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 犯行予告時刻まで残り十分を切ろうとしていた。

 『怪盗』から、日本の大富豪住田林太郎の所有する宝石『死の涙』を守るため、日本警察は百人にも及ぶ警官を、住田家に動員していた。

 季節は十二月。夜の二三時五十分。蒸し暑い日が続いた中、一気に冷え込んだ夜だったが、警官達は汗を流し、緊張した様子で、辺りに気を配っていた。

 怪盗は神出鬼没。

 特に今回犯行予告を出してきた『怪盗ミッドナイト』は未だかつて獲物を逃したことがなく、その姿を見た者もいない。世界三大怪盗の一人である。

 俺――中野桐緒は腕時計をちらりと見る。
 犯行予告時刻まであと三十秒。
 周囲の意識がある人物に集中した。

 その場にいる全ての人間の注意は本来隈なく全てに張り巡らせなければならないのに関わらず、不謹慎にもその一人に集中していた。

 よれた黒のスーツに身を包み、タバコを静かに吸っている。剃るのが面倒だと言いたげに生える無精ひげが似合う白人で『名探偵』として世界的に有名なその男。

 『探偵』とは怪盗潰しを専門に動く専門家のことを差すが、その男は別格だった。ただの一度も怪盗の犯行を見抜けなかったことがなく、必ず獲物を守りきっている。

 残り二十秒。
 その時、『名探偵』と俺の視線が合った。
 ――シュコン。
 強烈な衝撃を前頭部に記憶し、俺の意識は吹き飛んだ。

「いいんですか!? こんな記事載せられて!」

フランスのとある喫茶店。

窓際の席で、一人の少女が大きな声をあげた。

周囲の客は迷惑そうな顔で、少女を一瞥する。

「メリー。喫茶店で大きな声を出しちゃいけないよ」

向かいに座る男が少女を窘める。

少女はアジア人特有の、のっぺりとした顔で陶磁のように白い肌に、漆のように黒く長い髪。

ただでさえ幼い年齢にその顔立ちも相まって5~6歳に見える。

男の方はアジア系の顔つきをした二十歳ほどの青年だ。

「これ見てください! あなた殺されたことになってますよ!」

少女がスマートフォンを男の眼の前につきつける。

そこには大きく『大怪盗ついに敗れる!』の見出しとともに、怪盗ミッドナイトが死亡したと書かれていた。

「そういえば、僕の名を騙る人いたね。彼は失敗したのか……残念」

「何が残念なのかわかりませんけどね!」

少女が幼い頬を膨らませる。



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