トップに戻る

<< 前 次 >>

第四章「国造り編-彼の名前はオオナムヂ」-その3

単ページ   最大化   

 兄神達の魔の手から逃げたオオナムヂは、木国の大屋毘古神(おおやびこのかみ 以下:オオヤビコ)の家に逃げ込みました。
 しかし、兄神達はしつこかったのです。何と、わざわざ木国まで、オオナムヂを抹殺する為に追いかけて来たのです。ネメシスT‐型並のしつこさです。
「オオナムヂはどこだ!」「オオナムヂを出せ!」「スタァァァァアッズ!」
 オオヤビコは、名前もない脇役のくせに長々とチョケる兄神達に戦慄しました。そして、自分ではこの兄神達を治める事は出来ないだろうと考え、更にオオナムヂを逃がす事にしました。
「よく聞きなさい、オオナムヂ。ここから更に進んだ所に、スサノオという神様がいらっしゃる根之堅洲国(ねのかたすくに)があります。そこに逃げなさい」
 スサノオ。もはやよく御存じの神様ですね。あの自己中ジャイアン系誠族の神様です。
 そして、根之堅洲国。これは実は、スサノオがイザナギに「母さんに会いたい」と言った時に出した地名です。驚くべき事に、根之堅洲国は、実在したのです。スサノオのマザコン魂は、時を越えて遂に実現したのでしょう。しかし、お察しの事とは思いますが、そこにはお母さんはいませんでした。悲しいなぁ(諸行無常)。
 オオナムヂは、オオヤビコにお礼を言って、木の股からこっそり抜け出して、その場を脱出しました。そして、再び逃亡者としての旅が始まります。

 そうしてオオナムヂは、根之堅洲国にやって来ます。ここまで来れば、流石の兄神達も追っては来ませんでした。
「まずはスサノオ様に会おう。そうして、根之堅洲国での生活を許可してもらわないと」
 お忘れの方もいらっしゃると思いますので説明しますと、オオナムヂは、スサノオの六代孫です。つまり、スサノオとは血縁です。
 しかし、よく考えてみて下さい。六代孫です。言うなればそれは、スサノオは六代祖父という事です。皆様は、六代祖父と面識はありますでしょうか? それと同じように、オオナムヂもまた、スサノオとは直接的な面識はないようでした。
 オオナムヂが、スサノオの自宅に辿り着きました。そして、扉をトントン。
「すみませーん、オオナムヂですけれどもー。根之堅洲国に住む許可を下さいー」
「はいはい、今開けますよー」
 中から、スサノオのものではない女性の声。そして、スサノオの自宅の扉が開き、そこからは、見るも麗しい女神が顔を覗かせていました。この女神様は、須世理毘売命(すせりびめのみこと 以下:スセリビメ)と言います。
 オオナムヂは、目と目が合う瞬間好きだと気付きます。そして、会って五秒で即「結婚してくれ!」と言いました。どうにもスサノオの一族の男神達はオーバーフロー臭がします。血統図を辿ればどっかに沢越止がいるかもしれません。「中に誰もいませんよ」もそう遠くない未来です。
 しかし、当のスセリビメも大概です。満更でもなさそうにしています。そして二人は、その場で結婚してしまいました。女神とはいえ、しっかりとスサノオの血を受け継いでいるようです。

 スセリビメは、父親に結婚の報告をしに行きます。しかし、これが厄介でした。
 何と、スセリビメの父親とは、スサノオの事だったのです。
「お前、父親に挨拶も無しにいきなり結婚とか……しかも事後報告とか……」
「貴方も大概ですよね?」
「で、でも、そいつもう、本国にヤガミヒメとかいう妻がいるじゃん!」
「貴方も速攻で浮気しましたよね? 私の母親にいたっては、誰かもわかってませんよね?」
 可愛い娘にそう言われて、スサノオは返す言葉もありません。仕方ないです、事実ですから。
 しかも、スサノオはスサノオで、本当は、オオナムヂの事を結構気に入っていました。しかし、父親として、そうそう簡単に娘は渡せません。どの面下げてそんな態度に出るのかは一切不明です。男っていつも勝手よね。
「オオナムヂ君、君に試練を与えよう」
 スサノオは、オオナムヂにそう言いつけます。
「蛇の一杯いる部屋の中で一晩過ごすんだよ、あくしろよ」
「やれば、スセリビメを嫁にいただけるんですね?」
「おう、考えてやるよ(くれるとは言ってない)」
 こうしてオオナムヂは、スサノオの試練を受け、蛇がひしめく穴の中で一晩を過ごす事にします。
 しかし、考えるまでもありません。蛇が山ほどいる中で一晩です。普通に嫌に決まっています。オオナムヂは、何とかならないかと、スセリビメに相談します。
「もう、しょうがないわねぇ……オオナムヂは、私がいないと何にも出来ないんだから」
 そう言って、スセリビメは、比礼(ひれ)と呼ばれるスカーフ的な布をオオナムヂに渡しました。
「これを振れば、蛇達は寄って来なくなるわ。おう、シャンシャン振ってみろこの野郎」
「シャン、シャン」
「三回だよ、三回」
「シャン、シャン、シャン」
 これで、蛇は寄って来なくなるそうです。オオナムヂは大喜びしました。
 こうして、オオナムヂは、スサノオの試練に挑みます。そして、蛇達の前で、スセリビメの言う通り、比礼を三回、シャンシャンシャンと振りました。すると、スセリビメの言う通り、蛇は一切寄って来なくなったのです。
 こうなれば、勝ったも同然です。オオナムヂは、悠々自適に穴の中で一晩を過ごし、スサノオに試練の達成を報告しました。

 スサノオは、ウウム、と唸ってしまいます。中々見どころのある若者です。ぶっちゃけもう嫁にやってもいい気分でしたが、スサノオ的にはもうちょっと厳しいお父さんごっこをしたい気持ちでした。
「ちょっと遊び過ぎた、今のは本気じゃなかった」と、格ゲーで負けた時の言い訳のような事を言って、スサノオは、次の試練を与えます。
「今度はムカデと蜂だよ。その中で一晩過ごすんだよ、あくしろよ」
「やれば、スセリビメを嫁にいただけるんですね?」
「おう、考えてやるよ(くれるとは言ってない)」
 こうしてオオナムヂは、スサノオの試練を受け、今度はムカデと蜂がひしめく穴の中で一晩を過ごす事にします。
 言うまでもなく、普通に嫌です。人によっては蛇よりも難易度が高いです。映画キングコングを見た人なんかはトラウマものですね。当たり前のように、オオナムヂは、スセリビメに相談します。
「もう、しょうがないわねぇ……オオナムヂは、私がいないと何にも出来ないんだから」
 そう言って、スセリビメは、前とはまた違う比礼を、オオナムヂに渡しました。
「これを振れば、ムカデや蜂達は寄って来なくなるわ。おう、シャンシャン振ってみろこの野郎」
「シャン、シャン」
「三回だよ、三回」
「シャン、シャン、シャン」
 これで、ムカデや蛇は寄って来なくなるそうです。オオナムヂは大喜びしました。
 こうして、オオナムヂは、スサノオの試練に挑みます。あとはもうパターン入りました。
 オオナムヂは、スサノオに、試練の達成を報告しました。

 その後も、スサノオの試練は続きます。やれ「頭に虱がいるから取ってくれ」と言われて頭をまさぐってみたら超デッカいムカデだったり、やれ「野原に鈴を隠したから探して来い」と言われて探してたら野原にいきなり火をつけられたり、散々です。ここまでするのはたけし軍団の若手芸人弄りくらいです。
 そんな中でも、オオナムヂは、その度にスセリビメに助けを求めたり、果ては野鼠に助けを求めたりして、何とかかんとか試練を達成して来ました。しかし、流石にここまでされては、温厚なオオナムヂも我慢の限界です。
 ある日オオナムヂは、ぐっすりと眠りこけているスサノオの髪の毛を太い柱に結び付けて、スサノオを動けないようにします。そして、スセリビメを呼びました。
「一緒に逃げよう、スセリビメ」
「もう、しょうがないわねぇ……オオナムヂは、私がいないと何にも出来ないんだから」
 こうして二人は、こっそりと逃げ出す事にします。
 しかし、二人は、うっかり物音を立ててしまいます。この物音を聞いて、スサノオは起きてしまいました。
 オオナムヂは、スサノオの自宅の入口を、巨大な岩石でズシーン! と塞いでしまいます。どっかで見た事のある光景です。
「何だお前ら! お前ら二人なんかに負けるわけないだろ!(邁進)」
「調子こいてんじゃねーぞこの野郎、マザコンのくせによぉ。試練だぁ? お前が受けろよ、強いんだろー?」
「馬鹿野郎お前、俺は勝つぞお前(天下無双)」
 スサノオは立ち上がろうとしますが、太い柱に髪の毛を縛られてしまっては動けません。スサノオは、動く事が出来ないのがわかると、割とすんなりと観念しました。
「やはりやばい(再確認)。しょうがない、スセリビメは君の嫁にやろう。あと、うちの宝物庫から、好きなだけお宝持って行っていいよ」
「じゃあ俺、お宝と嫁もらって帰るから……」
 オオナムヂは、スサノオの宝物庫から、生太刀(いくたち)、生弓矢(いくゆみや)、天之詔琴(あめののりごと)の三つを貰いました。
「それらの武器を使って、お前を殺そうとした兄神様達をブッ殺してやりなさい」
「いや、それは……」
「あ、そう? まぁいいや。お前はこのスサノオの認めた神だから、立派な国を作りなさい。そして、このスサノオ直々に、君に名前を授けようじゃないか」
 そうしてスサノオは、オオナムヂに、新たな名前をつけました。
 スサノオの性格上、あまり光栄には思えませんが、これは実際超凄い事です。始祖神から始まる直系の子孫であるスサノオが、自ら直々に名前を与えるのです。これはつまり、スサノオが、オオナムヂを、自分の子孫だと認知した証拠とも言えます。
 現代的にわかりやすく言うと、音楽とダンスの神であるマイケル・ジャクソンが、見ず知らずのそこそこ才能のありそうな無名のミュージシャンに「今日から君はミーの息子だ」と言って、マイケル直々に名前を与え、マイケル直々に作詞作曲編曲した曲を三曲提供し、「このミュージシャンはミーの息子だ」とメディアに公表したようなものです。
「今日からお前の名前は、『大国主(おおくにぬし 以下:オオクニヌシ)』だ。立派な大国の主、という意味だね。その名前に恥じないように、立派な国を作るんだよ」
「ありがとナス!」
 オオナムヂ改めオオクニヌシとなった彼は、スサノオにお礼を言って、スセリビメと共に根之堅洲国を経ちました。
 ちなみに、最後までスサノオを解放しませんでしたし、岩石もどかしませんでした。(直系の神のスサノオだし)多少はね?
20

六月十七日 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る