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プロットナンバー01.『旅立ち』筆者:龍宇治4/29

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 僕の名前はジャスバルというのだけど、今日人を殺しました。
 相手はディリシアという女の子です。彼女は僕の幼馴染で、ちょっと頭がおかしいとろこがありました。だから頭を開いて中身どうなっているのか確かめようと思ったら、なんだか分からないけれど血がいっぱい出てきて、そのまま少しも動かなくなってしまいました。きっと不良品だったのでしょう。
 どうしたものかと悩んでいると、エアルドが素晴らしいアドバイスをしてくれました。ああ、エアルドというのは僕が大事にしている古い魔法の剣のことです。いいですか? 剣はしゃべります。剣はしゃべるものなのです。僕にエアルドをくれたお爺ちゃんは頭がボケてそんな簡単なことも分かりませんでした。だから頭を叩いて治そうとしたのですが、どれだけ叩いてもわめき散らすだけでちっとも良くはなりませんでした。糞ったれが。僕はお爺ちゃんを殺しました。仕方がなかったのです。お爺ちゃんを殺すのに使った剣がエアルドでした。
 で、エアルドは僕にこう言いました。
「その女の顔の皮を剥いで被れ。今日からお前がディリシアだ」
 僕はディリシアになりました。
 新しくディリシアになった僕がディリシアの家に行くと、ディリシアのお母さんに「お前なんかディリシアじゃない」と言われたので僕は悲しい気持ちになりました。だって僕はディリシアなのです。僕はお母さんに良くなってもらおうと思って、頭を叩いて直そうとしました。早く良くなってもらおうと、一生懸命に叩きました。お母さんが泣きわめいても、何かに対して必死で謝り始めても、白目をむいてもがたがた痙攣しても、必死で必死で叩き続けました。気が付くと、お母さんの頭は原型を留めておらずなんだかよく分からないことになっていました。きっと、これも不良品だったのでしょう。
 それから、しばらくするとディリシアのお父さんが家に帰ってきました。ディリシアのお父さんは猟師をやっていて、猟銃を持っていました。僕はなんだかお父さんが許せなくなりました。もし仮にお父さんが実の娘を猟銃で撃ち殺そうとするならば、それは父親として最低の行いです。だから僕は家のドアの陰に隠れて、ディリシアのお父さんがこちらに気が付く前に首を跳ね飛ばしました。僕は猟銃を手に入れました。
 一人になった僕は、なんだか悲しくなってきました。ディリシアが家族を失うのは初めてではありません。彼女のお兄さんであるビットールは、数年前に森で行方不明になっていました。きっと、悪い魔物に食べられてしまったのでしょう。その上、今度は両親まで失うなんて運命は彼女に対してあまりに残酷すぎます。
 僕はその悲しみを誰かに打ち明けたいと思いました。ところが困ったことに村の人たちは誰もが僕の顔を見るなり悲鳴を上げて、話をまったく聞いてくれませんでした。なんて失礼なことでしょう。腹が立てた僕は、猟銃で彼らの眉間を撃ち抜きました。
 誰も話を聞いてくれなかったので、村は半日で静かになりました。
 
 


 村に人が訪ねて来たのは、それから数日後のことでした。
 僕は村はずれの細道で、外から旅人がやって来るのを待っていました。村の人たちを撃ち殺したときの銃声と悲鳴で、村の馬は驚いて一匹残らず逃げてしまいました。うかつな失敗です。僕は誰かから馬を譲ってもらう必要がありました。旅支度のマントを羽織り、馬さえそろえば準備は万端でした。
 旅人はほどなくしてやって来ました。僕は村に月一度ぐらいでやって来る行商にお願いするつもりでしたが、その旅人は商人には見えませんでした。立派な身なりで、真っ白な馬に乗っていました。
「貴様だな、このあたりに出るという殺人鬼は」
 馬の主は吐き捨てるようにそう呟くと、拳銃を抜いてその銃口を僕に向けました。訳が分かりませんでした。僕が一体何をしたと言うのでしょう。きっと何か誤解をしてるに違いありません。あるいは、僕が顔につけていたディリシアの皮が異様な悪臭を放っていたので、その臭いで頭がイカれてしまったのかもしれません。とはいえ、ディリシアを直に被っている僕のほうが酷い臭いに耐えなければならないので、文句を言われる筋合いはありませんでした。
「その狂った被りものを外して、顔を見せろ」
 馬の主はそう言いました。確かにディリシアは頭のおかしな子でしたが、初対面の相手にそんなことを言うのはあまりに失礼です。彼女の幼馴染としては、黙っているわけにはいきませんでした。
 僕はディリシアを顔から外すと、馬の主に向かって投げつけました。
 それは相手の気をそらすための陽動でした。
 生み出した一瞬の隙を突いて、僕は間合いを詰めました。滑るように馬の足元に飛び込んだのは、むこうから見て馬の頭の陰になる位置に移動して銃の射線を避けるためです。同時にそれは攻撃のための動きでもありました。
 エアルドを鞘から抜いた僕は、その刃で馬の首を半分まで切り込み、わざと止めました。そうすることで馬は致命傷を負いますが、しばらくは痛みで大暴れすることになります。乗り手はそれを抑えるので手一杯で戦いどろこではなくなるでしょう。僕はエアルドから手を放し、馬からぱっと飛びのきました。 
 その瞬間、馬の主は僕に狙いをつけていました。どうやらこの相手は馬上での拳銃の扱いに長けているようでした。暴れ馬の手綱を引きながら、その目は確実に僕の動きを捉えています。もちろん相手がそのような銃の名手である場合を想定して、すでに策は打ってありました。
 馬から離れる瞬間、僕はナイフを投げていました。その刃には神経に作用して体を麻痺させる種類の毒が塗ってあります。もちろん、どんな強力な毒でも引き金を引く猶予はあるので、それはあくまで保険です。僕はそのナイフを、馬の乗り手の右肩めかげて投げていました。つまり拳銃を構える右腕の付け根です。左腕は手綱の制御でふさがっているので、相手はナイフを拳銃で撃ち落とすか、あるいは拳銃を握った手で払い落すしかありません。地面に伏せた僕を同時に狙うことは不可能です。そして、僕のマントの下にはディリシアのお父さんからもらった猟銃がありました。
 銃声がしました。 
 胸のあたりを撃たれた相手はその反動で落馬し、蹄に何度か踏みつぶされていました。しばらくして馬が動かなくなると、僕はその首からエアルドを引き抜いて、礼儀知らずのクソ野郎の顔を拝むことにしました。
 近づいて見ると、そいつはまだ息がありました。年齢は僕とたいして変わらないように見えました。普通なら死んでもおかしくはない傷でしたが、そいつは僕に拳銃を向けるほど元気でした。
 僕はその銃身をつかんで、銃口の向きをそらしました。引き金にかかっていた人差し指は、本来曲がるのとは真逆の方向に折れ曲がりました。指を押さえながらうずくまっている様子を眺めていると、エアルドが教えてくれました。
「こいつのマントの紋様を見ろ。王国に仕える魔法騎士の紋様だ」
 僕はその騎士の右腕を切り落としました。僕と似たような年頃で、そんな立派な身分を持っているなんて不公平です。だから公平にするために腕を切り落としました。するとどうでしょう、平等になったその若い騎士に対して、僕はなんだか同じ釜の飯で育った兄弟のような深い絆を感じたのです。僕は感極まってその騎士に握手を求めました。ところが、そこで信じられないことが起こりました。なんと、その騎士の右腕はなかったのです。こんな酷い裏切りがこの世にあるでしょうか。その上、もう一方の手には新たな拳銃が握られ、その銃口は僕を狙っていました。恩を仇で返すとはこのことです。僕は再び銃身をつかんで相手の人差し指の関節を逆向きに折り曲げると、奪った拳銃で両膝を打ち抜きました。それから騎士は痛みのあまり大きな叫び声を上げたので、顎を砕いて大声を出せないようにしました。僕はうるさいのは嫌いです。
 騎士がしくしくと泣き始めたところで、僕は初めてそれが女の子の声だということに気が付きました。
 なぜなら、その泣き声がとても可愛らしいかったからです。
 


 ミレイという名前を彼女から聞き出すのには三日も必要でした。
 彼女は拷問に対する特殊な訓練を受けているようでした。さすが王国の騎士は違います。手足の爪を全部剥がして、歯をハンマーで砕いて、熱した火かき棒を切り落とした右腕の断面に差し込んでゆっくりと回転を加えると、ようやく彼女は僕と口を聞いてくれるようになりました。手間はだいぶかかりましたが、シャイな女の子は嫌いではありません。この三日間で、僕はミレイのことを少しだけ気に入っていました。
 ミレイの話によると、彼女がニノヴァンの村に訪れたのは世界を救う使命を与えられた生贄の巫女を探し出すためだそうです。
「……デ……デェレ……セア……」
 王国に仕える神官のお告げによって判明したという巫女の名は、僕にとって非常に聞き慣れたものでした。顎が砕けた上に歯が一本もなくなってしまったのでミレイの発音は聞き取り辛かったですが、間違いようはありません。巫女に選ばれたのは僕の幼馴染でした。
 生贄の巫女は、この王国の各地に建てられた聖堂を巡りそこに眠る聖獣を命を懸けて倒さなければなりません。巫女が犠牲にならなければ、世界に大きな災いが訪れるだろうと王家に代々伝わる古文書には記されているそうです。
 その話を聞いた僕は、たった一人の小さな女の子に世界を救う責任を押し付けて、それ以外の人々はのうのうと平和に暮らしているなんて何だか間違っていると思いました。だから僕はディリシアの旅に着いて行き、最後の瞬間まで自分だけは彼女の味方でいようと心に強く誓ったのです。
 問題はディリシア本人がすでにくたばっていることでした。
 悩んでいると、エアルドがまたアドバイスをくれました。やはり彼は頼りになる剣です。
 僕はまずミレイの顔面の皮を剥ぎました。それから彼女の口を糸で縫い付けました。これには深い意味はありません。この世には黙っているほうがかわいい女の子が存在するというだけの話です。
 それから、僕は丸出しになったミレイの顔面にディリシアの皮を縫い付けてあげました。
 どこからどう見てもディリシアでした。


(あとがき)
 今更の投稿失礼します。一度真面目に書こうとして挫折していたのですが、息抜きにふざけて書いたらこうなりました。気がむけばまた続きを書かせて頂くかもしれません。
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