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猿狩り

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深く、暗い森の小径で、猿が額を撃ち抜かれて死んでいた。
ニホンザルなのだろうか、それともチンパンジーなのだろうか。死んでいた猿は私の知らない種の猿だった。しかし、何故か見覚えのある猿だった。

「この森は猿が多いんだ。近づかない方がいい。」
草木が織り成す闇の方から、男の声が聞こえてきた。茂みをかき分け猟銃をもった男がやってくる。焦げ付くような、生新しい火薬の匂いを漂わせながら。おそらく、この男が撃ったのだろう。

「猿は人を襲ってくるのですか?」私は男に尋ねる。
「いいや。猿は襲ってはこない。」
「では、なぜ…」
男は弾倉に鈍く光る実弾を装填させながら、じっと不思議そうな顔で私の方を見つめた。「そんなことも知らないのか?」と言いたいのだろうか。
弾がしっかり装填されていることを確認すると、男は気だるげに話しだした。
「猿は危険だ。学校で習っただろう?猿は人間になれなかった出来損ないだ。だから人間になれなかったあいつらは、人間になれた俺たちを妬んでいる。毛むくじゃらで醜い自分たちの容姿に劣等感を抱き、美しい肌の上に衣服を重ねて着飾る人間に嫉妬している。」
猿は人を妬んでいる。そんなことを言う人に今まで会ったことはなかったし、学校でもそんなことは習わなかった。私が猿について知っていることと言えば、猿という生物がいることと、人間が猿から進化したことと、猿には複数の種がいること、くらいだった。

私は額の撃ち抜かれた猿を見つめた。体毛は不揃いで、泥に汚れている。細くつり上がった目も、尖った鼻、耳元へ向かって裂けそうな大きく口。そして冷たくどす黒い血の匂いが相まって、私はこの生き物のことを美しいとは思えなかった。
しかし猿は、自分たちのことを醜いと思っているのだろうか。自分たちとは違う姿を獲得した人間のことを妬ましく思っているのだろうか。美醜は人間の感性であり、猿の世界にそれがあるとは限らない。あったとしても、猿の美醜が人間のそれと一致しているとは限らない。一致しているどころか、猿の目には人間が醜く写っているかもしれない。
私は男の顔をじっと見つめた。丸く小さな顔に不釣り合いなほど目が小さく、鼻はくの字に歪んでいる。上下の唇の隙間から覗かせる歯は、黄色く汚い。息も臭そうだ。そう思った瞬間、男はその毒でも吐きそうな口を開いた。

「ところで」
銃口が、静かに私の額に向けられる。
「お前は猿だな?」
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