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まとめて読む

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幼い頃から
自分は殺人鬼に
なるのではないかと
確信に近い恐怖を
抱いていました。

猫をいじめ
犬をいじめ
人をカッターで刺し
警察ざたになるやら
ならないやら。

人には馴染めず
世間には愛想を尽かされ
自分自身も特に
愛想がないので
生きることを簡単に
単純にしようと
つとめました。

トラウマといえば
父親に
犯されたことでしょうか。
僕は男ですが。

もうどうでもよくなり
人間をやめ
数年経ち
同じような女を
ひとりみつけました。

女の名前はロコモコ
リストカットの女
目を離すと
トイレの洗剤を
たらふく飲む
可愛い女です。

胃洗浄は辛い辛いと
後になって言うくせに
何度も自殺狂言を
繰り返しおって
寂しいんでしょうか。

もう26にもなるロコモコは
中学生の頃から自殺未遂を
繰り返してるよーです。
思春期特有のもんだと
周りからは放置されて
いましたから、
癖のように
残ってしまいました。

ほとんど構ってほしいだけの
お遊びですから
深刻めいた後遺症も
残っておりません。
ただ手首の傷だけは
ワニのウロコのように
ありますが。

その様は可愛くて
可愛くて
僕に苦しい助けてと
叫ぶたび
僕は必要とされている
実感を味わうのです。

僕が大慌てで
慌てながら
救急車を呼ぶと
ロコモコは
過去のトラウマを
泣きながら
何度も訴えます。

生まれてくるんじゃ
なかった。
生まれてくるんじゃ
なかったと
何度も叫び
僕もロコモコも
そのたびに
涙を流します。

僕は
ロコモコに
「君が生まれてきて
嬉しいんだよ」と
涙ながらに
訴えます。
その陶酔感!
その幸福感!

まるで世界に
二人だけになったような
共同体になれるんです。
自分達だけが
清らかで美しい存在だと
思わず錯覚して
しまうほどに。

僕たちは
そういう
虚構の
「陶酔ゲーム」で
日々を繋いでいます。

このゲームは
なかなか生命維持に
ぴったりなもんで
この自己陶酔がなければ
ふたりとも
さっさと道を外れて
いたでしょう。

僕は人殺し。
彼女は自殺者。

将来のビジョンが
それしか見えないんですから
仕方ありません。

それは魚屋の息子が
「俺は父さんの後を継いで
この魚屋を経営するんだろうな」
というくらい
自然体でなんの不自然もない
ビジョンでした。

道を歩くたびに
にやにやしてる連中を
殺したいですから。

劣等感というには
足りません。
嫉妬とはほど遠い
感情です。
使命感というのが
正しいでしょうか。

僕は堕落した
この世界の人間を
何人か抹殺して
この世を綺麗する
必要があるのです。

それはつまり、正義感でした。
正義の為に
僕は人殺しをしたいのです。

醜い人間は
死んでいいのです。

そうなると
真っ先に死ぬべきなのは
僕なのかも
しれませんが、
とにかく使命を
果たしてから
僕は
死ぬべきでしょう。

最初の始末は他人。
最後は醜い僕を
始末するのです。

なんというエコ。

忘れもしません。
8月24日。
夏の終わりに近づいて
コオロギが
ちろちろと鳴く
夜でした。

僕は缶ビールを
何本か買って
ロコモコの家に
帰りました。

ロコモコは
死にかけていました。

僕は大慌てで
救急車を呼びます。
二人して泣いて
わざとらしく叫びました。

病院の人は
「またですか」と
ため息をつきました。

そんな言葉に
水をさされ
心を抉られながらも
僕達は
陶酔ゲームを
始めます。

生まれてくるんじゃ
なかった。
生まれてくるんじゃ
なかった。

なにがそんなに
悲しいのでしょうか。
なにがそんなに
苦しいのでしょうか。

合理的になれば
いいのに。
世界はこんなに
合理的なのに。

いや、
合理的でないものを
求める僕たちが
こうして日陰で
破滅を待つ姿も
不必要な物を
処分する
世界の合理的な
姿の一つかも
しれません。

忘れもしません。
前日に
ナイフを買っていました。


ロコモコは
いつも
死にたいそうでした。

ロコモコは
生きる意味が
わからない
子供でした。

何時の時代も
恋愛が人を救います。
パンドラの匣には
希望があります

僕にとっての
虚構ゲームは
その唯一の希望
だったのかも知れません。

いえ、斜に構えていました
白状します
虚構ゲームは
僕の求めていた
素晴らしいリアリティーでした。

お互い再起不能までに
傷を負った二人が
傷を舐め合い
癒し合うのです。

優しい感覚に
包まれて
生きる希望を
僕は
見出していました。

ですか
ロコモコは
違うみたいでした。

「あなたと付き合った時間は
全て無駄だった」
内容より
ロコモコの口から
そんな強気な言葉が
出たのは意外でした。

「あなたの優しさが
私を腐らせたの
あなたさえいなければ
私はもっと美しくなる
努力をして
器量よしになって
素敵な人になっていたはずなの」

「あなたの無責任な
優しさで私は
駄目な人間に
なってしまった
貴方は悪魔よ」

僕は狼狽えました
いつもの彼女の
暴れ方じゃありません

早く私の家から
出てってよ、と
怒鳴られました。

僕は告げる言葉も
なく
家から出て行きました。

僕の愛は嘘でした。

偽物の愛は
一方的に打ち破られ
僕はまた孤独になりました。

失恋の苦しみとは
陳腐なものです

ですが、失恋以前に
僕本人の
大きな愛情が
打ち破られた
気がしてなりません。

或いは一方的な
その
愛の偽物は
単なる感傷に
近い
お遊びに
過ぎないものかも
しれません。

感傷を忘れて
獣になれと
いうのですか。

強くなって
ロコモコの様な
女を見下し
軽蔑しろと、
本当の愛とやらは
僕に囁きます。

強くなれ、とは
ただ人を捻り潰し
我が先にと
生き抜くだけの
野蛮な所業に
過ぎない気がします。

そうしなければ
生きていけないんだよ、と
人は卑屈な笑みを
浮かべて笑います。

また、そんな卑屈を
一つも
僕が持っていないとは
言い切れません。

僕もまた
穢らわしい獣の
人間の一人です。

悪い奴は
殺さないと。

僕はナイフを持っていました。
思った以上に
弱っていました。

僕はナイフを
持っていました。






2, 1

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