トップに戻る

<< 前 次 >>

最終章 世界を救う2つめの方法

単ページ   最大化   

 メゼツは子供たちの誘いを断った。
「ガキはガキどうしで仲良く遊んでろ」
「自分だってガキじゃん」
 子供たちが言うのも無理はない。見た目は幼女、頭脳はメゼツなのだから。
「俺はガキじゃねえ。シャルロット、ルー、お前ら同じガキなんだから遊んでやれよ」
 シャルロットはメゼツの言葉に壁を感じ、ふくれ面してすねている。ルーは好機到来とみて、メゼツからシャルロットを遠ざけた。
「シャル、元気出して。あんな奴の言うこと気にすることないよ。そうだ、またアルドバランを探検しよ」
「無理。宝玉はアイツが持っているんだし」
「じゃーん」
 ルーは触手を使って宝玉を渡した。いつの間にすったのだろう。手癖の悪い触手だ。


 シャルロットはルーと共にアルドバラン城地下の開かずの扉までやってきた。ルーに言われなくても、ずっと気にはなっていたのだ。宝玉を掲げ、厨二フレーズをつぶやく。
「古より眠りし伝説の扉よ。汝の目覚めの|刻《とき》はきた」
 宝玉はひときわ輝きを増し、扉はひとりでに開かれた。
「あれっ、ホントに開いちゃった」
 しりごみするシャルロットをルーが引っぱっていく。シャルロットの背伸びした夢を叶えてあげられるかもとルーははりきっている。
 扉の先は一本道で、途中にあと8つ扉があった。どの扉も宝玉で開き、最奥までたどりつく。クリスタルでできた最奥の部屋は、城の中枢らしき機械と玉座があった。
「さあ、シャルロット姫。玉座へ」
 ルーが雰囲気を作り、シャルロットをいざなう。玉座についた瞬間、頭の中に語りかけてくる声を聞いた。シャルロットはすべてを理解した。この透明な宝玉がアトレスの石という名前であること。アルドバランの魔法兵器の使い方。ミシュガルド大陸の謎。なぜ獣神帝ニコラウスがミシュガルドの開拓者を排除しようとしたのか。


「まったく、世話焼かせやがって」
 メゼツは何も言わずいなくなったシャルロットとルーを探していた。日が暮れる前にはみつけたいと思っていたが、にわかに空が暗くなる。日が落ちたわけでも、曇ったわけでもなかった。空を見上げると逆光の中に浮かぶ奇怪なフォルム。アルドバラン城が上空から大交易所に接近していた。
「あー、テス、テス」
 聞き覚えのある声が大音量で聞こえてくる。甲皇国、アルフヘイム、SHW、ハイランド、フローリア。全世界の空に演説するシャルロットの映像が映し出された。


 シャルロットの演説(全文)

 私は魔王シャルロット・キャラハン。フローリアという小国で生まれました。他国は神が与えたもうた土地なれど、フローリアは人が作り出した土地。フローリアの歴史はあばれ川との戦いの歴史。あばれ川は増水に法則性がなく、一度氾濫すれば耕地は浸水し、川筋を幾度も変えました。あばれ川とナルヴィア大河が最も近い中流域に運河を通し、ナルヴィア大河への流量を水門により制御できるようになって、初めて計画的な農業が可能となったのです。この過酷がフローリアの農業を育てた。フローリアの農業が1000年進んでいると言われるゆえんです。
 このフローリアに亜骨大聖戦で甲皇国は何をしたか。花の都を土足で踏みにじった。中立地帯だったにもかかわらず。LGBTへの差別がなく、むしろ推奨し、かつて百合の館と呼ばれた王城。そこに獣じみた丙武軍団が押し寄せてきました。かよわい子羊の群れに、獅子を放つようなものです。言葉にできない惨状でした。
 このフローリアにアルフヘイムは何をしたか。我々の農業改革は精霊樹の巫女の加護を必要としなかったため、独立を保ち続けることができました。しかしアルフヘイムはあばれ川とナルヴィア大河の源流を押さえると、我々に臣従を迫ったのです。衛星国にしてやるから、見返りに農業技術をよこせとアルフヘイムは横暴にふるまいました。亜骨大聖戦の最終局面ではアルフヘイムの愚劣なる禁断魔法により、川は涸れ果てフローリアは荒廃することになるのです。
 私はここアルドバランにフローリアを再興します。そして、全世界に宣戦布告する。フローリアによる世界統一こそ正義であると。フローリアの亡命貴族、亡国の民よ。私の300人の妹たちよ。私の理念に賛同するものは大交易所に結集せよ。アルドバランに迎える準備は整っている。


「あいつ三百人も妹がいんのか。母親マン・ボウかよ~♪ 」
 メゼツはさして気にしなかった。どうせいつもの虚言癖だろうと。父、ホロヴィズに呼び出されるまでは。


 甲皇国駐屯地総司令部。ホロヴィズの話によるとアルドバランの魔法兵器によって、各国から300人の女性が連れ去られるという事案が発生しているという。ホロヴィズはよほど切羽詰まっているのか、メゼツの魂がイーノの体に乗り移っているという説明をすんなりと信じた。
「ど、ど、ど、どうしよう、メゼツ」
「落ち着け、親父。いつものアンタらしくもねえ」
「だってメルタもさらわれて、貴奴らの人質にされてるんじゃよ」
 メゼツの顔にどす黒い影が差す。
「シャルロットめ、ちょっとおいたが過ぎるんじゃないか~。これはお仕置きが必要だな」
「行ってくれるか、メゼツ。実は300名の女性のリストを公開したところ、身内のものたちが協力を申し出てくれた。」
 約300名の決死隊を率いたメゼツはZB-29級戦略飛行船に乗り込み、大交易所に急行した。人質を取られているためこちらから砲撃はできなかったが、アルドバランからの攻撃もなく飛行船の侵入を許した。飛行船が左舷をこすり付けながら、帝城に激突する。
「|接舷攻撃《アボルダージュ》!!! 」
 メゼツは決死隊とともに飛び降り、帝城へと突撃した。300人の妹VS300人のお兄ちゃん。3流ポルノ映画のタイトルのような戦いが始まった。


 クリスタルの部屋でシャルロットがロープで縛られた300人の妹候補をじっくりと検分している。シャルロットのもとにはフローリアから姫騎士がはせ参じていた。無論シャルロットに賛同したわけではなく、暴走を止めるために来たのだ。
「お主、何も友邦ハイランドにまで宣戦布告することはないであろ。無茶苦茶だ」
 甲皇国の軍服のような黒いワンピースを着た、金髪ツインテールの少女。姫騎士のティアラを頂いたシェリル・カーゾンがシャルロットを諭す。
「ボタン、あなたの部下だったのだろ。何とかなさい」
 ダークエルフ特有の褐色の肌、銀色の髪。眼鏡をかけた姫騎士ジィータ・リブロースがけしかける。
「説得してみますけど、あまり期待しないでくださいよ」
 姫騎士の鎧をまとった黒髪のハーフエルフ、ボタン・フウキは説得を試みたが、うまくいかなかった。逆にシャルロットから説得される始末。
「お願い、3人とも協力して。これは必要悪なのです。私もイヤイヤやってるんです」
「えー。演説のときノリノリだったじゃん」
 ルーが突っ込んだ。
 突如、クリスタルの部屋に警報音が鳴り響く。玉座の前の空中に300人ほどのむさ苦しい男たちがなだれ込んできた映像が流れた。
「うむ。私が行って蹴散らしてくれようぞ」
 急に協力的になったシェリルをジィータが肘でつつく。
「どういうことだ」
 シェリルは口に人差し指を当てる。何か策があるようだ。
「しかし、あの人数を相手するには兵が要る。300人の妹を連れて行って構うまいな。扉からうって出るため、宝玉も要る」
「妹たちは戦えない者も多いです。戦えそうな者だけ連れていきなさい。」
 シェリルは舌打ちする。ジィータはシェリルが従ったふりをして人質をすべて解放するつもりだったことを理解した。結局、宝玉は持って行けることになったが、姫騎士3人と戦えそうな妹2人だけが迎撃に当たることになり|縛《いまし》めを解かれた。
 ひとりはいかにも好戦的で燃えるような赤い髪と目をした幼女、カナン・ティース。左右非対称なズボンだけで上半身は裸、つつましい胸を隠すようにさらしだけが巻かれている。幼女には不釣り合いな鍛え抜かれた体をしていた。
 もうひとりは高貴そうなロールした髪型、顔こそ年端のいかぬ少女だが、機械でできた鋼鉄の体を持つメルタ。少女に機械がついているというよりか、丸っこい機械に少女が埋め込まれているといったほうが正しい。
 5人はすべての扉を開き、地下から飛び出した。
「よし、機を見て敵に寝返るぞ」
 ジィータの言葉にボタンはようやく得心が行った。
「ああ、そういうことだったんですね。私はまた、てっきり……」
 言い終わる前に300人の精鋭が襲い掛かってきた。銀色の髪を後ろに束ねた鷲鼻の男が吸っていた魔法タバコの煙をボタンに吹きかけると、煙が操られボタンの体を吹き飛ばした。
 シェリルは詠唱しながら距離を詰め、鷲鼻の魔法タバコに触れた。シェリルの固有魔法が発動しタバコは一瞬にしてけし炭になる。
「大丈夫か、トミロ。お前は魔法使いなんだから後ろにいろ」
 メゼツは鷲鼻の男トミロを下がらせ、自分が前に出る。
「おーーーほほほほほ! 丙家の兵器は世界一ですわ!」
メルタがそれを狙って鉄拳を振り下ろす。メゼツの避けた跡には、蜘蛛の巣状にひび割れた無残な石畳。それよりもショックを受けたのは相手の顔を見た時だった。
「まさか、メルタなのか。メゼツお兄ちゃんだよ、いっしょに帰ろう」
「エルフがお兄様の名を騙るな。死んでしまったけれど、お兄様は……お兄様は……世界一強くて、優しくて、もっとかっこいいんだから」
「そんなに、俺のことを」
 メゼツは男泣きに泣いた。
 ジィータは詠唱を終わり、手の中に光球を作り出した。
「頃合いだな」
 ジィータの固有魔法が発動し、太陽が九つに増えたようなまばゆい閃光が敵味方を照らした。
「さすが歩く松明」
「それ褒めてないから」
「くそっ、目つぶしだと」
 メゼツは同士討ちにならないように、部隊に静止を厳命した。
「まて、我々に抵抗の意志はない。シャルロットに監視されているため、このような策をとったんだ」
 ジィータは閃光によって姿を隠している間に、メゼツに協力を申し出る。メルタの言うこともあり素直に応じるメゼツだった。


「何これ、映像が光のせいで何も見えないじゃんよ」
 ルーの指摘する通り、画面はずっと白いままだ。さすがに不審に思い始めたシャルロットは、様子をうかがおうと部屋から出ようとした。その時である。部屋の中に煙が立ちこめ、1メートル先も見えなくなった。
 3人の姫騎士がメゼツたちを道案内し、トミロの煙を操る魔法で、煙幕を張ったのだ。
「魔法にはこういう使い方も」
 ボタンの物を切断する固有魔法が発動し人質のロープが切られた。残りの298人の妹たちが解放され、298人の兄たちと抱き合う。
「兄さん!!! トミロ兄さん」
 人質の中にいたアレク書店の店長ローロが紫の瞳に涙をいっぱい溜めて微笑んでいる。鈍感なメゼツはまったく気付かなかったが、ローロの行方不明の兄とはトミロのことだったのだ。
 シャルロットの野望は潰えた。
「フフフフ、ハハハハ、ハーハッハッハッハッ。よくぞ我が玉座までたどりついた」
 悪役笑い3段活用を使いこなし、シャルロットは茶番を続行しようとする。メゼツは意にも介さず、片手でひょいとシャルロットの体を抱え上げた。そして無表情のままシャルロットの尻をぶっ叩いた。
「何すんの。うらやま……じゃなかった、シャルを放して」
 ルーが救出しようとするが、メゼツの悪鬼ごとき形相を見て萎縮する。
「ルー!! 」
「は、はひ」
「世界中にこの映像を流せ」
 ルーは泣く泣くシャルロットの尻叩き動画を配信した。
(ごめんね、シャル。この動画流し終わったら、私がもらっちゃってもいいよね)
「やめてよー。恥ずかしいよー」
 紅潮し目に涙を浮かべながら、シャルロットは尻を叩かれた。
「じゃかまし~。どうせ大人になったら、今までの恥ずかしい発言を悔いることになる。寝る前とかに思い出して、枕に顔をうずめてジタバタすんだ。今恥ずかしいのは予行演習だと思え」
 全世界に尻叩き動画が流れ、宣戦布告は手の込んだイタズラと受け取られた。各国は矛を収め事態は収束する。
 298人の妹たちは298人の兄と手をつなぎ我が家に帰っていった。メルタとカナンだけに迎えはこない。
「よし、メルタ、お兄ちゃんと帰るぞ」
「お兄様は死んだと何度言ったら分かりますの。それに」
 メルタはちらりとカナンに目をやる。
「私のことなら、気にすんな。私のおにぃもきっと死んじゃったんだよ」
 生きていればきっと助けに来たはずだから。続きの言葉をカナンは飲み込んだ。
 まったく顔は似ていないのに、どういうわけかメゼツはおんぼろジョニーのことを思い出した。
「さあ、行くぞ。妹たち」
 メルタとカナンと肩を組む。
「わ、私もか? 」
「当たり前だ。お兄ちゃんってのはな。妹が1人だろうと、2人だろうと、お兄ちゃんなんだ」


 数年後、人々はすっかり事件のこと忘れかけていた。
 最近のもっぱらの話題は大交易所に新しくできた食堂のこと。
 こじんまりとした店だが、隠れ家的魅力と3人の美人女将で密かなブームを呼んでいる。
「お姉様、卵かけご飯一丁ですわ」
 機械の体の妹が注文を厨房に持ってきた。
「メルタ、頼むからお兄様と呼んでくれよ~」
「おにぃ、できたよ」
 赤い髪の妹が卵かけご飯を差し出す。
「おにぃはやめてくれよ~」
「じゃあ、新おにぃ」
「ちょっと、ワシの卵かけご飯、まーだー」
 常連客が厨房に顔を出す。
「しかし、女将。あの壁に飾ってある、髑髏のヘルメット、何。怖いよ」
 青い髪のエルフの幼女が笑って答える。
「へへっ、知らないのかい。伝説の料理人、おんぼろジョニーの髑髏のヘルメットを」


(Fin)
96

新野辺のべる 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る