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だいたい、という話

 セックスして女が子を孕み、産む、という自然の在り方から、ヒトは遠くになりすぎなのではないだろうか。
 |男腹《おとこばら》から産まれたオレとしては、そんなことを考えたくもなる。もちろん、仕方のない事情があることはオレだって承知している。真ッ当なやり方ではもうヒトは子を成せなくなったし、女性性を得たい男性がいて、そのヒトが出産を経験したいと思うのはまぁ、いい。しかし、『母体』の健康を損ねてまで自然分娩にこだわるまでのことを、果たしてする必要はあったろうか。安全に産むのであれば、生体病院の人工子宮に任せればよかったのだ。新生児の七割の『出産』を引き受ける機関だ、まさしくもってその道のプロであり、それでも事故や、治療しきれない遺伝病はあるが、男同士のカップルが頑張ってみたところで、到底敵わないほどには積み上げた実績がある。
 それでも、あえて自分の|胎《はら》に|受精卵《わがこ》を収め産みたいというのなら、『母親』というのはどれだけ身勝手であることか。
 などと、自分の足関節にある防塵シートを張り替えながら思う。はるか昔においては人体を精巧に再現した義肢が|流行《はや》ったらしいが、今は靴なんかと同じ感覚で、ファッションとして四肢を取り替えるのも当たり前になった。ここらへんも、何かズレてる気がする。ヒトという生物はそれでいいんだろうか。といって、オレもファッションとして、わざとレトロなメカチックの義足をつけているのだから、他人のことをとやかく言うこともできないけど。

 義足のメンテを終えて一階に下りると、キッチンでかーさん、オレを産んだ|父《はは》が悪戦苦闘していた。

「おはよ、かーさん」
「おぅ、おはよう|哲太《てった》、すぐっ、にっ! で……きっるっ……からっ!」

 長い栗色の髪をした御年三十六歳、まだ自前の化粧技術と日々のトレーニングだけで見た目上の若々しさを保っている、どー見ても女性にしか見えないこのヒト、|桂木《かつらぎ》カナトが、オレの産みの父だ。九年前までは股間にちんこがぶら下がっていたが、今もついているかは分からない。確認したいとも思わないけど。

「ねぇかーさん、休みだからって手料理にしなくてもいいじゃん。毎度まいど上手くいってないしさァ」
「いいの! お父さんがしたいの!」

 上手くいかない苛立ちからか、声を荒げてかーさんは言うが、その声もまた女性のようであるのだ。それでいて口調は男性のようであり、にも関わらず胸はふっくりと膨らんでおり(子どもいるのにプールでビキニ着るの止めてほしいっていうか第二次性徴期の息子をプールに誘わないでほしい)、だが前述のようにちんこは存在しているはずであり、しかしまたオレを敢えて自分の腹から産みたいと強く希望したのもこのヒトなのだ……いったい、何をどうしたいんだ。
 かーさんに言わせると「やりたいようにやった」らしい。やりたいようにできてしまうあたり、我が父ながら恐ろしいヒトである。
 そんなかーさんの唯一の弱点が料理で、曰く「俺の母さんはこうやってた!」とうろ覚えで聞きかじりのくっそテキトーな知識だけでメシを作ろうとして、大雑把にすぎる料理ができるのだった。

「僕はもう、哲太くんが産まれるまでに充分堪能したからね」

 とはもう一人の父こと遠坂トオルの言で、ニコニコしながらもかーさんの料理に全く手を出さないので訊いてみたら、そんな答えが返ってきた。これでもマシになったのだ、とその後に続いたから、苦労したんだろう。

 その質問の以前と以後どちらでも、仕事が休みの日の朝にかーさんが作る大雑把料理は、オレの胃の中にだけ収められ続けている。オヤコーコーというやつだ。

***


 内臓の機能を置換する技術自体はあるし、代用以上の性能を発揮する人工臓器だってある。それでも大多数のヒトはそこで踏みとどまった。
 結局、怖かったのだ。機械に命を預けることが。
 いくら企業の広報が安全を謳おうが、生活の中でどれだけの部分を機械任せにしているか挙げ連ねられようが、もっとも原始的で根源的な意味の『命』を機械に置き換えることを、是ぜとしないヒトが大半だった。
 もちろん中には「そこまでのことをしてしまえばヒトではなくなる」なんて自分勝手な基準で人非人を別わけるようなしょうもない輩もいたし、そんなアホや世論のことなんかブッちぎって全身義体にするやつもいた。おつむ含めて、だ。さすがに思い切りがよすぎると思わないでもないが、国はどの立場も容認している。誹謗することは認められないが。
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