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第三章「三兄弟編-アマテラスの場合」‐その1

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 命からがらイザナミから逃げ切ったイザナギは、一息つきます。
「いやぁ、凄いもん見たわ。何か自分自身が穢された気分……洗い流して清めなきゃ(使命感)」
 一応元々は元妻だったイザナミに対して平然と辛辣な感想を抱いたイザナギですが、ともかく彼は、綺麗な水で体を洗い清めました。これら一切の行動を、禊(みそぎ)と言います。
 その禊の最中、イザナギは顔を洗います。そしてその時、それらの行動によって、またしても神様が三つ生まれます。
 左目を洗った時に天照大神(あまてらすおおかみ 以下:アマテラス)、右目を洗った時に月読命(つくよみのみこと 以下:ツクヨミ)、そして鼻を洗った時に須佐乃男命(すさのおのみこと 以下:スサノオ)です。
 イザナギは、三の子供達に、それぞれの使命を伝えます。
「アマテラスは昼の世界を治めて」
「ツクヨミは夜の世界を治めて」
「スサノオは海原を治めて」
 アマテラスとツクヨミは、イザナギの言う通り、それぞれの担当を治めました。
 しかし、スサノオだけは、何故かめそめそと泣いてばかりで、いつまで経っても海原を治めようとしません。怪訝に思ったイザナギは、スサノオにその理由を聞く事にします。するとスサノオは、泣きながらこう訴えました。
「お母さんに会いたい。お母さんに会いに根之堅洲国(ねのかたすくに)に行きたい」
「イザナミがいるのは黄泉の国なんですが、それは……」
 イザナギは困惑します。何せ、スサノオをイザナミの所に案内すれば、もれなく自分はフルボッコにされます。
 それより何より、スサノオは、イザナギが鼻を洗った時に生まれた神様です。従い、厳密には、イザナミはスサノオのお母さんではありません。
 にも拘らず、スサノオは「お母さんに会いたい」の一点張りです。終いには、暴れ出します。海は荒れ、雨風は吹き荒び、もう世界はてんやわんやです。タチの悪い事に、これでもスサノオは節度を弁えてるつもりでした。しかし、その力があまりにも強すぎて、ちょっとした事でも大参事になってしまうのです。
 あまりにもスサノオが暴れまくるので、遂にイザナギはブチ切れました。そして、スサノオを、自分達の住まう神の世界から追い出してしまいます。
「お前の行動で世界がやばい。出て行けぇ!」
「おう、出て行ってやらぁ! もう終わりだぁ!」
 こうしてスサノオは、神の世界から追放される事になります。
 しかしスサノオも、根っからの悪人ではありません。先にも言いましたが、悪気があっての事ではないのです。どちらかというと、マザコン、シスコンの気がある子です。しかもこの件に関しては、個人的な事情でお母さんに会わせなかったイザナギに非があるようにも思えました。とんだDQN親です。

 ともかく、神の世界を追放される事になったスサノオは、そのことを姉であるアマテラスに報告に行きます。
「おねえたまの所に突然行って、びっくりさせたるー」
 久しぶりに大好きなお姉ちゃんに会えるとあって、スサノオのテンションはマックスです。スキップとかしちゃいます。
 しかし、先にも言った通り、スサノオの力は規格外です。スサノオのちょっとした行動で、世界は荒れるくらいです。スキップなどしようものなら、それはそれはもうとんでもない事になります。
「アマテラス様! スサノオ様が世界を滅茶苦茶にしながらこちらに向かっています!」
「ダニィ!? さっそく伝説のスーパースサノオ人を討伐しに部隊を編制する!」
 こうして完全に誤解したアマテラスは、スサノオを迎え撃つ為に部隊を編制して、スサノオを待ち受けました。
 当然、スサノオは慌てます。何せ、歓迎されるだろうと思って姉に会いに行ったら、そこで待っていたのは、自分を倒そうとする部隊だったからです。
「ご、誤解だよ、お姉ちゃん。僕はただ、お姉ちゃんに報告に来ただけなんだ……」
「じゃあ、どうしてスサノオ君は、世界をあんなに滅茶苦茶にしたのかな……かな……?」
「お姉ちゃんには関係のない事だよ……」
「嘘 だ ッ ! !」
 アマテラスの剣幕にビビるスサノオですが、何とかして信じてもらう為に、ある一つの提案をします。
 誓約(うけい)と呼ばれる、真偽を確かめる為の神様の儀式です。
「お互いの持ち物を口に含み、更に井戸の水も含んで口の中をパンパンにして、吹き出し……子供が生まれたら勝ちっちゅうルールや」
「おもろい感じで言うなや。最後だけおもろい感じの言い方やからあかんねん」
 こうして、誓約が行われる事になりました。アマテラスが、スサノオの腰に差していた十拳剣を三本に折って口に含み、更に井戸からくみ上げた清水も口に含んで、よーく噛み砕きました。そして、ブフー! と吹き出します。
 すると、何という事でしょう。アマテラスの吹き出した清水から、女の神が五つ生まれたではありませんか。
 スサノオも負けてはいられません。同じように、アマテラスの持っていた勾玉を口に含み、井戸からくみ上げた清水も口に含んで、よーく噛み砕き、ブフー! と吹き出します。
 すると、何という事でしょう。スサノオの吹き出した清水から、男の神が三つ生まれたではありませんか。
「ほら見ろ! 僕の心が清らかだから、僕の持ち物からは女の子が産まれた! やったァァァァァ 勝ったぞォッ」
「えっ、何それは……(ドン引き)」
 ちょっと何言ってるかわかんないスサノオの言い分でしたが、アマテラスはだんだんめんどくさくなって来ました。なので、アマテラスは、スサノオをシカトしました。
 そしたら何か、気付いたらスサノオが勝った事になっていました。
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