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44話 アリューザに咲く花

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44話 アリューザに咲く花






  ───飢餓と貧困に喘ぐ甲皇国。
 |古代《エンシェント》 エルフによって呪われし骨の大陸は、多くの民を養うには不足していた。
 生まれたての赤子が死にゆく泣き顔が、大人たちの瞼に焼き付いて離れない。
 国民は、明日なき日々に苦しみ、絶望していた。
 そんな国民を救わんと、国家の指導者たちが立ち上がった。
 甲皇国皇帝クノッヘン、陸軍大臣ホロヴィズ。
 呪いをかけた憎きエルフをはじめとする亜人どもを滅ぼすべく……。
 彼らは国民に生きる希望と、勝利の栄光を与えた。
 彼らが主導するアルフヘイムとの戦争は数十年もの長きに渡ったが……。
 弾圧と暴力と共に……。
 骨の民が征くは、勝利の覇道か、あるいは破滅への道か……。





「撤退は許さん」
 ホロヴィズ大将・陸軍大臣からの命令は非情なものだった。
「しかし、敵の士気は高く、クラウス率いるアルフヘイム軍三万の勢いは、このアリューザの戦力だけで対抗するのは難しいと思われます。我々に死ねと仰られるのか」
「バーナード・スミス少将よ」
 伝声管からの声の主が変わった。ユリウス皇太子だった。本国からの通信は、海底を通る電線と伝声管によってアリューザまで届けられている。
「皇太子閣下…!?」
 私は、皇太子閣下からの覚えめでたく、このアルフヘイム大陸における残存甲皇国軍の総司令を任されている。それは、好戦派たる丙家のホロヴィズには嫌われているが、私の堅実さを認めて下さっているものと記憶している。その皇太子閣下ならば、我々の撤退を認めてくださるのでは…?
 と、そんな淡い望みは、次の言葉で絶たれた。
「玉砕せよ。忠勇なる将軍ならば分かっているであろう。貴公の取り柄はそれぐらいのものだからな。甲皇国軍人たるもの、生きて虜囚の辱めを受けることなかれだ! それとも本国の妻子に恥ずかしい姿を見せたいか? アルフヘイムにおける橋頭保を失うことは、即ちこの大戦における敗北を意味する。第四軍将兵は、最後の一兵となってもそこに留まり、敵の侵攻を防ぐのだ! 劣等種族の亜人どもの攻撃に狼狽え、陛下に賜ったその胸の勲章分の働きも見せられんというなら……総員、ただちに玉砕せよ!」
 ユリウス皇太子の怒声が伝声管を通して部屋いっぱいに響き渡っていた。
 私含め、第四軍主要幕僚たちは、反発するもの、舌打ちするようなものはいない。それぐらいの元気があればまだ良かったが…。表情を失い、ただ茫然と突っ立っている。
 エルカイダによるテロ攻撃がここのところ連日のように続いていた。黒龍を駆る黒騎士による空からの攻撃や、海中から輸送船団を襲う人魚どもも厄介だが、街中でも亜人の戦災孤児を利用する卑劣な自爆テロまで頻発している。その警戒と摘発に追われ、将校も兵もみな疲弊・憔悴しきっているのだ。
 アリューザは少々規模が大きいだけの港町であり、ボルニアのように堅牢な要塞都市ではない。野戦陣地や塹壕で周囲を守ってはいるが、三万のアルフヘイム軍を押しとどめるには余りに頼りない。第四軍は地味ながらも堅実な働きをするということで、各戦線から予備兵力として増援に出ている部隊も多かった。ボルニア周囲に建設した要塞に残っている部隊も多い。それらを急遽呼び戻してはいたが、異常な進軍速度で迫るアルフヘイム軍の方が先にアリューザに迫っている。このままでは陥落は必至だが、幸いアリューザは港町だ。港に停泊する輸送船団に乗り込めば、今ならばアリューザに残る将兵すべてが脱出可能だろう。が、その手段が先程絶たれてしまった。
 重苦しい沈黙が、第四軍司令部を支配していた。誰も意見を出さないということは、そういうことだろう。表立って本国の命令に抗える将校はいない。ここは、第四軍司令である私が決断せねばならない。凡将のそしりを受けることも多い、この私が。
「───現在、このアリューザに駐留する第四軍の戦力は…」
「は。二個連隊と三個大隊、合わせて一万二千名ほどです」
 すぐに参謀から答えが返ってくる。決断力はないが、現状分析能力には優れた参謀だ。秘書の方が合っているのではないだろうか。
「およそ三倍の敵か…セオリー通りでいけば、要塞であれば、守備側はそれでも攻撃側をギリギリ押しとどめることはできると言われている。が、ここは要塞ではない。足らない守備力は、諸君らの士気と鉄の精神にかかっているということだな」
「し、司令。本国の命令通り、敵に抗うのですか…?」
 驚きを帯びた声で問う参謀に、私はにやりと笑ってみせた。
「私とて、甲皇国軍人の誇りがある。最期に一花咲かせてみせよう」
 無論、犬死するつもりはない。
 ───本国の妻子に恥ずかしい姿を…。
 私が死ぬことで、彼女らに累は及ばなくなるということだし。
 いくら非情な皇太子閣下でも、骨ぐらいは届けてくれるだろう。
 たぶん。






「第四軍司令バーナード将軍は、甲皇国本土にいる妻子を人質に取られ、徹底抗戦の構えを見せているということです」
「そうか。哀れなものだが…同情する余裕はこちらにもない。抗うのなら叩きのめすだけだ」
「将軍の御心のままに…」
 クラウスの前にかしずくのは、日焼けしたこともなさそうな真っ白い肌にほっそりとした身体をメイド服で包んだ少女で…戦場にはとても似つかわしくない可憐さだが、クラウスに報告するその声にはどこか芯が通っている。 
「それにしても、諜報活動はありがたいが、良くそんな情報まで掴めるものだね?」
「はい。我々丙家監視部隊は、甲皇国本土に潜入し、そこから得た情報をアルフヘイム軍に提供しておりますが…我々の長トクサは、正体を隠して甲皇国の要職についておりますし、心を読むことができる|覚《さとり》 の亜人ですから」
「なるほど、それなら確かだな。他には? 奴らがアリューザを何の策もなく、第四軍だけに守らせるつもりというなら容易いが、それ以外の目論見はないのだろうか」
「申し訳ありません。狙いはあるかもしれません。が、近年の奴らはカール皇子を長とした防諜部隊も組織しておりまして、トクサ様の目でも見通せないところはありますから…」
「分かった。だが戦場まで来ずとも、誰かに伝令を頼めば良いのに…。こんなところに、うら若い女性が来るものではないよ。ビビ、彼女…ハシタさんを安全な場所に……」
「クラウス! あたしも若い女性なんだけど!?」
「将軍、それに親衛隊の者たちもみんな若い女性なのですが!?」
 思わず突っ込むビビやアメティスタ。
 クラウスは茶目っ気を見せて笑う。
「まぁまぁ、君たちは強いじゃないか」
「……クラウス将軍! 強ければ、ここに残ってもよろしいのでしょうか」
「え?」
 その若い女性の声が、目の前に突如として現れた巨大な怪物からのものだとは、クラウスも一瞬気づけなかった。
 にゅるりと蠢く大蛇の尾、大きな牙をむき出しにした肉食獣の虎の顔。体も毛むくじゃら…。それは|鵺《ぬえ》という伝説上の妖怪であった。
「ええと……まさか、さっきのメイドさん?」
「はい。微力ながら、私も戦列に加えて頂いてもよろしいでしょうか!?」
「あ、ああ。うん……も、勿論良いよ」
「ありがとうございます! アルフヘイムに栄光あれ! それでは!」
 勢いよく飛び出していくハシタに、さしものクラウスも苦笑するしかなかった。
 人は見かけによらないとは、これまで幾つもの例を見てきたが、あれほど極端なものも珍しい。
 





 ───そして戦端は開かれる。
「僧兵隊、法力を錫杖へ込めろ!」
「鬼兵隊、呪力を護符へ込めろ!」
「魔導砲、カタパルトの魔力砲弾への魔力充填急げ!」
 メラルダ率いる僧兵隊による爆破・火炎・雷撃などの精霊魔法。
 またベルクェット率いる鬼兵隊による毒・霧・煙などの暗黒魔法。
 萌えの覚醒作戦は、まず彼らの準備砲撃から開始された。
 魔導砲やカタパルトといった兵器を併用しつつ、僧兵・鬼兵隊の放つ中・遠距離魔法は、甲皇軍の銃砲陣地や、通信・輸送施設を寸断せしめる。
「アリューザ司令部との通信途絶!」
「無線ダメです! 雷魔法でやられた模様!」
「煙魔法で何も見えん! どこを狙えばいいんだ!?」
「構わん! 最後に指示された座標の周りに撃ちまくれ!」
 混乱の中、サンリ・レッテルン中尉とアレッポ少尉が率いる甲皇軍銃砲隊は、塹壕と鉄条網の野戦築城内に立てこもり、目と耳を奪われた状態でも懸命に銃砲撃を敢行した。
 そして、魔法攻撃によって混乱する甲皇軍に対し、アルフヘイム正規軍の通常攻撃が開始される。
「さぁ、フェデリコ。一番槍は我々が受け持つぞ」
「分かっております。クラウスばかりに良いところをもっていかせはしませんよ」
 意外にもその一番槍を担ったのは、卑劣で粗暴で品性下劣なことで有名なサウスエルフ兵を主体とした黄金騎士団であった。功を焦ったというのが大きい。
 全身を覆う金ぴかの板金鎧をまとった|重装騎士《アーマーナイト》たちが、がしゃがしゃと足音を響かせ、レイピアを高々と掲げながら一列に並んでいた。
「母なる大地よ、父なる天よ! 精霊のご加護を!」
「サウスエルフ黄金騎士団、突貫せよ!」
 フェデリコとシャロフスキーの両将軍は、部下たちに突撃を命じる。津波のように押し寄せる黄金騎士団は、前の兵士が倒れても後ろの兵士がそれを肉盾にし、構わずどんどん突き進んでいく。占領地での蛮行はともかくとして、兵士としては恐れ知らずで勇敢であるのは確かなのだった。が、いかんせん犠牲が大きい。鎧と刀剣で身を固めてはいても、鉄条網と塹壕に潜んでフリントロック小銃で銃撃を浴びせてくる甲皇軍に対し、いきなり白兵戦を繰り広げるのは無茶であった。たちまち累々とした屍が戦場を覆いつくしていく。千切れた腕や足が、鉄条網に無残に引っかかっている…。
「フェデリコ将軍、クラウス将軍から撤退命令が…!」
 程なくして、本陣からの伝令が飛んできた。
「なぁに~~~! おのれ、クラウスめが、生意気に…! 俺はまだ戦えるわ!」
「待て、フェデリコよ。ここはひとまず退け。機を待っておいしいところを頂くのだ」
「…くっ、叔父上。わ、分かりました。ここは獣人どもに任せましょう」
 未熟なフェデリコは悔しがっていたが、さすが経験豊富なシャロフスキーは機を見るに敏であった。
 速やかに黄金騎士団は後退していく。
 代わりに前に出たのは…。
「ほふく前進ーー!」
「頭を伏せろ、穴を掘れ!」
 フメツ・バクダンツキ率いるドワーフ工兵隊が決死の前進を見せていた。
 甲皇軍の高性能なフリントロック小銃の猛火の中を、じりじりと彼らは近寄っていく。
 バチン、バチン。
 やがて長柄のハサミを使い、ドワーフ工兵らが鉄条網を切断していく。
「縄はしっかり結んだか!?」
「はい!」
「よし、オーエス、オーエス!」
 彼らは鉄条網を張り巡らせていた杭に縄を通すと、それを綱引きの要領で力を合わせて引っこ抜いていく。
 実に地味なやり方だが、これがなければ歩兵は前進できないのだ。
 鉄条網が着実に減っていき、歩兵や騎兵も突撃可能な趨勢になっていく。
「あんな地道な作業、気が遠くなりそうだね…」
 ドワーフ工兵らの動きを見て、ぼそりとアリアンナが呟いた。
 精霊戦士である彼女は、たった一人であれば鉄条網や塹壕もものともせずに敵を蹴散らすことも不可能ではないので、その驕りもあった。
「フェア・ノートさん。魔力タンクならば…工兵に頼らずとも、あんな鉄条網や塹壕は物ともしないのでは? そのための魔力タンクでしょう」
「いや。そうとも言い切れない…!」
 魔力タンク集団を指揮するSHWの女傭兵フェア・ノートは、魔力タンクの性能には自信を持っているが、そこまで絶対的な陸の王者とまではいかないことも良く分かっていた。
 確かに、魔力タンクは派手に砲火を放ちながら、塹壕を乗り越え鉄条網を壊しながら突き進む。だが、甲皇軍兵士らは、塹壕に潜みながら勇猛果敢に魔力タンクの弱点を突いてくるのだ。
 即ち、魔力タンクでもはまってしまうような巨大な落とし穴を掘ったり、足回りのキャタピラを破壊したり、背面や側面の薄い装甲を狙ってきたりだ。
 決死の覚悟で肉薄してくる甲皇軍兵士らは、手榴弾を一つ投げるだけでは効果が薄いと見るや、手榴弾を幾つも束ねた結束手榴弾を投擲してくるようになった。杖に大型の爆弾を据え付け自爆特攻をしてきたり、キャタピラに体当たりして肉と骨で挟み込んで動けなくしたりと、鬼気迫る対魔力タンク攻撃を敢行してくるのだ。
 そして何より、サンリとアレッポの各種野戦砲によるアウトレンジからの砲撃。
 これらによる反撃で、いかに魔力タンクが強力な装甲と砲と走破性を持つといっても、絶対無敵という訳ではなかった。
 激しい抵抗を見せる甲皇軍兵士により、魔力タンクは一台、また一台と破壊炎上していた。
「魔力タンクは高価な代物です。こうも撃破されては経済的ではない。ここは…」
「命の軽い傭兵の出番というわけだな」
 アリアンナは不敵に笑う。
「我々の出番だ!」
 魔力タンクの周囲の歩兵・騎兵らが気勢をあげた。
 随伴歩兵のエルフ傭兵集団ペンシルズや、プレーリードラゴンの騎乗したサラマンドル族の騎兵隊が駆けていく。
 狙いは、魔力タンクを破壊しようと肉薄してくる甲皇軍歩兵集団の露払いだ。
「よし、よし、突撃! 突撃!」
「精霊国家万歳!」
「ウラー! ウラー!」
 鬨の声を上げ、彼らが押せ押せの猛攻を見せる。
 甲皇軍歩兵が必死の抵抗を見せているが、彼らに騎兵はいない。塹壕も野戦築城も取り除かれてしまっては、もはや決死の覚悟で白兵戦に挑むしかない。
「我々に任せろ!」
 フリントロック小銃を主武装としていた甲皇軍兵士らだが、それらを護衛する長槍やハルバードを装備した装甲兵らもいるのだ。
「ちょこざいな! 精霊国家の刀剣にかなうと思ってか!」
 アリアンナが気を吐き、レイピアをふるった。
 たちまち、砲撃のような風圧に吹っ飛ばされ、幾人もの甲皇軍兵士がバラバラにされていく。
 甲皇軍装甲兵の刀剣よりも、ドワーフが鍛え精霊の加護を得たアルフヘイムの刀剣の方が強い。白兵戦となると明らかにアルフヘイムに利があった。
「隊長に続け! ここがペンシルズの力の見せどころだぞ!」
 クルトガなどの傭兵集団ペンシルズのエルフ剣士たちも、次々と甲皇軍兵士を襲いにかかる。
 砲撃。
 銃撃。
 斬撃。
 爆撃。
 毒や雷撃。
 ありとあらゆるものがぶつかり合う血みどろの戦場。
 魔力タンクのキャタピラに踏みつぶされ、蹂躙されミンチとなった甲皇軍兵士がいる。
 鉄条網に挟まり、死体を磔のように晒している甲皇軍兵士がいる。
 刀剣で切り刻まれ、腕や首や臓物をあちこちに散りばめ、原型が分からなくなっている甲皇軍兵士らしきものがいる。
 趨勢は、次第にアルフヘイム軍が有利に展開していった。
「てーっ! てーっ!」
「退くな! 退く者は、このウルフバードが甲皇国の名において爆殺する!」
 甲皇軍の数少ない魔導士ウルフバード・フォビアも参戦していた。
 水魔法を操る彼は、水瓶を大量に持ち込み、それを敵にぶつけて水蒸気爆発させる。だが彼は、後退しようとする甲皇軍兵士ごと敵を撃っていた。
「や、やめろ貴様! まだ戦っている味方ごと…!?」
「当たり前だ! 人間の無力さを嘆きながら死ぬがいい! 貴様ら武人が散々虚弱だと馬鹿にしてきた俺と、所詮は同族だったと認めながらな!」
 体が軍人には向いていなかったがために、魔導士の道を志すしかなかったウルフバードは、ここぞとばかりに己の過去の鬱憤を晴らしている。かつてビビに叩きのめされた彼だが、ちっともその卑劣な性根は治っていなかった。
「くそ、もうやるしかねぇ…!」
「おかぁちゃん、不出来な息子を許してくれよ…!」
「ミレーヌ、もう俺は帰れない。腹の赤子を俺の生まれ変わりと思って…」
「ダヴ神のくそったれが!」
「甲皇国万歳! 万歳! 万歳!」
 第四軍皇軍兵士は、次第に押されつつも、決死の覚悟で最期の抵抗を見せていた。





「敵、前衛部隊撃破!」
「不滅隊、松明隊が右翼の敵稜線を突破!」
「我が方の損害軽微…」
 次々とクラウスの本陣に届けられる情報。
 伝令もあるが、精霊魔法によるテレパシーによるものだった。
「軽微か。どの程度やられた? 正確に伝えなさい」
 クラウスに注意され、伝令兵が言い直す。
「戦死およそ一千、負傷およそ三千」
「……桁を間違えてはいないな?」
「はい」
「予想以上に抵抗が激しい。死に体の甲皇軍が……奴らも必死だな」
「しかし、もはやアリューザは丸裸同然」
「そうだな。ではフェア・ノートどのに伝令。シキュウ・トラクター・ウレ!」
「はっ!」
 クラウスからの伝令は、ただちに精霊魔法によって前線のフェア・ノートの魔力タンク装甲集団へ伝えられる。
「今こそ勝利の凱歌をというわけだ」
「ラッパでも鳴らしましょうか? SHWの屋台の物売りのやつしか分かりませんが」
「うん? ドレミーレド・ドレミレドレーってやつか?」
「へぇ。|戦車行進曲《パンツァー・リート》とか分からないんで」
「おお、鳴らしたまえ。我々は傭兵だが商人でもあるしな」
「ははっ、かしこまりました!」
 部下が快活に笑う。
 フェア・ノートも笑い返す。既に勝利を確信していた。
「よし、全車|霊気機関《レイキ・エンジン》始動!」
 フェア・ノートの命令一下、数十におよぶ虎の子の魔力タンク集団が前進を始める。
「敵首都マンシュタイン城まで行くぞ! 陸軍大臣ホロヴィズとクノッヘン皇帝の肥えた内臓を引きずり出し、履帯を磨くグリス代わりとしてやれ!」
「おおおおお!」
 さすがにそれは例え話だとみなも分かっているが、士気はいやおうにも上がる。
「|装甲部隊前進!《パンツァー・フォー》」
 凄まじい走破音を響かせ、甲皇軍兵士の死体を踏みつぶしながら、魔力タンク集団はアリューザ目指して前進していった!
 もはや、誰もがアリューザは手折られるだけの儚い花としか思っていなかった。
 しかし。








つづく
55

後藤健二 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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