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椎名林檎のこと、中島みゆきのこと

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 ありきたりで申し訳無いが(何が申し訳無いのかよく分からん気もするが)、椎名林檎系で行くと「幸福論」「修羅場」「群青日和」だとかを何となく聞いていて、にわかファン予備軍、的な位置には居ると思うのである。
 そんな椎名林檎がNHKワールドカップ中継の主題歌を歌っているらしい。タイトルが「NIPPON」である。「歌舞伎町の女王」とか言っていた彼女が、こともあろうに公共放送で日の丸を背負ってしまった。

 コレ、私は結構な問題だと思っている。だって出自が「新宿系自作自演屋」ですよ。『加爾基 精液 栗ノ花』とか明らかに出オチのアルバム出しちゃってんですよ。「ザーメン」と「ニッポン」。右翼に殺されるよ。私、一時期のホクロ消失騒動は右翼勢力に切り取られたんじゃないかと、老婆心ながら心配しています。

 でもって、気になるのは「NIPPON」の内容、まあここでは歌詞の問題なんですよ。ああ、余談ですがね、椎名林檎のアイデンティティの揺れについて、ジャケット等の本人写真とか歌詞とかを分析していくのとか多分楽しいと思うよ。「あるべき自分/あらざるをえぬ自分 ~椎名林檎の自己表象に関する考察~」とかね。メディア・表象文化論とかが扱いそうだよね。古風なアカデミックな教授陣には嫌われるだろうけどね。
 ハイ、余談終了。歌詞の問題に戻るよ。まず初っ端から

フレ フレ 日本晴れ 列島草いきれ アッパレ

正式な歌詞を知らんので聞き書きで行きますが、最初に聞いたときの感想が、「ああ、やっぱり椎名林檎は『ガンバレ』って言えない子なんだ」ということである。自分のアウトロー(「ぶってる」感じも含めて)のキャラを鑑みて、やっぱり「ガンバレ」とは言いたくないだろうな。でも応援ソングなんだから応援して行かなきゃならん訳ですよ。何よりNHKですよ。いつもの、何か「逆説的に愛してます」みたいな、ひねくれ頭オカしい系の歌詞は使えない。そこでの、落とし所としての「フレ フレ」である。「アッパレ」である。
 まあ、「天晴れ」は椎名林檎の持ってる和風志向と上手く融和させた感もある。

Cheers Cheers いざ出陣 我ら時代の風雲児

 ここでも「頑張れ」とか言わない。あくまでも斜めから斬り込んで行きたいダイアゴナル林檎ちゃん。チアースとか、余り意味はひっかかってないような気もするが、響きとノリで走り抜けて、まあここまで逃げたら勝ちという感じか。
 NHKとしては、テレビサイズがここまでなのである。コレ以降は音量小さめのBGMとして、アナウンスの裏で流しておけば良いのである。だからここまで我慢してくれれば、この後の歌詞が右翼だの差別だの軍国主義だの言われようが、まあ関係ない。ってか椎名林檎が挑発的な歌詞を書くのは今に始まったことじゃ無かろうに……

 ということで、「NIPPON」の聞き所は、NHKサイドと椎名林檎サイドとの妥協の産物であり流した汗の跡が感じられる最初16小節にあるのだと思う訳です。



 まあ、個人的にもうひとつだけ言っておきたいのは、国語教育審議会まで務めた中島みゆきがももクロに提供した「泣いてもいいんだよ」の中で「全然今なら 泣いてもいいんだよ」と「全然」に対する否定の呼応を用いなかったということである。
 言葉は生き物と言うけれど、中島みゆきに使われたら(しかも歌うのは時代のアイコンたる「ももいろクローバーZ」なのだ!)「全然~ある」の市民権はますます確固たるものになる。まあ、時代の趨勢ってことで、仕方が無いのかも知れないが……
□(2013.5.30)
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