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少年その4-2/複素数

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後半5作品
・アンタッチャブル
・少女妄想学持論
・リーゼントすし
・鉄甲ボンゴ
・二代目魔法少女ブリティ





・アンタッチャブル

 『アンタッチャブル』は二十四節季先生による学園・戦闘漫画です。ギャングモノではありません(独り言です)。
 1-0序章(プロローグ)からこの漫画は始まります。主人公らしきシルエットが人を撃ちぬいて、そのまま後ろから斬りかかられてしまうます。『どうしてこんなことになったのだろう。』『今までのことを思い返せば、その答えは見つかるだろうか?』黒をバックに意味深なセリフが挿入され、後に続く物語が回想であると示されます。たった2ページではありますが、作者の画力構成力その他諸々の説明力の高さが伺える部分ですね。
 続く1-1では、学校に遅刻しまいと急ぐ主人の姿が描写されます。あとから見て気づくことですが、主人公が見回す街のあちらこちらに後に主人公が入居する当楽舎の面々がそれとなく描かれています。こういう計らいはドラマ的で良いですね。導入のワクワク感が増します。さて、急いでいた主人公は実は転校生で、到着速自己紹介を求められます。お定まりのイベントに気が進まない主人公の予想どおり、クラスからの好印象は得られません。転校初日だったら普通そんなもんだと思いますが、その後の諸々でもクラスに積極的に馴染めない主人公。これが展開上重要な布石になる訳ですね。
 次話では少し時間が進んで、試験後、世界観の説明がなされます。巨大な学校と学生だけを集めた人工島、都市、という禁書目録シリーズを彷彿とさせる世界観が明かされ、さらには学生間の強力な階級制度の存在も示されます。この階級制度(スクールカースト)の基準になっていたのは、現実のスクールカースト同様のクラス内での発言力であり、成績は無関係と。そして主人公が振り当てられた階級は橙色、下から2番目だったのです。カルロス君が赤ネクタイをしているように、これらの階級は成績とは関係なく、純粋にクラス内の地位だけで決定されています。(話が前後するんですが、1-1の全校集会の時に生徒会長が超能力のようなものを使っていましたが、はやりそういった要素もカーストや展開に関わってくるんでしょうかね)
 落胆して帰宅した主人公を待っていたのは、民生委員による転居命令でした。スクールカーストで住む地区まで変わるのかよ!本家ヒンディーカーストと同じぐらい厳しいな!ちょっと名前を思い出せませんが、そういえば最近こんな感じのアニメもあったような気がします。
 退去期限は5日で、転居先は自分で探せという投げやりな命令に慌てた主人公は転居先である第9地区を奔走します。しかし不良だホテルだと、ヨハネスブルグ程ではないせよ住環境が劣悪な同地区ではなかなか転居先が見つかりません。焦りからの苛立ちが募る中、感じの悪い不動産屋(カーストが上)につい手を出す主人公。こういう細かなところで身分制度を強調するのがいい感じの雰囲気を出していると思います。逃げ出し途方に暮れた主人公は、かく後に偶然出会った当楽舎の寮長の誘いをうけ、橙色としての新生活を切り出すのでした――
 と、厳しい世界ながらも順風満帆という雰囲気で作品は更新待ちになっています。各話のナンバリングが2段になっている事からも察せますが、現行の最新話(1-4)がちょうど物語の導入の終りにあたるものと思われます。なにせこの漫画のジャンルは『学園・戦闘』でありますから、次章から『戦闘』の要素が強調されていくのだと思い期待します。上でも軽く触れましたが、設定は禁書シリーズやあの、あれ(ハサミで戦うやつですマジで名前出てこないごめんなさい)に極めて近い構造であり、階級制度に縛られた学生同士のバトルという展開がこれは出ない訳がない。
 加えて忘れてはいけないのがプロローグのことです。第一コマで人を撃ち殺していたように見えるのは、髪型からいって主人公で間違いない、そしてすぐに別の誰かに打倒されるという”悲劇”が物語の行く先に明示されているのです。今でこそ幸せな主人公一行の姿が描写されていますが、これがどう転がって悲劇に結びついて行くのかは大変気になるところでございます。
 それとこれは完全な余談なのですが、階級制度の描写についてです。もちろんこれは作者の意図のうちにより変わってくるものなのですが、冒頭で橙堕ちした主人公が学校社会の厳しさ(波底)を見て、そしてその中でも明るくて楽しい自分の居場所を見出す(波頂)という心情の波を意識した場合、新居を見つけるまでの部分はもう少しページを割いて、被差別階級であることを強く意識させるエピソードなどを挿入しても、来る戦闘展開などを見据えたときこれらは無駄にはならないのではないかなーなどと思ったりもしました。以上余談ですので流してください。
 それと、これは外れてたら申し訳ないんですが来月で一周年じゃないですかねこの漫画?あっていたら、おめでとうございます!物語はまだまだ序盤ですから、今後も更新を期待しています!




・少女妄想学持論
 
 『少女妄想学持論』は静脈先生によるバトル(?)マンガです。少年感想で先行する只野先生も仰っていましたが、レビュアー泣かせな漫画ですね。まずもって、正しく読解することが既に難しく、自分は本当にこの漫画の意味を理解できているのだろうか、そもそも、自分はこの漫画を本当に読んでいるのだろうか、絵を見て文字を読んでいるだけではないのか……という内面の問いかけに幾度と無く視読を中断させられました。というのは大げさな言い方で、実際は少し宙に浮かんでる漫画といった印象でした。あとこれ完全な余談なんですが小林銅蟲に気持ち似てないですか?話の作り方とかはちっとも似てないけどほら、話の転がし方とか。ない?
(予め逃げを打っておきますと、以下の内容は私個人のいささか乱暴な推察を縦に並べたモノに過ぎず、静脈先生の意図するところとは必ずしも一致せず、また見当違いであることが予測されます。が、そのことに関して私は責任も何も負いませんので各自お願いします。)
 さて徐々に内容の話に移行していきましょう。本作品は登録カテゴリ上はバトル漫画であるとされていますが、バトルなんていっぺんもしてませんね(ケンカする描写はありましたがバトル的な表現ではない)。かといって、ギャグマンガではない、青春群像劇、空気系とも違う。じゃあ、この漫画は一体何を伝えたいのか。作品の竜骨たる主題が漠然としていて、うまく噛み砕けないこと、それこそがレビュアー泣かせと言われる原因なのですね。でも不思議なのは、読めば確かに何か伝わってきて、(言葉にするのが極めて難しいが)感想も抱く。ここで、一つの考えに思い至ります。本作の物語としての形を捉えづらいのは、これはジャンルという区分、または物語性を否定しているからではないかと考えられます。登録ジャンルが実際と異なるのも、ストーリー展開が宇宙的で放任なのも、登場人物の持つ記号性がおざなりに扱われているのも、物語性の否定から来ているのでしょう。
 画が与えるインパクトも、この漫画に独特な印象を与える一因でしょう。体の伸びるキャラクターたち、実写画像の合成、裸、フキダシと顔の入れ替えなどなど、極めて前衛艇といえる表現手法(?)が多数織り込まれています。他にも、セリフや展開に性の要素がとても多く取り入れられていることも、同効果に寄与していると感じます。これらの特徴は強いて言うのであれば超現実の部類でしょう。でありながら、描写は簡素、デフォルメの効いたキャラクターが白背景の中でこれらを演じているというギャップもまた、この漫画を読んだ時の戸惑いにつながっていくのでしょう。
 一応ストーリーについても追ってみましょう。登場するのはセーラー服を着た女生徒たちです。ショートカットの純ちゃん、ツインテールののりちゃん、メガネの先輩、坊主の坊主っ子ちゃんの4人が主なキャストですね。ストーリーはこの4人が空気系作品のノリでなんかこうグダグダするんだけど方法が自由すぎて遠くへいっちゃったり、最終的にAVオチがついたりと、そんなところでしょうか。よくわかりません。ですが最後の3話(χ、π、ψ)については、明確な筋があります。純ちゃんのりちゃん先輩の三人が卒業旅行というイベントを堺に、自身の私生活について悩んだり、精算するという流れです(ていうか先輩何歳だよ)。あれだけ支離滅裂な本編の後急にこんなしおらしい話が来たのでびっくりしましたが、思うにこれはいわゆるエンディングに向けての動きというやつでしょう恐らく。この展開のなかで軸になっているのが、坊主っ子ちゃんの存在です。主要4人のなかで一番セリフが少なく、かつ何やってんのかわからなかった存在である坊主っ子ちゃんが、ここへ来て実在しなかったかもしれないと、そういう方向に舵が切られています。最初から居た主要キャラが実は存在しなくて主人公の妄想でしたという展開はパラノイア系の作品で見かけますが、この作品もとい静脈先生の作品が勝手に改蔵みたいなオチでまとまるとは思えないので、私の想像の2段外ぐらいの何かすごいオチが来るのかという気がします(もしくは、綺麗さっぱり無かったことになって元の展開に戻るか)。個人の意見ですが、χ系列というか坊主っ子まわりの話には解答が欲しいところです。
 さて、これ以上書くと感想のほうが混沌としてきそうですので総評です。総評としましては、この作品は私の手に負えない、高い次元を標榜して作られているが、私のような低次元の民にも(ある意味近寄りがたい)魅力は十二分に伝わっていると、そういったところであります。静脈先生には今後もどんどん執筆してもらいまして私の理解を助けていただきたいと、そういったところで私からの感想とさせて頂きます。今後とも応援させて頂きますので、ぜひ頑張ってください。







・リーゼントすし

 『リーゼントすし』はIwantA先生によるギャグ漫画です。登録ジャンルは未定とのことでしたが、ギャグ漫画ということで各位異存ないことと思います。本作は私が今回感想を任された10作品のなかで唯一のギャグ漫画です。新都社は元々ギャグ漫画少ないですから、比率から言えば妥当でしょう。
 登場人物はリーゼントすしと親方という基本の二人に、各話ゲストキャラが加わります。リーゼントすしとは寿司で、アンパンマンみたいな経緯で生命が宿ったため親方の手伝い(話し相手)をしている不思議なキャラクターです。彼(?)のボケっぷりは凄まじく、ゲストキャラを完全に食ってしまってる時もありますね。いっぽう親方は、話の舞台になる寿司屋の大将にして本作のツッコミを担当する老齢の男性です。皺の入った顔に白髪頭ですから怖そうなんですが、人物像は若者のように軽く、話の中で妙な設定がいくつか付いてしまったりしていますね。
 ギャグ漫画として模範的な本作ですが、いくつか固有の特徴があるように見受けました。まず、設定の都合上ですが本編は殆ど親方の経営する寿司屋で話が進行します。ギャグ漫画も漫画ですから、本来であれば場所に関する制約というのは全く無く、どこへでも行くのが普通ですよね。でまぁこれがどう面白いかといいますと、本編を読んでいると、演劇やショー喜劇を見ている気分になるんです。舞台の上にはセットがあり、小道具が置かれ俳優や人形や黒子が演技をする…ギャグ漫画を読んでいたはずなのに、ショー劇場でコントを見ている気分になれる、これは他の漫画では中々ないことですよ。ジャンルが違いますが、ウェブ漫画界のご先祖様万々歳とでも言ったところでありましょうや。
 さて、”ギャグ漫画として模範的な”という表現を使いましたが、それについて少し補足していきましょう。まず各話の大まかな流れですが、冒頭にすしが何かを言い出したり、初めたりします。これが問題提起で、対応して親方が何か言ったり、行動をします。その中でボケとツッコミを繰り返し、最後には冒頭の提起に対応する大きなお血が付いて終り、というパターンです。ゲスト回でも基本的に同じです。ちょっと一般化しすぎましたが、この中で本作に見られる特徴としては、すしと親方のボケ=ツッコミの単サイクル間隔が極めて短く、数も多いということです。わかりやすくいうと、すしが変なことを言うと親方は即座にツッコミを入れるけど、すしはきにせずまた何か言い、またツッコミが入るということです。これは持論なんですが、ボケからツッコミまでの時間が短く、数が多いギャグ漫画は勢いが良いぶん若い人向けの雑誌カテゴリに入り、逆にサイクルが長いと、より大人向けの作品になると思うんです。(ただし複素数氏はギャグ漫画を読みこそすれど描きはしないのであまり熱心に研究などはしていません)本作の場合ですと、一コマに2回ツッコミが入るぐらいには勢い重視ですから、コロコロとかで連載されてそうですね(擬人化した寿司の漫画とかすげーありそうじゃないですか?)。このテンポの良さは読み味に直結して、読んでて非常に楽しい、かつ軽い作品作りに大きく貢献しているものと思います。
 次に、中身の話です。一話完結の本作にはストーリーといえるものは殆どありませんが、ゲストキャラクターの派生はありますね。占い師やエスパー部がそれにアタリますし、短編から始まって本編に入ってきた桃太郎なんかもありますね。こういった、主要キャラクター以外の登場人物にスポットがあたる話も新鮮味があって好ましいので、増えてっても面白いのかな―と思います。
 あとですね、これは本編とは関係ない話ですが、サイトのトップ、あれはすごいですね。標準テンプレートもGifや動画リンクやSNSボタンを入れるとあんなに華やかになるんですね。ほんと、あれは真似したいと思いました。一度見たら忘れないインパクトがありますよ(実際私がこの漫画を初めて読んだ時も、ツイッターのURL投稿からのジャンプでした)。知り合いの作家様の言葉を借りれば『コンテンツ量が多い』というところでしょう。エンディング動画まで作ってある漫画なんて新都社探しても片手で数えられるぐらいしかないでしょう恐らく。自分も漫画に関しては色々考えてたつもりでしたが、まだまだでした。
 『リーゼントすし』はボリュームがあるのにサクサク読めて、読者を選ばないギャグ漫画ですのでこの感想を読んだうちで未読の方がいらっしゃいましたら是非是非読んでみてください。IwantA先生、応援してますのでこれからも執筆の方よろしくお願いいたします!私からは以上です。







・鉄甲ボンゴ
 『鉄甲ボンゴ』はウッチェロ先生による巨大ロボット漫画です。本作は新都社でも珍しい3DCGで作成されている漫画として有名ですね。私が新都社を見始めた頃からすでに連載されていて、金曜日にこの作品が更新されていたのを今でも覚えています(今でも続いてますが)。とか言って、ちゃんと通しで読んだのは今回が初めてだったり。
 以前から『3DCGですごい』とは思っていたのですが、実際に読んでみるとその造りの精巧さ、画面の配慮の深さに思わずして舌を巻きました。まず、その配色設定の精彩さです。本作はキャラクターやメカの造形はデフォルメが効いて非常にシンプルなのですが、そのぶん背景美術で画面の情報量のバランスをとっているんです。具体的には背景がそれに当たりますが、その配色の精巧さには目を引くものがあります。CGモデルの製作には全く明るくない私ですから詳しいことは存じませんが、自然物の色や光の加減、太陽光の色の返歌による時間の表現なんか、あげれば本当にキリがないほど多くの技巧が凝らされている訳です。他にも、陽炎の密度で距離を表現したり、FOV調整や焦点を絞って遠近感を強調したり『ああ、これは手書きの漫画じゃ真似できないなぁ』と項垂れてしまうような効果演出が随所に視られます。そういった意味では、この『鉄甲ボンゴ』は漫画よりも映像に近いのかな、とそんな感想を懐きました。付け加えますと、映像についてですが、動きの表現にも大変驚かされるものがありました。残像です。光跡と言うのが正しいんでしょうか、パンチやブローの動きの軌跡を光で表現することで、素早い動きを表現しているのです。通常漫画ですと、動きを表現するのは動線ないし背景ですが、これは使い方が難しい上に、表現上の制約が多い。例えば動線の周囲は視認性の問題から白ベタにする必要があり、画面いっぱいに描く場合向こう側が殆ど見えなくなったりします。ところがこのボンゴは、カラーであり、制作環境はCGなのです。これによって光跡を半透明にして、画面いっぱいに接写しつつ向こう側の動きを見せたりすることができる訳です。こういう表現は(多くはありませんが)アニメなんかで時々みかけますね。(余談になりますが、このスピード表現はデジタル環境が殆どの現在の漫画製作にあっては必ずしも不可能な手法ではなく、積極的に取り入れていくべきだと感じます。新訳COBRAで寺沢先生がやっていたような気もしますが、あんな気合の入ったアニメ・コミックみたいなものでない、普通の作品にも入っていって欲しいですね(まずお前がやれ))
 ということで、3DCGという強みを如何に画面に取り込んでいるかについての私見を述べましたが、そもそもこの作品はどのように作られているのかという点に興味わきませんでしょうか?私は気になりました。気になりまして、申し訳ないかなーと思いつつちょっとブログをのぞかせて頂きました。近年はMMDであったりコミポといった、比較的低難易度(特殊技能の代わりに作業時間を要求されるような難易度の低さという意味)の3D製作ツールが出回っており、かつそれらで使えるキャラクターや背景のモデルが多数の有志により公開されています。本作もそういった流れの作品かな~と思ってたんですが、なんとウッチェロ先生、プロのモデラーでした(びっくり)。そうです、おかしいと思ったんです。配布モノじゃないロボットやキャラクター、ピンポイントな場所の背景をどんどん登場させて、こんなのよく探してくるなーと思ってましたが、作ってたんですね!私事ですが自分も職務でモデリング習得しないといけないので、先生を目標に頑張りたいと思います。
 さて、技術的な内容の話で殆ど枠を使ってしまいましたが、ストーリーもこれは一級のものです。神奈川県川崎市近辺を舞台に、ロボットが警察に導入された世界(この辺パトレイバーを連想しますね)でロボットに寄る悪の地下組織と戦う少女を主人公としています。ロボットの操縦方式が音声認識だったり、主人公が大財閥の後継者だったり、ロボットのデザインだったり、話の端々からどことなく昭和なスーパーロボットの色香が漂ってくるような感じもしますが、それもまた作品の雰囲気の一つです。内容の言及は控えますが、少女とロボットの”人間味あふれる”成長劇、さらには悪の組織が送り出すロボットとのバトルはまさに激震級であり、上の技術的な内容に関心が無い読者諸兄も一読はしておくべきでしょう。一見すると長いんですが、割りと読みやすい造りになっているのもあって、私は職場で一日で読みきれました。
 という訳で今後も楽しみ3DCG漫画『鉄甲ボンゴ』の感想です。ウッチェロ先生には引き続き頑張っていただくということで、私からも無力ながら応援などできる機会を伺っていきたいと思いますので、今後共執筆のほうよろしくお願いいたします。






・二代目魔法少女ブリティ
 『二代目魔法少女ブリティ』は名華姉妹先生によるトキメキ(?)漫画です。名前から何となく察せられる通り、悪と魔法少女の戦いがテーマの漫画です。この作品の特色は何と言ってもその特異な設定でしょう。冒頭、物語開始時点で魔法少女はすでに齢65歳、前期高齢者であり体も限界に達しており、後継者を指名します。しかし、後継者は少女ではなく…
 魔法少女モノというジャンルの歴史は大変古く、元をたどると魔法使いサリーちゃんとかその辺に行き着くのだと思いますが、10年代現在の魔法少女モノの流行は多分まどマギが源流だと思います。他、同じく00年台魔法少女モノとして先行している魔法少女リリカルなのはでも同様なのですが、魔法少女には原則として年齢制限があります。諸般の都合(説明省略)により設けられた設定により少女が魔法使いに変身して戦う描写が成立する訳ですが、この作品に関してはそういった観念はおよそ存在しません。逆に、年齢無制限だったがために後継者探しを怠った結果、年金支給開始年齢まで現役を貫いてしまった魔法少女という、一般とは逆の悲哀を引き出している設定力には圧巻の一言でした。確かに以前にも、現役を退くべき歳になっても引退しない魔法少女の話はいくつかありました。でも、本作ほど割りきってババア(なのはさんは関係ない)として描いている作品はおよそ広い漫画界を探しても見つからないでしょう。主人公の横に現れるお婆さんの顔は皺で埋まり、乳は前掛けが如く垂れ下がり、腰は曲がり足は細く弛んでいます。こんな魔法少女見たこと無い!しかもそんな彼女が後釜として選んだのは、男の子だったのです。『魔法少女は永遠の17歳』65歳のお婆さんが一瞬だけ美少女に戻ったように、小学生の男の子も17歳の姿になります。アツい胸板、広い肩幅で魔法少女のふりふりの衣装を来て戦うのは滑稽を通り越して、何だか性的ですらあります。まして魔法少女特有の妖精を連れて、魔法の杖を振り回していたらもう面白くない訳がないですね。悪役からも恥ずかしくないのかと突っ込まれる始末。(ところで、にゃんたって死にたいにゃんに似てないですか?)とかツッコミを入れているラビット生卵三世ですが、実は彼も中身は爺さんだった!それどころか中身は元魔法少女を上回る89歳、昭和元年生まれの後期高齢者だったのです。魔法少女が生涯現役なら、悪役も生涯現役なのです。こいつらいつから戦ってるんでしょうね。かくしてラビットの部下たちは後継者を探すことになり・・・
 現場の高齢化と後継者問題、まるで現在の日本の問題を風刺したかのような本作ですが、タッチはラフな絵柄と相まってコメディー調にまとまっており、悪役と魔法少女のバトルも予定調和感のあるものでした。が、斬新な設定を活かすためには恐らくこの方向性が最適と思います。とはいえ本作はまだ4話しか製作されていませんので、今後どうなるかについては期待を以って待ちたい部分であります。
 本編はラフな画で描画されていますが、名華姉妹先生の画力の高さから見栄えの面は充分に良いものですので、読む際につかえたとかそういう事は全くありませんでした。むしろ台詞やコマの組み方が精巧であり、テンポよく読むことができるでしょう。前述のとおりまだ4話ですから、未読の方々は今のうちに目を通してブックマークに入れておきましょう。以上をもって感想とさせていただきます。今後共陰ながら応援させて頂きますので、是非執筆の方よろしくお願いいたします。




以上、感想企画でした(恐らく自分がトリです)。遅筆故作家様はもとより企画の主催の後藤先生、そして多数の読者の皆様にご迷惑おかけしたことを謝罪致します。
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