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アジト

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 その木の扉は、魔界大通りから外れたバーの裏手の、地下まで続く階段を下りた所にあった。
 俺はどうやって謝意を伝えようかと考えながら、緊張しつつ、優しくコンコンとノックする。
 扉には覗き穴が1つあいており、そこからギロリと人の目が見えた。
「合言葉は?」
 と、尋ねられる。当然そんな物は知らないのでうろたえつつ、丁寧に挨拶する。
「あのー……ローソン魔界9丁目店から来た店長の春日という者ですが……」
「……お前、知ってるぞ。魔界でコンビニやっている馬鹿だろ。一体何の用だ?」
 馬鹿と呼ばれて良い気はしなかったが、今回の場合非は圧倒的にこちらにある。下手に出るしかない。
「えっとですね、こちらに長谷川様という方はお住まいでしょうか?」
 しばらくの沈黙の後、答えが返ってくる。
「……俺だが?」
「あのですね、先日お渡しになったお荷物が、こちらの手違いで間違った物をお渡ししてしまいまして、その件で今日はやってきた次第なんですけども……」
 そこまで言うと、急に扉が開き、首根っこを掴まれる形で俺は中に引きずりいれられた。


 ローソン魔界9丁目店の独自サービスとして、amazonの受け取りと注文が出来るようになった。今時amazonをこれっぽっちも知らない人はいないと支倉SVは豪語していたが、あんまりインターネットをやらない俺は実際に聞いた事もなかったので復習の為に説明する。ようはインターネットで買い物が出来るサイトという事、であってるはずだ。俺は実際に物を見て決めたい人なので利用するつもりはないが、きっと忙しい人や近くの店で入手困難な物を手に入れるには便利なのだろう。
 地上のローソンでは、何年か前からamazonの受け取りサービスを行っている。インターネットで注文した商品が、ローソンの物流に乗って店に届き、お客様がそれを受け取る。一緒に料金を支払う事も出来るし、コンビニなので24時間いつでも受け取りにいけるのが強みだ。
 今回、ローソン魔界9丁目店ではこの受け取りサービスに加えて、店頭端末のLoppiで魔物達が地上の商品を注文出来るようになった。受け取りは店頭のみに限られているが、今まで地上の商品に触れる機会がこのローソンだけだった魔物達は、連日Loppiの前に行列を作り、インターネットショッピングを楽しんでいる。
 地上の製品が輸入されるという事も、古浪社長の言っていた文化交流になるはずだ。それにamazonの代行サービス自体の利益はそこまで良くないが、受け取りのついでに何かを買っていくお客様は非常に多いので、儲けにも繋がるという訳だ。


 そんなamazonだったが、ある日トラブルが起きた。
 魔王に謁見した帰り、店に寄った時に新人クルーのミノタウルス君が困った表情でこう白状したのだ。
「すみません春日店長。amazonの受け渡しを間違えてしまいました」
「何だって!?」
 一大事である。こういった受け渡しのミスが起きないように、マニュアルには必ず荷物のバーコードをスキャンして、それから印刷されるお客様控えにサインをいただいてからお渡しするようにと書かれてある。が、このミノタウルス君はこの前勇者にやられて療養中のインプさんの代わりに入った新人で、まだしっかりと教育がされてなかったのだ。
 しかも受け渡しの時は1番混む昼のピーク時で、その上受け渡した相手は魔界では珍しい人間だったという。色々な要素が重なり、今回のミスが起きてしまった。
「受け渡しミスって事は、そのお客様が本来受け取るはずだった商品はまだあるのか?」
「はい、まだあります。これです」
 と、小さめの段ボールが1つ目の前に置かれる。時間を確認し、防犯カメラの映像をチェックすると、幸いにもそのお客様は荷物受け取りのついでに他の商品を購入されていて、その際ポンタカードを提示していた。
 急いで支倉SVを呼び、事情を説明する。ポンタカードは登録の時住所を入力しなければならないが、そのデータを参照するにはSVの許可が必要なのだ。そうして得た住所を辿って、俺はここにやってきたという訳だった。


 長谷川という男は混乱する俺を睨みつけ、手に持っていたダンボールを引ったくるような形で奪い、そのまま俺に構わず、勢い良く開けた。
 中から出てきたのは、美少女フィギュアのようだった。
「おおおおお! ついに来たぞ! 前々から予約していた1/16スケールハイグレードの限定モデル!」
 俺にはよくわからないが何やら専門的な事を叫び、嬉しそうに箱にキスしていた。
 ひとしきり喜んだ後、ようやくドン引きしている俺に気づいたのか、こう告げる。
「こほん……よく届けてくれた。ありがとう。その誠意に免じて今回のそちらのミスは不問としよう。もう帰っていいぞ」
 しかしこれだけで帰れる訳ではない。
「あのすみません、申し訳ないんですが、間違えてお渡ししてしまった方の商品を返していただきたいのですが……」
「ああ、そうだったな。ちょっと待ってろ」
 と、長谷川さんが部屋の奥に下がろうとした時、背後からノックの音がした。
「うっ」
 長谷川さんは見るからに焦っている。なんというか分かりやすい人だ。だが俺もここに来てようやく、長谷川さんの変な格好に気づいた。いわゆるミリタリーファッション、というのだろうか、全身迷彩で、しかも顔にも緑と黒でペインティングがしてある。美少女オタクで軍事オタクなのだろうか? 濃い人だ。部屋の中も異常だ。銃が立てかけてあるし、魔界の地図が張ってあったりスケジュール表のような物まである。少なくとも普通に暮らしている様子はない。
「おいお前、俺の言う事にあわせろ」
 と、長谷川さん。どういう意味だろうか。
「合言葉は?」
 先ほどの質問に、今度は扉の向こう側から正しい答えが返ってくる。
「魔王に鉄槌を」
 事態がまずい方向に進んでいる事を、なんとなく察する。


 扉が開くと、長谷川さんと同じようにミリタリーファッションに身を包んだ男達が5、6人、ガヤガヤと部屋の中に入ってきた。戸惑う俺を他所に、長谷川さんが敬礼する。
 どうしていいか分からず戸惑う俺に、集団の中でも1番ガタイの良い男が気づいた。
「おい長谷川、何だこいつは? 部外者を入れるなとあれほど言っただろうが!」
 その迫力に、俺はビビる。長谷川さんもビビる。
「い、いえ、違います隊長! こいつは入隊希望者であります!」
 希望した覚えはないが、しかし合わせろと言われた手前否定もしにくい。それに完全なる部外者である事を告白したら、ぶん殴られそうな雰囲気がひしひしと伝わってきたので、仕方なく俺も見よう見まねで敬礼する。
「ふむ、そうか。この部隊の説明はもうしたか?」
「はい、しました隊長!」
 長谷川さんがしてもいない説明をしたと言うので、俺はこれも否定できない。とにかく話を合わせて、荷物を回収しなければ。
「よし、じゃあお前、覚悟は出来てるな?」
 と、凄まれる。出来ていないとは言えない空気が両肩にのしかかる。
「出来て……ます」
「ならば歓迎しよう。今は1人でも人手が欲しい時だからな」
「あ、ありがとうございます」
 と、一応の礼を述べるが、内心気が気ではない。
「では今日の作戦の結果報告とミーティングを行う。全員卓を囲め! 新人はそこに立ってろ」
 と、指示されたのは集団からは1歩離れた位置。卓に何やら紙が広げられ、それを全員で囲んでいるので、俺からは見えない。
「今日の作戦でこことこことここの位置に爆弾を仕掛ける事に成功した。これで合計10箇所」
「破壊出来ますかね?」と、隊員の1人。
「いや、火薬の量が少なすぎて破壊には至らないだろう。しかしかく乱にはなるはずだ」
「爆弾の起爆は長谷川が担当する。その混乱に乗じて、我々本隊が乗り込む。目指すのは……魔王の首だ」
 俺は思わず身を乗り出す。先ほどの合言葉からして嫌な予感はしていたが、まさかこの方達、本気で魔王の討伐を狙っているという事だろうか。
「しかし隊長。魔王は特殊な魔力障壁で物理的な攻撃から身を守ると聞きます。我々の装備は役に立たないのでは……」
「心配するな。昨日ついに障壁を打ち破る事の出来る人間を見つけたのだ」
 おお……と、どよめきが起こる。隊長は腕時計を見て頷く。
「もうすぐここに来るはずだ。作戦決行時にはその方を我々がお守りし、魔王の障壁を打ち破った後、一斉射撃に出る。これで魔王はひとたまりもない」
 隊員達から拍手が起こる。果たしてそんな単純な作戦で魔王様がどうにかなるものだろうか、という疑問はあるが、普段の温厚な魔王様を知っている俺としては意外と行けてしまうのかもしれないとも思う。
 とはいえ戦闘力はあの娘よりも親である魔王様の方が強いはずなので、やはりこの人達は死んでしまうのではないだろうかと心配になってきた。さっきから見ている限り、なんというか、ちゃんとした経歴の軍人というよりは、ミリタリーオタクがこじらせて本物の武器を持ってしまったという雰囲気なのだ。ここはやはり止めるべきだろうか。しかし部外者である事がバレてしまうと、荷物が回収出来なくなる所か何をされるか分かった物ではない。
 やはりここは話を合わせ従順なフリをしておいて、後で魔王様にこの人達の事を密告して穏便に済ませるというのが最善の選択な気がする。
 それにしても、物騒な人達もいるものだ。おそらくこの人達も、魔界が拡大している事に気づいている人達なのだろう。そしてその原因が魔王にあるとして、部隊を組んで討伐しに来たのだ。ローソングループが平和的解決を進めているのとは大違いといった所だろうか。
 ここで俺は思い出す。
 そういえば、カオス油の時に揚がった手榴弾やセントリーガンって、この方達の持ち物だったのではないだろうか?
 ……まあいいや、黙っておこう。


 俺が冷や汗をかいていると、再び扉がノックされた。
「合言葉は?」
 と長谷川さんが尋ねたが、
「そんな物は知らん」
 という言葉が返ってきた。ん? 何やら聞き覚えのある声だ。
 隊長が前に出て、長谷川さんを下げて扉を開ける。
「お待ちしておりました。勇者様」
 部屋に入ってきた男と目が合う。
 俺の呼吸が止まる。
 例のインプさんを斬ったクレーマー勇者だ。間違いない。
 先ほど隊長が言っていた障壁を破れる人間というのは、こいつの事だったのか!
「……おい、何でここに魔王の犬がいるんだ?」
 全員の視線が俺に集まった。
 俺は苦笑いしながら、両手を挙げた。
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