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奇形見聞録

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 ネキリ・オーサッツがこの世に生を受けたのは大戦が終戦となるダヴ歴457年から9年前の
448年のことである。ネキリが生まれたのは甲皇国の首都マインシュタインのスラム街にある病院だった。
ある妊婦がその病院に運ばれてきた。その妊婦の腹は彼女の肉体の3倍に膨れ上がっていた。
とても一人を妊娠したような腹の膨らみなどではない。あまりの膨らみに妊婦は顔面蒼白になっており、
人事不省に陥っていた。

当時、その妊婦を担当した主治医のドクター・カディロフは言う。

「あの当時、私は2時間の外科手術を終えて仮眠に入っていたところでした。
本来ならあの後4時間の仮眠するハズでしたが、……1時間寝たか寝ていないかの
段階で主任にたたき起こされたんです。
スラム街のシュヴァルツ病院から緊急搬送だって。
最初、その妊婦さんを見たとき とっくに死んでるものかと思いました。
なぜ息をしているのかが不思議なほどでした。当然、帝王切開です。
その答えは彼女の子宮を開いた時に分かりました。
彼女の子宮の中に大量の脂肪というか……腫瘍の塊があったんです。
その腫瘍の塊は、子宮と同化し始めていました。おそらく、子宮を突き破って
破裂した時にその傷を埋めるかのように子宮と同化したんでしょう。でも、周りの筋肉や内臓を
圧迫し始めて手がつけられなくなった… 我々は先ず、腫瘍と子宮を切り離すことにしました。
破裂した時の傷口と思われる場所を発見することが出来たからです。そこを切り取って
腫瘍と子宮を分離し、傷口を修復すれば元通りというわけです………
結果は自分でも不気味なほど順調に進みました……1時間もかからなかったぐらいですからね。
分離後、子宮を縫合する班と、腫瘍の塊を調査する班とに分かれました。
産婦人科医が助手として居てくれたから思いついたことでありましたが……
いずれにしろ、私は腫瘍の調査に入りました。そして、驚くべきことが分かったのです。」

~結合双生児~

ドクター・カディロフの調査により、この腫瘍の内部を切開したところ、
突如として中から大量の血液と共に、目玉、歯、臓器や骨、毛髪、神経がそれぞれ5つ分と、睾丸と子宮が2人分と3人分摘出された。
そう、この腫瘍は元は五つ子だったのである。通常であれば受精卵が10日目以内に分離し、
完全に分離した双生児が生まれる筈なのだが、受精後13日目以降に分離してしまったようだ。
さらに、調査を進めると母体である母親は廃棄された核物質で汚染された疑いのあるメンゲルベルク地方の煙草を
吸っており、おまけに工業廃棄物で汚染された疑いのあるワロン海の魚介類を食べていたのだ。
それらが身体の中で恐るべき化学反応を起こしたのだろう、いずれにせよその五つ子たちは突然変異を起こし、
巨大な肉塊となった。何重もの肉の層を形成して、出てきた中身は血液と臓器であった。
考えられる答えは一つだ。この肉塊は臓器を守るために、作られたものである。
度重なる汚染された母体から身を守るために何重もの肉の壁を形成し、
5つ子たちは内臓たちを守ったのである。だが、流石に限界はあった。

「取り出された内臓の内、正常に機能したものは僅かなものだけでした。
眼球にしても殆どが白内障や緑内障を患っていて、視神経もあらぬ方向に枝分かれしていたりと
とても使用できるものではありません……臓器に至ってはそうですね……多いので省きますが、
酷かったのは心臓だったなぁ……5つの内4つは狭心症や不整脈を患っていましたし、
心室や心房の数がそれぞれ3つ以上あるもの、血液が逆流するもの……動脈と静脈が完全に同化していたりと……
骨に至っても一つをおおよそ206本だとすれば、1030本はなければならないハズなのに
確認出来たのは523本だけでした。理論上では五体満足でいられるのは2人……でも、数字通りにはならず
実際に組み立ててみれば、その2人とも腕や足など最低限必要な部位が無かったり、
逆に肋骨などが無駄に多かったりと……ひどいものでした。
……そうだ。あとは睾丸と子宮ですね。これも痛々しかった。睾丸は2×2で4個はありましたが、
その内2つは生殖不能でした。残った2つはなんとか使えましたが、
母体の汚染物質の影響を考えると、この2つから作られる精子でまともな身体をした子供が
生まれる保証など出来ません。子宮に至っては3つともダメでした。卵巣が3×2の6個のはずが、実際にあったのは
15個あったのです。一応、どれもまともな形はしていましたが、多い分あまりにも小さく
実際に排卵するとなると何らかの障害があることは否めませんでした……とまあ、色々と
使えそうなものを選別していく内、なんとか比較的障害の少ない1人分を作ることが出来ました。
残念ながら残りは廃棄処分となりました。可哀想ですが、この国では障害児は人間にあらず、生まれた段階で
抹殺すべしという傾向がありましたから……骨と臓器を揃えたら次は筋肉でこれを覆っていきます。
筋肉は必要なものをツギハギしていって何とかつなぎ合わせて作りました。これは意外にも足りない部分は
ほんのわずかしかありませんでした。ただ、それらを覆う肝心の皮膚がなく、もうこれは人工の皮膚を使うことにしました。
これでようやく1人分の子が完成というわけです。その子は男の子で睾丸……いや、金玉が機能していたため
生殖機能があり、眼球・舌なども臓器もまともに動いていたものの、四肢がなく、これらは義足や義手で補うことにしました。
誕生の経緯を知るのは我々だけです。もし、このことが知れていたらおそらく我々は処分されていたでしょう。
なにせ、障害児の誕生に手を貸したわけですから。」


こうしておよそ一週間近くの時間をかけ、世紀の大手術はここに幕を……処女膜を……
いや、やっぱり膜……いいや、幕を閉じたのである。

生まれたその男子は母親の許に渡されたものの、母親はそのあまりにも
人造人間風に出来上がった我が子を見て育児放棄したため、その子は暗殺教会へと引き取られた。
その子は暗殺協会のシスター・ユリディスの手によってネキリ(根切り)という名と、鏖殺(おうさつ)という姓を与えられ、
旧表記では鏖殺根切……新表記ではネキリ・オーサッツという名前となったのである。

その後、ネキリはシスター・ユリディスを担当教官として多くの暗殺術と人間至上主義思想を学んだ。
同期入会したのはシュエンが居たとされる。ネキリとシュエンの代は数多くの同期の中でもかなり仲が悪い部類であったが、
その中でもネキリとシュエンは比較的仲が良かった。暴走しやすいネキリを冷静なシュエンが抑えたり、
シリアス故に落ち込みやすいシュエンをキ○ガイジャスティス理論を展開するものの明るいネキリが励ましたりと言った風に
凹凸コンビではあったが、組めば最強かもしれないと言われていたほどだった。

「シュエンちゃん。いつかコンビを組んだら毎日、亜人の家を焼こうね!!!」と意気込んでいたネキリであったが、
それは叶うことはなかった。シュエンは暗殺の才能が無く危うく処分されかかった。それを案じたネキリは必死に
シスター・ユリディスに対し、シュエンには事務処理能力、機械操作能力、言語能力の高さがあることを進言。
それを了承したユリディスによって参謀司令部に回され、そこで教育を受けることになった。
最終的にシュエンはホロヴィズ将軍の秘書候補生として配属され、後に将軍付き補佐官として
佐官相当官の地位を得た。今や様々な人種と種族の溢れるミシュガルドにおいて、
アルフヘイムとSHWの要人たちとの対談では通訳要らずで シュエンの同時翻訳はかなり重宝されている。
シュエンさんかわいいかわいいねぇ~………とまあ、それはさておき。
その後、ネキリとシュエンは別の部署に配属されることになった。

ネキリはその後、丙武とメゼツにそのキ○ガイ振りと亜人虐殺思想を買われてアルフヘイムへと上陸。
ネキリは同じ強化人間繋がりで彼らと……特に丙武とウマが合い、よく義手と義足の話で
まるであの兎人族のディオゴ・J・コルレオーネの股間の盛り上がりのように、話が盛り上がった。
それ故に、ネキリは同じ北方戦線での勤務を希望したものの、西方戦線へと飛ばされた。
しかしながら、攻略が難関とされたコネリー高原のGスポット攻略作戦において
1ヶ月という短い期間ではあったが、2人の指揮の許、大量の兎人族を焼き殺した。
その後、彼は西方戦線へと戻っていった。その後は、セントヴェリアにて亜人虐殺に邁進し、
大量の亜人の家……いいや、亜人を焼き尽くした。
ダヴ歴457年のセントヴェリア攻略作戦において、「セントヴェリア城陥落まであと僅か」という通信を最後に消息を絶った。
理由についてはご存知のとおり、禁断魔法発動による大爆発が原因である。
ネキリはその大爆発に巻き込まれたとされ、フローリア攻略作戦の責任を負わされ左遷された丙武によって捜索が行われた。
丙武はネキリと同様に捜索対象となっていたメゼツも見つけ出すべく、懸命になってネキリとメゼツの捜索活動に当たった。
だが、それでもネキリはメゼツ同様 発見されることがなく1年後の458年の2月19日……死亡扱いとされた。

ネキリの遺体は無いものの、首都マインシュタインの戦死者慰霊碑の墓地において墓が置かれている。
その墓には死亡扱いとされた2月19日を命日と定め、その日には必ず墓に花が添えられている。

「……ご無沙汰してますね。正直言ってあなたにはかなり世話を焼かされました……
……貴方は一緒に亜人の家を焼こうねと意気込んでいましたが、一緒に私が焼いたのはあなたの世話だけだった気がします……
でも、貴方に救われた恩は忘れていませんよ。
貴方のお陰で拾ったこの命……大切に生きることにします……これは私からの餞別です。」

ホロヴィズ将軍の秘書シュエンはそう言うと、ネキリが愛用していたモロトフカクテルの瓶を
墓に供える。

「受け取って下さい。あなたにはお気に入りの酒でしょう……未成年ですが、死者の手向けなので許してもらえるでしょう。
……また成人したら、これで乾杯でもしましょう……」

シュエンは少し悲しげに微笑みながら亡き友人となってネキリ・オーキッツの墓を
背にし、去っていくのだった。











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