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13.美星さんと僕

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「京くん、今日は四分儀座流星群がやってくるんですよ。」
美星さんは、いつもの、どこまででも届きそうな、透き通る声でぼくにそう言った
彼女は流れ星のように美しかった




僕と美星さんはよくある幼馴染だ。小学一年生のときに引っ越してきた僕が初めて話した相手、それが美星さんだった。「美星さん」は小学1年生の時から美星さんで、僕も小学1年生の時から「京くん」で・・・。同学年で同い年のはずなのに頑なに美星さんは自分のことをお姉さんと称し、僕を弟のように扱った。
美星さん曰く
「私のほうが生まれるのが早いんだから私がお姉さんなのはあたりまえなんです」
だそうだ。小学1年生の僕すら説得できない理由だったが、僕は美星さんの弟であることに不満はなかった。なぜなら美星さんは聡明で、美しくて、お姉さんだったからだ。そんな僕と美星さんは同じ小学校、中学校、高校に通い、先日、卒業式を迎えた。

いつも一緒にいたけど、これが最後だった。     


3月31日、引っ越しの準備に追われる僕は美星さんに天体観測に連れてってもらうことになった。
といっても近くの公園で空を見上げるだけの簡素なもの、美星さんはこういうささいなことをイベントするのが大好きだった。
公園につくと美星さんはすでにレジャーシートを広げており、仰向けになって空を見上げていた。
髪を縛ったままだと寝ころびにくいのだろう、美星さんの普段縛っている髪をほどいていた。
黒くてきれいな髪が扇のように広がり、どこか神々しくもあった


「こんばんは、美星さん」
「こんばんは、京くん」

「もう、流星群はきてる?」
「安心してください、まだきてませんよ。それよりどうですか京くん、引っ越しの準備は進んでいますか?」
「それが思ったより大変でね、持っていくものが多すぎていくらダンボールがあってもたりないよ」
「京くんは持っていくものが多いんですよ、もっと少なくすべきです。私が持っていくのは筆記用具と少しの服と生活用品くらいで他は全部捨てていきますよ」
「美星さんは持っていかなすぎだよ」

この度、僕と美星さんは別の道を進むことになった。高校受験では必死に美星さんについてきた僕だけど今度は流石にどうしようもなかった。
高校では美星さんから離れないように一生懸命勉強し、美星さんも一緒の大学に通えるように僕に勉強を教えてくれた。
そのかいもあって僕はかろうじて学年2位の成績をキープできて、今回の受験も志望校の東京大学に入ることができた。
親類や先生、もちろん美星さんも僕のことを褒め称え、まるで自分のようによろこんでくれた。
もちろん、僕には大学に入ってやりたいことがあり、そのために東大を志望して受験勉強に明け暮れた。
それこそ、高校受験の何倍も勉強した。でも、なぜだか高校に受かったときの嬉しさを越えているとは思えなかった。


僕と美星さんの道が分かれ始めたのは高校3年の初頭だった。
「京くん、私ね、フランスの大学に通うかもしれません」
「少し前からそういう話を先生から紹介されていまして、私の気になる分野はその大学が最先端ですし、興味はあったんです」
「そうだね、よく考えたら美星さんだったらすぐにでも海外で勉強するべきかもしれない、応援するよ」

そのときの僕はカッコ悪かっただろう、震える声を抑えることができなかった、早口で、顔が青くなっているのも感じた、でも必死に耐えた、弟としての意地だった。
この日から僕と美星さんの分かれ道が見え始め、日に日ににその場所が近づいて行った。
美星さんの引っ越しは僕と同じ4月1日。大学の入学式はまだ先だが、生活に慣れるためと語学学校に通うために早めに渡航するらしい。
この日は別れ道の目の前の日で、姉の手を離さなければならないその日だった


「京くんとのイベントもこれが最後ですね、なんだか感慨深いです」
「美星さんにはいろんなところにつれていってもらったなぁ、毎年のように近くの海に行ったけどさすがに今年は暑かったね。
美星さんが一緒だと必ずと言っていいほど晴れるからある程度は覚悟してたけど、それでもあの日は暑かった。
でも今夜も晴れてよかったよ、朝は少し曇ってたからね」
「日頃の行いがいいですからね。あっ、見えましたよ京くん。一つ目の流れ星です」
「えっどこ?どこ?」
「立っていたら見えませんよ、お姉さんのとなりで横になりなさい」
ポンポンと美星さんがレジャーシートを叩いた。



横になった僕から見える空は星がキラキラと輝いていて、まるで海の中から見ているかのようだった。

「京くん泣いているの?」

気づかなかった、私は泣いていた
「泣いてないよ」

「京くんは泣いているとき、いつもそう言いますね
いいですよ、泣いても。ここにはお姉さんしかいませんからね」

「美星さん」
「なに?」
「ありがとう」
「どういたしまして」

僕は泣いてしまった。なぜ泣いてしまったのか、なぜ涙が止まらなかったのか、今でもよくわからないけど、最後だから涙が出たのだと思う。
メールも電話も連絡手段はいくらでもあるが、それでもこれが最後だと、もうこの関係で会うことはないのだと、
次に会ったときはきっともう何かが違う関係に、うまく言葉にできないけどなんとなくそれを感じていて

僕は必死に目をつぶっていた

でも美星さんはお姉さんだから、

僕とは違って泣くこともなく空を見上げることができた。





「わあ京くん、見て見て、星がシャワーみたい」


気づかなかった、いつの間にか流星群は極大になっていたようだ。

「こうしていると空が落ちてくるみたい」

立ち上がり手を広げる美星さん。どこか神々しさを浮かべながらそう言った。
流星群がまるで漫画の線みたいで空が動いているように見えるのだろう。
でも見上げる僕からは、まるで美星さんが動いているようで、そのまま遠くにいってしまうようで・・・
諦めにも似た感情が僕の胸を締め付けた

あぁ・・・やっぱり 好きだったんだ








「京くん」
「なに?」
「流れ星になにを祈ったの?」
「何も祈ってないよ、特に願いたい事もないからね」
「そうですか、そういうことにしておきましょうか」
「・・・じゃあ美星さんは何を祈ったの?」
「何も祈ってませんよ、特に願いたい事もないですからね」
「「ふふっ」」

「美星さん」
「なに?」
「ありがとう」
「どういたしまして、私はお姉さんですからね」










美星さん、あなたは今なにをしているだろうか
私は今日19才になりました。あなたと同じ年齢です。あなたはの入学式は今日だと聞いています。
新しい環境に苦しんでいないだろうか
気候の変化で体調を崩していないだろうか
私の知らない誰かと仲良くできているだろうか
あなたの成功を祈ります


私はあなたと姉弟でいたくなかった
あなたの隣にいたかった
臆病な私を抑えることができなかった
あなたは今、何をしているだろうか
私のことを思い出してくれているだろうか
私の知らない誰かと仲良くしているだろうか
あの日と違う空を見て、あの日と同じく今日君を思う
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