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志望動機

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 いきなりですが、オイそこのお前。「企業理念に共感した」とか書いてんじゃねえ。

り‐ねん【理念】
(1)
ある物事についての、こうあるべきだという根本の考え。「憲法の―を尊重する」
(2)
哲学で、純粋に理性によって立てられる超経験的な最高の理想的概念。プラトンのイデアに由来。イデー。
(MacBook 2006 Later 内蔵『大辞泉』より)

 仕方が無いのでワードを立ち上げただけでヒイヒイ言っているオンボロMacBookにさらに鞭打って、『大辞泉』まで開かせた。むろん、持ち主に似たこのMacBookは、尻を打たれてまんざらでもない様子である。……フリーズは起こすが。







 いかんいかん。私はフリーズを起こす必要性が無いのだった。……こうやって紙幅を無駄に使うのは愚も甚だしいことである。先を急ぐ。

 理念(1)について見て頂きたい。「根本の考え」とある。よしんば「根本の考え」に共感したとして、仕事に活きなければ企業に何の得があろう。いくら「新しい風」や「伝統と創造」や「Leading Innovation.」なんかに共感していようと、無駄である。残念ながら、資本主義社会に生を受けた企業も、そしてその歯車となるべき私たちも、遂行すべきは「Inspire the Next.」ではなく利潤の追求なのである。悪しからず。
 続いて(2)である。読み給え、そして笑い給え。「超経験的な最高の理想的概念」じゃぞ。何じゃそれ。そんなこと宣っていたらそのテの団体からポアされかねん。
 とにかく企業理念なんかに共感しても始末に負えないのである。



 そうして貴兄はめでたく400字を埋める術を失った。クリエイティブ系のそれであれば、字数制限の無い、無味乾燥な罫線の引かれた5、6行を。手を動かそうにも、その原動力たる思いが出て来ない。胸の砂漠は、依然として思いの丈を吸い込んでは渇く。
 ああ、俺は結局何がしたかったのか。何故この企業に就職志望書なぞ送り付けなければならないのか。可能ならば親の金で飯を食い、親の金で電気を食い、親の金で買ったパソコンを親の金で買った眼鏡でもって覗き込んでいたいのが人の性というものではなかったか。
 はぁ。



 とここはひとつ、夜半の空に向かってひとつ煙草でもくゆらせてみると良い(この時親の金で買った煙草だとイキフンが出て来ない)。
 煙の中に、答えが見えてくる。

 噛み締める孤独。粋がって買ったくせに3mgの煙草。ふうっと息を吐く。聞こえるのは遠くでアスファルトとタイヤの擦れる音のみ。

 そうして貴兄は一服を済ませ、ふらりと座り直し、空白の「志望動機」欄の最後の行にこう書くべきである。
「この沈黙。この孤独。この暇を持て余したくないので、御社を志望するのです」と。
3

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