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13章 ビキニの死神

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 発見以後ミシュガルド大陸は日々発展し続けているが、情熱ばかりが先走りして人も物資も流通も追いつかない状況だ。
 それは手広く商売にいそしむ商業国家SHWですら、重要な商談にもかかわらずクエスト登録所の2階会議室を仮の応接間として使わなければならないほどに。
 よく磨かれたクリスタルのテーブルの上で名刺が交換される。クラーケン新聞編集長パガンダ・プロ。SHW貿易部門社長デスク・ワーク。よく見知った相手だが、名刺交換は儀式のようなものだ。ターバンを巻いた身なりの良い商人は糸のように細い目でパガンダの名刺と顔を見比べている。
 中性的ですらある整った顔に線の細い体。青い髪に隠れているが、顔の右半分に及ぶ生皮がはがれている。何が気に入らなかったのか、自傷によるものらしい。亜人の考えることはよく分からない。そういやパガンダはタコの亜人だったか。タコは腹が減ると自分の足を食うというものな。
 デスクは張り付いた笑顔に侮蔑の色をにじませた。
「クラーケン新聞に載せたアルフヘイム政府によるミシュガルド入植の広告は上手くいってますか」
「ダメ、ダメ。棄民政策と非難轟轟ですよ」
 突如クエスト登録所に賑やかな声が響く。
「いやー、マジ楽勝だったな」とメゼツの声。
「エリーザのおっぱい往復ビンタで混乱させ、後は手数で押し切れましたね」
「やはりうんちのアドバイス通り、新たにを仲間に加えて正解だったな」
メゼツはセレブハートとの約束で裏クエストを終えたところだった。自分の本来の体を取り戻さなかったメゼツは、仲間に頼ることが多くなり、うんちの助言もよく聞くようになった。
 その声は2階まで届き、商談を妨害する。
「さらに追加で融資いたします」
「ふふっ……期待してますよ」
 デスクは急ぎ商談を取りまとめ、いったん中座すると秘書のエア・チェアーを呼びつけた。
「下の品性下劣な声はいったい何の騒ぎだ」
「なんでも、ヴォルガーの暗殺クエストを達成されたお客様がいらしたそうですよ」
「バカな。あの甲皇国ですら手を焼いているヴォルガーを……何かの間違いじゃないのか」
「クエスト登録所職員が遺体を検分しています。ヴォルガー本人という結果でした。」
「2000万VIPの賞金首だぞ。あんな小汚い奴らにやるのか? くそっ、エア、お前行って言いがかりをつけてこい。ヴォルガーを倒すほどの強さを証明してみせろとな」
「そんな。仲間の中にビキニ拳法の使い手エリーザ・ブラックビキニがいましたから強さは折り紙付きですよ」
 デスクはエアの貧相な体を品定めするようにじろりと見ながら言う。
「そういえば君もビキニ拳法の使い手だったな。そうだ、こうしよう。強さを証明するために君とエリーザとやらが勝負するんだ。どうせなら観客を取って一儲けだ」
「な、な、な。無理ですよー。相手はあのビキニの死神ですよ。私なんかじゃとても」
 エアは自分の胸元に目を落とした」
「口答えするな、戦わなきゃ減給だ」
「そんなー」
「乳☆乳ビキニ拳法しばきあい対決!!」
会場の天井からつり下げられたネオンのいやらしい大看板。
 会場を一望できるもっとも高い位置に特別展望席が設けられた。展望席の中央にデスクほか経営者一族や取引相手などSHWのVIPが座っている。
 ホスト役としてデスクは丁重にもてなし、一人一人に声をかけている。
「パガンダ様、本日は御社のご協力に感謝しております」
「こちらこそ試合後の独占取材を弊社にご指名ただいたこと、まことに光栄の至りです」
 デスクは会場として、地下闘技場を選んだ。熱気が充満し、娯楽に飢えた観客が集まり、立ち見もでるほどの大盛況だ。
 金髪の貴公子然とした男が左手に|拡声器《マイク》を握りしめ、芝居がかった大げさなしぐさで右手を差し出す。
「まずはレフリーの紹介をしましょう。ビキニ拳法の創始者であられますヤオビキニ・キャブイエロ!! 」
 さらさらなショートヘアにあどけない顔、ビキニからこぼれ落ちんばかりの胸と尻。下品にならない絶妙なバランスでヤオビキニがふわりふわりと特設リング中央で踊っている。
 観客の中に紛れ込む甲皇国乙家の特殊部隊が3人。活発そうな女の子ハナバと褐色肌の男の子エンジ、そしてその保護者のような青い長髪の青年ビャクグン。遊びで見に来たのではない。これも3大国間の和平のための仕事のうちだ。テロ攻撃に備えて監視しているのだった。
「聞いたことがある。この世のものとは思えぬ魅惑的な舞を踊るダンスマスターがいるって。もしかして彼女がそのダンマス!!」
 情報通のハナバがよだれを抑えながら解説する。
「俺はダンジョンにひきこもってるダンジョンマスターだからダンマスって聞いたけど」
 ヤオビキニのダンスにくぎづけになりながらも、必死に目をそらしながらエンジが答えた。ビャクグンだけがいつもの柔和な顔を引きつらせて言う。
「急に寒気がしてきました。先に帰ります」
「まだ始まったばかりなのに!!」と驚くふたりをあとに残して、そそくさとビャクグンは会場を出た。
 ビャクグンとヤオビキニには浅からぬ縁があるのだが、それはまた別のお話。


 ヤオビキニの起伏の豊かな肢体に会場はさらに盛り上がる。
「アナウンサーは私、公平を期するため甲皇国乙家出身オツガイム・カヲツケセカがお送りします!!」
 オツガイムは審判を手早く紹介すると、ふたりの武闘家を呼び込んだ。
「漆黒に染まる黒ビキニ。誰が呼んだかビキニの死神。エリーザぁああああああああ・ブラックビキニぃいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
「アルフヘイムのスゴ腕|弓兵《スナイパー》からSHWの秘書に華麗な転身。エアぁああああああああああ・チェアぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
 両者にらみ合いながら花道を歩いていく。セコンドとしてメゼツがエリーザの後ろからついて来た。ウンチダスの体ではどう見てもセコンドには見えない。観客も大半がマスコットかゆるキャラだと思っていることだろう。
 エリーザ長いブロンドの髪が揺れ、隠れていた背中がちらちらと顔を覗かせる。黒いタトゥーのようなものがみえるが、何の形かわからない。その不気味な影は白い肌のほうに視点を移すと、人の手の形にも見える。それもごつごつとした男の手の跡だ。もしこれがタトゥーだとしたら、あまり趣味が良くない。
 エアのセコンドにはメガネをかけたクエスト報告所の職員、ホルト・ハイントがついた。小指をピンと立てた右手でバットを引きずって。
 セコンドがロープを開いて、両選手がリングインする。
「ほらほらほらほらバットもって来ましたよー。どーん、登場!! リング上がる、ハーイ!!!」
 タンタンタンと鳴るカスタネットの音。
「さあ、試合開始のカスタネットが鳴りました」
 エリーザは開幕5秒ですかさずラリアット、マット沈めるカウント、1、2、3。
 アナウンサーの一言。
「かつてライオンとも闘った勇敢な犬、サモエドのようです!!!」
 ラリアットをくらいつつもすぐに起き上がったエアにエリーザは容赦なくラッシュを浴びせる。しなやかな腕から繰り出される拳の雨に、エロ目当てで来ていた観客は度肝を抜かれた。
「エア選手防戦一方!」
 エアは風呂場を除かれた少女のように腕を胸の前で交差し、手のひらで無い胸を覆う。
「恥ずかしがってんじゃねー。こっちは金払って見に来てるんだぞ」
 口汚くヤジる下品な客を、ヤオビキニが一喝した。
「恥ずかしがっているのではない! あれこそが完全に急所をガードするビキニ拳法の手ブラの構えだ!!」
 確かにエリーザの猛打はひとつもクリーンヒットせず、エアは受けきっている。
「まさに鉄壁、いえ絶壁です」
 エアはバックステップで間合いを開け、手ブラの構えを解いて反撃に転じた。
「私はこの距離でも99%外しません」
 宣言通り、弓で鍛えたエアの左拳はエリーザの腹を深々と突いた。
 エリーザの顔が苦痛に歪むが、倒れることなく耐え凌ぐ。
「確かに命中したはず……なぜ……」
「おーっとエリーザ選手、体を柳の枝のようにしならせて芯をずらしていたー」
 左、左、左。エアは鋭い正拳突きを次々と打ち出すが、エリーザは手の甲ではたいて軌道をずらす。打撃を受け流し、すべてさばききった。
「エアを剛の構えとするならば、エリーザは柔の構え。一進一退、両選手互いに譲らず、相手の守りを崩せません」


 観客に紛れ込む過激派組織エルカイダが3人。闇よりも暗い鎧に身を包む|黒騎士《ダピカ》とその保護者、鳥の亜人ササミと人魚の亜人のコツボ。
 人が集まる地下闘技場を狙ってテロをするわけでもなく、こちらは普通に遊び目的だった。
「こらー、手ぇ抜いてんじゃねぇ。巨乳をヌッ殺せー」
「トリちゃんもオッパイないからエアを応援してるんだね」
「お゛ぉーん、でかけりゃいいってもんじゃねぇぞ! この|海豚《うみぶた》がぁー!! キョニュウ クウ キョニュウ ノ チカラ テニイレル」
 ササミがコツボの胸を揉みしだくのを止めるどころか|黒騎士《ダピカ》は積極的に参加する。
「オッパイたーっち。あはは、おっぱい、おっぱい」
 |黒騎士《ダピカ》はオフで完全にリラックスしていた。おっぱいリラクゼーションだった。
「もう、しょうがないなあ。いい子はおっぱいさわっちゃ、メッだよ」
「僕たちいい子じゃない。いい子じゃない。いい子じゃない」
 |黒騎士《ダピカ》は調子に乗って手を下へ下へと降ろしていく。ウツボの人の部分と魚の部分の継ぎ目をうっかり触ってしまった。
「あっ、|黒騎士《バカ》!! ウツボは逆鱗を触るとIQが跳ね上がる性格なのに」
「説明乙ぅ~。おっぱい、おっぱい! きゃっきゃ、ウフフ」
 コツボは養豚場の豚を見る目で淡々とこき下ろし始めた。
「なぁ、|黒騎士《ダピカ》よ。貴様は歴史に残るような大仕事がしたいと常々言っているが、歴史というのは残酷だ。どんなに美辞麗句で塗り固めても、偉人の醜態を暴き出してしまう。後の世の歴史学者は貴様の二面性をどうとらえるかな。乳腺と脂肪の塊を弄び幼児退行している姿を、|時間泥棒魔獣《タイムロバー》のしわざだと好意的に解釈するだろうか。答えは否だ。貴様はただの変態だったという烙印を押され、歴史の落伍者として語られることだろう」
「ひぃいいい、エライヤッチャ、エライヤッチャ、サーセン!!!!!!!!!!!」


「殺気立った観客が場外乱闘です。もはや巨乳対貧乳の代理戦争の様相を呈してまいりました」
しびれを切らしたデスクがリングサイドまで降りてきて催促する。
「何やってるホルト!! 早くその|凶器《バット》を渡してやれ!!」
「ビキニ拳法はおさわりに自動反撃する殺人拳。その危険性ゆえにに武器を持つのはご法度。だから武器を隠し持てないように際どいビキニを着るのよ」
 ホルトはうるうるとした目でデスクの催促を拒否した。一見するとヤリ手のキャリアウーマンに見えるが、男である。ビキニ拳法は性別を問わない。ビキニが似合うならば、誰でも習得が可能だ。それが証拠にホルトの背中にはブラウス越しにビキニのひもが透けている。
 デスクはコマネズミのみたいに落ち着かず、エアに発破をかけた。
「おのれら負けたら減給だぞ!!!」
「ビキニの死神なんて怖くない! 怖いのは減給だけだー!!」
 エアが交差した腕を開く。羞恥心を捨てて貧相な体をさらけ出す覚悟の構えである。
(あの身持ちの固いエアを倒すには、手ブラの構えを解き攻撃に転じる一瞬を付くしかない。この一瞬、この一瞬を待っていた)
 エリーザはそれを追って左足で踏み切り、右の拳をエアの胸板に向けて叩き込む。エアも攻撃のモーションに入り、両者の腕がすれ違っていく。
 エリーザの拳がエアの胸に届く寸前、エアの右拳がエリーザの胸を捉えた。エリーザはロープまで跳ね飛ばされ、前のめりにマットに沈んだ。
 即座に理解したヤオビキニが解説する。
「左を制する者は世界を制す。ここまでエアは左拳のみで攻撃してた。右拳を|必殺技《フィニッシュブロー》として温存してたんだ!」
「エリーザ選手、一発でダウンだー!! 先にしかけたエリーザの右ストレートはなぜか届かず、エアのカウンターが決まったー!!!」
「両者のリーチはほぼ同じ。差があるとするなら……そうか、おっぱい!!! おっぱいがない分、エアの体には届かなかったんだ」
「いいぞ、エア!!」
「ちっぱい、ちっぱい!!!」
 エアを応援する声が一段と大きくなる。
「さあ、10カウントの間に起きなければ、エリーザ選手の負けとなります」
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ……」
「エリーザ、起きろー!! このまま負けていいのか!!! 畜生、あっけなさすぎるぜ。俺だって闘いてぇのによお」
 メゼツの発言を聞きつけて、セコンドのホルトとレフリーのヤオビキニが仕事を放棄して詰め寄る。
「闘いたいって言ったよね」
 ヤオビキニがメゼツを後ろから羽交い絞めしているうちに、ホルトが自分好みの水玉マイクロビキニをあてがう。もしもメゼツが自分の体を取り戻していたら、ひどい絵面になっていたところだ。ウンチダスの体にビキニでも十分ひどい絵面ではあるが。
「ちげーよ、ビキニ拳法で闘いたいって意味じゃねぇーーーー!!!」
「おい、ちゃんとカウントとれよ!!」
 メゼツは観客からのヤジのおかげで事なきを得た。しぶしぶヤオビキニはカウントを再開する。
「もうカウントをとる必要はないわ」
「なんとー! すでにエリーザ選手立ち上がっている!!」
 胸を押さえながら、立ち上がるエリーザの顔色は悪い。
(ここで倒れるわけにはいかない)
 エリーザは拳を構え、間合いを詰める。エアは再び交差した腕を開いてエリーザを誘う。エリーザは吸い込まれるようにエアの胸元に飛び込む。
「間合いを潰して|接近戦《インファイト》に持ち込めば勝てると思った? 甘い!!」
 エリーザの右手首をエアは右手でつかみ、左手でてこにして体の裏側に締め上げた。エリーザの右肩は完全に極まっている。
「|関節技《サブミッション》こそ王者の技よ。さあ、降参しなさい」
 可動限界まで右肩をひねられたエリーザは、左手だけで反撃するが決定打にはならない。激痛ときしむ音がしてもエリーザは首を振り続けたが、体のほうがついていかず右肩が脱臼してしまった。
 まったく力が入らない右腕をだらりと垂れ下げながらも、エリーザは残った左手で構えをとる。
 次の一瞬で勝負は決まる。誰もがそう予感した。
 エリーザは再び間合いを詰めて残る力を注ぎこんだ左拳を、エアの胸にめがけ放った。しかし焼け石に水。唯一無事だった左腕までつかまれてしまった。左右の腕を封じられて、身動きが取れないエリーザをエアがきゅうきゅうと絞め上げていく。
 手も足もでない。エリーザはビキニ拳法の師でもあった父の言葉を思い出す。勝つための方法は自分自身が今まで積み上げてきたものの中にこそある。
 一瞬だった。


 遠浅の碧い海は静かで穏やかで、時間までもがゆっくりと流れている。涼しい午前中のうちにビキニ拳法の修行を終えて、カンカン照りの日が高いうちは水遊びに興じる。かつて見た情景。
 6年前のあの日もやはりそうして過ごしていたのだろう。
 修行着の黒いビキニのまま、波と戯れる私を見る父の目は、厳しい師匠の眼差しからすっかり親ばかの視線に戻ってしまっている。
 遠くの入道雲が見る間に膨らみ、幼心に怖くなった私は海から出ようと走った。海が私を逃すまいと足を引っ張る。後ろからくる気配に私は振り向いてはいけない気がした。後ろにはきっと人の世にあってはならないものが迫っている。
 父が何か叫びながら私に走り寄る。なんて言ったのか思い出せない。父の最後の言葉なのに
 胸に飛び込むと、父は私に覆いかぶさるように抱きしめた。
 その時8000万回父の体を魔力線が貫いた。父は一瞬で蒸発したが、私はなぜか背中に火傷を負っただけで無事だった。背中には今でも父の手の跡がくっきりと残っている。守られているんだ。あの時も、今も。
 その日、ビキニタウンは地図上から消滅した。
 後で聞いた話によると、私の故郷ビキニタウンは禁断魔法の実験場にされたのだという。無論住民には何もしらされていなかったし、消滅したビキニタウンは住むことができない土地になった。後に残されたのは黒くなった海と最強の拳法発祥の地という伝説だけ。
(私が闘い続けるかぎりビキニの名前は残るんだ。こんなところで負けてられないのよ)


 圧倒的に優位に進めていたはずのエアが跳ね飛ばされている。エアの体はロープを越えて場外の固いコンクリートのほうへ飛んでいく。
「いけない。気絶している」
 ヤオビキニはまるで重力を無視するかのようにふわりと飛び上がると、コーナーポストの頭を蹴って加速。床に叩きつけられる寸前で、エアの体をささえた。
「なんという妙技! 2段ジャンプ!? いや、これは三角跳びだー!!!」
 ヤオビキニはリングサイドに控えていた医者のイシヤにエアをまかせると、本来の仕事に戻った。
「勝者、エリーザ・ブラックビキニ!!」
「何がおこったんだ。八百長か?」
 常人の視力では決定的な瞬間は見れず、納得のいかない貧乳派が騒ぐ。ヤオビキニほどの達人でもない限り、試合の勝敗は分からなかったようだ。
「確かにエリーザの勝ちだよ。見てなかったの?」
 熱狂していた観客は疑惑の判定に一気に興ざめする。しかし、抜け目ないデスクがこの程度の失敗を予想できないわけがない。すでに手は打ってあった。
「はいはーい。見逃した皆様のために写真判定いたします」
 魔法カメラによってすぐに現像された写真を青い帽子の人物が映写機にセットする。大きな帽子は束ねた髪を隠していて、男とも女とも判別がつかない。つり下げひもの先のネームプレートにクラーケン新聞社ママラッチと書かれているから本来の仕事は記者なのだろう。初めて扱う機械に悪戦苦闘している。
 ようやく一枚目の写真が映し出される。エリーザの腕ががっちりとエアにロックされていて反撃できるようには見えない。
「それでは問題の瞬間の二枚目の写真です」
 そこには写真いっぱいに躍動するエリーザのおっぱいが写っていた。おっぱいはエアのあごに命中しているようで、脳まで揺らすほどの衝撃を与えた決定的な瞬間が映っていた。
「これぞビキニ拳法奥義、おっぱい往復ビンタ!!」
 ベストショットを見た観客たちは、歓声を上げエリーザの勝利を祝福した。巨乳派と貧乳派の確執もどこへやら、観客はいいもん見たなと満足顔である。おっぱいは偉大だ。


 肩の治療を受けているエリーザに代わり、メゼツが賞金を受け取るためにリングへと上がる。あれほど賞金を出し渋っていたデスクは気味の悪いくらい目を細めて上機嫌だ。
「では賞金の授与に移ります。と、その前に大事なお知らせです。なんと今回の闘いは前哨戦に過ぎなかった!! SHWは近日大規模な試合を企画しています。もちろん勝ち逃げなんてしないよね」
 デスクは好戦的な人材を参加させようと、メゼツの肩に手をかけて促した。
┏━━━━━━┓
┃      ┃
┃>参加する ┃→18章へすすめ
┃      ┃
┃ 断る   ┃→20章へすすめ
┃      ┃
┗━━━━━━┛
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