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已み世の静けさを裂くように、一本の剣が宙を駆る。
魔導偵察器「アンサラー」極限まで空気抵抗を滅したその形状はまさに剣。
その切先に備えられた魔眼がその影を捉えた。


 それは、巨大な躯を揺さぶりながら荒野を進んでいた。
 それは、一つの街を目指していた。
 それは、魂の灯火に誘われていた。

   (世界精神/初期構想)

 この世界は薄膜の上に写る虚像だと誰かが言った。

 実像が光に照らされ堕ちた影が我々の世界だと。
  
 為れば、人と言う存在もまた然り。

 
       序章「黒い居城(:Chateau:)」


 

 広大な室内、白い壁、聖別処置を施され、魔術行為に適した空間
慌しく水晶球を覗きこむ魔導オペレーター達。
 対業魔機関「D∴D∴」アーカムロッジ 戦術司令室

 その中央に在る異形のオブジェ、階差式霊子解析機関{ADA}
 灰色に輝く魔導銀の配線が絡み合ったその形容を例えるなら巨大な脳髄。
 その中枢回路が激しく明滅する。

 「ー ー ーーー ーー/////////////ーー////////////////////////ーーー///////////////////ーー ー」

 回路の明滅と同調し「彼女=ADA」の発するダイレクトヴォイスが室内に反響する、それを翻訳した霊媒士が即座に内容を読み上げた。
 「アーカム北西約120km先にて大規模なゲシュタルト崩壊を観測、続いて複素幽気質の構造体顕現を確認!その霊的規模は、、、計測不能」
 


 「主水晶球にて幻像を観照せよ」後方で様子を伺っていた白銀のローブを纏いし女性、D∴D∴総司令(チーフ)ヘレナ=ドゥルーガが口を開いた。


前方の巨大な水晶球にスクライングされる光景。
 そこに映し出された姿形は一言で言うなれば醜悪、巨大な山ほどもある肉塊の頂に見える頭部は角蛙、全身から生えた柔毛一つ一つが別の生き物かの如く蠢き、その蠕動で這いずり、ゆっくりと前進している。

 その場にいる魔導師達の顔に驚愕と畏怖の色が滲む。

 「地の神級、、、厄介だな」白銀のローブから覗く眼が細む。

 「何も畏れる事は無い、我らに任せておけば問題ない」背後から男の声。
 そこには白衣を纏いし背の高い男。その振る舞いは高圧的で偽善的。
 
 男の方を振り向くヘレナ。
 「アレは禍り形にも神と呼ばれし存在、、、人の業にてどうにかなるモノでは有るまい」男を見上げるその眼は冷ややか


 「ならば貴様らだけで相手をするか?私はソレでも構わんが?」ヘレナを見下しながら男は言った
 
 「、、、、、、」無言のヘレナ
 戦力の要となるアデプト小隊も亡き今、度重なる霊都防衛によって疲弊したD∴D∴の現存魔力でアレを退けることなど到底不可能。答えは明白。
  
 「貴様はそこで観賞していろ、そして祝うがいい、我がヴァルハラの古の戦神の復活を!」
  
 霊都アーカムを覆う振動。遥か上空に滞空する巨大浮揚高座「フリズスキャルヴ」の巨影が月の光を遮る。
 フリズスキャルヴの上部ハッチが展開し漆黒の躯体がせり上がる。
 巨大な黒い装甲に鎧われたその姿はまさに軍神。非対称の仮面に覆われた隻眼。されどその眼孔には未だ光は宿っていない。

                シグナル:ナウシズ

 一方、地上では魔導躯体「ベルセルク」の部隊が戦闘を開始していた。

 土の巨神の進路を阻むように展開されたソレは鉄の狼の群れ。
 その光景はまるで山に挑む小蟻の如く
 巨大な肢に踏み潰され、次々に蹂躙されるベルセルグ達。
 
 「何を考えておる、、、アレでは無駄死にだぞ!?」

 「少しばかりの時間稼ぎくらいにはなるだろう、、、それにアレの起動(召喚)には幾らかの贄が必要だからな」

 「まさか、、、おぬし、、、!?」

 ヘレナの声を遮るように外部からの通信が入った。。
 
 「ガドーリル、、、もう充分だ、、、戦闘の許可を」怯えた少年の声
 おそらく浮揚高座からの通信。
 ヘレナはその声に聞き覚えがあった、、、だが似ているようでまるで別の声のような違和感を感じた

 白衣の男=ガドーリルはニヤリと嘲笑みながら言う
 「いいだろう、、、ヴァルキリーシステム開放、テルメフタールの起動を許可する」


 破壊されたベルセルクの残骸から一斉に一条の蒼い光が飛び立つ、その各々が滑らかな軌道を描きながらある一点へと収束し始めた
 高座に立つ黒い躯体、、、憑依型魔導躯体「テルメフタール」の主霊力炉に投込まれる命の灯火。
 膨大な死者の魂魄を点火剤として、霊力炉中心に安置された聖遺物が霊体爆縮を起こす。
 
 「ビフレストの発生を確認、、、術式プログラム:エッダを展開」
 パイロットの言霊を合図に発動する召喚術式。
 高次元の存在をこちら側に強制召喚するプログラム。
 霊子縮退した聖遺物を媒体にしなければ召喚できぬ程のモノとはいかなる存在か。
 
 大気が振るえた、、、否、空間を構成する霊其構造そのものの変動。
 空を覆う雨雲が月を隠す。冷たい雨
 豪雨と闇の中、灯される一つの明かり、蒼く灯された戦神の隻眼。
 
 「目には目を、歯には歯を、、、そして神には神をもってそれに答えようではないか!」ガドーリルの笑い声が響き渡る。
 
 


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