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女教師の日曜の夕方

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 日曜の朝、目が覚めた神田佳奈は二日酔いに苦しんだ。仕事に忙殺される中学校教師の佳奈は、毎週土曜の夜にバーで酒を飲み、そこで出会った男と性行為をすることでストレスを解消していた。しかし昨夜はなんとなくそうした行為に罪悪感を覚え、帰宅後も深酒をしてしまったのだ。
 酒を飲んで罪悪感を忘れたかった佳奈だが、二日酔いの苦しさは自己嫌悪を強めた。部屋に独りでいてはいつまでも気分が晴れそうになかった。スマートフォンに手を伸ばし、誰かに連絡をとることにした。
 ふと、大学生の時に付き合っていた人のことを思い出した。一つ年上の先輩で、初めてできた彼氏だった。彼は卒業と同時に地元に帰ってしまい、そこで二人の関係は終わった。嫌いになって別れたわけではないのでしばしば連絡はしていたが、佳奈が教師になって環境が変わってからはそれもなくなっていた。
「久しぶり。元気にしてる?」
 なんとなくメールを送ってみた。彼は優しくて頼りになる人だったから、自分が抱えているモヤモヤをなんとかしてくれるんじゃないか。そんな都合のいいことを少し考えていた。
 ほどなくして彼から返事が返ってきた。偶然にも彼は今、所用で佳奈が住む町の近くに来ているらしい。さらに昼からの予定が急にキャンセルになって暇を持て余しているという。ランチの約束を取りつけた佳奈は、少し笑顔になっていた。

 待ち合わせ場所に着くと、彼がすでに待っていた。佳奈に気付くと彼は笑顔を見せた。言葉をかわしながら大学時代に二人でよく行った思い出の店に向かった。彼は相変わらず格好良かった。大学時代も大人っぽい落ち着きを感じさせる人だったが、それは今も変わっていない。自分も社会人になって少しは大人になったつもりだったけど、とてもかなわないな、と佳奈は思った。
 店で食事をしながら互いの近況報告をした。彼も仕事が忙しいようだがやりがいを感じているので辛くはないらしい。
「うらやましい」と佳奈は答えた。
 自分は仕事の忙しさに心が折れそうだ。やりがいを感じられるほどの余裕なんて持てない。こんな自分が子どもたちの手本になる仕事に就いていていいのかと思うことすらある。そんな風なことを彼に語った。自分が教師不適格と考える理由が度を越えた男遊びだということは言えなかった。
 彼はそんな佳奈の愚痴を真剣に聞き、佳奈の苦労をねぎらった。
「そんな風に悩むのは仕事のことを真剣に考えているからだよ。教師としてダメだなんてことはない。自信持っていいよ」
 彼は昔と変わらず優しかった。自分の価値を認めてもらえた気がして嬉しかった。昨日から抱えていたモヤモヤも、どこかに行ってしまったような気がした。
 近況報告を続けながら佳奈はさりげなく「今は彼女とかいるの?」と聞いた。いないと彼は答えた。それを聞いてから佳奈は自分も彼氏がいないことを伝えた。その後は思い出話に花を咲かせた。二人が付き合っていた大学時代の、幸せな思い出を語り合った。

 食事を終えて店を出ると、彼が
「この後どうする?」
 と言った。
 昔何度も聞いた言葉だ。大学時代はこの店で食事を終えた後、近くのラブホテルに行くことが多かった。「この後どうする?」はその合図だった。
 当時の佳奈はラブホテルに行きたいと思っていても恥ずかしくて言葉にできず、なんとなく察してもらっていた。今の佳奈はそんなうぶな乙女ではないのだが、彼の前では自分の性欲を言葉にすることにためらいがあった。今の自分たちは恋人同士ではなく元恋人同士というあいまいな関係であることも迷いの元だった。
 それでも、このとき佳奈は彼とセックスがしたかった。
「こんなこと言うと嫌われるかもしれないけど…。迷惑じゃなければだけど…」と予防線を張ってから、佳奈の方から彼を誘った。

 ラブホテルの一室に入り、二人はベッドの上で抱き合った。一枚一枚相手の服を脱がし、そのつど相手の肌のぬくもりに触れあった。
「最近少し太っちゃって…恥ずかしい」
 佳奈がそう言っても彼は微笑んでいた。
「大丈夫。佳奈はかわいいよ」
 そう言って佳奈を抱きしめながら頭をなでてくれた。
 佳奈は自分より少し背の高い彼に、包まれるように抱きしめられることが好きだった。幸せな思いで胸がいっぱいになりながら、佳奈は彼の鎖骨のあたりにキスをした。彼は佳奈のうなじにキスをした。何度もキスを繰り返しながら二人の顔が近付いていき、やがて唇と唇が重なり合った。
 舌を絡ませながら互いの体を愛撫した。彼の手が佳奈のお尻を優しくなでた。くすぐったいが気持ちよかった。彼の手はお尻や太ももをなぞった後、わき腹の上を通って乳房のあたりにたどりついた。最初は軽くなでていただけだった手が乳房全体を優しく包み込んだ。佳奈は声をもらした。しばらく乳房を揉まれたり舐められたりしてから、お返しにと彼の性器に手を伸ばした。今度は彼が声をもらした。
 とても幸せな時間だった。彼に気持よくしてもらっているし、自分も彼を気持ちよくすることができた。もっと彼に気持ちよくなってもらいたいと思い、彼の足の方に体を動かし、彼の性器にキスをした。彼が気持よがるポイントはどこだったか思い出しながら、性器のいろんなところに唇や舌先で軽く触れていった。それから性器の先端にキスをし、舌を這わせ、ゆっくりと口の中に入れた。歯を当てないように気を付けながら顔を上下させ、舌全体で性器をなでた。最初はゆっくりと、そして徐々に動きを激しくしていった。
「気持ちいい」
 そう彼が言ってくれた。それを素直に喜んだ佳奈だったが、
「上手くなった?」
 と言われた。
 ドキリとした。なんでもない風を装って「そう?」とだけ返した。
「前よりすごく気持ちいい。久しぶりだからかな」
 彼はそう言った。今さら下手になるのも変なので、性器をくわえた顔を懸命に上下させた。彼の顔を見るのが少し怖くて、性器に意識を集中させた。

 その後彼は避妊具をつけ、性器を佳奈の膣内に入れた。行為の最中、佳奈は心の中に多少後ろめたい気持ちを抱えていたが、幸せだった。自分は幸せなんだと思いこもうとしていた。

 彼が射精し、佳奈の中から性器を取り出した後、二人は抱き合って言葉をかわした。
「今日はありがとう。仕事の愚痴も聞いてもらったし…。久しぶりにこういうことできて嬉しかった。私のこと受け入れてくれて嬉しかった」
 佳奈は言った。本心だった。そして自分はやっぱりこの人が好きなんだと思った。しかし自分ではこの人と釣り合わないとも思っていた。
「また昔みたいな関係に戻れたら…。なんてちょっと思っちゃった」
 そうは言ってみたがそれが無理な話であることは佳奈にも分かっていた。
「俺も同じことを思ったよ。でも、遠距離すぎて、俺には佳奈を幸せにできないから…」
 大学時代、別れるときにも彼が言った言葉だった。あの時、大学を辞めてでも彼についていけば今も幸せだったのかもしれない。けれど当時の佳奈にはそんな度胸はとてもなかったし、今の佳奈でも仕事を辞めて彼の元に行こうなどとは思えなかった。価値あるもののためにリスクを恐れない生き方は、佳奈にはできなかった。全ては佳奈自身が選んだ結果だった。
「分かってる。ちょっと言ってみただけ」
 佳奈はそう言って彼の性器へ手を伸ばした。
「でも今はもう少しだけ…。だめ?」
 柔らかくなった性器をなでながら佳奈は言った。彼は佳奈を抱きしめ、またうなじにキスをしてくれた。少し時間はかかったが佳奈は彼の性器を再び勃起させ、自分の中へ入れた。佳奈は彼と一緒に、ただただ腰を振っていた。


 ホテルを出ると夕陽があたりを淡いオレンジに染めていた。二人は駅へ向かった。彼はこれから空港に行って飛行機で帰るという。
 電車に乗る彼を見送った。
「またね」と言って手を振った。彼も笑って手を振ってくれた。

 家に帰りながら、佳奈はぼんやりとしていた。頭の中がモヤモヤしていたが、今朝と違って不快な気持ちはあまりなかった。
 今日の出来事を通して自分が何か変わったとは思わない。自分は結局のところ独りぼっちで、弱い人間だと思う。だけど彼といる間はその弱さを忘れることができた。そして今も、前向きな気持ちになったとまでは言わないが、後ろ向きな自分を忘れられている気がした。
「自分を変えよう」
なんて大げさなことは思わなかった。だけど、なんとなく自分は変われるような気がした。それが気のせいだっとしても、そう思えているのは彼のおかげだった。
 夕陽を浴びて、幸せとは少し違う、満ち足りた気持ちになって佳奈は家路を歩いた。


<終わり>
【作者あとがき】
 読んでくださってありがとうございます。
 この小説は先に投稿した『女教師の日曜の夜』の続編です。岩倉キノコ先生に感想を書いてもらいたくなって急きょ執筆しました。
 ご意見ご感想などいただけると嬉しいです。
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