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35 Cigno,The Southerner Of Fargentia

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 数日後の休日、マリアはデモテープを持参してシグノのアパートに来た。今度はベーシストだという少女がいた。〈帝都魔導大学〉の学生だが、就職に失敗し、留年中だ。西海岸のこんなところにいて、おまけに就職活動している様子はない。かの大学は〈火の学院〉に次ぐ名門だが、その魔導師、サブリナ・フォールンはひどくやる気がなかった。ヴァーレインといい、帝都の高学歴な大学生は怠惰な者しかいないのかとマリアは思った。
「毎日同じ時間に起きて、電車に乗って、会社へ行って、帰ってくる、そんな日々、果たして有意義ですか? それを選択しなければいけないのか、私は?」サブリナがぶつぶつと言う。
「少なくとも今のお嬢みたく、毎日昼まで寝て、夕方までぼーっとして、酒を飲んで寝る、それよりかは有意義だと思うんだよな」シグノが言う。「無職業の人間は慎ましくあるべきだ、そうでしょう、マリアさん」
「そうだけど慎ましく生きられない人間だっていますからね」マリアはアーシャを思い浮かべながら答えた。
「確かに。じゃあちょいと失礼してテープを聞かせてもらいますよ」
「どうぞ、ひどいもんですけど」
 聞き終わってシグノは言う、「ああ、いいですね。ひどいっていうからどんだけひでえのかと思ったら、ぜんぜんうまいですよ。このドラマーさんとベーシストさんは特にいいです」
「そうですか?」
「はい。オレもサブリナもこんなテクニックはないです。マリアさんの歌も断然アレックスよりうまいし、なにより曲にセンスがある」
「それはそうですよ。〈ブリーズエイジ・プロウラーズ〉の曲をパクって歌詞変えたのだから」
「そうなの?」
 シグノはそれを踏まえて再度聞き、「ああ、マジじゃん。これとか〈ロンサム・ビリー〉だ。こっちのは〈デッド・ロック〉だよ。へえ」
「ポイントはうろ覚えの段階でやるってことです」
「そうだなじゃあオレたちはこれを更にパクろう。そうすれば〈ブリーズエイジ・プロウラーズ〉の盗作、って怒られても、〈クロスロード・レインボウ〉のパクリなので違いますって言える。ミュージックロンダリングですよ」
「いいアイデアだね」
「これ以上曲増えるのかよ……」サブリナがうんざりした顔で天井を仰いだ。それを気にすることなく、シグノはその場で三曲ほど〈クロスロード・レインボウ〉を模倣して作成した。
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