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肛門〆

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何かを後ろめたい時や、人に嘘をつく時に、人知れず出る癖がある。
それは訓練しても中々直せるものではなく、僕は必ずその癖が出てしまう。
僕の場合、尻の穴を掻くことだった。

思春期、親父が苦手だった。
将来、進学、勉強、友達…プライベートに踏み込んできつつ僕との距離をはかりあぐねているその滑稽さが恥ずかしくて、会話を常に避けていた。

その親父は僕が洗面台でよく鏡を見るようになった頃に、前歯に差し歯をつけはじめていた。
親父は寝る前に差し歯を外し、洗面台に置いてある差し歯入れの容器の中に洗剤を入れ、その中に漬け込んでいた。
僕の歯磨き粉と歯ブラシの下の段にそれはあった。
気持ち悪かった。見たくもないものだった。
余計に親父が嫌いになった。

ある日陽気に髪の毛をブローしながらバスタオルを洗面台の近くのカゴに入れようとした時、バスタオルに引っかかって親父の差し歯が洗面台の排水溝の中に落ちていった。
排水溝の十字受けでは受けきれなかった。

気まずくなった。僕は知らないフリをした。
親父がその話をするたび、僕は肛門をいじくり、においを嗅いだ。
僕は親父との距離感を測ることが出来ないまま、あの時の癖で尻の穴を嗅ぎ、肛門のにおいをいつまでも嗅ぎ続けた。
僕は親父との距離感を測ることが出来ないまま、男が好きになった。
付き合った人の肛門のにおいをいつまでも嗅ぎ続けた。
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