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あとがき

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 オピオイドの繭は実験的に始めた作品でした。
 名義も初めは「|一路魔絵《にのまえろまえ》」とかいう二秒で考えた巫山戯た偽名でした。でもなんだかんだ続きそうだったので明かしてしまいました。作品に自信がないから名前を騙る癖、失くそうと思います。
 そう、だからそもそもこの話は何も考えずに、思いつきで書き始めたものでした。
 初期のままから何も変わっていない設定ファイルを覗いてみると、

 ・舞台は繭化(けんか)の広まった世界。
 ・繭化とは、人の体が白くなり、軈て生命活動を停止してしまう現象。
 ・意図的に起こすことをコクーニングという。
 ・存在する理由を無くしてしまったから繭化する。

 と、本当にこれだけです。各章の話も考えていません。明穂が一度死んでいたという設定も、武藤が神の使いになっているという設定も、書きながら考えたものです。だから整合性に欠ける部分(例:序章では繭化は十数年前から発生していることになっている)もたくさんあります。何も考えていなかったのですから当たり前で、修正するつもりもありません。面倒だからとかそういうことではなくて、この文章はこのまま残しておきたかったのです。
 勢いのまま、章に入ってからその章の話を考えるという前代未聞の作品。
 普通に考えればダメダメな小説です。後先考えずに思うままに書いているのだから当然です。実際、コメントがつかなかったら偽名の内に筆を置いてもいいかなと考えていました。
 でも、そうはなりませんでした。
 冗談半分で始めた「マゾ家具」以来のキャラクターによるコメント返信も存外受けがよく、肝心の本編も雰囲気が良いなどお褒めの言葉をたくさんいただき、挿絵やファンアート、ファンオーディオまで貰ってしまいました。
 正直なところ驚きが隠せません。まさかここまで成長してくれるとは思っていなかったからです。最近付いたコメントの中には「この作品が黒兎作品で一番好き」というものもあり、嬉しいような切ないような気持ちになりました。
 どうしてここまで(設定を)適当に考えた話を、受け入れてもらえたのか。
 結局答えは出せませんでしたが、そんなものはなくてもいいんだと思います。
 武藤と明穂による、痴話喧嘩を繰り返しながらのふたり旅。
 それが少しでも誰かの心に響くものになったのなら、それでいいんだと。

 で、一応完結の形をとるわけですが、当然二人の旅はまだまだ続きます。
 もちろん、書かれていない事実もたくさんあります。ざっと挙げてみると――
 どうして明穂は性格が真逆になったのか? どうやって格闘術を身につけたのか? 明穂が生き返った後、街では何が起こったのか? その時二人は何をしていたのか? 武藤は結局生き続けることが出来たのか? 明穂の死因は何だったのか? 明穂とナオキの妹は何を話していたのか? そもそも明穂の苗字が出てこないことに意味はあるのか? 
 ――などなど。これ以外にもまだまだあると思います。伏線は回収しきれてないですね。まあ「二人の旅はまだまだ続くからここではまだ明らかになっていない」と言ってしまえばそれまでなのですが。
 続きを書くか、と言われるとそれはない可能性が高いです。少なくとも「オピオイドの繭Ⅱ」と言った形での新連載はありません。それだけの余裕があれば可能性は無きにしもあらずといったところでしょうが、これ以上の連載はいっぱいいっぱいです。
 とか言いながら、いつの間にか書き始めるのが私なんですが。
 とりあえずコメント返信やらが終わってないので、しばらくはsageでそちらを書いていきます。あれはもはや独立した作品なので。コメント返信だけで一章分あるってとんでもない。
 ……で、続編ではありませんが、明穂が生き返ってから旅に出るまでの話もいつかは書こうと思っています。
 続きではありません。あくまでも前日譚、二人が旅に出るまでの話です。それに関してはまだ構成を練っている段階なので、機会があれば――――と言ったところです。気長にお待ちいただければ幸いです。

 では、このお話もたたむ時がやって来ました。
 序章から五章に至るまで、素晴らしい挿絵を提供してくださった董火ルーコ先生に感謝を。同先生のおかげで、当作品の魅力は何倍にも膨れ上がりました。絵本を思わせるタッチは、この作品にうってつけでした。
 感想を書いていただいた後藤健二先生、岩倉キノコ先生にも感謝の言葉を。あの感想のおかげで私自身のモチベーションも高まり、オピオイドの繭の認知度も上がりました。褒めちぎって頂いて光栄です。これからも期待を裏切らないようにキーボードをタイプし続けていく所存です。
 そして、この「オピオイドの繭」を読んでくださった読者の方々に最大の感謝を送りながら、ハンガリー民話の跋文で記される常套句に倣って、このお話を綴じさせていただきます。
 それでは――――



 武藤と明穂の二人は。
 旅を終えていなければ、今もまだ生きているはずだ。

 黒兎玖乃
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