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人?竜?否、竜人です!

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  現実では起こり得ないことというのは結構ある。突然手から火が出るようになったとか、転校生が宇宙人とか、なんかの拍子で世界が滅びるとか……
  それはそれで作り話としては魅力的だし、俺の好きなジャンルである。しかしだ、しかしながらまさか自分にそんなことが起きるとは思ってもいなかった。嬉しいことに、空想や妄想でないことを布団の中ですやすや眠る竜耳のロリータと、元々強かった癖っ毛に磨きがかかった黒こげのひさしが証明してくれた。
「おい起きろひさし、とりあえず風呂入ってこいよ」
  部屋自体もそうだがひさしもかなり焦げ臭い。
「……あと五分。からだが痛い……」
 

「ふぅ……生き返ったぜぇ」
  冗談抜きで心身共に生き返ったひさし。お前一体何でできてるんだ?
「とりあえず今着てる服は返さなくていいぞ」
「お!悪いな~」
  先ほどまで苦しんでいたお前はどこいったんだ?という突っ込みはなしにしておく。
「それにしても」
「ん?」
「お前この子どうすんだよ?」
   すやすや眠るマイエンジェル。そういえば昨日寝かしつけるの大変だったな。こっちが火を消してる間は部屋の外に出ていたずらするし、火を消し終わって部屋に戻そうとすればちょろちょろ逃げ回るし、部屋に帰ったら帰ったで黒こげのひさしに炎を吐いて追い討ちをかけるし……
まるでそう、「妹ができたみたいだぁ……」なんて思ってしまう。
「カーリー、悪いことは言わないぜ。早く捨ててこい」
「馬鹿野郎!こいつはペットじゃねぇんだよ!」
「……お袋さんにはどう説明するんだ?」
  そういえばそうだ。確か昨日電話がかかってきたんだ。「帰りは明日になりそう」って。これが吉とでるか凶とでるか……
  なんて考え事をしていたらメルトもお目覚めのようだ「んん~」なんて寝ながら両腕を伸ばし、起き上がりざま回りをキョロキョロ。
「お、おはようメルト」
  やべぇ。かわいい。ニヤニヤがとまらないぜ。
「やべぇ。犯罪者の顔だ……」
「殺すぞ」
「ますます友達消えるな」
「お前と一緒で元々いない!」
  なんて悲しい会話はさておき。一つの問題に直面する。
「さて、溶岩以外に何を食べてくれるんだろ?」
  ひさしのえ!?という顔を無視して通販で買った拳1つ分の"安山岩"と"玄武岩"を取りだしメルトの様子を見る。
  この岩は元々溶岩が固まってできた岩であり、作中でも岩を食べていた。無機質で無骨なその岩のひとつをメルトは手に取り、かわいらしい鼻に近づけ匂いを嗅ぎそして口に近づけ……
  口を大きく開けて岩を食べようとしたまではよかったがあまりに固すぎたのか、それとも食えないものだったのか歯が岩に当たった瞬間噛み砕くこともせず硬直した。徐々に目に涙をため、そして……岩を投げ捨て泣き出した。その岩はなぜかひさしの頭に直撃した。
「あぁ、駄目みたいだな」
  単に好奇心で口のなかに入れたみたいだった。怒りと悲しみと痛みが収まらないのかもう1つの岩を手に取り、ぶん投げる。今度は俺の部屋のドアにあたり、確実に穴が空いたとわかるほどの音が聴こえる。
「仕方ない。別のものを食べさせるか」
「カーリー、その前に新しい服を貸してくれ」
  さっきまで着てた俺の服で頭を押さえるひさし。
「あっ……すまん」
  なんやかんやでお昼頃。両手に袋を持って家に戻る。
「おーい、開けてくれ~」
  するとがチャリ。ひさしが死にそうな顔で迎えてくれた。
「なんで1時間の留守番で死にかけてるんだよ」
「いや……腹減った……」
  腕時計を見てみると午後の1時前。
「メルトは?」
「寝てる」
  まずは寝顔をチェック!そこから昼飯だ。

「ということで今日の昼飯だ」
  ひさしが早く食べたいと唸っていたので調理時間の短い焼きそばを選択した。
  適当に皿に盛り、それぞれの前に置く。ひさし、俺、そしてメルト。結局メルトはこの世界で俺たちが食べるものを問題なく食べてくれるらしい。ひさしに負けず劣らず、目の前の焼きそばに目を輝かせる。
「では、いただきます」
  全員で手を合わせてから食事に移る。メルトはフォークで俺とひさしは箸で焼きそばを口に運ぶ。
「う、うめぇ!カーリーお前料理できたのか!」
「まぁ、お袋が家を開けることが多いからな」
「一生独身でもなんとかなるな」
  まだやきそばが残ってる皿を没収しようとしたが「冗談です。すみません」というひさしの言葉に免じてやめておいた。
  その時、やけにメルトが静かなことに気づく。メルトはフォークを強く握りしめ、空になった皿とにらめっこしている。
「メルト、もう食べ終わったか」
  俺が皿を片付けようとすると、明らかに不機嫌そうに暴れだす。あぁ、これってもしかして……
俺の皿に残った焼きそばを全部メルトの皿に移す。一瞬だけ機嫌が良くなったもののそれでもまだ不満そうだ。
「ひさし、すまんお前のもやっぱり没収だ」
  次は有無を言わさず皿を没収し、残った焼きそばをメルトの皿に移す。明らかに小さい子どもが食べる量でなくなった焼きそばを見て嬉しそうにするメルト。そして、手を合わせて……
「いただきます!」
  と舌たらずに言うと幸せそうに食べ始めた。

  あの量をすべて食べつくし、満足そうにお昼寝をしているメルト。俺は食器を片付け、次にやることそれはお着替えである。
「うわ……パンツも買ってきてやがる」
  くまさんパンツを汚いものかのようにつまむひさし。
「やめろ。店員と保護者の熱視線に耐えて買ってきたものだぞ」
「……通報されなくてよかったな」
  それは俺も思う。まぁこのいいようだとパンツしか買ってきてないと誤解を与えてしまうので言っておこう。俺はメルトが着る服を買いにいった訳である。竜人特有の耳と尻尾を隠すのもそうだが、今メルトが着てる服にも問題がある。
「マジでどんな民族衣装だよってなるからな。外に出たら」
  ワンピースのようなものに謎の文字群。現代日本でこんな服で外を出回ってたら間違いなく好奇の目で見られるだろう。
「ということでお着替えをするわけである」
「カーリー、お前変な気を起こすなよ」
「だからお前がいるんだろ?」
「え?」
「俺1人があの聖域に手を出すのはヤバい。倫理的にも」
「ま、待てカーリー、落ち着け。お袋さんが帰ってきてからでも……」
「今日帰ってこなかったらどうする?」
「……」
「今ならメルトが寝ている。チャンスだ」
「いや、でもお前よく考えろ」
「風呂……どうするの?」
「…………」
  死にたくなった。いや、一緒に入るという手もあるのだがさすがに今日できた妹にいきなりエレファントをお披露目する勇気は俺にはない。
「お前のそれを巨大ミミズと勘違いして食べちまうかもなぁ」
  俺の右ストレートがひさしの顎をとらえ打ち砕く。
「それは冗談でも許さないぞ」
「はい、発言には気を付けます……」
  ひさしを打ちのめしたところでマイエンジェルに目を向ける。これから起こる恐ろしいこと(勝手に俺がそう思ってる訳だが……)を知らずか純粋無垢な寝顔を俺たちに見せつけてくる。くそ!眩しすぎるぜ!
「とりあえず、まずはズボンから……」
「ま、まて!穿いていないというアクシデントはないんだろうな」
  何を言っているんだろうかこいつは……
「そうなったら……その時だ」
「お前格好つけてるけど格好よくないからな」
「うるさい!ここまできたらやるしかないだろ!」
  袋の中からクリーム色のズボンを取り出す。
「頼む……起きないでくれよ」
  そのとき!予期せぬ事態が起きる。鍵が開けられる音がして聞き覚えのある声が家中に響く。
「ただいまー!あれ?誰かいるの~」
  救世主かつ、しかし今現れて欲しくない人が帰って来てしまった。
4, 3

  

「あらら、かわいいじゃない」
  クリーム色のズボンに、水色を基調としたチェック柄の長袖Tシャツに黄緑色のパーカーに身を包んだメルト。尻尾はズボンからはみ出ていない。なんとかごまかせそうだ。耳も……まぁフードを被ればなんとかなりそうだし、防寒用の耳当てやら被り物はそこらにあるのでなんとかなるだろう。うん、なんとかなる。
  お袋はまじまじとメルトを見つめたと思ったら両手で抱え込みたかいたかい、メルトは最初こそは驚いた表情を見せたが俺やひさしよりも目線が高くなったと理解した瞬間身体全体できゃっきゃ嬉しそうに表現し、俺らに向かって「がぁおー」なんていってくる。大変可愛らしく微笑ましいのだが、その「がぁおー」なんていったときの口の形がまさにひさしを丸焦げにしたときと同様の形であり、さすがは空の王者と言われる竜の娘だなと、将来は安泰だなぁなんて思わせてしまう。まぁこの娘だいたい150歳なんだけどね。
「まぁ、キョウ君の言うことは信じてあげるわ。どう考えても尻尾が生えてる上に人の耳の代わりに爬虫類の耳がついてる女の子を誘拐してくることはほぼ不可能な訳だし」
「あの……友達の前でキョウ君はやめて。せめて恭兵って呼んで」
  となりでひさしが笑いを堪えているのがわかる。あいつ後でぶん殴る。
「まぁ、キョウ君はそんなことしないって信じてるし、そんなことしたら一生家には入れないつもりだしね」
  はぁ、と一言生返事。残念ながら俺のお袋は38になっても人の話を聞かない。それのせいで良く喧嘩になるのだが。まぁそんな性格だから老けないのだろう。しかし、派手な格好で表を歩き若い男にナンパされる姿をみるのは息子にとっては複雑であるし、今は行方知らずの親父にも気の毒な話である。
「それにしてもこのこどうするの?」
「いや、まぁ俺が面倒みるけどさぁ」
「ええ!あんた学校どうするの?連れていくわけにはいかないでしょ!」
「ま、まぁそうだけど……」
  一瞬だけ留守番という文字が浮かび上がったが、ぽっかり穴が開きプライバシー保護の役にたつことはなくなってしまった俺のドアと黒こげの部屋をみて一瞬で砕け散った。
「とにかく!学校にはいってもらうからね。」
  前途多難な日々の幕開けである。
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