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俺は知っている。俺は知っているのだ。
叫べど叫べど世は変わらず、動けど動けど人も変わらず、志高くあれど凡俗は気付かず、
たとえ黙ってみても皆相も変わらず馬鹿をしている。
誰も俺に気付かない。誰も俺を讃えない。
俺は正しく、絶対であり、いわばひとつの神なのだ。
しかしこんな俺に誰も目をくれない。決して向かい合ってはくれない。
だからきっと、俺は透明な何かなのだろう。
しかし、透明というものはなんだ。それは物の様態を表すものではないのか。光が透け、視認されづらいという特徴。
しかし俺にはそんな光に透けるようなところはない。まして物でもない。
だったら俺は何なのだろう。あふれんばかりの才能に恵まれ只ここにあるも、誰にも気付かれることはない。
世界の流れを見通す知識を持ちながらも、自分を理解することは叶わない。
それはなんだ。一体どんな存在だ。
人が俺のところを尋ねてきた。
尋ねられたので、答えたいと思った。
しかしそれは叶わないのだ。尋ねてきた人は少女であった。今日び世の中では横を通っただけで事案なんていうものも存在している。
そこまでことを大きくしなくてはならないほどの危険が女の一人歩きにはある。だからそのことについては全く反意はないのだが、
俺がこの少女の問いかけに答えればそのような大事になるのではないか。
いやならんな。俺は問いかけに答えた。
少女の問いかけは一方的ではなかった。藁をもすがるように俺に尋ね続けたが、いつだってそれは少女から発された後に少女へと帰っていくのだ。
少女は尋ねる。俺に尋ねる。俺を信じ、助けを求めていた。
少女は帰った。楽なものだ。俺は一切答えないのだ。少女は俺から聞いた答えでもしかすると世や人を変えるかもしれない。
しかしそんなことが何だって言うのだ。俺は誰を啓蒙することも出来ない。何かを動かすのは少女だ。俺は世も人も変えることは出来ず、そもそも誰にも関知されない。
少女は帰っていった。どこかへと帰っていった。
別れ際、俺に向かって両手を合わせて帰っていった。
来たときよりも落ち着いた顔が、どこか俺を心地よいものにした。
2, 1

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