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くずはじめ

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人類を売った魔法少女は救われない。

□1□

深い森の奥。
一人の少女が、魔物に囲まれていた。

少女の周りには、人間の死体が、10体ばかり転がっている。

「どうしてこうなったのよ……ッ」

帝国魔道局支給品の魔杖を握る手が震えている。
顔は青ざめ、目には涙が浮かんでいる。

そこには、帝国髄一の魔術師エーコ・ハミルトンの面影はどこにも無い。

<<無様。無様。この人間、無様>>

猿とイノシシを混ぜたような醜悪で狡猾なその魔物が、
不快な声で嘲笑の言葉を浴びせる。

<<お前。もう。死ね>>

殺意をたっぷり込めて棍棒を振り上げた時、エーコが叫んだ。

「まッ…、魔法で、強くしてあげるからッッ!」

棍棒が振り下ろされる。

ぼぐッ……、と嫌な音が響いた。

「ぐ…あッ…あああッ…ッ」
帝国支給品の、対魔道結界が施されたローブを装着していたので、致命傷には至らない。
それでも、軽傷とは言えない傷を彼女に負わせた。

エーコはなおも魔物たちに必死に語り掛ける。
「ほら、強くなって、もっと人間を殺したいんでしょう?!
 人間との戦いの前に、補助魔法を使ってあげる!!
 な、なんだったら、回復魔法も使ってあげる!!
 あなた達の低レベルな魔法と違って、帝国の魔法レベルはとっても高度なんだから!!
 それに、私はこう見えても、将来を嘱望された魔術師なの!!」

トドメを刺すべく、先ほどの魔物が再度棍棒を振り上げようとした、その時、
魔物の集団の中でも、身体の大きな個体が声を出した。

<<お前。俺達に。回復魔法や補助魔法。使うか>>

エーコが、ひきつった笑顔で、震えながら答える。

「そ!そうです!そうです!優秀な帝国魔術師のエーコは、
 今日から貴方魔物さんたちのために、その力を如何なく発揮させて頂くことを決めました!」

<<お前。恥ずかしくないか。>>

「素敵で頑張る魔物さんたちのサポートをさせて頂けるなんて、光栄の極みです!」

<<プッ…>>
<<ギャアアアwwww>>
<>

魔物の一匹が笑うと、残りの個体もつられて笑い出した。
嘲るような、勝ち誇ったような、そんな笑い。

そして帝国の将来を、いや、人類の将来を担うはず「だった」少女の顔にも血色が戻る。
「あは……、ご歓迎頂いたようで!エーコは嬉しく思うですよー!!」

<<プギャアアアwwww>>
<<プギャプギャーーーーm9(^Д^)wwwwwww>>
「あは、あははははは……」

このように。
人類の英知である魔道技術が、本格的に魔物側に流出した歴史的瞬間は、
後世想像されるような重苦しいものではなく、少女と魔物が笑いあうなかで発生するという、
実に滑稽なものであった。
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