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第三話 試行錯誤

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「謝らなくていいですよ。あなたは悪くない、ただ騙した僕が偉いだけ」
 キルトの言が私の心に刃を立てる。
 キルトと言う敵、死と言う恐怖。遠ざけようと思えば思うほどそれは近
づいてくる。それはあの時も同じ。
 死という恐怖から逃げ出したあの日。私は大切な人を失ったのだ。

 
 だからもう逃げださない。そしてあの事件の犯人を捕まえるまでは絶対
に死ぬわけにはいかないのだ。

 私は唇をかむとキルトを見る。

「レンゲさんのその目。覚悟を決めた目だ。現状僕の優位に変わりはあり
ません。ですが、あなたの覚悟が本物なら僕ごとき簡単に越えていってし
まうでしょう。レンゲさん、見せてください。あなたの武器を、その思考を。
あなたのすべてを偽ったその時、僕が勝利するのです」
 キルトはそう言い手札から一枚場に出す。
 捨て札はない、つまりは1? いや、そんなわけはないだろう。
 このゲーム、札を捨てるタイミングは決められていない。あるのは制限
時間だけ。つまり、相手にできるだけ情報を与えないようにするには相手
が場にカードを出してから札を捨てるべきである。
 よって、私が現在この状況から視覚的に得られる判断材料はない。あとは
相手の残る手札から出す手を読むだけ。

 制限時間は二分。私は思考する。


 時間も少ない。まずは目標を決める。
 私は現在一敗している状態。ここから勝利するのは難しい、ほぼ不可能と
言ってもいいだろう。だから私が目指すのは引き分けることだ。
 二勝一敗一分、もしくは一勝三分、これを目指す。


 次にキルトが出す可能性のある手を整理。


 キルトの手。それは大きく分けて二つに分類できる。
 四枚出す場合と三枚出す場合、この二種類だ。
 キルトはあと二勝で勝利だが二枚はない。なぜならキルトの手札の残りで
大きい方から二枚出すとすると、「8」「9」。そしてそれを出せるよう
にカードを捨てても「1」を出せる。つまり最低三枚。カードは出てくる
ことになる。

 まず4枚出てくる場合を考える。
 キルトは2,3を消費しているはずだから、残り1,4,5,6,7,8,9の
七枚。この中から四枚場に出そうとすると1,4,6,8。この組み合わせし
かない。

 では、三枚の場合はどうだろう。さっき考察した1,8,9のパターンが
一種。あとは場に出せる数字が最大となる場合である、
『5,6,8』、『4,7,8』、『4,6,9』の三種。

 以上五種と考えていいだろう。そして『5,6,8』、『4,7,8』、この
二種の組み合わせは四枚出す場合である『1,4,6,8』と比べた時、最後
のゲームでカードを出せなくなるにもかかわらず決め札に欠ける。私なら
出さない。だから、次の相手の一手が出るまでは考えない。


 もう残るは一分、汗が頬を伝う。
 『1,4,6,8』『4,6,9』『1,8,9』、この三種に絞るまではいい……
だがキルトがどれでくるか、決め手はない。

 私の持ち札は2~9の八枚。
 キルトが行ったさっきのパフォーマンスを鑑みるに1や9と言った極端な
手を出す可能性が高い気もする……ならば3捨ての2がベストなのだろうが
本当にそれでいいのか?
 キルトの大げさな言い回し、明らかに作られたものだ。つまりは私から
2を引き出すためのパフォーマンスだとしたら……

 ああ、だめだ悩んでいたところで今の私にはキルトが何を出すか考えて
も分からない。ならば……


 タイマーの残りは10秒。キルトが手札のカードに手をかける。

 私はカードを捨て、そしてさらに一枚を場に出す。




 出そろったカード。私は目を閉じる。

『被験者のカードが出そろいました。結果を表示します』



 モニターがうなる。そこに表示されたのは……私の勝利。そして、
9, 8

  

 逃れられない私の敗北、それがモニターには映し出されていた。




――――――――――
代理戦争 第2ゲーム終了

戦績
 キルト 1 ― 1 レンゲ
手札
 キルト 4,5,6,7,8,9
レンゲ 2,3,4,5,6,7


        残り 3ゲーム





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