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繁華街で

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  なんのために生まれて、何をしていきるのか?今も、これからもわからないまま生きていたのだろう、彼に会うまでは。いつも                 通りバイト先からまっすぐ家に帰らず寄り道をしていなければ彼に会うことを……いや、彼を知ることはなかっただろう。

  雨だというのに通りでは呼び込みが客に声をかけている。恐らく居酒屋の連中か?男の癖に茶髪にしてホストみたいな髪型にしている奴や、きれいというかちゃらけた格好のねぇちゃんがチラシを配る。ちょっと路地裏に目を通すと、扉の横で来るかわからない客を待ち構える黒服に、笑顔で出てくるスーツで身を整えるもなにもかもが隠しきれていない汚いおっさん。傘もささずにずぶ濡れになりながら騒ぎまくる酔っぱらいの集団。
(終わってるのは俺だけじゃないな。寧ろあいつらよりはまだましだ )もちろん俺は彼らの生活や、給料のことなど知るわけではないが、勝手にそう解釈してしまう。
  謎の優越感は1つの怒号に掻き消された。回りはそれを知ってか知らずか、関心のないものは何事もなかったように去っていくし、関心のあるものは声のする方向に顔を向ける。なかには野次馬目的で駆け出す奴もいる。俺はどのグループに属していたかというと野次馬の一員だ。
「んだ、てめぇ!ぶっ殺すぞ」
  なんだなんだ喧嘩か、どういう奴が絡まれているんだ?見てみると驚きだ。俺に背を向ける百貫デブ1人に金髪鼻ピアスでがたいがいい奴と、白髪で耳と口にこれでもかというほどピアスをくっつけた病的にがりがりのヤンキーという何時の時代でも一般人からすれば一目見ただけでヤバそうな二人組が絡んでいる。
「なにがん飛ばしてんだコラ殺すぞ」
「あ!?俺が何時がんとばしたんだよ!」
  なんとこの百貫デブ。自分の状況がわかっていないのだろうか?低い声でヤンキー共に反論する。
「なんかやばくね」
「まじ?喧嘩?やれやれ!」
「デブ!死ぬなよ!」
  野次馬からあれやこれやと 言いたい放題言うが、黙れこのやろう!の一言でほんの僅かな間だけ時が止まる。面白いことにあのデブが叫んだのである。声の主の正体がわかった野次馬はすぐさま笑い出す。クスクスとデブを嘲るように。俺もその一員だ。もし隣に友人がいればこう言うだろう。「やばい、あのデブ面白すぎ」と。
  鈍い音が聞こえる。金髪のヤンキーがデブを殴ったのだ。顔を横に仰け反らせ、背中から倒れるデブ。勝負ありだな。
「い、いてぇな!このヤロー!」
  予想に反して、デブは起き上がり様、金髪にラリアットを食らわせる。およそ喧嘩なれした動きではないが、肉によって丸太と化したものを首筋に食らえばどんな人間も倒れてしまう。例外に漏れず金髪は地面に倒れ、げほげほ咳き込む。白髪が仲間の敵討ちと言わんばかりにデブに向かうが、悲しいかな、体当たりを仕掛けたデブに弾き飛ばされてしまった。

「い、いてぇ。畜生覚えてやがれよ」
  どこの漫画の世界だといわんばかりの捨て台詞を吐いて逃げるヤンキー共の入れ替わりとばかりに、顔を真っ赤にしながらも、怯えた表情をしたサラリーマン風の男がデブに近づく。
「す、すみません助けてくれて……」
「だれが助けただって?あんたのせいで絡まれたんだろ消えろじじい」
  予想以上のオラオラ節に逆にビビる。サラリーマンはヒィ~なんて情けない声を出しながら駅のある方へと走っていった。

  衝撃的な1日だった。ただのデブがヤバめのヤンキーを追い払ったというのもそうだが、それ以上に衝撃を受けたのは、あのデブの容姿だった。あのとき、他の野次馬と同様に彼の顔をみずに帰っていればよかったのかもしれない。俺の方に振り返った百貫デブの顔はとても人の顔ではなかった。ぎょろっとた細め、脂でテカる肌。おでこやほっぺたにはニキビが散見される。鼻はさっきの喧嘩で切れたのか、血が出ているが、それがなければ折れているのかどうかさえわからないほどちっちゃい。まるでおもちゃみたいだ。こんな顔じゃ誰にも構われないだろう。むしろ人ではなく珍獣として扱ってしまいそうだ。そんな奴に負けたヤンキーがとてもダサく感じると同時にデブに興味を持つ。
(今度話しかけてみるか)
  もちろん珍獣感覚で近づくつもりだった。それが俺と彼との出会いだった。
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