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いざ!キャッシュ王子の冒険

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「王子、お逃げください」
「しかし・・・」
「モドル王国の運命は、あなたに託されているんです! どうか生き延びて・・・」




 俺はうーむ、と考え込んでしまった。
 俺に逃げるように促してくれているのは、聖騎士モアン。白銀の美髪を持つ少女だ。
 モドル王国の第一王子である俺の近衛兵を務めてくれている。
 だが、それも今夜で終わりかもしれない・・・
 モドル国の首都、ラーアンは敵国ミグナに包囲されてしまっていた。
 城壁はどしーんどしーんと破城槌でボコボコやられているし、そのまわりには電撃剣でのびてしまった守備隊が目を回して倒れている。

「どうかお逃げください!」

 モアンは俺の手を引っ張る。目には涙が浮かんでいる。城を守り切れなかったことを後悔しているのかもしれないが、モアンは悪くない。すべて俺の采配がわるかったのだ・・・

「わかったよ、モアン。俺、逃げる」
「わかってくれましたか!」

 ぱあっとモアンが笑顔を浮かべた。

「心配はいりません。このモアン、敵国ミグナどもを相手にして獅子奮迅の戦いを最後まで成し遂げます!」
「いや、そこまで頑張らないでいいよ。適当に切り上げて投降しな」
「王子・・・!」

 モアンが口を手で覆った。

「そこまで私のことを考えてくれて・・・やはりあなたは最高の王位継承者です・・・!」
「いやべつにそんな・・・普通のことでしょ」

 勝てない戦はする意味ないもん。

「よし、じゃ、俺逃げるわ。あとよろしく」
「はいっ! いいですか、リュキ、ノリム、立派に王子をお守りするのですよ」
「お任せください、団長!」

 ぴしっと敬礼したのがリュキ。額にハチマキを巻き、青い髪をたなびかせた剣士だ。

「・・・王子がコケなければ、面倒は見る」

 失礼なことをぬかしているのが、オレンジ色のローブに身を包んだ魔導士ノリム。

「ここから城の裏に抜けられます。秘密の通路というやつです」

 モアンが壁際の本棚を動かすと、ずずず、と通路が現れた。

「王子・・・どうか、ご無事で」
「おまえもな」
「はいっ!」

 元気よくモアンに送り出され、俺とリュキとノリムの三人は通路へ入った。段差になっており、下まで降りるともう上は窓ぐらいの大きさにしか見えない。手を振り通路を封鎖するモアンの姿が、目に焼き付いて離れなかった。

「王子、泣いてる場合じゃないよ! 団長の意思を無駄にしちゃだめ!」
「そうだな・・・よし、逃げるか」
「逃げ足は、得意」

 ノリムがローブのすそから生足を見せて来る。見せんでいい見せんでいい。
 俺たちはじめ~っとした秘密の通路を進み始めた。

「なんか出そうな雰囲気・・・だね」とリュキ。
「いやあ、大丈夫だろ。城の地下だし、魔物がいても誰かが駆除してくれてるっしょ」
「う~王子がそんないい加減じゃアテにならないよ~」
「なんだと、不敬罪で裸にひん剥くぞ」
「・・・(どかっ)」
「ごめんノリム、もう権力を振りかざしたりしないからお尻を蹴らないで」

 とても痛い。
 俺は尻をさすりながら、剣士と魔導士のうしろをついていった。
 すると・・・

「きゃっ! グレイハウンドだ!」

 リュキの足元で、灰色の狼が唸り声をあげていた。

「このっ!」

 リュキが剣を抜き、狼に切りつける。

「グルルルルル」
「だ、だめだ、サボりにサボったあたしの剣じゃこいつは倒せない」
「マジかよ! おまえちゃんと修行しとけよ」
「だ、だって~~~そんなのしなくてもお給料でたもん」
「おまえ最低だな」

 王子として厳罰に処したい。
 見かねたのか、ノリムがため息をつきながら細身の杖をかざす。

「ここは私に任せて。いでよ炎、そして王子を狙いたまえ」
「あちちっちちっちちちちっ!!!!!」

 俺のマントに火がついた。バカなんじゃねえのこの魔導士? 「てへっ」とか舌を出してるけどなにひとつ許す気ないよ俺。マジこいつの故郷焼き払うわ。重税も加えるわ。

「王子、あぶない!」

「えっ、うわっ!」
 狼が俺に飛びかかってきた。俺は火のついたマントを振り回してなんとか魔物と距離を取る。それを見たノリムがしかつめらしい顔で頷いた。

「計画通り」
「おまえマジでおしりぺんぺんする」

 どうでもいいから早くご自慢の魔法でなんとかしてくださいよォー魔導士さまよォー!
 と思っていたら、灰色の狼のうしろからそ~っと忍び足で近づいてきたリュキが、

「父のカタキ!」

 完全にぬれぎぬを刃に乗せながら、狼を背中からブッ刺した。狼は悲しげな声をあげて絶命する。

「はあ・・・はあ・・・父さん、やったよ、リュキの活躍、天国から見ててくれた?」
「おまえのおやじは今朝も元気に城下町でパン焼いてただろうが」
「雰囲気こわさないでよ、王子!」
「えぇ~?」

 嘘はよくないと思うなあ、嘘は。
 ノリムがぱんぱんとローブの汚れを払った。

「どうやら魔物が活性化しているもよう。ここは危険。すぐに逃げるべき」
「そうだな」
「大丈夫かな~・・・いまのやつがたくさんいたら、リュキ勝てないよゥ」
「心配はいらない。いざとなったら囮がいる」
「ちょっと待ていまおまえ俺のこと囮って言ったか」

 王位継承権いまのところドラフト1位だよ俺。国、滅びかけてるけど。弟と妹たち、捕虜にされちゃったけど。

「王子、うるさい」
「あ、はい」
「とっとと抜ける。それが上策。いこう」

 ずんずん歩き始めちゃう|魔導士《ごづめ》に俺とリュキは従った。
 ぽう、と魔導士の杖の先に光が灯り、周囲が明るくなる。

「へえ、便利な魔法を使えるんだな」
「通販で買った」
「そんなシステムが我が国に根を張ってるなんて王子初耳だよ」

 妹のネリルがそういうの好きだから、たぶんあいつの仕業なんだろうけど。元気かなあ。

「私の記憶によれば、出口はこっち。ついてきて」
「へいへい」

 すごすごついていくと、あっさりと外に出た。あたりは夜だ。草には露が光っている。

「つわものどもがなんちょやら、ってか?」
「王子、ふざけたこと言ってる場合じゃない」

 魔導士に睨まれる。俺はぺこりと頭を下げた。ノリムはため息をつき、

「見て。あそこに敵の騎兵がいる。私のローブがオレンジでとても目立つからこっちに気づいたね。走ろう。見つかったら王子は素っ裸にされて捕虜にされる」
「のんびり言ってる場合か!」

 俺はモタモタしてるノリムをひっつかみタルのように小脇に抱えると、剣士リュキと顔を見合わせて近くの森めがけて全速力でダッシュした。

「うおおおおおおおお、モアン、俺は逃げ延びてみせるぞ~~~~~~・・・・!!!!!」

 こうして俺、モドル王国第一王子キャッシュは無事に城を落ち延びたのだった。めでたしめでたし。
 ・・・これからどうすりゃいいんだよゥ?



「王子、とりあえず村にいこうよ~」
「そうだな」

 俺とリュキとノリムは近くの村までいくことにした。
 とりあえず宿ぐらいには泊まらないとね。
 このへんは火が無いようなド田舎じゃないので夜でも明るい。

「ちわーっす」
 リョキが門番に声をかけた。衛兵っていうほど装備はしっかりしていない。
「入ってもいい? 旅人なんだけど」
「いいよ」
 あっさり開けてもらえた。
「意外とちょろいな」
「このあたりは平和だから」
「ふーん」
 城の外のことはよくわかんないや。
「あ、俺、金もってねぇや」
「そうだと思って、王子の指輪を売り払ってきました!」
「まじかよ」
 指が空っぽになってる。リュキのやつ、盗賊じゃねぇか。
「その手癖直せよリュキ・・」
「でも宿代できましたよ~これでしばらく旅ができますね!」
 リュキはにこにこして金を崇めている。ノリムがためいき。
「俗物」
「そこまで言うことなくね?」
 とりあえず、俺たちは宿に入った。
「つかれた~~~」
 ベッドにバタンと倒れ込む俺。いやー疲れた。城を落とされるなんて初めてだったしね・・・
「大丈夫かな、モアン」
「団長ならきっとうまくやってくれてますよ!」
「その根拠のない自信はなんなんだ?」
「へいきへいき。それよりノリム、これから王子をどうしよう?」
「殺して喰う」
「正気かよ」
 ちゃんとごはんはルームサービスで運んでくれるから待てよ魔導士。
「・・・冗談はともかく、王子の身は危険。なにがあるかわからない。だから慎重に動くべき」
「なるほど」
「うーん、じゃあとりあえず国は離れたほうがいいね。どこか遠い国へいこう!」
 リュキは天に拳を突き上げた。こいつ筋肉痛とかないのかな。
「ひとまず寝ましょう。あ、王子は床で」
「なんでだよ! 俺は王子だぞ」
「夜盗が来たらまずベッドが刺されるんですよ! 床で寝てたら踏まれるだけで済むかも」
「なるほど・・・」
「じゃ、おやすみなさい、王子」
 さっさと横になるリュキとノリム。なにげにベッド一個しかない。まあ田舎の村だしな。
 しかたね~今日は床で寝るかあ。
 しんしんと更けていく夜、俺は侍女二人の足元で寝るのだった。


 翌朝。
 すずめがちゅんちゅん鳴いている。とてもいい天気だ。
「うーん、肩がいてぇ! やっぱ床はだめだろ」
「王子、文句はいけない」
「早起きだなノリム」
「リュキに蹴落とされた」
「かわいそうに・・・」
 うちの剣士にはなにかが足りない。
 俺はリュキの布団をひっぺがした。
「おら、起きろアホ剣士」
「うがあ!」
 いきなり殴りかかってきた。なんだこいつは。
「やめんか!」
 俺はチョップでリュキを起こした。
「ん~? あ、王子。おはーざーす・・・zzz」
「コラ使命を思い出せバカ剣士。王子が出発だ」
「明日じゃだめ?」
「やる気ある?」
 俺はリュキの首ねっこを引っ張ってベッドから引きずりおろした。軽いわこいつ。
「とりあえず、追手を撒きたいんだけど」
「じゃ、南にいきましょうか~港もあるし」
「あぶなくね? だいたい抑えられてるじゃんそういうとこって」
「じゃあ東で」
「おまえ適当だな。ノリムもそれでいいか?」
「・・・いい。東なら、山脈を越えて道が開けている。いろんな国へ逃げられる。豊富」
「おっけー。じゃ、そこいこっか」
 俺たちはまず、荷物をまとめに村の市場へとむかった。


 市場は閑散としていた。ま、田舎だからねぇ。
「ろくなものが売ってないね・・・武器も安物ばっかり」
「おまえは愛剣があるからいいじゃねぇか」
 リュキが任官したときに俺がくれてやった聖剣をこいつは紐でぐるぐる縛りにして背中に負っている。
「飽きた」
「おいコラ」
「いい剣ないかな~~」
「ノリム、なんとかいってくれよ」
「私は新しい魔導書が欲しい」
「きみたち俺の指輪売った金で楽しそうにお買い物する気マンマンだね」
 ま、全然なんも売ってなかったからいいけどさ。
「とりあえず、なにがいる?」
「えーと、ごはんとお水と・・・あとたいまつとか? 火、おこしたいよね」
「旅だしなあ、そういうのもいるか。しようがない、そういう必需品は金を惜しまず買っていいよ」
「やったー!」
 リュキとノリムがあっちこっち飛び回って必要物資を買いあさる。俺はポカン。よくわかんないし。
「ふー。たいへんなことになったけど、この二人がいればなんとかなるかな・・・・」
 柱にもたれて待っていると眠気が増してきた。
 このままどっかでひなたぼっこでもしたいけど、俺は貴種流離のまっさいちゅうだしなあ。
「王子~だいたい揃ったよ」
「うし、よくやった。じゃ、いくか」
「あ、待って。あれも欲しい」
 リュキが指を差したのは、ひとふりの剣。
 ・・・なんか黒いもやもやしたものが漂ってるような、いかにもあやしげな剣だ。
「おまえな、ああいうのはだめだ」
「ええ~いいじゃん」
「呪われてたりしたらどうするんだ。おまえが困るんだぞ」
「むー」
 リュキはぷすっとしている。
「ノリムはどう思う? あれ、いい剣じゃない?」
「名剣」
「ノリムてめー俺に逆らいたいだけだろ!」
 まったくクソったれな従者どもだぜ。
「しかたねーな・・・一本だけだぞ」
「わーい♪」
 リュキがノリノリでその黒剣を買った。よく確かめてみりゃ刃まで黒い。
「だいじにするね、王子!」
「そうしてくれ」
 俺たちは村人たちに手を振って、その場をあとにした。
 さーて、行く先は東だぜ!




2, 1

  




「ねえちょっと待ってねぇ」
「どーしたの王子」
「遠くない?」

 俺たちは東へ向かっていた。山脈を越えて隣の国へいくのだ。
 だが道は険しく、王子の俺はとても疲れていた。
「休もうぜー」
「軟弱王子」
「うっせぇノリム」
 悪口はよくないんだぞ。
「このあたりは昼間は魔物が少ないって宿屋のおじさんがいってたし、はやくいきたいんだけどなー」
 リュカは口をすぼめている。
「どーしてもむり?」
「すまん」
「仕方ないなー、じゃあどこか休める場所を探そう!」
 とはいっても、玩具箱みたいなゴチャゴチャの山中にそんな都合のいい場所がそうそうあるわけもなく・・・
「王子、どこがいい?」
「座れればどこでもいいよ」
「そういうのが一番困るなー」
 リュキが口をへの字にしている。
「ねぇノリム、使い魔を飛ばして探してきてよ!」
「おっけー」
 オレンジ魔導士のローブからカラスが一羽、飛んで行った。
「へー、いろいろできるんだな」
「魔法使いだから」
 ノリムはうっすら得意げ。
「ん、見つけたもよう」
「ほんと? はやいね!」
「どこにあるんだ?」
「ここから南東。滝の裏に小屋がある。そこで休もう」
 俺たちはノリムについていった。
 あたりは草木でいっぱいだ・・・城の外ってこんなふうになってるんだな。
「リュキ、このへん剣で払ってくれよ」
「めんどくさいなー」
 とか言いつつやってくれる。優しいな。
「お、あったな」
 滝の裏をのぞきこむと小屋があった。
「ここでやすもう。あかりは?」
「私が出そう」
 ノリムが暖炉に火をともしてくれた。なんでもしてくれるなこいつ。
「ベッドがあるね。新しいみたい」
「定期的に管理人が手入れしてくれているのだろう」
「旅人に親切にする国は繁栄するらしいな」
 俺もいつか国を取り戻して、ちゃんと治世するんだ。
「うう、ねみー。ねるわ」
「大丈夫、王子?」
「長旅で疲れたのだろう」
「そーゆーこと」
 俺はベッドにもぐりこんだ。
 ゆっくりと眠りに包まれていく・・・・

 目を覚ますと、暖炉の火がまだ燃えていた。
 ノリムとリュキはとなりのベッドでぐーぐー眠っている。
 時間は・・・夜か。もうひとねむりできるな。
「ん?」
 俺はなんか固いものが腕に触れるのを感じた。
 一冊の本だ。
「日記か・・・」
 それは誰かが置き忘れていった旅の日記帳だった。ぺらぺらめくる。結構おもしろい。女性剣士の日記らしい。
「みんなたいへんだな・・・」
 はやく平和を取り戻して、安全にどこでも歩いて行ける国を作らねば。
 そんなことを考えながら、俺はふたたび、眠りにおちていった・・・





 目が覚めるとリュキが準備運動をしていた。
「王子!今日も頑張っていこうね」
「もうすぐ洞窟を抜けるっぽいんだっけ?」
 ノリムが魔法でいろいろ調べてくれていたのだ。
「ここを抜ければ隣の国だよ。そこで仲間を集めて、モドルの国を取り戻そうよ!」
「うーん、そうだな」
 結構、夢物語な気がするけど。
 俺はポキポキ身体を鳴らしてから、小屋の外へ出た。
 相変わらず薄暗い。
「ぽんぽんと魔物が出て来るのはいやだなあ」
「大丈夫じゃないかな。ノリムが露払いしてくれてるみたいだし」
 オレンジ色の魔導師が戻ってきた。
「あ、ノリム。様子はどうだった」
「問題ない。いける」
「そっか」
 俺たちは旅の支度を整えた。
 この洞窟さえ抜ければ、きっと・・・いや、少なくとも俺の追手の数は減る。
 いまは、それを信じていくしかない。
「なんか腹減ったな」
「おにぎりあるよ。はい」
「お、気が利くな。サンキュ」
 俺たちはもぐもぐとおにぎりを食べながら洞窟を進んだ。
「嫌なにおいがするな・・・」
「二酸化炭素かな? 空気が美味しくないね・・・」
「はやいところ通り過ぎちゃおうぜ」
 しばらく歩くと、渓谷に出た。
「コウモリがいるぞ」
「血吸いコウモリだったらやだねえ」
 などと言いながら、狭い足場を歩いて対岸へと渡る。
「暗いな・・あかりはないのか?」
「ノリム、火をつけて」
「御意」
 ノリムの杖の先から火が出た。
「よし、これで安全だな」
「コケの光だけじゃ暗すぎるもんね」
 俺たちは先へ進んだ・・・・・


「そういえば王子、クルシュラ王子とは仲良かったの?」
「クルシュラ? なんだよ急に」
「いや、ちょっと気になって・・・ねぇノリム?」
 オレンジ魔導士は頷いた。
「クルシュラといえば、キャッシュ王子の幼馴染。そのクルシュラ王子の国が攻めてきたのには、納得ができない。国交は友好的だったはず」
「そうだな・・・そう思ってたんだけどな」
 俺はぼんやりと杖の火を見ながら考えた。
「クルシュラはいいやつだった・・・・でも、野心があったんだ。いつか大陸を統一して王になるっていってた」
「そんな・・・だいそれたことを他国の王子に?」
「クルシュラは嫌われてたんだ。だから、誰もやつの言葉を信じなかった。でも、俺は信じてた」
「それは・・・どうして?」
「うーん、なんでだろ。うまく言葉にしづらいんだけど・・・あいつは、なんというか、やってくれそうな気がしたんだよ。口は悪くて、顔は悪党っぽいし、剣はからっきしだったけど、でもあいつには、何か輝かしいものがあった気がするんだ。だから、俺はそれを信じてた」
「……でも、クルシュラ王子は兵を挙げた・・・」
「そうだな。なんの交渉も布告もなかった。・・俺はあいつが要求するなら、なんでもくれてやるつもりだったのに」
「王子・・・・」
「しんきくさい話はやめようぜ! こんなこと、誰に言ったって仕方のないことだし・・・いまは、生き延びることを最優先にしないとな」
「・・・・うん」
 俺とリュキとノリムは、そこからさらに歩き続けて、ようやく日の光の下に出た。草原を踏む足に疲労と充足感が沸き起こる。
「ついた! ここが、隣の国、アルステイか」
「も~歩き疲れて足がパンパンだよ」
「・・・宿を所望する」
「もうちょっとだから頑張れって! よーし、いい国だといいなあ!」
 俺たちは街を目指して、歩き始めた・・・






 アルステイの国は魔法の国だ。だからホウキがびゅんびゅん飛んでる。
 俺たちは街のひとつに入って、空中を飛び交う魔法使いたちに目を回した。
「うわあ・・・都会だなあ」
「すごいね、王子。どういう仕組みなんだろう?」
「そりゃお前、魔法だろ、魔法」
「いいにおいがする」
「わかるのかノリム? ああ、魔法使いにはそういう嗅覚があるっていうもんな」
 マナのにおいはチーズケーキに似ているらしい。
 オレンジ魔導士がくんくんと鼻をひくつかせている。
「・・・おいしそう」
「魔法使いを食べるなよ」
「わるくない」
「人の話を聞こう」
 俺たちは通りを歩いた。
「堂々と歩いてるけど平気かな、王子?」
「ここまでは追手もまだ来てないだろ。それに、俺の顔なんて誰も知らないって、こんな国じゃ」
「しっ! 王子ってば!」
「あんだよ? ・・・・あ?」
 見ると、周囲の街人たちが「こんな国」という俺の言葉に反応してものすごい顔で睨んでいた。
 やっべーやっちまった。怒られる。
「王子ぃ」
「・・・・すまん」
「王子が頭悪いのは、元から。仕方ない」
「逆さに振ってパイパイ晒すぞオレンジ魔導士」
 俺たちは市場へとやってきた。・・・・買い物ばかりしている気がするが、どうにも旅というのはいろいろとイリヨーなのだ。
「なにがほしい? 王子」
 いろいろと売っているものはたくさんある。くだものとか、ロープとか。
 俺はちょっと考えた。
「うーぬ、逆にどうだろう、売らないか?」
「あ、あたしの剣は売らないよ!」
「誰もそんなことは言ってナス」
 剣を抱き締めるリュキに俺は言った。
「山小屋で日記を見つけたんだよ。なんか、名のある剣士のものとか言って金にしようぜ」
「王子、せこい」
「お前らだって俺の指輪を売ったじゃん!」
 罪としては似たようなもんじゃん。
「まあいいや、売ってくる。・・・おーい、親父。これ買って」
「いいよ」
 ヒゲはちょろいわ。あっさりと三千モールドになった。やったね。
「王子、商人になれば?」
 リュキが呆れてる。
「ばかやろー。俺は王子様なんだぞ。ひれ伏せ」
「えー。国が亡んだら王子なんてただのごろつきだよごろつき」
「なんてひどいことを」
 泣いちゃうぞ。暴れちゃうぞ。
「それよりも今日の宿を決めようぜ。どれがいいかな~」
 いろいろと宿屋の看板は出ている。なんか通りの五、六軒あるけど採算とれるのかな。激戦区すぎる。
 と思ったら、ノリムが解説してくれた。
「意外にこういう密集地では、客も『あそこへいけばなんかある』と思って、のこのこやってくる。だから相互扶助の面もあったりする。いわば他店がエリアの広告塔の役割を兼ねている」
「ノリム、おまえ大学出てるの?」
 俺のひいじいさんが建てた国立大学の学生みたいな喋り方で、俺はちょっとげんなりした。頭イイ人って、ニガテ。
 ノリムがふん、と鼻を鳴らす。大学生扱いされたのが気に入らないらしい。もしかしてノリムって貧しい家の出なのかな。そういう子は大学生を嫌ったりする。貴族しか通えないしね。
「それよりも、王子。今晩の宿を」
「おお、そうだった。えーとえーと」
 俺は道端の木の棒を起こして倒した。
「あそこにしよう! 『松葉の白馬亭』だ!」
「・・・決め方がダサイ」
「俺を言葉の暴力にさらすのやめてよ」
 王子様なんだよ?
 リュキとノリムに白い眼で見られながら(どーすりゃよかったんじゃい!)、俺は宿屋へと入った。
「いらっしゃーい!」
 お店の看板娘らしい、赤毛のツインテールそばかす少女がトコトコと俺の前にやってきた。
「ようこそ、『松葉の白馬亭』へ! 歓迎しますよ、旦那さま! ひゅーひゅー!」
「なんかイラつく」
「王子、ここは押さえて。目立っちゃだめだよ」
 リュキに袖を引っ張られてちょっと生地が伸びた。
「えーと、一晩泊まりたいんだけど。三人で」
「かしこまりました! 二部屋ですか?」
「え、一部屋」
 看板娘がリュキとノリムの手を取った。
「悩みや苦しいことがあるなら、いつでも聞きますよ、あたし」
「喧嘩売ってる?」
 人買いじゃねーよ!
「あはは……王子、おさえておさえて」
「なんかおまえも普通に俺のこと王子とか言ってるしね。なんなの?」
 隠れる気ナッシングじゃん。忍びなれども忍ばないのかよ。
「えーと、兄妹なんだ。一緒の部屋でよろしく」
「はあ!? ふざけないでよ王子、あたしそんなのすごくヤダ!」
「同意。王子は悔い改めて腹を切るべき」
「そんな悪いこと言った俺?」
 なんかもう「どこぞやの王子様なんだって」とか看板娘が受付にいるヒゲモジャのパパさんに耳打ちしてるし。パパさんすごくにこやかだし。もう会釈するしかなかったわ実際。
「・・・とにかく、一部屋で。ベッドは多めで」
「一つの部屋にベッドは二つまでしかないんですよ」
「だいじょうぶ、王子は床で寝るのが得意だから!」
「そんな王族いる?」
 まあ、その夜も寝ることにはなったけどね、床。
 ・・・・こんなんで大丈夫なの? 俺の人生。


4, 3

  



 翌朝。
 俺があくびをしながら目を覚ますと、もうリュキとノリムは支度を済ませていた。
「さあ、王子! 今日も一日、頑張ろうね!」
「そうだなあ」
 眠いんだけど、チェックアウトしなきゃだし。
 俺は肩をポキポキ鳴らしながら外へ出た。
「今日はどうするか。というか、これからどうしたらいいんだ?」
「仲間を集めようよ!」
「仲間ねぇ」
 そんなこといっても、傭兵を雇うのは金がかかるしなー。
「・・・傭兵である必要はない」
「どういうことだ、ノリム?」
「なにか恩を着せてコキ使えばいい」
「発想がゲスイよ」
 もっと明るく旅をしたいな、王子は。
「とにかく、ギルドへいってみようよ! そこなら人も多いし、誰かいるかも」
「そうだなあ」
 俺たちはギルドへ向かうことにした。


「ふーん、結構静かなところなんだな」
 酒場みたいなところを想像していたが、ギルドは受付があってソファがあって、なんか診療所みたいだ。
「ここで、仲間を探すのか」
「そうみたいだね」
「素性の分からんやつを雇うのかあ」
「・・・才能に貴賤はない」
 ノリムはずばずばモノを言う。
「しかたない。すいませーん」
 受付のお姉さんに事情を説明した。
 が・・・・
「ごめんね、いまは特に目的のない旅に同行してくれる冒険者はいないのよ」
「マジでぇー? なんで?」
「近くの山で金鉱獣が見つかってね。それをやっつけるのにみんな忙しくて。掘り尽くされれば、また人が戻ってくると思うんだけど」
「だからこんなに閑散としてるのかあ」
 俺は考え込んだ。
「どうすっか。その金鉱獣ってのがいると、用心棒が雇えないっぽい」
「みたいだねぇ」
「・・・・我々が金鉱獣を狩ればいい」
「ええ?」
 俺はノリムを見た。
「そんな無茶なことを言うなよ。たぶんすっげぇ強いぞ? 俺たち素人だし」
「私とリュキは凄腕。王子とは違う。へっぽこ」
「言葉の暴力とどまることを知らず。・・・ま、いいけどさ。ほかにやることもねぇし。よし、その金鉱獣ってのをやっつけにいくか!」
「おぉー!」
 両手を挙げるリュキ。恥ずかしいからやめて。
 俺たちはギルドをあとにした。

「食料と水と・・・ああ、また金が出て行く」
「金鉱獣をやっつければお金になるよ! だいじょぶだいじょぶ」
「その自信はどこから来るわけ?」
 俺のプランでは、現地にいってから金鉱獣を倒すって名目で誰かと手を組み、なし崩しに用心棒になってもらうアイディアなんだけどね。それが現実的でしょ、実際。
「ふっふっふ、わが愛刀に切れぬ王子なし!」
「オレを切ってどうする」
 おいしくないよ。
「リュキ、今回はお前が頑張るんだぞ。金鉱獣なんてバケモン、オレたちじゃどうにもできねぇっぽいし」
「・・・援護は任せて」
 俺とノリムにリュキはにぱっと笑う。
「まっかせといてー! 王宮近衛団の切込み隊長の名を知らしめてやるさ!」
「隠密にお願いします」
 忍んでね。追われてるから。
 俺はかなりの不安をいだきながら、その金鉱獣とかいうのがいるモルオネス山脈へと足を踏み出したのだった。
 ・・・・成り行きでいくことになったけど、結構あぶなくねぇ? このクエスト・・・・


5

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