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史上最悪の絶望少女戦―提案

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 フレイヤは顎に手を当てて何かを考えこむ。残った人たちはジッと彼女の姿を見る、その視線を一身に受け続ける。まるでそれは最後の審判を待つ罪なき人々のようだった。それに気が付いて、フレイヤは顔を上げるとキョトンとした顔をする。
 久美は何となく黙っているのが苦しくなったので進言することにした。


 「フレイヤさん、助けに行きませんか?」
 「あら、久美は乗り気なの?」
 「それはそうですよ。気になりますし、咲夜さんがわざわざここまで来たんですよ。多少不利益を被ったとしても、行くべきではないでしょうか?」


 フレイヤはそれを聞き遂げると、目を閉じてウンウンと頷いた。
 咲夜は久美の方を見て期待に目を光らせている。
 だがそれを裏切るようにフレイヤは非情な言葉を紡ぎだした。


 「私はそうじゃないわ。はっきり言って、乗り気じゃない」
 「「「え」」」


 久美、詩音、咲夜の三人の声がぴったりと重なった。
 特に咲夜はうまいことその言葉を認識できていないらしく、惚けた顔を続けていた。だが五分と立たずにフレイヤの言葉を完全に理解してしまった。次の瞬間、目から涙がこぼれだした。
 頬を伝い、地面に落ちていく。
 その姿を見て慌てる久美だが、対照的に彩芽は冷たい声で呟いた。


 「まぁそれはそうねぇ、得体も知れない相手と戦えってねぇ、こっちには何のメリットもないんでしょうぅ?」
 「彩芽先輩、その言いようは酷いと思うんだけどな」
 「でも、真実でしょぉ?」
 「そういうとこ嫌いだな」
 「私は詩音のそういうところ、嫌いじゃないわよぉ」
 「わー、嬉しいなー」


 呆れた声で二人が無駄な話を続ける。
 久美は何とかフォローしようとするが、うまいこと声が出ない。
 元凶のフレイヤはどういう訳か笑顔を浮かべると呟いた。


 「でも、場合によっては考えないこともないわ」
 「え?」
 「ちょっと待ってね、知り合いに頼んでその絶望少女について調べさせてもらう」
 「そ、それで?」
 「その結果によっては……考えないこともないわ」
 「――ッ!!!」


 泣き顔から一転、笑顔ともつかない微妙な顔をする咲夜。どうやら、フレイヤ自身は動かないようだが何らかの対策は講じてくれるらしい。それだけでも十分だった。久美もほっと胸を撫で下ろす。
 ほかの人たちも笑顔になる。
 ただ、彩芽だけは少しつまらなそうな顔をした物の「フレイヤさんが言うなら仕方ないわねぇ」と呟いた。


 「じゃあ、準備するわ」




 そう言ってフレイヤは部屋の隅にあったパソコンを引っ張り出してくると、机の上に置いた。そして慣れた手つきで電源を入れ、グーグルを開くと何か文字を入力し始めた。咲夜以外の人たちは興味津々といった様子でそれを覗き込む。
 すると「hello Daedalus welcome to magic world」と書かれているのが見えた。
 詩音は知らなかったが、久美と彩芽には見覚えがあった。
 エンターキーを強打して検索を始めるフレイヤ
 すると、画面におかしなノイズが入るのが分かった。
 ザザッというおかしな音が鳴り、赤や緑、様々な色が入り混じる。中には人の顔のようなものが映りこむ瞬間もあった。まるでホラー映画のようなそれに嫌悪感を抱く詩音だがすぐにそれは終わる。
 ブツッという音を最後に画面が真っ暗になる。
 そしてその次の瞬間
 画面の向こうから声が聞こえてきた。


 『あれー? 誰かと思えばフレイヤさんじゃないか、いったいボクに何のようだい?』


 そんな陽気な声と共に、一人の少女の姿が現れる。
 赤に近い色をした髪を短く切りそろえており、陽気な子供のような目をしていた。画面からうかがえるのは顔だけだが、どう見ても中学生にしか見えなかった。だが、魔法少女は歳をとらない。
 見かけの年齢は当てにならないことをみんなはよく知っていた。
 咲夜も気をひかれたのか、何とか起き上がると後ろに回ってパソコンの画面を見る。
 五人の魔法少女の顔を見て、画面の向こうの少女は驚いた顔をして呟く。


 『あれ? 電力会社へのハックの話じゃないのかな? 彼女たちは誰?』
 「由良、そのことじゃないの」
 『ちがーう!! 私のことはダイダロスって呼んでよー』
 「そうだったわね、由良」
 『……まぁいいや』


 気を取り直し、話を始める由良
 彼女はフレイヤと旧知の仲の魔法少女だった。電子系の能力を持っており、ネット世界に自分の意識を侵入させている。一部の魔法少女だけが知っているパスワードを入力すると彼女を呼び出すことができるのだ。
 傭兵魔法少女の派遣業も担っており、フレイヤの次に世界中で有名な魔法少女だった。
 フレイヤは一旦間を空けると本題に入った。


 「お願いがあるの」
 『何? 何でも聞くよー、新しい住処? 誰かを派遣してほしい? 活きの良い子が揃ってるよ』
 「風俗店じゃないんだから」
 『冗談だよん。で、何よ』
 「三人ほど魔法少女を派遣してほしいの」
 『オッケー、柳葉町だよね。二日もあればそこにつくと思うけど』
 「いいえ、長野県の山中よ」
 『……それまたどうして?』



9, 8

  



 さっきまで乗り気だったのが嘘のように、由良の顔が曇る。フレイヤは詳しい説明を始め、ついでに咲夜のことも紹介する。話が終わるまでは五分もかからなかった、由良は顔を曇らせると考え込む。
 五分間ほど、そうやっていた由良だが暗い声でこう言った。


 『うーん、別にいいけど』
 「お願いね、報酬は弾むから」
 『それはいいけど』
 「それに、場合によっては他にも何人の魔法少女を集めることになるかもしれないから、その下調べね。あとついでに集める候補の魔法少女の名前も教えておくから、いつでも連絡取れるようにしてくれる?」
 『……そういうことなら、しょうがないね。三人ほど派遣するわ、それもこっちのとっておきを』
 「お願いね。じゃあ、名前を教えるね」
 『準備は万端だ、いつでもいいぜ』


 フレイヤは淡々とした口調で魔法少女たちの名前を述べていく。
 総勢十人
 ここまでの数が必要になるとは思っていなかったが、全員が来るとはとても思えなかったので少し多めに申請しておいたのだ。
 由良はその名前を全て記憶すると、小さく頷いて言った。


 『オケ、こいつらなら何とかなるだろう。とりあえずは偵察の結果が出たら連絡するわ。じゃあね』
 「さようなら、また会いましょう」


 ここで会話が終わった。
 由良はネット世界から戻ってくると大きく伸びをして肩をほぐす。
 そして、自分の後ろで集っている魔法少女たちに声をかける。彼女たちこそ、由良が雇っているベテランの傭兵魔法少女三人組だ。ことあるごとに由良の手足として日本中を飛びまわっているのだ。


 その代わりに寝床とコアを提供している。
 この三人と由良の関係は長いもので一年にもなる。
 確実に仕事をこなす点を評価して、長いこと付き合っているのだ。


 「彼岸、薔薇、そして朱鷺。出番だよ」
 「私たちの出番なのですか」
 「そうみたいですねー、薔薇さんさん」
 「……お任せあれ」




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