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「ん! んふぅ!! んふふぅ!! はわわぁ~」
 学校からの帰り道、私、桜百合(さくら ゆり)は車に轢かれそうになった。横断歩道を渡っていた時、信号無視をしたトラックが突っ込んできたのだ。あの時、一緒に帰っていた幼馴染の藤本瑠夏(ふじもと るか)が私を抱き寄せて助けてくれなかったら、そのまま現世にさよならバイバイだっただろう。
って、そういうのはどうでもいいのよ!!
「ど・ど・ど・どうしよう!?ルカに抱きしめられちゃったぁ・・・あれから大分時間が経ったのにまだ体が熱いよぉ・・・」
抱きしめられた時の感触は未だ忘れられない。ルカは外見だけ見ると細くて頼りなさそうな体なのに、実際に抱きしめられて考えが180度変わった。とても力強くて安心する・・・それに少し汗の臭いがして・・・
「あぁ・・・ルカぁ・・・るかぁ・・・」
家に帰ってきてからずっとこんな調子だ。気の抜けた顔面トマト顔。布団を抱き枕代わりにしてベッドの上で妄想する。それが私の日課。
「ルカぁ・・・もう我慢できないよぉ・・・挿れてほしいよぉ・・・私の宇宙(コスモ)にルカの銀河(ギャラクシー)をビッグバンしてほしいよぉ・・・」
この抱き枕は私を裏切らない。抱き枕はこくりと頷いて、私の体を包み込む。そして私の体を激しく揺さぶる。
「ダメぇ! ルカぁ!! そこはビンカンなのぉ! もうイく! イッちゃうぅう!」
 そして、私は布団の中で絶頂を迎える。

 「おぺぺえええぇえぇええええぇええぇええ!!!!!!!!!」

 数分後、賢者タイムに突入。とてつもない虚無感が私を襲う。
 「うぅ・・・るかぁ・・・もっとお話したいよぉ・・・触れたいよぉ・・・るかぁ・・・」
 もっと素直になりたい。私の全てを知ってほしい。でも、こんな姿を見られたら絶対に嫌われる。だから自分を偽って、いつも学校でルカにきつく当たってしまう。だからルカは私のことを異性として見てくれない。だから最初の一歩を踏み出せない。
 「るかぁ・・・るかぁ・・・」
私は疲れ果て、眠りにつく。夢の中でもルカに会えますように私は祈るのだった。





「アイツの体・・・柔らかかったなぁ・・・」
家に帰り、自分の部屋に入る。そして、ベッドにダイブして俺はそう呟いた。
ユリは傍から見ればモデル顔負けの体をしており、言葉で表すと文字通りボンキュッボンである。学校の男共の中でも評判だ。髪はロングで透き通った純粋な黒。まるでどこかのお嬢様だ。率直に言ってしまうと、超可愛い。
「でもなぁ・・・」
「人間は外見ではなく中身だ」とはよく言ったものだ。そう、ユリはその外見に似合わずかなり気が強い。しかも、俺の前だとさらに気が強くなる。昔はあんな感じじゃなかったのだ。元々気は強かったが、高校に入学してからさらに俺に対してだけツンケンしてくるようになった。

「はっ!早く離れなさいよ!このバカ!変態!」
 
 これは今日、ユリが車に轢かれそうになった時抱きしめるような形で助けた際のユリの放った言葉だ。俺はユリを助けようと必死に頑張ったのに、その言い草はないだろう。
 「そんなに俺が嫌いなのかよ・・・」
 その割には、放課後、毎日のように一緒に帰っている。ユリが言うには「変な奴に絡まれないようにしっかり守ってよね!」とのことだ。
 「最近、お前のことがわかんねぇよ・・・ユリ・・・」
 物心ついた時には俺達はいつも一緒だった。家が隣同士ということもあって、時には俺の家で、時にはユリの家でゲームをして遊んでいた。それだけじゃなく、近くの公園で遊んだり、山へ行って昆虫採集に出掛けたり、遊園地やプールなんかも・・・
 「・・・やめよう・・・」
 思い出せば思い出すほど、現状と比較してしまい、溜息が出る。
 「俺はまだ・・・お前のことが・・・」
 自分の気持ちを伝えたい。でも、気持ちを伝えたところでユリは気持ち悪いって思うだけだろう。告白して、もし振られたら今までの生活には戻れない。一緒に帰ることも無くなるだろう。だったら別に気持ちなんて伝えなくていいじゃないか。だから俺は、一歩が踏み出せない。
 「本当にヘタレだな、俺」
カーテンを開け、窓の外を見る。正面にはユリの部屋の窓が見える。ユリの部屋はカーテンで閉じられており、中を確認することはできない。

 「ユリ・・・今なにしてるんだろ?」
 俺はそう考えると静かにカーテンを閉めた。
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