入れたりという事もない。どうする?自分に問いかける。・・・あることを思いついた。
 秀一はマンションの裏、秀一の部屋の窓の前にいた。窓に程良く光が当たり、景色が映っている。秀一は窓の前に立っているが、窓の中に秀一の姿は映らない。
 窓に手を当てた。ガラスの中に入り、窓の裏側、つまり秀一の家の中に入る事ができた。
 タンスの中から予備の現金10万円を取り出し、通帳と一緒にショルダーバッグに詰める。荷物はなるべく少ない方がいい。今、こうしている間にもドッペルは東京に向かっているのだ。腕時計と、着替えを1着持ち、家を出た。
 秀一が文房具屋で地図を買い終えた頃にはもう、日はもう中央に昇っていた。ふと、今自分が万引きなどの犯罪を犯しても、逃げれば捕まることはないのではないかと考える。なんてったって、秀一の体は今、東京にあるのだ。アリバイは完璧だ。と納得するが、もう遅い。
 秀一は地図と共に、手鏡も一つ買っていた。手を触れると、吸い込まれるような感覚があるが、今は必要ないので、無理矢理手を抜いた。
 地図を見ながら、ひたすら東京への道を走る。

 秀一が九州を出、ようやく山口県に入ったときにはもう、夜も更けていた。デジタル式腕時計を見る。01:24の数字が出ていた。昼から約12時間程走り続けてきて、気づいた事があった。全く息切れをしないし、疲れないのだ。筋肉痛になることはないし、アドレナリンのせいかもしれないが、夜なのに全く眠くない。汗もかかない。これなら13日以内に東京に入るのは簡単なことだと喜ぶ反面、自分の体に不気味さを覚える。ふと、50メートルほど先にある信号の明かりに照らされて、見覚えのあるシルエットがいるのを見つける。ドッペルゲンガーだ。まだこんなところにいたのかと安心しながら、近づいていく。
「僕がまだこんなところにいるんだと想って、安心してるでしょ?」先に口を開いたのはドッペルだった。
「それは思い上がりもいいところだよ。僕は君が余りにも遅くて、ゲームが盛り上がらないから、君に新たな武器を上げようと想って、広島から引き返してきて上げたんだ。」続けて言う。
「新たな武器?」聞き返す。
「うん。僕を殺す方法を教えて上げる。三重県の伊勢神宮にまつってある、ヤタの鏡に、僕の姿を映すんだ。そうすれば、僕は死ぬよ。」
3

晃皇昂星 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前

トップに戻る