鹽竈の(文字)オフレポ
一月二十日、金曜日。
この日、自分は東京に住んでいる後輩の部屋に転がり込んでいた。正確には、外で遊んで居酒屋で飲んで宿代代わりに奢って泊めてもらったのだが。
当日に直接名古屋に乗り込むには距離が遠すぎた故、一度東京でセーブポイントを設ける必要があったのだ。ありがとう後輩、学生時代からの旧知の友よ。色々と思うところはあるだろうが、仕事頑張れ。社会では耐え忍ぶことが最重要だよ、死ぬほど嫌なことがあってもな。
そして翌朝の二十一日、仕事へ赴く後輩と別れ自分は一路名古屋へ。
都会は人混みが本当にヤバい、絡まれないように気を張っていなければあっという間にお陀仏だろう。田舎者は都会に来ると心臓がノミレベルで収縮する特性があるのだ(勝手な偏見)。
自分は乗り物に弱い。酔うとかではなく、乗り物の揺れにすぐ微睡んでしまうのだ。年に何回も乗ることがない新幹線においてもそれは例外ではなかった。
窓際の自由席を確保し、発車と共に睡魔に襲われる。昨日の酒がまだ少し残っているのかもしれなかった。
名古屋駅の停車間際になって目を覚まし、慌てて身支度を整えて降りようとした時、隣に座っていた女の子に呼び止められた。
「あの」
「ん、はいっ?」
何かと思い振り返れば、彼女は窓際の席に放って置かれたままの財布を指して、
「これ、そちらのではないですか?」
見れば紛う事なき我が財布。危うく置き忘れて行くところだった。とりもなおさずそれを回収し、おざなりな礼を述べると彼女は愛嬌のある小さな笑みを浮かべて一礼を返してくれた。
都会にも心優しい人はいるんだなぁ、普通ならこれ黙って盗ってるとこですよ(勝手な偏見)。
なんやかんやでバタバタしながら無事に下車し、人の波に押されながら改札を潜る。
目的の地には着いた。が、朝早くから出たので時間にはまだ余裕がある。そういえばまだ朝飯を食っていなかったことを思い出し、とりあえず駅を出て近くのコンビニを探した。
適当な朝食を済ませてコンビニで雑誌を読み漁っていると、わりとあっという間に時間は過ぎていた。スマホの震えを感じて取り出すと、皆々様は着々と集いつつあるようだった。ならばと、読みかけのジャンプを棚に戻して申し訳程度にお茶を一本買いコンビニを出る。
集合場所である銀時計前。大勢の人がひしめき合っているそこだったが、かの人物は『新都社』と書かれたスケッチブックを手に待ってくれているという。少し遠目に探してみると、すぐにその人物は見つかった。
他の方々が感じていたように、また自分にとっても彼は年齢に見合わぬ若々しい外見をしているように思えた。僅かな戸惑いと共に、ゆっくりと近付く。相手方もこちらを視界に入れ、まず自己紹介から。
「ソっ……し、わひこです。初めまして」
一瞬、ソルトというか鹽竈というかで迷い、つっかえた妙な語調での出だしとなってしまったのが不覚だったが、相手はそれに触れることはせず(気付かなかったのかもしれない)自らの素性を名乗ってくださった。
「はい、初めまして。後藤健二と申します」
やはり。というかもう確定していたようなものだが、こうして本人からの名乗りを受けてようやく実感が湧いて来るものであった。
ところでふと思ったことであるが、自らの外見に関して年齢に反することを言われるのは相手にとってどういう気持ちなのだろうか。自分は、同輩や年下からは『老け顔』、逆に歳を重ねた上司や先輩方からは『全然幼い顔立ち』だと両極端な意見を貰うことが多い。
正直どっちを取っても嬉しいとか悲しいとかは無いし、やっぱり年齢通りの外見だと認識されるのが一番無難で有り難いのではなかろうか。
そんなどうでもいいことを考えていると、ふと横に滑らせた視線の先に殺し屋が居た。
これも間違いない、事前情報の通り、この人こそが自分のニノべ感想を幾度となく困窮に陥れてくれた大いなるギャグの伝道師、混じるバジ
「どうも、宮城毒素です」
「えっ」
いやちょっと待って話が違う!なんで!?えっ、宮城先生も殺し屋ルックで来てるの!?
そんな自分の戸惑いを余所に、眼前の人物はふっと微笑んで、
「冗談です。混じるバジルです、初めまして」
軽いパニックになりかけている自分へと真名を明かしてくれた。
「あ、ああ……どうも。鹽竈です」
完全に弄ばれた…流石としか言い様がない。
改めて見直す殺し屋スタイル。正真正銘の混じるバジル先生を見て、何故か自分は笑ゥせぇるすまんの喪黒福造を脳裏に浮かべた。何故だかは本当にわからない。ただ、そういった並々ならない気配を感じ取ったが為に幻視したのかもしれなかったがやはりわからない。
そして普通に真面目そうな人だった。他の人が感じている通り、また自分も彼の作風からしてもっと奇抜な人柄をイメージしている部分があったのだろう。別に突然人差し指を向けて『ドーン!!』とかはしそうにない。
そんなこんなで何か話をするより先に、今度は大柄な人物がやって来た。体格に一瞬臆するが、その表情と全体的な出で立ちというか纏う雰囲気でなんとなく予想が付いた。唯一の未成年にして学生のどんべえは関西派先生だ。
ぶん殴られたら頬骨が粉砕しそうなガタイであったが、どんべえ先生はこちらに来るなり丁寧律儀な挨拶をくれた。
四人揃い、残すは宮城毒素先生一人となった。が、聞いていた外見情報と照らし合わせてみても周囲にその影は見えない。キョロキョロと探してみて、ゴトケン先生が最初に見つけられた。その声に反応して振り返ってみれば、そこには穏やかそうな物腰の青年が立っていた。
ありがたいことに感想日に合わせて皆勤賞で更新されている宮城毒素先生。これも作風からしてミステリアスな方かと少し予想していたが、そんなことはない。人の好さそうな顔で、こちらとも普通に接してくださり全体的にこの面子に安堵を覚えた。
全員が揃ったということで、ゴトケン先生先導のもとで昼食をとることに。まったく一応はオフ会の話を持ち出した人間だというのにこの人任せの体たらく。自分が少し嫌になったりする。
せっかくの名古屋ということで名物の味噌カツを食べることに。美味い。美味いが喉が渇く。でも美味い。
それからカラオケへ。やはり都会の駅前は賑わっている。土曜日というのもあるからか、様々な集団や人々が忙しなく往来を行き来していた。
カラオケルームに入り、ひとまずはゴトケン先生が用意された用紙に自らのことを書いて、それからh歌ったり小説に関しての今後の話などを固めたりした。
ゴトケン先生はさすがオフ会慣れしているので、こうして初対面同士が集まる場でも物怖じする様子はまるでなかった。やはり人生経験が段違い、ということなのだろうか。齢二十二の若輩者にはまだまだわからないことが多い。
そんな中で場を和やかにしてくれるのは、これもやはりというかなんというか混じるバジル先生。歌といいトークといい、一度始めると全て掻っ攫ってしまうそのキャラクター性はとても羨ましいものがある。自分もそういう強力な個性が欲しい!
今時の人にしては珍しくカラオケにはあまり行ったことのないというどんべえ先生。携帯電話もお持ちではなかったし、珍しいなと思った。でもゲッターが好きというのはとても興味深かった。自分も真ゲッター好き。大雪山おろしとストナーサンシャインが格好良くてお気に入り。オープンゲットは本当に浪漫がある。
ノベルゲームを作ろうとしているという宮城毒素先生の話は非常に惹かれるものだった。せっかくこうしてオフで会えた縁、もし迷惑でなければ一枚でも二枚でも噛ませて頂きたいお話。絵は描けないので、シナリオ等の面で一助となれれば…かな。
話もある程度固まり、カラオケを出た一同はそのまま少し早めの夕食へ向かった。世界の山ちゃん、『幻の手羽先』という胸躍るワードの書かれた暖簾を潜り、皆で着席したのちにビールを頼んで手羽先を注文。
面白いお店だった。視線を落とすとテーブルの上にあるおてもと。表面には手羽先の上手な食べ方をデフォルメされた山ちゃんが説明してくれていた。さらにはテーブルの端に泥酔した山ちゃんが車を運転しているイラスト。の上から大きな赤バッテン印。飲酒運転厳禁であることを我が身を犠牲に教えてくれている山ちゃん。
談笑しているとすぐさま手羽先は運ばれてきた。こんなに山と盛られた手羽先を見る機会は中々ないと思う。圧巻だった。
美味辛い。美味いが喉が渇く。でも美味い。ってかビールがめちゃくちゃ合う。
酒の席というのは人と人との距離を近付ける。それは物理的な話に留まらず、精神的な意味でもと自分は思っている。だから宴会には欠かさず出るようにしているし、事実普段割れない腹を互いに晒せる場というのは大切にしなければならないものだ。個人的には、そう考えていた。
その日会ったばかりの五人にしては、結構話すべきを話し合えたのじゃないか。大きな収穫はそれぞれにあったと思う。思いたい、かな?
腹の膨れた五人は、そのまま駅で別れた。ここへ来た時に帰りの切符を買っておけばよかったな、とやや後悔しつつも、自分は他四名それぞれへ別れの挨拶を済ませ新幹線に乗り込んだ。
惜しむらくは今回不参加となってしまったファイアーサンダー先生。もっと前の段階から今回の話を出していれば、もしかしたら参加できたのかもしれないのに。そう思うと自身の不甲斐なさへの自責に拍車が掛かる。
いずれ、また機会を設けて会えれば何よりだ。…………その時には、こっそり自作品のキャライラストを描いてもらえるように貢物を持って相談してみたいところです。なんて。