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死の村? 託された命運!

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 出発してわずか十分でさっそく仲間を作った僕は無事に北の村へと到着した。
 村に入り、キトも安心したのかホッと息をつく。
「いやぁ危なかったですねぇ師匠。もうちょっとでスライムに腕を溶かされるところでした」
「君がね」
「ほら、森を歩いている時に出会ったゴブリン。あいつのこん棒で頭をしばかれたら、もうひとたまりもないですよね」
「君はね」
 キトが頭にかぶっていた鍋は見事にスライムのエサになった。
 とりあえず村に入ったからには今日の宿を確保しなければならない。しかし村の店は全て閉店しており、道行く人の姿すらない。どうせいつもの事態に陥っているのだろうなぁと察しがつく。村が魔物に襲われると途端に引きこもりだす住民達。全力で引きこもられるとこちらとしてはどうしようもない。
 仕方がないので僕は村長の家を訪ねた。コンコン、とノックすると中から老人が姿を現す。
「誰じゃ、こんな夜中に……」
「まだ午後二時ですよ、村長」こいつも痴呆か。僕の姿をみるなり、村長は目を見開く。
「これは……勇者殿!」
「勇者?」キトが首を傾げる。「師匠、もしかしてあの勇者様なんですか?」
「そだよー」
「すごいや師匠!」
「フヒヒ、もっと言って」
「勇者殿、笑い方がモイキー。ところで、その方は息子さんですか」
 無駄に現代用語を織り交ぜようとする村長にそこはかとない殺意を覚えたが流すことにする。
「この子はキト。弟子です」
「キトと申します! よろしくお願いします、村長さん!」
「なんと元気の良い。それに目が綺麗だ。良いお弟子さんを作られましたな。勇者殿」
「まぁまだ知り合って一日経っていないですが」
「ほっほ、じゃあこれからですな。さ、とりあえず中に入ってくだされ。息子達も喜びます」
 僕達は村長の家へと通された。フローリングの床は歩くとキュッキュと音がする。廊下を抜けて、そのままリビングへと入った。
 テーブルには村長の息子アリネクさんとその嫁が座っていた。彼らは僕の姿を見るとガタリと椅子を倒して立ち上がる。
「勇者様! よくぞおいでくださいました!」
「アリネクさん。また娘さんを生贄にしたんですか」
「村を守るにはこれしかなくて……!」
 ちなみにこの人たちは過去四回娘を生贄に差し出している。四回とも僕が助けた。年頃の娘なのでそろそろグレるのではないかと心配になる。
「お願いです勇者様。お礼は一泊の宿で応じます。どうか娘を、ミロを助けてください」
 何でお礼が一泊の宿限定なんだよ。お金とか、宝とか、たぶんこれ以上の褒美を求めるとひんしゅくを買うのだろう。それと毎回娘の名前を強調してくるのは娘を僕の嫁にしようとしているのではないか。村から勇者の嫁が出たらこれ以上の村興しはないだろう。
「別に助けるのはいいんですけどね……」
「何が不服だと言うのですか?」そこでアリネクさんはハッとする。「まさかミロを? ミロを嫁にしたいと?」
「いや、それは結構ですよ」
「いいでしょう。勇者様の頼みとあっては。ミロを差し上げます。だからどうか、どうかミロを、ミロを助けてください。そしてその場で子作りをして魔王も速攻で倒してお城で盛大なパーティーをした挙句ゆるぎない地位と権力を娘に、娘に……!」
 果てしない欲望を吐露するアリネクさん。何かと娘を差し出すのが好きな奴である。こんな義親はいらない。
「それで、ミロちゃんはどこに?」
「いつもの洞窟です」
 いつもので通じる辺りが悲しい。
「ところで勇者様、さっきから気になっていたのですが、そちらの子は一体?」
「勇者様のお弟子さんで、キト君と言うそうじゃ」僕の代わりに村長が答える。
 それを聞いてアリネクさんは目つきを変えた。
「勇者様の弟子……? すると将来的な地位は」
 僕は家を出た。
「師匠、今の人たちは……」キトが困惑した表情で僕を見上げる。
「この村の村長と、その息子夫婦だよ。彼らの娘がミロちゃんって言う女の子でね。魔物に食われそうになっているのを毎回助けてるんだ」
「だからもう助けてもらうのが当然みたいに思ってるんですね」
「そうなんだよ」
 弟子にそれなりの良識があってよかったとほっとした。
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