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怪人とわたしにとって

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 怪人とわたしにとって


 人間、みんな毎日が楽しく生きられればいいと思う。実際にそんなことは起こりえないって分かっているし、そんな理想を持つことは現実的に恥ずかしいことだし、バカバカしいと思う。だけど、そんなバカバカしい妄想を、心の隅っこにちょっと燻らせている。
 現実的に恥ずかしい。
 恥ずかしい。
 朝のニュースで、「なんとか町の病院で、点滴の毒混ぜて、患者何十人も殺したやつがいるらしい」ってことを聞いて、その後、「吸血鬼とブギーマン(?しらない)がどこか外国で戦争をしている」って聞いたのを屋上で昼ご飯の弁当を食べながらふと思い出す。
そういえば悪いやつって結局みんな『怪人』なんだよなぁ。
世の中に、『怪人』って呼ばれる途方もなく悪い連中がいるのを私は知ってる。
唐突に現れて、口にするのもおぞましい卑劣な行為をする頭がイカれた連中。
ときどきニュースに現れては、「馬鹿だなぁ」とみんなにうっすら思われて、次のニュースに押し流されて忘れ去られてしまう、かなしい連中。
自分の好きなことを、散々やらかして、駆除されてしまう、哀れな連中。
自分の欲求を外聞構わずストレートにぶちかますようなすがすがしさには、ちょっと憧れてしまう。わたしがそうなれたらどれだけ気持いんだろうか。
ドカン
って大きな音がして、音の方を見ると、血まみれで、全裸の男の人が立ってる。
 というか勃ってて、下半身がない女の人がその男に頭を鷲掴みにされてる。
 うわっ。怪人だこの人。
 って頭が真っ白になって、「ハッ」って悲鳴にもならないため息がでてしまう。
 男と目が合ってしまう。目は血走ってる。何秒だろう。男と目が合う。時間が止まる。
「ふ」
 男が私になにかを言いかけたのか、ただの呼吸音なのか。まっしろになった身体に血潮が流れ出すのを感じて、一気に汗が噴き出す。
 男は、私になにをするでもなく、バッと後ろを振り返って、すぐにとてつもない跳躍力で、隣のビルの給水塔に飛び移って、また飛んで、どこかにいなくなる。
 ドカン
 また大きな音がして、チンコ(?)みたいなデカい何かに乗ったハゲのおっさんが、屋上の鉄柵を壊して、血まみれの男の消えた方に消える。
唖然とするわたしの目の前に柏もちみたいな髪型の小柄で日本刀(?)を持った女の子と時代遅れのアフロでサングラスのおじさんが現れて、
「大丈夫?なにもされてない?」
 とわたしに近づく。
 わたしは、首を縦に振ることしかできない。
「良かった。」
女の子とおじさんは、チンコに乗ったハゲの消えた方にまたもやすごい跳躍力で消えてしまう。
 『怪人』
 そうだ。怪人を追ってたんだ。
 壊れた鉄柵。男の残した血痕。
 現実は怒涛だ。
 次の瞬間に何が起こるかは予想がつかない。
 一分後に、ひょっとしたらレイプされてるかもしれないし、三秒後には死んでるかもしれない。
 わたしは、とてつもなく大きな渦の中にいて、適当にもて遊ばれて、次の瞬間どうなるかわからない悲しみと慈しみと衝撃に翻弄されている。
 わたしのちょっとしたバカバカしい理想も、それについて感じる恥ずかしさも、大きな流れに沿って、終わることがないのだ。
 
 



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