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第六章「天孫降臨編-下衆の極み男神。」-その2 ←新しい夏。更新の夏。

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 サクヤビメは、家に帰って、父親にプロポーズの事を相談しました。サクヤビメの父親は、大山津見神(おおやまつかみのかみ 以下:オオヤマさん)と言う、出雲ではそこそこ名の知れた神様でした。……気持ちはわかりますが、一旦モンハンのイメージは捨てましょう。
「お父様。私、笠沙の岬でプロポーズされてしまいました。どうすればいいでしょうか?」
「い、いきなりだな。まぁ……まぁ、普通か。しかし、いざ自分の娘がそうなると、結構焦るわぁ」
 突然の大胆なプロポーズは神様の特権。しかしオオヤマさんは、サクヤビメの他にもう一人娘がいるのですが、この二人の娘を結構溺愛しています。流石にどこの誰とも知れぬ、名もわからない神様にはあげられません。
「その男神、何て奴なんだい?」
「ニニギ様、という方です。確か……天上世界より降臨された、アマテラス様の孫神様とおっしゃっていました」
「ぜってぇ嘘だわ」
 それが本当だとしたら、とんでもない事です。言うなればこれは、地元個人経営の電気屋の娘にソニーの会長の孫が惚れ込んで求婚するようなものです。これを承諾すれば、どうあがいても経営は安泰でした。
 しかし、最初は疑っていたオオヤマさんも、サクヤビメの話を聞いているうちに、どうやら本物のニニギ様だという事を察します。
「お前それ絶対結婚しとけ、マジでマジで。超勝ち組だから、その方」
「それでは、結婚を許して頂けるんですね?」
「許すも何も揉み手もんだわ。どうしよう、何も持たせないってのも失礼だよな……」
 何せ、相手は天上世界を統治する最高神アマテラスの孫神様です。何も持たせずに嫁入りとはいきません。失礼のないようにしなければ、というやつです。
 しかし、オオヤマさんは、結構ブッ飛んだ発想をする人でした。
「今、サクヤビメを嫁として迎えた方には、特典としてもう一人の娘もつきます!」
 何と、サクヤビメの嫁入りに、もう一人の娘である石長比売(いわながひめ 以下:イワナガヒメ)も差し出したのです。ノリが完全に通販番組でした。
「サクヤビメちゃん。私、大丈夫かな? ニニギ様に気に入ってもらえるかしら?」
「大丈夫よ、姉さん。だって私達、姉妹でしょう? 姉さんは、私よりもずっと綺麗ですもの」
 こうして、サクヤビメとイワナガヒメは、連れ立ってニニギの嫁に行く事になります。
 しかし、古今東西言える事ですが、女性の女性に対する「可愛い」「綺麗」という評価ほどアテにならないものはありません。それは、日本神話の世界でも一緒だったようです。

「初めまして、ニニギ様。私、サクヤビメの姉のイワナガヒメと申します。私もまた、父の命により、ニニギ様に娶って頂くために参上いたしました」
「なん……だと……?」
 サクヤビメと共に現れたイワナガヒメを見て、ニニギは絶句します。
 そう。イワナガヒメは、直球で言えば、めっちゃブスだったのです。賛否両論あるかもしれませんが、ニニギの好みからは遥か離れていました。少なくとも、天下統一クロニクルのあれのような外見ではありません。
「(ブスはいら)ないです。帰って、どうぞ」
 ニニギは、有能でしたが下衆でもありました。何と、綺麗なサクヤビメだけを娶って、ブスのイワナガヒメを追い返したのです。これはいけない。

 失意のうちに帰宅したイワナガヒメは、困惑しているオオヤマさんに、事の一部始終を報告しました。
「おのれニニギ! ゆ”る”さ”ん”!」
 クッソ切れたオオヤマさんは、すぐさまニニギの元へ殴り込み、ニニギに呪言を与えます。
「イワナガヒメをやったのは岩のように堅牢でいつまでも在るようにとの願いを込め、サクヤビメをやったのは花のように華やかに繁栄するようにとの願いを込めたからなんだ! イワナガヒメを貰わなかったお前は、岩のように堅牢にいつまでも在る事は出来ない! いずれ死ぬ宿命だからな!」
「なにそれこわい」
 こうしてニニギは、その後の代にまで続く「寿命」を宿命づけられたのです。これは、これまで「自然死」の概念がなかった神様に、時間の経過と共に緩やかに死が近づくという運命を与えたのです。何もせずとも、時間が経てば死ぬという概念を与えたのでした。
 でもなんだかんだで、サクヤビメは嫁にやりました。ちゃっかりしてやがるオオヤマさんでした。
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