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お題:電池 作:和田 駄々

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「地球電池」


 それは皮肉にも、油田開発の地質調査中に偶然見つかった代物だった。
 
全長約500km、直径100km。人工物のような綺麗な円筒状で、その巨大過ぎるサイズを無視したとしても、一体誰がどうやって有史前の地層に埋めたのかという疑問が残り、またその素材は、地球上には存在しない物質で出来ていたので、どんな高名な科学者や知識人でも、「神」や「宇宙人」といった稚拙な単語を使わずに、この物体の説明をする事は出来なかった。
 
「地球電池」という呼称は、何も形状や硬い材質から連想されてつけられたものではない。同時期、人類の新たな発見として、地球の自転の「減速」が、徐々に大きくなっている現象が観測された。これも地球電池同様に有史以来の大発見であり、一時期はどちらのチームがノーベル賞を取るのかといった事で話題にもなったが、それら2つの事象の関連性が証明されると、人類は迫り来る危機をその肌で感じる事となった。

 地球電池の呼称は、即ちそのまま地球に対してエネルギーを供給しているという意味から来ており、そして自転の減速は、地球電池の残量が少なくなっている事を意味している。結果、ノーベル賞はこの関連性を証明し、学会にて「地球は電池で回っていた」と発言した博士に送られる事となった。今まで築き上げて来た物理学が全てひっくり返った瞬間である。
その後、計算によればあと約10年で地球の自転が完全に停止するという事。そして地球が停止すれば、公転軌道にも大きな差が生まれ、地球は太陽によって引っ張られ、燃え尽きるという予想が発表された。現実には停止するよりももっと早い段階において、日照時間の変化は生態系に多大なる影響を及ぼし、あらゆる生命がその存続を危ぶまれる事になる。人間とてその例外ではない、と同博士は付け加えた。
 発表を受け、すぐに地球電池の研究は開始された。どうすれば人類滅亡の危機を回避出来るのかという疑問は、どうすれば地球の自転を早め、調整する事が出来るのかというテーマに通じ、即ち、どうすれば地球電池に新たにエネルギーを供給する事が出来るのかという目標を生んだ。各国の科学者が頭を捻り、人間が発電した電力を地球電池に充電する方法が開発されるのにそこまで時間はかからなかった。太陽光発電、原子力発電、火力発電といったあらゆる発電装置から、地球電池の残量を復活させる事が可能になったのである。
 
しかしながら、それはあくまでも技術的に可能になっただけであり、十分な電力が賄えるかどうかはまた別の問題だった。
地球を自転させているエネルギーは、その上で暮らしている人類にとっては想像もつかない程の膨大さであり、以来、各国政府は国民に対して節電を促したが、日常で人間が使っている電力が多少節約されたくらいで問題は解決せず、夏にクーラーの温度を3度あげた所で雀の涙ほどの効果もないというのが現実だった。

 世界中に発電所が乱立した。人類は、今までただ使ってきた地球の自転エネルギーを、自分達で賄わなければならなくなったのである。サミットにおいてそれぞれの国に対して発電ノルマが割り振られると、各国首脳達は頭を抱える事となった。
水力や風力は広大な土地を必要とし、天候によって安定しない。火力や原子力は効率こそ良いが資源が足らず、リスクもある。そこで、新たなエネルギーが模索される。
 
その中で最も成果を挙げたのは、遺伝子操作によって生まれた全く新しい「藻」だった。
その藻は水と日光さえあれば勝手に繁殖し、葉緑素を使って発電する。そして互いの身体を通しながら、藻に接続されたケーブルに電力を送り、そのまま地球電池へと充電される。世界中どんな環境でも勝手に繁殖し、火には弱いが管理の手間を全く必要としないのが最大の特徴だった。
各国はこぞってその藻を自国の領土にばら撒いた。国土の狭い国においては、すぐに人間の生活圏に藻が入ってくる事になった。しかし藻を広げるのをやめれば地球電池への電力供給が途絶え、日常で使える電気が無くなれば、生活水準が何百年も後戻りしてしまう。人間に退化は許されなかった。
 
戦争が起きた。充電が足りないのであれば、人間の使っているスペースを藻に譲ってやれば良いのだ。表向き、各国の開戦理由はバラバラだったが、その実発電ノルマの達成と人類存続の為、殺し合いは続き、核によって汚染され、傷ついた地を藻が覆い隠して行った。第三次世界大戦はエネルギー危機から始まった。
 
人類最後の日から数千年。すっかり原始の姿へと戻った地球だったが、藻は地球全体に繁殖し、地球電池への電力供給は自動で続いていた。
 そしてある日、
ピー、という電子音が地球全体に響いた。少し経ち、惑星より遥かに巨大な来訪者が現れる。それが一体何かは分からないが、地球に電池をセットした者である事は間違いない。

「よし、充電終わってるな」

 その者が電池を引っこ抜くと、後には空っぽの惑星だけが残った。


お題:電池
タイトル「地球電池」

所感

 まずは目安で最低の2000字で、とりあえずオチのあるものをやっておきたかったので、ジャンルとしては台詞のほぼ無いSFをチョイスしました。お題「電池」に対するアプローチとしては、話に出てくる道具として扱う(例えば、エフ博士がこんな奇妙な電池を開発しましたよ、とか。そういやドラえもんに力電池ってあったな)がベタかなと最初は思いましたが、掌編であって無理にショートショートにこだわると今後の自由度が減るかもなあという事で、発想を変えました。
 イメージとして電池といえば、小さく持ち運びが出来て、身近な存在(業務用のバカでかい奴とかは除く)なのが普通かなと思ったので、ではいっその事スケールを極大まで膨らませて、「地球電池」と銘打てばそこそこ興味を引けるかと判断しました。
 SFとしては、終末論とエネルギー問題は最新の流行からは外れていて(ガチSFなら流行はシンギュラリティとAIとか?)、どうしても古臭い感は拭えないので、まあだらだらと使い古された設定を並べるよりは、さくさくっとテンポ良くやっておこうという方針でまとめました。
 まあSF自体あんまり得意なジャンルではないんですけど、短い話でならボロが出る前に終わらせられるし、諸所の突っ込み所(無重力だから自転してんだろ、とか)は尺を言い訳に出来るので比較的楽ですね。文章はやや固、語彙も難しくならないように絞りました。辞書引いてると書くの時間かかるしね。ストーリーもあってないような物なので、頭を捻る事なく書き進められました。しかしそれらの代償としてテーマが空白です。
 そもそも掌編小説って言葉の定義としては2000字というのも多すぎるのかもしれないな、と思いましたが、最低限お話として成立させるにはこのくらいがちょうど良いと、個人的には。
 という訳で、同じお題「電池」での道場破りを募集。あと別にSFとかこだわらなくていいです。
3, 2

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