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絶望と歓喜

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 町は焦土と化していた。
 アスファルトは焼け焦げ、ビルは崩れ、バラバラになり炎に包まれた車のボディーがいくつも積み重なり今にも爆発を起こしかねない状況だった。 また、死体がいくつもゴロゴロと転がっていた。
 そこらじゅうで天に向かって上がる黒い煙がどんどん空気を悪くしていく。 さっきまでは快晴だった空も今ではどんよりと曇っていた。 遠くでは救急車のサイレンの音が聞こえてくる。
 しかし、どうしてもここまでは来ない。 理由は視界の隅に見えるボロボロになった消防車と救急車が物語っていた。
 初夏だというのに熱気はすでに猛暑日を超えているかのようだった。 陽炎ができるんじゃないかと思うぐらいまでに熱気が溜まっている。


 そんな地獄のような街の中、道路の脇で泣きわめく子供がいる。
 「わーん!! わーん!!」
 どういう訳かぼろ雑巾のようなものに縋りついて動かない。
 そのぼろ雑巾こそ、その子供の母親のなれの果てなのだがそんなことはどうでもいい。 
 問題はその奥だった。


 一人の少女がいた。
 燃え上がるような紅色をした魔導麗装を身にまとっていた。 無駄な装飾の歩tンド内動きやすそうな麗装をしていた。 また、その手には大きな槍を握っており、それを地面に突き立てながらなんとか立っていた。
 どうしてそうして立っているかというと、左足を失ってしまったからだ。
 いや、左足だけではない。 右腕と左わき腹にも大穴が開いていた。 それだけではなく一番酷い傷は左耳の上の部分、側頭部が大きく削れていた。 きれいに削れており、頭蓋骨の中に脳みそのようなものがほんの少しだけ見えるようだった。


 真っ赤に染まった薄い肌色のぶよぶよとしているようにも見える塊。 正直言って気持ち悪い。
 また、全身に切り傷や骨折のような傷を大量に負っていた。 頭の傷や頬の傷から流れる血液がその少女の顔を真っ赤に染めていく。
 致命傷を受けているにもかかわらず、少女は必死に目を前に向け続けている。 その目には怒りと憎しみと、そして恐怖の色が浮かんでいた。
 その視線の先、
 そこにアリスはいた。


 「ハハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハハハハ!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」



 狂ったような笑い声が、崩壊の音と共に町中に響き渡る。
 一歩、一歩前に進む。
 ふらふらと、しかししっかりと前に進む。


 手には大鎌を握っていた。 その周囲に宙を舞う剣が十本、まるで何かに襲われるのを警戒しているかのように飛び回っていた。 その姿はまるでガンダムに出てくるファンネルのようだった。
 だが、その剣が宙を舞い、その刃をきらめかせるたびに、周囲にあるものを次々と切り裂いていく。 範囲切断の応用だ、結界内で剣を振るうと斬撃が広がる。 それはアリスが振るわなくても、剣が動けばいいだけの話である。
 つまり今アリスは近づくものすべてを切り裂くことができるようになっているのである。
 それだけでも十分脅威だというのに、それ以上に敵の少女に恐怖感を与えているのはアリスの姿だった。






 まさに異形だ。
 かろうじて人間の形を保っているが、人間の形をした別の何かだった。
 まず、顔の半分の肉が崩壊を起こしごっそりとこそげ落ち、顔面の半分の頭蓋骨が完全に露出していた。 それでも眼孔の奥には眼球がしっかりと残っていて、鋭い光を放っていた。
 また、右目の奥からは血の涙が流れており、左目からは普通の涙が流れていた。 涙は一時も止まることなく、だらだらと流れ続けている。 だがあ、麗装は濡れることが無いので、涙はそのまま麗装の上を滑り落ちていった。
 半分になった口は、しっかりと笑いを形作っており、不気味な笑い声を漏らしていた。


 しかし、理性が働いているかどうかははっきりとしなかった。 もはやアリスは正気を保っているとは言えなかった。 大鎌を持っている右腕も完全に骨と化していたが、しっかりと鎌を握っている。
 サラサラと粒子化した肉体が地面に落ちていく音も聞こえてくるようだった。
 すでに体の右半分がほとんど崩壊していた。 骨だけになっても生命エネルギーが尽きない限りアリスが死ぬことはない、そのまま戦いを続けることができる。
 その証拠に骨の隙間から見えるピンク色の内臓。 それは今だにうごめいていた。


 「ハハハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 アリスは敵の少女の方へ向かって行く。
 敵少女は悔し気に顔を歪ませると重力干渉波を発生させ、宙に浮かぶ。 そして、右手に持っていた槍の先を向ける。
 「殺してやる!!」 
 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


 アリスは全く聞く耳を持たなかった。
 なので敵は宙を飛ぶとまっすぐアリスに向かって行く。
 すると反射的に十本の剣が全て敵の方を向くと、大量の斬撃を広げてくる。 敵少女はその太刀筋を完全に見切ると、襲い来る斬撃を次から次へと回避していく。
 斬撃の間をすり抜けたり、急上昇と急下降を繰り返したりする。
 麗装が切れたり、風になびく髪の先が切れたり、残った腕に大きな傷がついたりする。 傷ついていたのとは反対の頬にも深い切り傷ができてしまい、ブシュッという音ともに血が噴き出す。
 それでも何とか直撃は避ける。
 そして、一瞬の隙を見つける。


 斬撃と斬撃の合間だ。
 「ここだぁっ!!」
 そう叫び、腕を振るうと槍を思いっきり投げつける。
 その槍は敵少女の狙い通り斬撃を全てかわすとまっすぐアリスに向かって行く。


 それを見たアリスは反射的に左腕を上げる。 そして、狙いをつけることなく適当に指を鳴らす。 すると広範囲に空間削除が発生し、斬撃や剣もろとも敵の投げつけた槍をきれいさっぱり消去する。
 少女は反射的に横に飛ぶとすんでのところで削除をかわす。 ガオンという音が耳元で鳴り、耳たぶが少し削れる。
 それに気が付き、敵少女は一層醜く顔を歪める。




97, 96

  



 次の瞬間、アリスはあっという間に間合いを詰めていた。
 「な――っ」


 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!                      死ね」
 振りかぶられた大鎌が雲と雲に切れ間から差し込んだ日光を反射してきらめく。
 そしてそれは大きく弧を描くように振るわれると、見事敵少女の首を切り落とした。 その切れ味のおかげで少しも抵抗なく首を切り落とされた。 
 あまりにも一瞬のことで
 全てはそれで終わった。

 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」


 大笑いをしながら、アリスは少女の生首を踏みつける。 思いっきり踏みつぶしたせいでバキッという嫌な音がして、頭蓋骨が粉砕される。 そのまま足を踏み抜くと、グチャリと嫌な音と感触がする。
 おそらく脳みそか眼球を踏み潰したのだろうが、まったくもって興味が湧かなかった。 というか、理性が吹き飛んでいるのでそこまで考えが回らなかった。 今のアリスは破壊衝動と殺人衝動の塊だった。


 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 突然笑い声が途切れる。
 それとほぼ同時にアリスはばたりと地面に倒れこんだ。 そしてそのままピクリとも動かなくなる、その姿はまるで突然眠りこけてしまったかのようだった。 バキリッという骨がきしむ嫌な音がする。
 そのままアリスは地面に寝転がり続けた。


 いったいどうしてアリスがこうなってしまったのか
 その理由は戦闘が始まってすぐのことだった。






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