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:不浄

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 理科室の前で俺を待っていたのは、話したこともない、そもそも見たことすら無い同学年の女子だった。一般的に言えば美人とカテゴリされるであろう、同学年の女子。
 見たところ一人だが、周りに仲間が潜んでいるかもしれない――が、みたところそういう雰囲気でもない。
 前身のエクリン腺から無駄に汗が噴き出しているのが分かる。下着が地味に濡れ始めて気持ち悪い……が不思議と顔面には汗は噴き出してこなかったのが、自分でも気味が悪い。
 そもそも、この女は一体何が目的なのだ……。口を開こうにも、なんと口を開けばいいのか? その前に、本当にこの女が俺を呼び出したのか? と言うか、なぜバレたんだ、なぜ、何故、ナゼ、ナゼナゼナゼナゼ?
 そんな俺を見かねてか、その女は俺の目を見つめながら小さな口を開き。「はじめまして、アキラくん」と囁いた。


[:不浄]


『続いてのニュースです。全国各地で学生達の不祥事が増えてきている現状。性的に発育中の未熟な学生達に今何が起きているのでしょうか……? 特集です』
 夕食前のやることがない時間帯に、その日一日、俺が学校に行っていたまでに世間に何があったのかをニュースを見るのが日課だ。
 夕方のニュースも朝のニュースも結局のところは時間帯が違うだけでやっていることは大抵同じだ。朝のニュースの場合、ほとんど同じニュースを数十分単位で繰り返しをやっているだけに、アナウンサーなんかはよく飽きないなと感心する。
 別にニュースが好きというわけでもない。単純にやることがなく、暇だからこうしてテレビを見て時間を潰しているだけだ。バライティー番組がやっていればそっちを見るのだけど、そもそもこの時間帯にそんなものはやってない。やっているとしても、地方テレビ局でやっている大昔のアニメの再放送くらいだ。
 こうやって、居間で何事も無く、あのシカケがバレる前の日と同じような行動を出来る日がまた来るとは思っても居なかっただけに、かなり拍子抜けしている。
 母さんに「夕食よ」と呼び出されたので、テレビの電源を落とし、ソファーからテーブルへと席を移した。

 家族と夕食をとったあと、自分の部屋に篭り家庭教師を迎える準備をする。準備と言っても、今日使う教材を机の上に出すだけなのだけなのだが。
 ものの十分もするとインターホンが家中に鳴り響いた。どうやら家庭教師のナナミ先生が来たようだ。
 ナナミ先生は俺が高校に入ってから家庭教師を担当してくれている現役女子医学生――らしい。らしいというのは、直接俺が訊いたのではなく、親経由で聞かされた話だからだ。
 俺の部屋のドアを二回ノックし「入るねー」と声をかけ扉を開き、俺の部屋に侵入してくるナナミ先生。
 黒めの茶髪、ショートボブというのだろうか首くらいまでバッサリと切り落とし、それに軽くパーマをかけた髪型。全体的にキリっと整った顔。美人と言うよりも可愛い系の人だ、
「最近あったくなってきたよねー。昼間なんて暑くて上着脱いじゃってたよー」
「そっすねぇ」
 着ていた上着を俺のベッドの上に置き、勉強机の横に用意してあった椅子に座るナナミ先生。ナナミ先生が動くたびにふわっと香ってくる女性特有のいい匂い。これがフェロモンというやつなのだろうか……。
「あーやべー」右手で頭をかきむしりながら、ナナミ先生が。「今日数学だったけ? なんか勘違いしてたぽくて、古文の資料持って来ちゃった……」
「ええ……」
「どうしよっか?」
「えー、じゃあ古文でお願いします」
「オッケー! ごめんね! 数学は次の授業の時にやるから! 絶対やるから!」
 一時間半、俺の部屋でナナミ先生と二人っきり。この間の騒動があるまでは、オカズが枯渇し既に自慰をオナ禁を一ヶ月も続けていた俺には、ある意味で牢獄と同じくらいに厳しい環境だったのが、不思議とオナ禁継続中の今でも、俺の陰茎が反応することは無かった。
 勃起しそうになる度に、頭の中であの動画が再生される。そう、あの女の声が耳元で聴こえてくるからだ。



 なんと口を開けばいいのだろうか。俺は目の前に立つ名も知らぬ同学年の女子を見つめたまま、どう次の行動を起こしていいのか頭の中で詮索していた。
「あのー……えーっと、アキラくんで間違いないよね?」
「……あ、ああ」
「よかったー。薄暗かったから遠くから見た時は確信持てなかったんだけど、やっぱりそうだよね? ふぅーん」と俺を下から上まで舐め回すように見る同学年の女子。
 俺は俺で、その行為にどう反応していいのか更に行き詰っしまっていた。
 ひと通り俺のことを見回した女子は、体制を整え、俺の顔、目を見つめながら。
「改めて初めまして。あたしはツバキ。ツバキっていいます。よろしくー」
「……よろしく」
「でね、呼び出しに応じてくれたってことは、あのカメラの中に入ってたあたしの声を聴いてくれたんだと思うんだけど、やっぱり見ちゃったの?」
 そうだ。とも断言しづらい。こんな俺でも恥じらいはある。あんな盗撮動画を見てやることと言ったら一つしかないのは明白だ。遠回しであっても、自ら、あの動画を見ながらオナニーしたと宣言する度胸は俺にはない。
「スルー……まあ、大概、男子があんな動画見てやることなんて一つしかないのはわかってるし、言わなくてもいいよ。恥ずかしいもんね?」ツバキは、人を小馬鹿にするように小さく笑みを浮かべながら。「それで、ね。呼び出した理由なんだけど、一つあたしに協力してもらいたいことがあってね」
「協力?」
「そう、協力。協力というよりも、勧誘って感じなんだけどね」
「勧誘……宗教勧誘とかか?」
 高校に入学してすぐのことだ。俺は人生で一度だけ宗教勧誘をされたことがある。そいつは中学生の頃は比較的仲も良く、何度か遊ぶ仲のやつだったのに、卒業と同時にまるで狙っていたかのように俺に宗教勧誘をしてきた。
 そいつは、その宗教を信じ、祈ったおかげで今の高校に入れた。きっとアキラくんも僕と同じ宗教に入れば素晴らしい未来が待ってるよ。と、ひつこく連絡を寄越してきたので、着信拒否したら自宅に乗り込んできて、ちょっとした騒動に発展してしまったことがある。
 それから俺は、部活動の勧誘すら気持ち悪く見えてしまうほど、勧誘と行為が嫌いになってしまっている。
「違う、違う! そういう勧誘じゃないよ」
「じゃあどういう勧誘なんだ?」
「同好会と言うか、趣味を共有する会へのお誘いかな?」
「そういうのを勧誘って言うんじゃないの?」
「宗教の勧誘とかじゃないよ?」
「まあそうだけどさ。でも――」
「でも……なんて言える立場だと思ってるの、アキラくん?」
 一瞬のことだった。それまでどこかお嬢様と言った感じの雰囲気をまとっていたツバキが、スイッチを入れ替えるかのように、雰囲気や目つき、態度を百八十度一変させて。
「動画にも残したけど、あたしは木の上でアキラくんが何を仕掛けたのかを知っている。それだけじゃない、撮った動画を使って学校のトイレでナニをしていたかも知っている。ちゃんと物理的な証拠もある」ツバキはポケットから小さな記憶媒体を取り出して俺に見せつけ。「今ここでこの記憶媒体を奪って、あたしに乱暴なことをしても無駄。それなりに対策はしてある。これがどういうことだか分かる?」
 一瞬で俺は全てを理解した。俺には拒否権が無い。自分が今までやってきたこと全てが露見してしまえば、俺は『強制性矯正施設』に強制収容されてしまう。そこに入れば俺はまっとうな真人間になって社会復帰できるが、その前に、俺だけではなく、俺の家族までもが社会的に抹殺されてしまし、あんなところに入ったら最後、言葉通り、俺は俺ではなくなってしまう。
「その顔は大体理解したって顔ね」
「……それで? ツバキさ――」
「ツバキでいいよ」
 俺は、わざとらしく咳払いをして。
「ツバキ……何が目的なんだ?」
 その言葉を待っていたかのようにツバキは長い膝下まである長いスカートを両手で掴みながら、自らの太ももを晒しあげて。
「あたしの望みはただ一つ。不浄にまみれた人を仲間に引き入れること」
 俺はツバキの太ももを見て勃起してしまった。勃起不全になってしまった直接的な相手の素肌を見て勃起してしまうとは、我ながら情けない。ツバキに俺が勃起していることがバレないように、ズボンのポケットに手をツッコミ、出て膨らみを作り、少しでもばれないようにする。
「アキラくん、顔真っ赤だけど、興奮しちゃった?」
 女の色気とでも言うのだろうか、この歳でもやはり女は女なのだ。
 久々に勃起をしたせいか、少し陰茎が痛む。そんな痛みと恥じらいを飲み込み。
「で、何なんだ? 何がしたいんだ?」
「あたしはね、ただ見せたいの。体を、自分の体を他人に。そうすることでしか興奮できないヘンタイなの」
「……はい!?」
 サラっとトンデモナイことを口走ったツバキを見つめつつ、俺の陰茎は更にズボンとパンツを盛り上げる。落ち着くんだ。落ち着くんだ。と自らの股間に言い聞かせても言語がそこに伝わるはずもなく、更に痛みを生み出しつつ、この間以上、今までに無いほどに拡張する俺の陰茎。
「露出狂っていうのかな。あたし、自分で悩んでたの、周りには言えないし、でも気持ちよくなりたい。けど、中々そうは出来ない。それでね、あたし思ったの。一人で悩んでるよりも、仲間を作って痴態を共有し合ったほうが、気が楽になれるんじゃないかって」
 どうしてそういう思考に突然たどり着いたのだ? と冷静な時ならば言えただろう。でも俺は文字道理興奮状態だ。
 体に余計な刺激を与えたくない。もしかしたら喋るだけで射精してしまうかもしれない。
 そんな惨めな俺を見つめつつ。妖艶な笑みで俺を見つめたあと、スカートから手を話、口を俺の耳の横まで持ってきてツバキが「それでね、アキラくん、その痴態を共有し合う同好会の設立の手伝いをしてもらいたいんだけど……お願いできるよね?」と囁いたと同時に俺は――。
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G.E. 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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