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エピローグ

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 目が覚めると安っぽい天井が広がった。
「勇者、目が覚めた」
 ヌッと視界に入り込む銀髪の少女の姿。
「セツナか……。じゃあここは」
「私の家」
「勇者様が気絶したので運んでもらいましたの」
 セツナの隣からミロちゃんが姿を現す。
 部屋にはヒエデと、そして街の若者達が机の周りに集って心配そうに僕を眺めていた。恐らく自警団の面々だ。どうやら無事呪いは溶けたらしい。暖炉には火がくべられ、パチパチと木々が燃える音がする。
「それでキトは一体どこぐふぅ」
 尋ねた瞬間横からコークスクリューパンチが顔面に飛んできた。見ると僕の隣でキトも眠っている。
「うーん、むにゃむにゃ、おっぱいにやられる……」どんな修羅場的ドリームを見ているというのだ。なんと言う寝相の悪さ。
「よく眠ってますわ」
 心底嬉しそうにミロちゃんが微笑む。君そこで微笑んじゃうの。頭おかしいよと突っ込むのを抑えて僕はゆっくりと上体を起こした。意外と体は元気だ。魔力がない分、体が軽くなった感じ。
「勝ったみたいだな、勇者。まさかあの後すぐに乗り込むとは予想外だった」
 ヒエデが肩をすくめる。どこか寂しげに見えるのは恐らく自分も連れて行って欲しかったに違いない。
 不思議なことに氷に貫かれた僕の足はすっかり完治していた。いくら体力が高いとは言え人間ってこんなにすぐ怪我治っちゃうもんでしたかしら。
「足の怪我でしたら全身に小麦粉を塗りたくったバラエティの若手芸人みたいな人が魔法で治してくれましたわ」
「ロースか……」
 どうやら奴も魔物としてそれなりの矜持はあったらしい。守られた側として、せめて義理は立てておきたかったのだろう。
「僕をここまで運んでくれたのは」
「自警団の方々ですわ。私が街まで呼んできましたのよ」
「いやぁ、このお嬢さんがヒグマの死体を抱えながら助けてくださいとやってきたときは震撼したよ。なぁみんな」
 自警団のリーダーらしき太った男性が言い、ありゃすごいぜよありゃすごいぜよとお前らどこの薩摩藩藩士だよと突っ込みたくなる面々がわっと盛り上がる。ヨイショされたミロちゃんは顔を赤くして頬を両手で包んだ。
「私ったら、勇者様とキトを助けなくっちゃって必死で。森で襲い掛かってきたクマをつい一撃の下に沈めてしまいましたの」
 なんと言う恐ろしい女。以前僕を半殺しにしたのはラッキーパンチではなく実力だったというのか。
「ロースがいないみたいだけど奴は一体どこに?」
 するとヒエデが真面目な顔をする。
「奴は森に帰っていったよ。今回は私の負けだとかボソボソ呟いてな。声が小さすぎて四回くらい聞き返したぜ」
 どうやらそうとう自信を折られたらしい。自信のない奴は声量が小さい。
「そっか。敵だけど、一言礼くらい言いたかったかな」
「言ってきますか? 氷の塔に行けば会えますわよ」
「なんでまだ滞在してんだよ!」
「これからは人を脅威に晒す事をやめ、あの塔をザ・ロースハウスとして観光名所に仕立て上げるらしい」
 スピードが売りの男ではあったが新しい人生を見つけるのが早すぎである。
「そうだ、ミロちゃん。ちょっと耳貸して?」
「なんでしょう?」
 心なしか頬を染めながら彼女は顔を寄せる。僕は彼女にしか聞こえないような声で尋ねた。
「キトの事だけど、誰かに言った?」
 するとミロちゃんはゆっくりと吐息をはいた。
「勇者様、耳は私の性感帯ですわ」
「この淫乱女子!」
 するとヒエデがゲラゲラと声を上げ笑う。
「はは、お似合いのカップルだぜ」
「誰がお臭いのカップルや!」
「セツナもそう思うだろ?」
 するとセツナは不愉快そうに顔をしかめ、黙ってそっぽを向いた。
「こいつ妬いてやがるぜ」
 ヒエデが揶揄し、また場がワッと盛り上がる。その幸せそうな光景を見て、僕は自分が多くの物を守りきったと悟った。
「勇者様」
 笑い声が響く中、ミロちゃんがそっと意味深に微笑む。
 そうか。どうやら彼女は、あの塔の出来事を僕たち三人だけの秘密にする気らしい。
 それでいい。

 ようやく場も落ち着きを見せ、自警団の面々も帰り、ヒエデとセツナはその見送りに出て行った。疲れていたのだろう。ミロちゃんはベッドに突っ伏すように眠り、キトは未だお気楽な夢の中だ。
 僕はそっと二人の寝顔に目を向け、誰もいないであろう空間に話しかける。
「魔王。そこにいるんだろ?」
 しかし返事はない。誰の姿もない。でも何故か分かるのだ。気配を感じる。ずっと知ってきた感覚だった。誰かに見られている感覚。
 僕は今まで、それをずっと死んだ魔物たちが僕を見る視線だと思っていた。
 でも、多分違う。
 恐らく、僕はずっと魔王の監視下にあった。一回目の魔王討伐の頃から、ずっとだ。
 ここで、その事を証明する。
 僕の前に姿を現したら消されるかもしれないと危惧しているのだろう。多分奴は絶対に姿を見せない。自分と似た感覚と力を持った存在。それぐらいの注意深さは兼ね備えているはずだ。
「僕は気付いたよ。この世界のもう一つの摂理に」
 窓を緩やかに落ちる雪がつつく。静かな部屋に、僕だけの声。
「この世界で勇者と魔王は、自然災害的な摂理の一つだ」
 キトは目覚めた力に心を食われ、破壊衝動が暴走した。
 じゃあ僕達はどうなるのかとふと考えたのだ。
 破壊衝動、心の闇の部分は誰しもが抱えるもの。僕達は果たしてそれを真っ当にコントロールできているのかと。
「僕たちの破壊衝動は、勇者と魔王と言う役割を演じることで知らないうちに発散されていた。そうだろう?」
 肉食獣が鹿を襲い喰うように、はやり病が人々を蝕むように。
「僕たち二人は、自然にとって生態系のバランスを保つ摂理の一つだ。お前が魔物を増やして人間を殺し、僕が魔物を殺す。そうやって互いの均衡を図ることでこの世界は保たれている。僕らの破壊衝動はそこで発散されているんだ。だから僕らは暴走しないでいられる。いや、ずっと暴走していたのかもしれない。僕がここまで強くなったのも、言えば人間としての制限が解除されているからだ」
 天才型の勇者といわれた。それは幸いにも、急にあふれ出す力に惑わされる事を防いでくれた。力を得る過程があったのだ。僕はその中で徐々に自分の中の破壊衝動に耐性をつけていく。
「強くなったのは僕だけじゃない。魔王、お前もだ。ダミーとして生み出した魔王の復活するスパンが早くなったのは僕との争いの中で成長したお前が強い魔力を得る事ができたから」
 これからより魔王軍は凶悪になっていくだろう。そして、それを討伐する僕の力も。
「僕たちのやっていることは究極の同種殺しであり、そしてただのストレス解消だ。全世界を巻き込んだね」
 僕達はそうしてこの世界の均衡を保ってきた。均衡が崩れたら、おそらく世界は大きく変わる。破滅するかもしれない。
 僕達は死ぬまでこの『魔王対勇者ごっこ』を続けてこの世界をまもらなければならない。
 ──嫌ですか? あなたは。
 どこからか声がした気がする。聞いた事もない、若い男性の声だった。明瞭で、心優しそうな、そんな不思議な魅力を孕んだ声。
 僕は姿を探さず、そっと目を瞑る。
「嫌じゃないさ。国で母の介護をしているよりよっぽどいい。旅をしていると色んなものに出会える。それは悪いことじゃない」
 ──私も同じですよ。あなたの歩む旅路は、実に愉快だ。
 その言葉を最後に、もう魔王の声は聞こえなくなった。
 僕たちの戦いは、まだまだ続く。多分ずっと、どこまでも。
 でも、これからはもうすこしだけ迷わなくなると思う。死んだ魔物たちは、僕を見つめてなんかいない。その事が分かったから。
「……師匠」
 もそりと隣で何かが動くのが分かってそっと視線を落とす。眠気眼のキトが半目でまぶたを重そうにしていた。この様子だと今の話は聞いていないだろう。
「キト、やっと起きたか」
「眠いです」
「どこまで覚えてる?」
「あんまりです」
「寝ろ」
 質問に答えられていない辺り以前のキトにもどったと見て間違いなかった。
「僕ちょっとお風呂入ってきます」
 キトは立ち上がると、椅子に座ってベッドに突っ伏すミロちゃんの顔面を綺麗に踏んづけて床に降り立つ。僕はギャルの口からオッサンみたいなうめき声が出るのを初めて聞いた。そんな様子を気にもせず風呂場へ向かう我が弟子。他人の家なのに平気で風呂を無断使用するあたりさすがだ。
 しばらく窓の外を眺めていると、「師匠!」と叫び声がした。キトが上半身裸で驚愕している。
「師匠、見てください。こんなところに魔方陣のタトゥーが」
 キトの胸元には五つの星が太陽を取り囲む封印の陣が描かれていた。僕の魔力によって浮かび上がったものだ。その陣によってキトの力は封じられている。
「お洒落ですよね。いつの間にこんなタトゥーが彫られたんだろう」
「タトゥーではないと思うけど、まぁいいんじゃないの」
「そうですよね。格好いいですよね」
 少なくとも魔方陣のタトゥーなどお洒落ではなく格好良くもなんともないが、まぁ本人がよしとするならいいだろう。
 その陣が破壊される事なくキトが成長してくれれば。それを助長する事が今の僕に出来る勇者としての仕事だ。

 定期便コーランの汽笛が鳴るのを聞いて僕達は走った。雪の中はたいそう滑りやすかったが、それ以上に厄介だったのは新雪の存在だった。やたらと足を取られるのだ。
 渡し板の手前まで到達して、ようやく一息つく。後ろを見ると遅れてキトとミロちゃんがついてくる。
「もう、勇者様早すぎますわ。早すぎる男性は女性を満足させられませんわよ」
「だまれ売女」
「師匠、売女ってなんですか?」
「そうだな、オブラートに包んで言えば、自分の体をお金と引き換えにおじさん方に体を隅から隅まで弄ってもらってお金を稼ぐ女性の総称だよ」
「おじさんに……? どうしてそんな事を」
「趣味だよ」
「勇者様! いいかげんにしてください」
 そんな馬鹿なやり取りをしていると僕らが来た方向からソリがやってきた。鹿に引っ張られたソリは木製のしっかりとした造りをしている。ちょっとやそっとの雪じゃびくともしないだろう。
 乗っているのはジャッカル兄妹だった。
「どうやら間に合ったみたいだな」ヒエデがニヒルに笑う。「黙って行こうとするなよ」
「ごめん。君らの帰宅を待ってたらコーランが出航しちゃうからさ。こんなろくでもない思い出ばかりの糞みたいな雪の街、さっさとおさらばしたかったし」気がつけば心の内を全て正直にうちあけていた。
「ふふ、その言葉もお前らしいな。勇者。三年前を思い出すよ」
 三年前も似たようなこと言ったのか僕は。一体何があった。
 僕が色々とモヤモヤしていると、ヒエデがソリから右手を差し出してきた。微妙に距離があったので一々近づかなければならずそれが億劫でならないが、そんな感情はおくびにも出さずにおいた。ヤンキーを怒らせると怖い。
 手を掴むと、ぎゅっと力強くヒエデが握り返してくる。
「ありがとよ勇者。俺たちはまたお前に救われた」
 するとセツナがソリからぐっと体を乗り出す。必然的に顔が近くなってドキリとした。
「勇者、また会える?」
「また次回、魔王が復活したらね」
「待ってる」待つな。
 セツナは僕ににっこりと微笑みかけると、ミロちゃんに視線をやる。
「あなたとはいつか決着をつける」
「なっ?」
「勇者は私の婿になるの」
「そ、そんなこと絶対に許されませんわ!」
「師匠、モテモテですね」
「今に始まったことじゃないよ」
 そんな下らない茶番を繰り広げていると、再び汽笛が鳴る。いよいよ出航だ。
「それじゃあな、勇者。魔王に負けるなよ」
「ああ。ありがとう、二人とも。それじゃあ行こう、キト、ミロちゃん」
「はい」「ええ」
 そして僕達は駆け足で渡り板を昇った。船に乗り込むと同時に、板が収容され、船が出港する。
 振り返るとセツナとヒエデが手を振っており、遅れて駆けつけたのか街の自警団の皆も手を振っていた。ミロちゃんとキトが負けじと振り返す。
 僕はそんなことよりも、何故セツナとヒエデの家にあったベッドはセミダブルで、しかも一つしかなかったのかと言うことについて考察していた。
 そして一つの結論に行きわたる。
 ああ、だから僕はショックでここでの記憶を……。
 恐ろしい予感だけを残して雪の大陸は姿を消していく。

 乗るつもりのなかった定期便への凱旋を果たした僕らは以前と同じ三人部屋へと入り込み、ようやく一息ついた。この大陸で乗船する客は少ない。同じ部屋を取れたのはそれが理由だろう。おきっぱなしになっていたミロちゃんの購入物も奇跡的にそのままだ。
 僕はぐったりとベッドに横たわると、深く溜息をついた。あとでアキさんに会って事の報告をしないと。あの婉曲な物言いをする老人のせいで随分遠回りをした。
 今宵僕はクレーマーになる。クレーマークレーマーだ。
「勇者様、これからどうしますの」
 ミロちゃんがソファに座って置きっぱなしになっていた紙袋を抱える。自分の荷物が捨て置かれかけたことに気付いていないらしい。好都合だ。
「どうもなにも、旅を続けて魔王を討伐する。それ以外にやる事があるかいな」
「でも、魔王は……」
 彼女の複雑な表情には様々な意味が込められている。倒すべき魔王はこの手で封印したじゃない。そう言いたいんだろう。
「危機は去った。それだけだ。魔王はいる。でもこの世界では僕の知らない事がまだたくさんあるんだって事を知ったよ。ようやく自分の無知を自覚したって言うか」
 そう、まだまだやるべき事はある。
 世界はどこまでも広がり、広大である。たかだか四回世界旅行を経験したくらいで僕はこの世の全てを知った気になっていた。でもまだ誰もが見つけていない新しい大地があるかもしれない。まぁ衛生が空飛ぶこの時代でそれはないと思うが。いやいやしかし海底に眠るアトランティスだって実在するかもしれないわけだし。
「師匠、今回が最後の旅になるかもしれないって言ってましたけど」
 窓の外から景色を眺めていたキトが振り向く。その顔は旅の終着点を拒否していた。
「ありゃ僕の勘違いだ。まだまだ長いよ、これから。キトはもっと成長しないとだめだし、ミロちゃんは服を脱がないとね」
「また勇者様ったら、そんなことばかり言って」
 そう言って頬を朱に染めるミロちゃん。何だこの女。どんどん淫乱女子として開花しているんじゃないか。封じるべきはこやつの性欲だったか。僕は自分の犯した重大なミスを知った。
 数日かけて船内を一人で散歩した。もちろんアキさんを探すためだ。しかし広すぎる船内では彼女の姿は見つけられない。行商人に尋ねたが、誰もが首を振るばかりだった。どうもおかしい。
 船員に尋ねても、誰一人としてアキさんの事を覚えている人はいなかった。
 占い師、アキ。もしかしたら本当に預言者だったのでは?
 終わりの見えない戦いに、初めて終わりが見えた。具体的にどういった形かはまだ予測できないが、世界の真実を知ることで暗い闇に閉ざされていたこの旅にも光が見えた気がしたのだ。
 漠然としてそれでいて当たり前になっていた魔王討伐に新しい目標を立てる。彼女の狙いが本当はそこだったとしたらどうだろう。
 魔物と人間の共存。キトが言っていた言葉だ。
 世界の均衡を保つ手段として魔物が用いられている。僕と魔王が戦う事がすなわちこの世界における生態系を保守する手段となっている。
 でもそんな誰かの犠牲の上で成り立った均衡など本当の均衡と呼べるのか。この世界に神がいるとすれば、そいつは恐らく相当頭が悪い。意地も悪い。
 勇者と魔王、それに伴う破壊衝動は一種の病気だ。病気には治療法が存在するはず。そいつを探す旅にするのも悪くない。それに、魔王が召喚した偽の魔王もいるわけだし。
「でもただ闇雲に旅をするのも今までと変わらないな……」
 次の目的地はどこにしようかと部屋にもどると、なにやらミロちゃんとキトが机に置いた雑誌をみて騒いでいた。
「何? 何騒いでるの? 船での長旅で気が触れた?」
「違いますわ、勇者様。これを見てくださいまし」
 どれどれと覗くとガイドブックに観光名所が書かれている。
「なにこれ。占いの街?」
「そう、どうやら次に到着する大陸ではこんな名所があるみたいですわ」
「師匠、僕行ってみたいです」
 二人とも目が爛々としている。まるきり子供の目だ。
「あのね、遊びじゃないんだから……」
 そこでふと一つの考えが頭に浮かぶ。多くの名占い師を輩出してきた街。
 占い師アキ、もしかしてこの街の出身か? 
 だとすればこの街に行けば会えるかもしれない。
 会ってどうする? 
 何も知らないかもしれないじゃないか。
 でも、闇雲に旅するよりはいい。 
「やっぱり駄目ですか……」
 肩を落とすミロちゃんに「いや」と声をかけた。
「行こう。占いの街。ちょっと用事が出来た」
「やったぁ」ワッと手を取り合うキトとミロちゃん。心底嬉しそうだ。
 旅は終わらない。まだ確実に続いている。少しずつではあるが、着実に道を切り開いている。

 次の朝、僕達は荷物をまとめて甲板に出た。空は青く、海は広がる。船と共にカモメが並んで飛び、雲は雄大な景色を彩る一つのエッセンスとなっている。潮風が強く、つんとした海の香りが心地よかった。
「勇者様、本当に大陸が見えますの?」
「もう時機見えるよ」
「師匠、なんだか僕ワクワクしてきました」
「村に引きこもって暮らすよりずっと楽しいだろ?」
「はい!」
 お馬鹿な弟子キトと仕事をしない事務員ミロちゃん、そして勇者僕。未だかつてないほどカオスなパーティーではあるが悪いとは決して思わない。
 新たな大地の息吹が近づくにつれ、胸の高鳴りは抑えられなくなる。
 だから旅はやめられない。こういうふとした瞬間に、そんな事を強く感じてしまうのだ。
 キトが先般へ走り、嬉しそうな顔で僕を振り返る。
「師匠! 見えましたよ! 新しい大陸です」
 次の街はどうなるのだろう。まだ見ぬ謎と冒険が僕らを待っている。
 旅をしてまだ一週間も経たないうちに、僕は魔力を全て失った。これからの旅は今までよりもずっと過酷なものになるだろう。
 でも、魔物の視線に脅える事ももうなくなった。
 この三人なら、なんとかやれるんじゃないかな。
 いつか、僕が旅してきた答えをちゃんと見つけられる、そんな気がするのだ。
「よっしゃあ! 上陸じゃい!」
 僕の上げた雄たけびに、キトとミロちゃんが嬉しそうに声を重ねた。

 ──了
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