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TITI'Sキッチン(短編連作)

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 「グロウ様! 緊急事態です!」
 「……何だ」
 寝返りを打ち、心底面倒くさそうに答えるグロウ。
 本当に緊急事態ならティティは静かに報告するので、またどうでもいい事だろう。
 どうせ「まだやりたりないんですセクりましょうパコりましょう!」とか言い出すに違いない。
 グロウとティティ。両者共に性欲は強いが、グロウは一旦性行為に及ぶと激しいタイプで、ティティは年がら年中発情してるタイプだ。
 性の不一致とまではいかないが、その奥ゆかしさの欠片もない性格もあって正直ウザい気持ちはあった。
 「M度が限界値に達したのでリョナられないと死んじゃう身体になりました!! 時系列すら無視して!!」
 「りょなら……?」
 「猟奇的に痛めつけられないと、って事です! ハァド拷問です! 骨を折ったり! 四肢を欠損したり!おもつとかおみそとかはみ出たり! スプラッタすぎてギャグの領域みたいなグロ画像状態にならないとおかしくなっちゃいますっ!」
 (……出会ったその日から既におかしかったが)
 顔を真っ赤にして股をこすり合わせながら、常人には理解不能な性癖を並べるティティ。
 「……妖精の世界には病院は無いのか」
 「そんなもんありません! 基本的に魔法でなんとかなるので!」
 「お前の頭をまともにする魔法は?」
 「し、失礼ですね! 私ゃこれでも大真面目に言ってるんですよ! 仕方ないでしょマゾなんだから!! オンリーワンの個性です!!!」
 確かに類を見ない被虐体質だが、胸を張って言う事ではない。
 「……お前はもう、人間に虐げられていた方が幸せだったんじゃないのか?」
 「そんなわけありません、グロウ様以外に陵辱なんて食らったらティティちゃんぶちギレ金剛ですよ。最愛の人から受ける愛の篭ったオーバード暴力こそ私の疼きを止められるのです」
 「ずいぶん歪んだ愛だな。お前を虐めるのは楽しいが限度と言うものがある。悪いが骨を折ったりするのは一人でやってくれ」
 「なぁんでですかー! こんな愛くるしくか弱い妖精を前にしてハァド拷問しないとかグロウ様どんだけチキンなんですか!!
 本人公認で犯し放題壊し放題、血みどろガチゴアエログロパーティーの始まりですよ!? 普通やるでしょ!! やろうぜ!? 行くしかねぇぜ!?!?」
 「行かん」
 再び寝返りを打ち、顔を背けるグロウ。
 愛しているお前にそんな酷い事できるか、などとは口が裂けても言えなかった。
 「グロウ様ぁ……」
 ティティがグロウの身体を揺すって懇願する。
 「私の性癖がいっちゃってるのは承知です。でも、どうしても自分じゃどうにもできないのです。苦しいんですよ、とっても。
 胸が張り裂けそうで……お願いします、少しだけでも付き合って下さいよぅ」
 涙声になりながらも訴えかけるティティ。
 肩越しにちらと見ると、親とはぐれた迷子のような顔で必死に背中に張り付いている。
 その小さい体躯も相まって、つい哀れに思ってしまった。
 深い溜息を吐き出し、グロウは身体を起こした。
 「……少しだけだぞ」
 ティティの顔がぱぁと明るくなる。
 「本当ですか!? グロウ様大好きです! 一生ついていきますよ!!」
 (……)
 笑顔でそう言う姿が好きだからこそ、傷めつけたくはないのだが。
 そんなグロウの心境など知らずに、ティティは早速いつものように一糸纏わぬ姿へとなった。

 
 「と言うわけでTITI'Sキッチンのお時間です。材料は私、愛でてよし食べてよしの万能食材、空飛ぶチャーミングお肉ことティティちゃんです」
 「待て」
 「待ちません。シェフはこの方、和食はもちろん洋食やデザート、郷土料理にも造詣が深い万能コックのワダツミちゃんにお越しいただきました」
 「どーもでござる…………」
 割烹着姿のワダツミの目は虚ろだった。
 眠ってる隙にティティが適当な魔法をかけたのだろう。ふーらふーらと揺れている。
 「……ワダツミの事はこの際いいとしよう。何で食う前提なんだ」
 「どうせグロウ様は私相手だと手加減してしまって大した事ができません。しかし料理として出されれば食べぬわけにもいかない! 完璧な作戦です!」
 食べないと言う選択肢は頭に無いらしい。
 「……食うのはともかく料理するのはワダツミになるわけだが」
 「今回は私も我慢します。大丈夫、私の指示で調理するんですからオナニーの延長みたいなもんです」
 「…………そもそもの話、正直食いたくないんだが」
 「だまらっしゃってください! 好き嫌いしてたら大きくなれませんよ!」
 (……俺は子供か)
 「では行きましょう、第一の料理はこちら!」

 ◯生でそのまま
 「料理ですらない」
 皿の上で大の字に寝転ぶティティを見てグロウはワダツミの必要性に疑問を覚える。
 「素材の味を100%生かした定番メニューです! 丸かじりでも丸呑みでも、好きなようにどうぞ!」
 (どうぞ、と言われても)
 股を粘液で淡く光らせ、ティティはバンバンと皿を叩いて急かしている。
 仕方なくひょいと摘み上げる。と、彼女は期待に目を輝かせ始めた。
 (……黙っていれば美少女なのだが)
 黙っていなければ煩わしい異常性癖妖精である。グロウは今更ながら顔とシチュエーションに釣られて将来を誓い合った事に対し、もっとよく考えるべきだったかと若干後悔にふける。
 食べて食べてと顔が言っているが、いざ口に近づけるとやはり躊躇してしまう。
 「美味しいですよ?」
 上目遣いで甘えるティティ。
 「……美味いかどうかはさほど問題じゃない」
 そもそも、人の形をした生物をまともな感性で食えるかと言う話だ。
 「ちっ、やっぱりそのままじゃ駄目か。わかりましたよ、降ろして下さい」
 「その口ぶりからすると全然わかってなさそうなんだが」
 「まあ任せて下さい、被虐にかけては他の追随を許さない天才っぷりを見せる、このティティちゃんに!」
 (……不安しかない)
 「第二の料理はこちらです!!」

 ◯ティティ丼
 「……………………………………………………………………」
 白米がたっぷり乗っかった丼の上で熱い熱いと言いながらもしたり顔でこちらを見つめる妖精を前に、
 いっそこのまま口を噤んで生きていこうか、とすらグロウは思った。
 「どうですか! あまりの芸術食品っぷりに声も出ないでしょ!!」
 「……ワダツミ、お前の故郷まで案内してくれ。俺で良ければ、共に暮ら」
 「ウェイトウェイトウェイトウェイト!! ウェイトですグロウ様!! ルート変更しようとしないで! 逃がしませんよ! 逃げないで! お願い!!」
 丼の上から跳び立ち、必死にグロウの肩を揺する。
 「どこかおかしかったですか?」
 「……どこか正しかったのか?」
 もはや交わらない二人の思考に、ティティは危機感を覚えた。
 出番が無くて立ったまま鼻ちょうちんを膨らますワダツミを突き、命令を下す。
 「申し訳ございません、グロウ様は生食は好みでないのですね。しかしご安心を、これからはしっかり火を通してお出ししますから!」
 「いや、そう言うわけでは……」
 返事を効かずにテキパキと準備を始めるティティを眺めて、グロウは思考を放棄した。
 (……もうどうでもいい)
 

 ◯ティティステーキ
 そして用意されたるは、小さな鉄板とそれ用の火鉢。
 鉄板の上では油が鈍く光り、下ではパチパチと炭が焼けている音が響く。既に熱されているそれを前に、ティティが佇んでいた。
 「……待て。ティティ、それは冗談では済まされない苦痛だぞ」
 「承知の上です。このティティ、グロウ様に食べられるためなら焼けた鉄の上でのたうち回ることすら厭いません」
 そして一歩を踏み出す。
 「あ゛ぁぁっつっ!!」
 戻した。
 「…………」
 「……今のはノーカンです。やはり自分の意志で飛び込むのは難しいですね……ワダツミちゃん!」
 指パッチンと共に、ワダツミの手がティティの光る羽根を掴み、ぺきんとへし折る。
 「んっ……」
 ティティの身体に直に繋がっているわけではないものの、魔力で生成された身体の一部だ。破損すれば、それ相応のダメージを負う。
 そしてこれから来る痛みは、それの比ではない。
 「これから十分間、止めろって私が言っても止めちゃ駄目だよ……」
 ワダツミはこくりと頷き、ティティの両足に手をかけた。
 「おい、何を……」
 グロウが言いかけた直後、細枝を二本纏めて折ったような軽い音が部屋に響いた。
 「~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」
 何の音かは、言うまでも無かった。
 羽根をむしられ足を砕かれた妖精はもはや自力で立つことすら叶わず、その場にへたり込む。
 痙攣し、虫の断末魔のような高音を発するティティを摘んで、ワダツミは命令通りに鉄板の上へと置いた。
 生肉が焼ける、香ばしい臭い。食欲をそそる音。そこにあるのが小さな妖精でさえ無ければ、グロウとて唾を飲み込んでいた所だろう。
 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!! あつ、熱いよぉぉ!!! いや、助けてッ!!! やだぁぁぁ!!! グロウ様ぁぁぁぁぁぁ!!!! お母さ」
 「ティティッ!! ……ぐっ」
 悲痛な泣き声を上げるティティを、慌てて掴み上げるグロウ。
 自分の指先も少し焼けてしまったが、そんなことは大した問題ではなかった。
 「何をやっているんだ、馬鹿!!」
 手の中でぐすんぐすんと泣くティティ。
 シミ一つ無かった身体に、焦げ目が付いている。
 痛々しい姿に変わった哀れな妖精が、口を開いた。

 「なんで止めるんですか! グロウ様のバカ!!」

 ぶちっ。
 「ひぇぶ」
 あまりの怒りについ反射的に握りつぶして殺してしまい、意図せずにティティの目的を満たしてしまった。
 「あ」
 顔面を除く全身が見るも無残な姿になりながらも幸せそうな死に顔をするティティに、謎の敗北感に包まれるグロウ。 
 「……やられた」
 グロウは舌打ちし、仕方がないので調理器具を片付け始める。
 ワダツミの頬を叩いて起こそうとするが、起きる気配が無いので隣室のベッドまで運び、丁寧に下ろして布団をかけた。
 ティティはトイレに流した。
 「TITI'~~~~~~Sッ! キッチ~~~~~~~~ン!!!!!! いぇーーーーーーーっぃい!!!!」
 「いえーい……ぱふぱふぱふ……」
 (先生、どうやら俺は道を誤ってしまったようです。後悔はしていません。が、ワダツミを巻き込んだ事だけが心残りです)
 「どうしたんですかグロウ様うかない顔して! パーリィですよパーリィ! 全国6億人のカニバリスト及びハードリョナラーの皆さんお待ちかね、美少女妖精解体ショーの始まりや!」
 異様なテンションのティティと、瞼にマッチ棒でも挟めそうな顔をしているワダツミ。
 「……いや、お前も懲りないなと」
 一発ネタだろうとばかり思っていたグロウは一瞬現実から逃げてしまいそうになった。
 魔女のような黒づくめの格好をしてえーひっひと笑う妖精に、呆れを通り越して可哀想なものを見る目を向ける。
 「私は辞書なんて持ってないんです! やりますよ! 今日こそ同じ値段で美味いティティちゃん定食を味あわせてあげましょう!」
 (……何と同じ値段なんだ)
 いつも以上に気合の入っているせいか、よくわからない事を口走るティティ。
 が、思えばいつもの事であった。
 「……できるのか?」
 「出来らぁっ!」
 自信満々にガッツポーズをする妖精。
 (ああ――
 
 ――不安しか、ない)

 


 ◯ティティパフェ
 「いい感じに前フリしてくれましたけどね、今日はガチですよ! ガチセレクト! 割と本気で美味い上に見た目もいい感じのお料理です!!!」
 そう言って指を弾くと出てくるは、ワゴンを運ぶワダツミ。料理にはクロッシュ……銀色の蓋が被せられている。
 「どうぞっ!」
 ワダツミがそれを取ると、中にあったものは。
 波打った大きなグラスに鎮座する、それぞれ混ざらないように配置された小豆と抹茶アイスとチェリー。
 その上に渦を巻いた生クリーム、そしてオレンジに添えられるチョコ菓子。
 「これは、確かワダツミと出会った店の…………だが、少し形状が違うか……?」
 「そう! これはラ・シャンゴの裏メニュー、常連限定の一日五個限定特製あんみつパフェです!!!」
 (……いつ常連になったんだ)
 しかもテイクアウトとは、相当に通いつめたのだろう。
 いや、下手したら魔法を使ったのかもしれない。こんな事に。
 「この芸術的スイーツをこれから更にエヴォリュートします。私自らが加わる事によって!!」
 とぅあ! と叫んでその中に身を投じるティティ。
 「むごごごご……」
 五秒ほどパフェに上半身を突っ込んで身動きがとれなくなり惨めな姿を晒すも、どうにか中に潜り込む事に成功したようだ。
 しばしの沈黙の後、全身が生クリームに塗れた妖精がのそのそと出てきて外のアイスに腰掛けた。
 「どうです! あ、顔がクリームで真っ白だとギャグだわ……」
 ごしごしと顔を拭う妖精に対しグロウは、
 (…………一応ギャグでやっていたわけではなかったのか)
 と安心したような更に残念なような複雑な気分に浸った。
 「どうです!」
 「………………………む」
 両手を差し出すように向けるティティ。
 その小さく幼い体は、全身が真っ白にコーティングされていた。
 自らの二の腕を口に運び、ぺろりとひと舐めして微笑む。
 「うん、美味しい」
 舌が通りすぎた後は彼女の柔らかそうな地肌が覗く。
 「食べごろ、ですよ」
 チェリーを抱きかかえて見つめる彼女は、媚薬を練り込んだ砂糖菓子のような、アンバランスな存在だった。
 それは見た目に確かに妖艶で、どこか儚げで。
 グロウの目にも、美味そうに見えた。
 「……この間のあれは何だったんだと言うくらいの変わり様だな」
 「あれはちょっと、食べられたいのが先行しすぎてた感があります」
 目をそらして凶行を省みるティティ。
 「ですが! 今の私は芸術的とろあまスイーツ! お肉のはずなのに不思議と甘味にマッチする(んじゃないかなーって)ぷるぷるボデーは臭みも無くてちゅるんと喉を通りますよ!
 妖精皇女が舌を楽しませるし下も愉しませる豪華絢爛倒錯的犯罪度MAXこんなことやってんの見られたらお天道様の下を歩けなくなる系パフェを合法的かつロハで食べられるなんてどの宇宙を探してもグロウ様以外にいませんぜ!さあさあどうですさあどうです!」
 早口でまくし立てるティティ。
 そう思うならもう少ししおらしくした方が効果的なのではと思ったが、グロウは黙っておいた。
 それ以上に、口を開きにくい理由もあったのだ。
 「…………ティティ、その……なんだ。非常に言いにくいのだがな」
 「えー? あまりにも綺麗すぎて食べるのが勿体無いってー? いやーんグロウ様そこまで褒められると流石の私でも照れちゃいますよー!
 大丈夫です、ご希望でしたら何回でも同じ事やって差し上げますから! 美しいものはぶっ壊してこそ意味があるんですから……」
 
 「……俺は甘い物が苦手なんだ」
 「」
 
 誤算だった。
 落ち着いて考えれば、グロウの物静かかつ苛烈な風貌と、身に纏うストイックな雰囲気。
 スイーツを食べそうかと聞かれたら、間違いなくNOだ。
 落ち着いて考える事などそうそうないティティは、グロウの味の好みも聞かずに自分の好みからアイディアを思いつき即実行する。
 結果。
 「お前の努力は認める。少しはまともに考えるようにはなったなとは感心した。が……すまん。どうも、食えない」
 「そ……そんな……」
 がくりと前のめりになった妖精はそのまま倒れてグラスの縁に頭をぺこっと打ち付ける(妖精基準だと結構痛い効果音である)。
 自分のわがままと異常性癖を押し付けるために相手に相談の一つもせずに突っ走ったティティに非があるようにも思えるが、グロウはすっかり奇行に慣れてしまったのでそうは感じなかった。
 むしろよくやった方である。前回を考えれば尚更だ。
 「ふざけないで下さい! ここまでやらせておいて食えないとか何様ですか! 責任取って食べて下さいよ!」
 (……お前が何様だ)
 自分で勝手にやっておいて涙目で喚くティティだが、その表情は怒りと言うよりはいじけている風に見て取れた。
 食べられたいと言うのも勿論あるが、最近構って貰えるのが減った事に対する寂しさもあるのだろう。
 やれやれ、とグロウはスプーンを手に取る。
 「……まあ、せめてもの労いだ。少し虐めてやる」
 それを聞いたティティが一瞬餌を差し出された野良猫のような表情になったのを、グロウは見逃さなかった。
 が、見逃した事にしておいた。
 「そ、そんなことで誤魔化されるとでも……!? 私の溜まりに溜まったMP(マゾポイント)がたかがスプーン如きで消費されると思ってるんですか……!」
 ぷい、と顔を背けるティティ。


 五分後。


 「いやあああああああん!! ぐ、グロウ様! そんな所をグリグリしちゃったらお股からえっちなシロップが出ちゃいましゅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
 面白いくらいに誤魔化されていた。
 尻の割れ目にあてがわれた冷たいスプーンはティティの官能を激しく刺激して、顔をだらしなく弛緩させる。
 手足をじだばたと動かすも、クリームと溶けかけのアイスの中では逃げることもできず。
 結果として溜まりに溜まったMPはたかがスプーンによってゴリゴリと凄まじい勢いで消費される事となる。
 (……まあ、どうせすぐに溜まるんだがな)
 うつ伏せの状態から尻を浮かせて痙攣する小動物からふと目を離すと、じとっとした目で妖精の痴態を眺めている少女が片隅に立っていた。
 (……すっかり忘れていた)
 ぐっすり寝ている所を無理矢理魔法で操られ、意識のあるかないか曖昧なままパフェを運んで以降特にすることもなく待機していたワダツミが、ティティの尻を凝視している。
 口の端からは、魔法の影響かそれとも限定スイーツを目にしたせいか溢れて落ちそうになっている、涎。
 (折角の限定パフェだ、食わないのも勿体無いだろう)
 「ワダツミ」
 「はいでござる……」
 ティティのみならずグロウの呼びかけにも答えるワダツミ。
 それを確認し、グロウは続けて言った。
 「食べていいぞ」
 「いただきますでござる……」
 言い終わらない内にふらふらとパフェに歩み寄るワダツミ。
 半分寝た状態でもタイムラグ一つ無く行動に移る辺り、よほど食べたかったらしい。
 「一応、ティティは飲み込まないでおけ」
 「了解致しました……」
 スプーンを手渡されるや否や、崩れたクリームやアイスをポンポンと口に運んでいく。
 操られた状態のため表情の変化も無く感想も言わないが、手の動きは緩むことは無かった。
 半分ほど腹の中に放り込んだ後、肩で息をしているティティへとその手が伸びる。
 「……ふぇ?」
 いつぞやのように持ち上げられた後、ぱくんとワダツミに咥えられてしまった。
 「ちょ、ちょっとワダツミちゃん……!?」
 止めろ、と命令を出すより早く、丁度乳首と裏側の背中の辺りに鋭い圧力がかかった。
 「あ~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!」
 噛み砕かれこそしなかったが、十分に性感が高まった後のその痛みはティティにとっては絶頂に至るに十分過ぎるものだった。
 ワダツミも、甘くて舌触りの良いそのスイーツをたっぷりと味わう。
 前に陵辱を食らった時の記憶が奥底にあるらしく、この妖精が美味であると言う印象が舌と歯を激しく動かさせる。
 奥歯に力を入れると、かりっと言う音と共に右腕が折れた。
 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
 全身を舌で愛撫されながらの鈍い痛み。生粋のマゾヒストであるティティは、快感のあまり寝転がった姿勢からぴょんと飛び跳ねてしまう。
 「わ、ワダツミちゃんストップストップ! だめ! これ私バカになっちゃうから! 気持ちよすぎてクルクルパーになっちゃうから!!
 シリアスパートガン無視でひたすらエッチするだけの話になっちゃうから!!! タイトルが『脳内真っピンクド淫乱痴女妖精ティティちゃんのセックス道中記』に変わっちゃうから!!!!」
 ぴたり。
 術者の制止により、ワダツミの口撃は一時的に止まる。
 はー、はー、と肩で息をするティティが脱出しようとしたその時。
 「大丈夫だワダツミ。ティティは元からバカだ。続けろ」
 グロウの非情な一言によってその出口が閉ざされた。
 「何で私よりグロウ様の命令が優先なの!?」
 そして再び、ワダツミの口内で拷問が始まる。
 ぱきっ、ぱきっ、ぱきっ、とリズムよく四肢が破壊される様は事情を知らない者にとっては凄惨たる光景だが、ティティにとってはこれ以上ない悦楽であった。
 「らめえええええええええええ!! 歴史が変わっちゃうぅぅぅぅぅ!!! タイムパラドックスが起こっちゃうのぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
 あまりの気持ちよさに失禁してしまうティティ。その甘い汁を身体に絡ませられ、尚も口辱は続くのだった。
63, 62

  

 「妖精さんは言いました。『本編が進まないなら外伝を書けばいいじゃない』。
 そうです! 例えフェアリー・テイルが半ば投げ作品になりかけても!! いや、なりかけてるからこそ!!!
 セックス! おカニバ! そしてバイオレンス120%のエロエロ外伝、脳内真っピンクド淫乱痴女妖精ティティちゃんのセックス道中記は永久に続ける事ができるのです!!!!!」
 「……お前が何を言っているのか全くわからない」
 そうは言うグロウであったが、大体の状況は理解できる。
 一体衣装をいくつ買い込んだのか、今度は巫女服を纏い|大麻《おおぬさ》を両手でしゃんしゃんとぶん回し一回転して決めポーズを取るは、妖精皇女ティターニア。
 真夜中にも関わらず、この異常なハイテンションは、間違いなく例のアレである。
 (……また、か)

 
 「いっきまっすよーっ!!
 TITI'~~Sキッチ~~~ン!
 グロウ様が食べてくれるまで終わらない!!!! 新春グルメサバイバルスペシャル~~~~~~~~~~!!!!!!」
 「ぷっぷくぷー……ぷっぷっぷっぷー……」

 また、であった。

 「……今何か不穏な言葉が聞こえた気がするが……」
 「はい。これまでカニバカニバと銘打ちながら結局は寸止めで終わってきました。
 きっとみんな思ってるはずです。『どうせまたテキトーなギャグで茶を濁すんだろ』と!
 これじゃいけません、南に雌豚じみた糞マゾ妖精ありとまで言われた被虐皇女ティティちゃんの名が廃るというものです!
 今度と言う今度は! グロウ様が食べてくれるまでぜーったい終わりません! もう後には引けませんよ! ノーフューチャーです!!」
 「……ああ、そうだな」
 次から次へとわけのわからない事を並べ立てられたグロウはもはやツッコミを入れるのも面倒に思えた。
 (……どうせ何を言っても事態は好転しないだろう)
 状況を楽しむ事はとてもとても不可能だったが、思考を放棄することはできた。
 頑固で芯が強い、と言うより身体そのものが芯で出来ているような豪傑であるグロウだが、ティティのしつこさには勝てなかった。
 「それでは早速お料理されてきます! 美味しく食べて下さいね、グロウ様!」
 笑顔でそう言いながらワダツミに鷲掴みにされてキッチンへと運ばれる姿はとてもシュールな光景である。
 「…………はぁ」
 ため息を吐くと同時に、部屋のドアが閉まった。
 


 


 ◯ティティサラダ
 第一品目は丼ほどの大きさのボウルに盛られた色とりどりの野菜であった。
 「サラダか……ティティの姿が見えないが」
 「どうぞおめしあがりくださいでござる……」
 すっかりハイライトが入っていない目が定着したワダツミが告げる。
 (この中にティティが入っているのか? いや、あいつだったら見えない所よりもサラダの上に寝そべるだろう。これは恐らく、先に前菜を食べさせることによって意識を食事中の状態へと持って行かせる作戦……か……?)
 とりあえずグロウはフォークを野菜に突き刺した。奥まで。
 ザクッ。
 グサッ。
 ぶちゅっ。
 「ぐぇぁ」
 
 「…………」
 グロウの推測は的中していた。
 完成直後にティティが『やっぱり私が入らないと妖精料理とは呼べない! 私の血肉イズドレッシング!!』
 と我慢できずに底へ潜り込んだ事を除けば。
 フォークを持ち上げたグロウの目に映ったものは、腹部二箇所を突き刺され貫かれた哀れな妖精の姿であった。
 「ぐろ……さま……いしい……で……」」 
 口の端からは血を、目元からは涙を流しながら必死に笑うティティ。
 全身は痙攣を繰り返し、持ち上げられ裂かれた脇腹からは臓物が見え隠れしている。彼女が半分不死身だと言うことを知らなければトラウマものの光景だった。
 「…………無理だ」
 グロウはフォークを引き抜き、再びティティの身体にそれを突き刺した。
 心臓を一貫。即死である。
 ティティは刹那の官能を味わい、息を引き取ったのだった……。


 ・反省
 「全くグロウ様ったら、フレッシュなサラダにフレッシュな少女を掛けあわせた超高級料理を無駄にするなんて! 罰当たりですよ!」
 「……無駄にしたのはお前の方だ」
 




 ○ティティ×××´
 「……」
 「……?」
 現在、第二品目をワダツミが作っている最中である。
 だと言うのに、ティティは何故かグロウの隣でドヤ顔を披露していた。
 「……諦めて普通の料理を出すことに決めたのか?」
 とグロウが問うと、ティティはちっちっちっと指を振って楽しそうに笑う。
 「いえ、紛れもなくティティちゃんの妖精お肉をふんだんに使用したお料理ですよ。今頃叩き潰してるはずです。というか絞ってるというか」
 「叩き潰す……?」
 ティティの言ってる意味がまるで理解できないグロウ。
 叩き潰す、とは何のことを指しているのだろうか。
 少なくとも、目の前ではティティが心底楽しそうにほくそ笑んでいる。彼女のことではないだろう。
 何か、ものすごく嫌な予感を察知したグロウはティティに尋ねてみることにした。
 「……何を、叩き潰しているんだ?」
 「えー?」
 妖艶にも、無邪気にも見える意味ありげな表情。教えるかどうかを、少し迷っているようだった。
 まさか、とグロウが焦りを見せる。
 「……ワダツミは無事なんだろうな」
 「え、そっち? いや危害は加えてませんよ普通に。洗脳したりりょーじょくしたりはしましたが、後遺症とかそういうのはないはずです」
 「……そうか」
 一番の懸念が消えてほっとするグロウ。
 と、そこにワダツミのノックが響き渡る。
 「ああ、入っていいぞワダツミ」
 グロウが言うと、五体無事のワダツミが例のカートを転がしてくる。
 そこに乗っていたのは……
 「ジュース……」
 「アルコール入れても良かったんですけどね。グロウ様お酒飲みませんから」
 ジョッキに入った真っ赤なドリンク。
 鼻を近づければ、多少の生臭さを含んだ野菜ジュースのような香りがしていた。
 「トマトジュースか?」
 「いえ、ティティちゃんジュースです!」
 ティティが胸を張ってそう言い切る。
 と、ジョッキを持ち上げたグロウの手がピタリと止まった。
 「……それは、お前特製のジュースとかそういう意味での、だろう?」
 そうであって欲しいと言うグロウの確認は、いとも簡単に否定される。
 「ノンノン! ティティちゃんを磨り潰して液体にしたものです! 美味しいですよ、きっと!」
 「じゃあお前は誰なんだ」
 「どっからどう見てもティティちゃんでしょ! って、そっか。グロウ様には言ってなかったんだっけ」
 一旦ツッコんでから考え込み、よし! と手を叩いてティティは呪文をさらりと唱えた。
 そして指を一回、(妖精基準で)大きく弾く。
 すると。
 ――ぼてん。
 「!?」
 何もない空中から、妖精が一匹落ちてきた。
 いや、それは一体と表現した方が正確だった。なぜなら、その妖精……ティティに酷似しているそれは、呼吸をしておらず、ピクリとも動かないからである。
 光を有しない瞳に物言わぬ無表情。それこそ精巧な人形のようなその体は、いつも見慣れた可愛らしい笑顔の妖精とは別の、ぞっとするような美しさを持っていた。
 それを担いでグロウに見せるティティ。
 「はい、グロウさま! こちら量産型ティティちゃんです! 魔力値が全然なので死体しか創れませんが、一応構成物質は私と全く一緒ですよ!」
 生気のまるでない表情をした自分を抱えながら満面の笑みを浮かべ、死体の手をひらひらと振る。
 「私ならいつでも携帯用オナホールになりますが、不在時にはこっちをお使い下さい! 若干冷たくて固いかもしれませんが、ぶち込んでやりゃあ伸びるのでおしとやかな私を……」
 「………………ティティ」
 自分のコピーの身体で遊ぶティティに、グロウが冷や汗をかきながら尋ねた。
 「なんですか?」
 「…………つまり、この液体は……」
 グロウがジョッキの中を覗き見る。
 透明感がなく、濁った一色が粘り気を持っているそれに、何か小さな異物が浮いている。
 光に反射する、毛のような何かが真紅の中で光に反射していた。金色の、何かが。
 「いやだから私ですって。ティティちゃんクローン10体を丹念に叩いて潰して、はい、ティティちゃんジュースの完成です! 簡単でしょ?」
 「……」
 「まずは私の、っていうか妖精の味に慣れてからって事です。私本人がひどい目にあったりあってたりするとお優しいグロウ様は集中できないでしょ? だから私がこうやって隣にいながら……」
 いとも簡単に言うティティの顔は、はやく飲め飲めと能天気なものである。
 それに対しグロウの表情は、どうにも形容し難い苦々しいものだった。
 「…………」
 ジョッキを傾ければ、どろりと液状になった恋人が重力に従って蠢く。
 骨や内臓ごと擂鉢で潰され、肉塊へとなってもなお、ごり、ごり、と磨り潰される、物言わぬティターニアたち。それの、なれの果てである。
 そう考えてしまうと、グロウにこれが飲めるわけがなかった。
 「……」
 「えー……私はここにいますよグロウ様。こんなんしょせんただの妖精味ドリンクですって。これ飲めないようなら本当もう食べてもらえる見込みないじゃないですかー……はぁ、堕ち度が足りないですねぇ全く……」
 渋り続けるグロウにやれやれ、と呆れ始めるティティ。
 こんなことに付き合わされる方が呆れたい、とグロウが思ってることなど微塵も考えなかった。
 「こんなんじゃ今回の更新分終わらなくなっちゃうじゃないですか。しょーがない、私が一肌脱ぐとしますか」
 と言って言葉通り巫女服を緩め、肩を抜いてぱさりと脱ぎ落すティティ。
 一糸纏わぬ姿になったところでふよんと軽くジョッキに飛び、『自分』だった液体を足の前半分にだけ浸ける。
 そしてグロウが持ったままのジョッキの縁へと腰掛け、赤に染まった足先を向けた。
 「はいグロウさま、あーん」
 湿り気を帯びた股の縦筋を隠そうともせず、ティティは嗜虐的に微笑んだ。
 小さな足の裏からは、赤が糸を引いて垂れ落ちる。
 蝋燭の炎に照らされた翠の瞳が、薄闇の中ではっきりと光っていた。
 「――」
 その姿に、グロウは震えた。
 何に震えたのかはわからない。わからないが。
 グロウの口は、自然とティティの足へと向かっていった。
 そして。
 

 「――あはっ。グロウ様、くすぐったいですよぅ」

 グロウはついに一線を越える。
 舌に絡みつく生ぬるい肉の味は、格別に美味と言うわけでもなかったが。
 顔を紅潮させ荒く息を吐くティターニアを眺めながらのささやかな|妖精食《カニバル》は、とても甘美なものに思えた。









 





 「……さて」
 ティティの膣内にたっぷり精を注ぎ込んだ後で、グロウはなおもジョッキに並々と入っている肉汁の処理に困った。
 雰囲気で舐めてしまったはいいものの、「はいここで一気飲みです!! グロウさまのー! ちょっといいとこみってみったいー!!」と言われて飲み干せる段階にまでは至っていない。
 もっとも、それを言う役のティティは激しいセックスの末に意識を失ったまま痙攣しているが。
 しばし部屋の中を見つめた後。
 「……肥料にでもするか」
 隅に置いてあった観葉植物の肥やしにすることに決めた。
 ワダツミにスコップを持ってきてもらい、軽く掘らせる。
 だばぁとそこにティティクローンの成れの果てを注ぎ、土を戻して慣らした。
 「これでいいか」
 
 数年後。
 この折鶴蘭から、金髪翠眼を持ち儚げで淑やかな、|美の男神《イムケイオス》が創ったとまで評される美貌の妖精が生れ落ちることになるとは、グロウの知る由もない。
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