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妄想

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女性のお股を、躊躇しながら舐めるシーンを思い浮かべている。
僕は冷や汗をかきながら、舐めたくないその部位を見つめ、顔を梅干しのようにしわくちゃにしかめている。
女性の両足首を握った僕の両手は股を開き、グリコのマスコットみたいに腕を上げている。

唇からちょろっと舌を出した顔をゆっくりゆっくりと、その目的地へと近づけてゆく。
目的もなにもアソコにはないのであるが、僕はまるで強制的な夢をみさせられているかのようである。
しかし、確実に僕は、まるで気持ちとは裏腹な興味を抱いていた。

女性のその液がちょろっと舌に触れる。

僕は塩っぽい味がするとろりとした液と、その女性の顔とを見比べる。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

僕の舌はまるで石油を舐めたようになっていて、光に反射する虹色が舌の粘膜へまとわりついていて、舌を口の中におさめてみても、まったく唾液に舌が馴染まないのであった。

その気持ち悪さを僕は幾度となく、日常のぽっかりあいた空間と時間の中で思い出していた。

思い出していた、とあるが、別にこれは僕の思い出などではないことを先に断っておこうと思う。

女性のあれこれを思い浮かべて微笑み、にやけるのではない。
決まって僕はこれらの事象を思い浮かべて"しまって"、気持ち悪い思いをしてしまうのだ。

何らかの病のようなこのような回想にはほとほと呆れ果てている。
まるで、全く好みではない外見や背丈や匂いのする女性が、しつこく僕にまとわりついてくるような感覚と酷似している。

いや、この場合、僕の方から女性側へと詰め寄っていることが、僕にとっては最も気の毒な現象であるだろう。

ついでに、このように女性のお股を舐める行為を"クンニ"と呼ぶらしい。

クンニってなんだ?という感じで、まったく馴染める単語ではない。
覚えたての英単語が頭の中で右往左往して、まったく関係のないものをその英単語で呼んでしまうくらいには、馴染めない。

多少ふざけるが、僕はこの単語を初めて聴いた時には、小さい頃熱中して観ていたテレビアニメ「忍空-NINKUU-」を思い浮かべた。クンニ、ニンクウ、クンニ、ニンクウ、クンニ・・・・・、と頭の中で反芻しては、特に特別な感情も無く、、、といった奇行が繰り返された。

お股を舐める行為とはもしかしたら、忍者がするようなコソコソやるようなお忍びの行為なのかなあ、、などとも妄想は膨らんだ。
常識を挟むと、もちろんお忍びであり、"みんなの前で"などと情報開示された世界で行われるような行為ではない。

しばらくして思いつくのは、僕はそのクンニにとてつもなく不快感を覚えているみたいであるのだ。
言い換えれば、僕の潔癖が進んだ。

女性が男性のペニスを舐める行為にはそのような拒絶感はない。
冷や汗をかくどころか、観ていて気持ちいいとすら思える。だが、そのような行為を想像して頭の中でイメージすることはない。
すべて3次元の画面からイメージを捉えているのみであり、実体を伴わなければ、イメージはしない。

これがまたおかしな点である。

トラウマのような嫌な感覚を抱くものはよく思いつき、イメージするが、、観ていて気持ちよく、自然な印象のものは、ぽっかりあいた空間と時間の中ではイメージされないということである。


ところで、なぜ、僕はクンニに囚われてしまうのだろうか?


現在が夏真っ盛りで、お盆だからだろうか?
つまり、人間ならざる何者かのいたずらで、僕の妄想を僕の堪え難いものに置き換えてしまうような働きかけが行われた可能性もある。

最近のクンニ妄想での被害などについては、ついに女性の花びらから緑色の液体が流れてきた。それを僕は味を確かめる為に何故か半ば強制的に舐めなければならないのである。

どぶのような匂いがしたことだけ、報告しておく。
まるで、家の犬の口の中の匂いと酷似している。

ご先祖様が「さっさと墓参りに来い!」とうるさく文句を言っているような気がしないでもない。

僕はこの妄想のメッセージをどう受け取っていいのか悩んでいる。
これはメッセージなのか、それともただの暇人が行き着いた脳内活動なのか。

後者だとしたら、非常に厄介なことになってしまったと思う。


それに、僕はたまに重機に体が押しつぶされる妄想までみている。

庭に咲き乱れる種々の夏の花をみつめて、声も発さず、じっと動かず、まるで変質者のごとき様態でイメージしていたことはといえば、僕は数台の重機にのしかかられて、右腕が壊死し、左の掌は何故か、とがった鋭利な鋼鉄に手の平を串刺しにされていて、右足のふくらはぎの上には重機のローラーがのっかっている。もちろんそれも壊死している。

動くのは首から上と、左足のみである。


お花畑をみつめながら、旅立つ先は「血まみれ瀕死状態の自分」である。


このような妄想が数日続いている。
もしかしたら、本気で起こることの前触れではないかとの思考が、現実でお花畑をみている僕の意識とぶつかる。

妄想をすることは、僕にとって夢をみていることに近い。
現実に、我にかえったときに、そんな想像をしていたことを思い出すと、現実の自分はイメージしたことが本当にこの身にふりかかりはしまいか、、と夢で観たことも現実的な出来事として受け取ってしまう。

それがいささか不味いなぁー・・・と思いつつも、僕は妄想を繰り返してしまう。

下手な鉄砲、数打ちゃ当たる、、という文句が非常に怖みを帯びることもあるのだなぁ、、としみじみと感じた。


ところで、今僕の両目には、庭に咲き乱れる種々の夏の花をみつめて、声も発さず、じっと動かず、まるで変質者のごとき様態で坐っている男が映っているのだけれど、この男もまた僕と似たようなまなざしをしていた。

僕はその男の真横で、女のお股のことや、重機のことをいつもと同じように妄想していた。

そう、・・・・彼に寄り添うように。


BY 影を持たない男より。
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