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7.仕事終わりの悲劇

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7.
 結局、修司が帰宅できたのは深夜2:00過ぎのことだった。売上を作るために大量に買い込んだおでんを片手に持ち、もう片方の手には24時間営業の惣菜屋で買った弁当とおかずを持っている。リビングではテレビがついており、曜子がまだ起きていると修司は思った。
「曜子ただいま、遅くなってごめん。」
ソファで横になっている曜子を見て、
「何だ寝たのか?ほらご飯買ってきた。一緒に食べよう。」
そう言いながら修司はテーブルに惣菜屋の弁当とおかずだけを置くと、流し台へと向かいおでんを全て処分しはじめた。この作業は修司自身、何度繰り返したか覚えていない。アルバイトの手前、家にまでは持ち帰っているが、おでんを食べたこと自体2年以上記憶にない。処分を終えて寝室に向かうと毛布を片手にリビングに戻ってくる修司。
「風邪ひくぞ。」と言って、曜子に寝室から持ってきた毛布を掛ける。腕がソファーから放り出されているのが気になり、毛布の中へ入れてあげようと触れた瞬間、修司は曜子の腕から人の温もりがなくなっていることに気付いた。
「曜子!曜子!」叫びながら懸命に手を擦って温もりを取り戻そうとする修司。
鈴香は眠っていたのに修司の大声のせいで目が覚めて、リビングまでやって来た。3年の間に鈴香の髪の毛は脱色され、耳には無数のピアスの穴が開けられ、眉毛は剃られてほとんどなくなっている。
「鈴~!ママが~!ママが~!」泣きながら手を擦り続けている修司。
「えっ?うそ…」
「ほらっ!一緒にママ温めるの手伝って!」
「救急車呼んだの!?」
「なんでそんな物呼ばなくちゃいけないんだ!それより一緒に、ママ温めて!」
「馬鹿!先ず救急車呼べよ!」
「ええ?ああ…?ちくしょうー!…ちくしょうー!」

葬式では、妻方の親族から「まだ若いのに」、「こんなに痩せこけて」など、修司の甲斐性のなさを攻め立てる声が相次いだ。そんな中においても修司は店舗の運営に追われていた。
葬式で主体的に行動しているのは、曜子の実の弟である文博と娘の鈴香であった。
「義兄さんは?」文博が別れの挨拶を頼もうと修司を探していると、
「あそこ」と無表情の鈴香が指を指す先には修司が一人電話をしていた。
 
 「ええ、ですから今日、明日、明後日は本部のヘルプスタッフ制度を利用します。」
 通話の相手は崎谷である。
 「いやー。あのね、それが本部も人手が不足しててさ、今人員あてられる目途がつかないのよ。」
 崎谷は自宅におり、彼女の中島芽衣子を連れ込んで大麻クッキーを一緒に食べてトリップしている。
 「誰?」芽衣子が聞くと、崎谷は口の前で人差し指を立てて黙らせる。携帯電話の受音部を手で押さえると、
 「奴隷豚君がブヒブヒ言ってるからちょっと待って。」と言った。
 「話が違うじゃないですか、身内に不幸があった場合にはヘルプスタッフ制度を利用して慶弔休暇だって取れると!」修司がつっかかると、
 「だーかーらー何度も言わせんなって!」と怒鳴る崎谷。
芽衣子は崎谷の乳首を吸い始める。
「要求だけされて、ハイそうですかって言うんならPACはいらねえんだよ!利益出していただいているオーナーさんに対して利益還元の気持ちで存続させてる制度を悪用しようとするのは止してくれねえかな!?そういう人間なんて言うか知ってる?物乞いっていうんだよ!」
「そんなぁ。あんまりじゃないですか。頼みますから。今日の深夜から一人欠員がでるんです!なんとかお願いします!」
「え~?」そう言うと崎谷は携帯電話を壁にドンドンと叩きつけて、「あっゴメン。」と言って息をマイクに吹きかけ「だめだ、通信状態が悪い。」と言って一方的に通話を打ち切った。そしてそのまま携帯電話の電源を落とした。
「もしもし?もしもし?」修司は絶望を感じながら、通話の途切れた携帯電話に対して問いかけ続けた。
「いいの~?叫び声聞こえたよ~?」芽衣子は半笑いで問いかける。
「いいんだよ。…なに?ブヒッてんの聞こえた?」
「うん。ブヒブヒ、ブヒブヒって。」
「あははははははは。」崎谷の冷酷な笑い声が部屋に響いた。
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