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3話 思春期のラーメン店主

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 早乙女隼は、ラーメン屋に来ていた。
「安くて美味い、多い」と噂のラーメン屋だった。何より隼が心惹かれたのは、そのチャーシューだった。分厚く、それでいて味が染みていて、固体のアブラのかかったそれは、画像を見ているだけでよだれが垂れそうになるものだった。

 家から遠いから、チャリで走った。店の前の歩道に止める。店員が飛んでくる。
「いらっしゃいませー!うちのお客さんでよかったですかあ!?」
「はい!」
「すみませんこちら通路となってますんで、自転車はこちらにお願いしますうー!」
やたら語尾を延ばしてくる店員だった。だがいい笑顔だ。隼は頷いてチャリを移動した。
「お客さん、うちは初めてですか?」
なおも店員が迫ってくる。
「はいー」
「でしたらうち量多いんで、少なめをオススメしてますー」
その量に期待してきたんだけど、まあいい。郷に入らば何とやらだ。
よくわからんまま店員の言うままに食券を買い、店に入る。

「いらっしゃーい」
ゴツい。店主だろうか。目を合わせて挨拶してくる。笑っているが目が怖い。腕が太い。
あれくらい太ければ私の腕なんて軽々折れるだろう。そう思いヒヤリとする。
しかし店員のほうは対照的だ。ヒョロガリでオタクの様な外見。こちらの腕は私でも折れそう。
そしてオタク君は髪がボサボサである。メガネも少しずれてないか?
しかし笑顔がさわやかなので許す。量減らされたけど許す。

店主が麺を上げる。席が丁度茹で麺機の前なので、カウンター越しによく見える。
店主がザルを切る。ぱしっ。ぱしっ。小気味のいい音だ。
麺をどんぶりに盛りつける。私のはどれだろう。手前かな。
「あの…、そんなに見られると照れます(笑)」
店主がそっぽを向きながら呟いた。何だお前は思春期の中学生か。
内心ツッコミながら返答に困った。
「すみません。綺麗な麺上げだなと思って」
適当である。店主はなおも照れている。やれやれ。
「はい、ラーメン。どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます!」
「どうぞー!」
奥からオタク君の声が響く。よく通る声だ。
丼半分くらいに盛られた麺に、デカい豚、盛りだくさんのモヤシ。
キャベツも少し混じっている。そして固形のアブラ。
こんなの、女子が見たら卒倒しそうだ。って私も女子だったな。
隼は一人笑いながら、手をつける。

…うまい。
こんなラーメンは初めてだった。
醤油の少しきついスープは、固めの太麺と絡み絶妙な噛み心地。
そこにアブラとチャーシューのジューシーな甘みが合わさり、奏でるハーモニー。
味の濃さに飽きないように、シャキッとした野菜で攻守交替。
夢中で食べていたら、一瞬で丼が空になっていた。

最後の一滴まで飲み干し、顔を上げたところで店主と目が合う。
店主はキョトンとしてから、私の丼を覗いて、飽きれた様に笑った。
「お姉さん、いい食べっぷりだねえ」
「ありがとうございます。とても美味しくて…」
「うちは、初めてだよね?」
「はい」
「この辺に住んでるの?」
「いや、少し遠いので。チャリで来ました」
「おー。わざわざありがとう。また来てね!」
さっきまでの、怖かったり思春期だったりの印象とはまた違う、満面の笑みを店主は向けてくれた。
こちらまで頬が緩んでしまう。隼も少し照れながら笑顔で、ごちそうさまでした!と声にした。
「ありがとうございましたー!」
また店の奥からオタク君の声が響く。

隼はチャリに乗って、口笛を吹いていた。
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