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魔物に媚びる卑劣な少女の元に現れた正義感()に溢れる青年

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エーコは普段、格子がついた小さなほら穴の中に閉じ込められている。
魔物たちに補助魔法をかけるときだけ呼び出される。後はここで一日の大半を過ごす。
光はあまり差し込まず、湿気が多く、気味の悪い虫が大量に発生していたりするが、我が身可愛さに人間を売った卑劣な少女には勿体ないくらいの環境である。



そのほら穴の前に、魔物が数匹、姿を見せる。食事はさきほど与えられたばかり。補助魔法を施す時間でもない。では、何のために?

エーコの顔に、緊張が走る。

魔物たちの機嫌を損ねるようなことをしたのだろうか?

それで魔物たちは自分に懲罰を与えようとしているのだろうか?

「……あの…、…な、なにか…」

ドサッ

言い終わらないうちに、エーコの隣に、何かが放り込まれる。

<それ、明日の儀式で使う。それまで、そこ置いておく>

魔物たちは低い声でつぶやくと、見張りを残して去って行った。



エーコが、恐る恐る確認すると、「それ」は手傷を負った魔術師の青年であった。致命傷は負っていないようだが、呪術をかけられているらしく、魔力・体力は著しく低下しているようだ。

「…ッッ、どこだっ?ここはッ!!誰だお前は?」

青年は体を起こすなり、目の前にいたエーコに大声で問いかけた。彼女は元来、人と話すのが得意ではない。ましてや、このように大きな声を出す人を前にすると、余計に委縮
してしまうたちである。エーコが何も答えられずにいると、青年が一人で色々と納得して、話を始める。

「そうか、君も魔物に捕獲された帝国魔術士だな?かわいそうに。その官服の汚れ具合の臭いから察するに、随分と前から捕られられているみたいだな」

エーコは、ただうんうんと頷く。

「畜生。それにしても、あいつら、オレ達を何か怪しげな儀式に使うつもりらしい。クソッタレ!だが、そうは問屋がおろさねえ」

威勢よく話す青年を見て、エーコは「もしかして」と淡い期待を抱いてしまった。救出されるアテでもあるのだろうか。

「お前にも、分けてやる」

青年は、ポケットから、木の実のようなものを取り出す。

「これは……?」

「知らないのか。カブラの実だよ。猛毒だ。魔物にいたぶられたり、洗脳されそうになったら、飲むんだ。楽に逝ける」

その魔術師の青年は、気高い精神の持ち主であった。

それに引き替え。その少女は……。

「そう気を落とすな。ま、できるところまでは、足掻いてやろうぜ!最期まで帝国魔術師魂を見せてやる!」

……せっかく当面の安全が保障されかけていたというのに。

「そう言えば、お前、名前はなんて言うんだ?」
「魔術科合格の年次は?」
「得意な魔法はなんなんだ?」

年下の女の子を前にして空元気を絞っているのか、場違いなほどの調子で世間話を始めた青年に対して適当な返事をしつつ、エーコはひたすら魔物の機嫌を損ねない方法を考えていた。






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