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オマケ企画「カラテレンビクトリー」

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ここからはオマケの企画です。
私が作ったNo27、No33を除く全ての一枚絵でカラテレンビクトリーという創作物をやってみようという物です。
色々醜いと思いますが、よろしければ見てやってください。
No1「小さな侵略星人」

ある日、日本の国際宇宙開発局の月探査船が信じられない物を宇宙空間で回収した。
淡い光を放ちながら眠る、掌大の小さな少女である。
童話の妖精に酷似した外観から、「コスモピクシー」と名付けられたそれは、世界中の大きな注目を集めた。

宇宙の神秘の解明、ファーストコンタクト…。
人々はコスモピクシーにそんな夢と希望を見て、その研究解析を急がせる。
美しく、小さく、儚げなそれは、人類の警戒心を薄れさせ、探求心をくすぐるのに十分な外見だった。

そして、慎重論を唱える少数の意見を押し切り、地球に運ばれたコスモピクシーは、宇宙船から降ろされるや突如覚醒、巨大化する。
コスモピクシーの正体、それは地球侵略のためにやってきた侵略星人だったのだ。
人類の呼びかけを無視し、街を破壊して逃げ惑う人間を捕食して更に巨大になっていくコスモピクシー。
軍が出撃して攻撃を加えるも全く歯がたたず、逆に、コスモピクシーの放つ強力な怪光線で撃破されてしまう。
やがてコスモピクシーに増殖の傾向が見られ、核兵器の使用が検討され始めた、その時、天空の彼方から白い胴着姿の巨大な人型のなにかが飛んできて、コスモピクシーの前に立ち塞がった。
その名は、「カラテレンビクトリー」、宇宙の道徳に従い、侵略衝動に駆られて地球を襲う星人達から人類文明と地球を守るためやってきた巨大宇宙人である。
カラテレンビクトリーはコスモピクシーと素手で打ちあい、軍の最新兵器でも傷つけられなかったコスモピクシーをぶちのめして、三弾蹴りを見舞って撲殺した。
爆発四散するコスモピクシー。
コスモピクシーを倒したカラテレンビクトリーは、再び空へと帰っていく。
それを、人々はただ茫然と見送った。
宇宙の神秘も、ファーストコンタクトも、人類が受け入れるには大きすぎたのだ。
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No2「子供侵略」

ある日突然、子供達が大人を襲い始めた。
昨日まで何事もなく暮らしていた子供達が、集団で武器を持ち、暴れ、人を殺す。
それは、宇宙から来た地球侵略を企む侵略星人、ミンサッカ星人の脳波制御装置によるものだった。
ミンサッカ星人の脳波制御装置は成人には作用しないが、子供ならば意のままに操る事ができるのである。
そして星人に操られると子供達は体のリミッターが外れて、恐るべき身体能力を発揮してしまうのだ。

身体強化された子供達は遮る物を蹴散らしながら、次々と大人を襲っていく。
訓練された警官や兵士が銃火器をもってそれに応戦しても、ミンサッカ星人に操られ、力強く、素早く、恐れを知ら無くなった子供達はそれに勝ってしまう。
犠牲者は日に日に増していき、ミンサッカ星人の存在を感知できない人類には事態の根本的な解決は望めない。
ミンサッカ星人が勝利を確信したその時、天空の彼方から白い胴着姿の星人が飛んできた。
宇宙の道徳に従って、人類文明を救うべく現れた宇宙の空手家、「カラテレンビクトリー」である。

カラテレンビクトリーは星人の脳波制御装置の制御信号を超感覚で感知し、星人の本拠地を発見して襲撃をかけた。
ミンサッカ星人の操る子供達がカラテレンビクトリーに応戦するが、ビクトリーはそれを容易く捕えて拘束していく。
追いつめられたミンサッカ星人は遂に巨大化し、カラテレンビクトリーの前に現れた。
黒い髪をツインテールにし、ランドセルを背負い、文化包丁のような武器を持つ小学生位の外観の巨大な少女、それがミンサッカ星人の姿である。
地球の子供をミンサッカ星人が簡単に脳波制御できたのは、ミンサッカ星人と地球の子供の身体構造に近い物があったからなのだ。

文化包丁を鋭く振りかざし、カラテレンビクトリーを襲うミンサッカ星人、対し、ビクトリーは足元を子供がうろついているため思うように戦えない。
ビクトリーの体を文化包丁が切り裂き、星人の口元に笑みが浮かぶ。
その時、星人の背で爆発が起こり、その体制を大きく崩した。
驚き、振り返った星人に、駆けつけてきた自衛隊の戦闘ヘリから機銃掃射が見舞われる。
目を撃ちぬかれ苦しむ星人。
ビクトリーはその一瞬を逃さず、大きく上空に飛び上がると、必殺の飛び蹴りをミンサッカ星人に放ち、その頭部を一撃で粉砕した。
頭を失った星人の胴体は倒れ伏し、爆発四散する。

子供を操った卑劣な宇宙の少女の企みは、こうして勇敢な大人たちの手で叩き潰されたのだった。
No3「死神星人を倒せ」

一撃。
何かが空間を横切ったと感じた次の瞬間、空を飛んでいた攻撃ヘリの編隊が横一文字に次々と両断された。
次いでもう一撃。
今度は地上から放たれた戦車砲弾が真っ二つになり、空中で爆発していく。
更に一撃、一撃、一撃…。
ものの数分で人類の誇る最新兵器群はなすすべなく切り裂かれ、殲滅された。
宇宙から地球侵略にやってきた侵略星人、スコール星人の仕業である。
突然何の前触れもなく地上に現れたその巨大な星人は、正体不明の斬撃兵器を用いて地上の都市を次々と破壊していた。

破壊の限りを尽くすスコール星人を倒すため、天空の彼方から人類に救援が現れる。
宇宙道徳に従い、地球と人類文明を守る、白い胴着を着た宇宙の空手家、「カラテレンビクトリー」だ。
地上に降りたち、スコール星人に構えをとるカラテレンビクトリー。
だが、星人はビクトリーの姿を認めると、陽炎のように揺ぎ、消えてしまった。

その後も星人は神出鬼没に世界各地に現れて都市を蹂躙し、カラテレンビクトリーが応戦に現れると消える事を繰り返していく。
世界各国は協力してスコール星人に対抗しようとするも、通常兵器も化学兵器も通じず、核兵器を瞬間移動で回避する星人にはなすすべがない。
無慈悲で圧倒的な力を持ち、人間の骨格に似た体を布で覆っているその外観から、スコール星人はいつしか死神星人と呼ばれ、世界の人々に恐れられた。

何度向かっていっても星人に逃げられるカラテレンビクトリーは、新たな技を編みださんと特訓を開始する。
星人が敵を認識して瞬間移動で消えるために力を溜めるわずかな時間、その一瞬の隙に星人を攻撃する特訓だ。
ビクトリーが現れなくなった事で星人による被害が増していく事に焦りを感じ乍らも、徐々に新必殺技を形にしていくビクトリー。
しかし、星人はビクトリーが何かしらの準備をしている事を察し、ビクトリーを挑発すべく日本の原子力発電所に現れた。
迎え撃つ自衛隊を蹴散らし、原子炉に迫るスコール星人。

やむおえず特訓をやめてスコール星人に立ち向かうビクトリー。
だが、8割がた新技を完成させていたビクトリーは星人の元に向かう道中で技を完成させる事に成功する。
それは全てのエネルギーを自身の体を加速させる事に割り振った超高速の体当たりだ。
全エネルギーを使った体当たり攻撃は見事にスコール星人にさく裂し、その体を粉々に打ち砕いて爆発させる。
体当たりのダメージを受けてよろめきながらも爆発する星人を背に立ちあがるカラテレンビクトリー。
宇宙から来た死神が粉砕され、勝利の女神がほほ笑んだ瞬間だった。
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No4「四大星人の企み」

闇夜の晩、その会合は静かに始まった。
欧州の森の中に建てられた小さな小屋の中で、ランプの灯りに照らされて座る人影が五つ。
おおよそ現代の文明圏に似つかわしくない、ファンタジーの世界から抜けだしてきたような姿をしたその集団は、魔王退治に赴く勇者一向でも、財宝を目指す冒険者の一団でも無い。
地球侵略を企む、残虐非道な侵略星人達だ。

「時間だ、会談を始めてよろしいだろうか?」

集まった一同を見渡して、頭に角を生やしたトカゲを人型にして鎧を着せたような外見の星人が話を切りだした。
グライカロッド星人、口から濃縮された数万度の炎を吐く別名宇宙炎龍人と呼ばれる星人だ。

「構わない」

二人いる右目を黒髪で隠した青年の、グライカロッド星人の向かい座っている方がそれに応じる。
巨大な高層ビルも念動力で軽々持ち上げるババム星人だ。

「いいよ」

ババム星人の隣に座る、肩当をつけた金髪の少女は軽い調子で返答する。
華奢な背格好をしているが、彼女、ビーヘイト星人が傍らに置いた剣に斬れない物質は子の地球には存在しない。

「…」

最後に立派な口ひげを生やしたスキンヘッドの男が無言で頷いた。
エゼロ星人、強力な宇宙ロボットを作りだす種族である。

周囲の了承を得たのを確認すると、早速グライカロッド星人は話し始めた。

「調査の結果、地球人類の軍事力は我々の侵略計画に対し何ら問題ない事がわかった。やはり我々の地球侵略の障害は、カラテレンビクトリーだけだ」

カラテレンビクトリーとは、宇宙の道徳に従って地球と人類文明を守る、宇宙の空手家である。
その戦闘能力はとても高く、これまでに地球を狙った侵略星人達はカラテレンビクトリー一人のために全て敗れ去っていた。
そこで、侵略星人達はまず邪魔なビクトリーを倒すため、こうして一同に集結したのである。

「じゃあもう心配ないね、皆でカラテレンビクトリーをいたぶり殺せばいいだけじゃないか」

ビーヘイト星人がころころと笑いながら発言した。
その横では、ババム星人が軽く頷いている。

「まあ所詮奴は一人だ、しかし、そうすれば奴も死に物狂いで反撃しこちらにも多少は被害が出るだろう。そこで提案がある」

そう言って、ババム星人の方をみるグライカロッド星人。

「ババム星人の念力で、地球人共を戦闘空間に大量に浮かせるのだ。
奴の攻撃は強力で、脆弱な地球人類は掠っただけで死亡する、宇宙道徳を重んじる奴が身動きが取れなくなったところを、我々が攻撃すればいい」
「いいね」
「構わない」

ビーヘイト星人とババム星人は、グライカロッド星人の案にすぐに賛成した。
ただ一人、エゼロ星人だけは黙って話を聞いている。

「お前はどう思う?」

そんなエゼロ星人に、改めて尋ねるグライカロッド星人。
しかし、エゼロ星人は応えない。

「おい」

少し苛立たし気に、グライカロッド星人がエゼロ星人の肩を叩いた。

「ごぶっ!!」

突如、エゼロ星人は黒い血を吐き、その場に崩れ落ちる。
その腹を貫通し、後ろの壁から貫手が伸びていた。

「貴様等の企みは全て聞かせてもらった」
「カ…カラテレンビクトリー」

壁を粉砕し、白い胴着を着た星人、カラテレンビクトリーが小屋の中に乱入する。
カラテレンビクトリーは素早く拳を振るい、驚くババム星人の頭を粉砕した。

「貴様」

仲間を殺されたもう一人のババム星人が振り返るが、ビクトリーは星人が念動力をつかうよりも早く空手チョップでその上体を真っ二つに叩き切る。

「せっ!」

混乱から立ち直り、剣をとったビーヘイト星人がカラテレンビクトリーに斬りかかってきた。
ビクトリーはそれを素早くかわし、再度放たれた斬撃を両手で白羽取りにして脚で剣を叩き折る。

「ああ!?」

狼狽えるビーヘイト星人。

「喰らえ!」

そこに、背後からグライカロッド星人が火球を放ってきた。
しかしビクトリーは素早く飛びあがってそれをかわす。
火球はビクトリーの前にいたビーヘイト星人に命中した。

「ギャアアアアア」

炎に巻かれ、断末魔をあげて崩れ落ちるビーヘイト星人。

「おのれ」

再度ビクトリーを狙って火球を放つグライカロッド星人。
ビクトリーはそれもかわすと、手にしていたビーヘイト星人の剣の刃をグライカロッド星人めがけて投げつけた。

「ぐええっ」

頭に刃が突き刺さり、悶絶して倒れ爆発する星人。
その炎が周囲を包みこみ、あっという間に小屋を倒壊させ、炎が消える頃には全てが炭となり、後には何も残ら無かった。
カラテレンビクトリーはそれを確認すると、空の彼方へと飛び去っていく。
後には静けさを取り戻した欧州の森だけが残っていた。
No5「大怪獣ヘルクラーケンの最後」

「逃げろ?と?」

深夜の日本のとある田舎町。
街灯もない暗闇の中で、花魁のような格好をして着物の襟をはだけさせた女が、目の前に転がるスルメの様な物に訪ねていた。
スルメはその足を動かし、肯定の意を示して見せる。

この女はジャン星人、地球侵略を企み、地球に怪獣送りこんだ侵略星人だ。
その侵略怪獣、ヘルクラーケンは数百メートルあった自らの体を乾燥させて極限まで小さくした姿になり、ジャン星人の元に逃げ帰って地球からの退避を呼びかけていた。
ヘルクラーケンが言うには地球には人類文明に味方する強力な宇宙空手の使い手がいて、ヘルクラーケンはそれに散々なまでに打ちのめされ、小さくなって何とか逃げてきたという。

「ふんっ、たかが宇宙空手の使い手如きに逃げる必要などない。妾の存在に気づいたのなら、ここで迎え撃つまでの事よ」

プライドの高いジャン星人がヘルクラーケンの言葉を一蹴したその時、ヘルクラーケンを追撃してきた宇宙の空手家、カラテレンビクトリーが暗闇の中から現れた。

「地球侵略を諦めて星に帰れ、さもなくばお前を倒す」

構えをとり、星人に警告するカラテレンビクトリー。
星人はそれを無視し、粘液が滴る手で指を三本上げて何かのサインを作る。
すると、星人の背後に次々と御用と書かれた提灯のような物が現れた。
提灯群はふよふよと飛びながらビクトリーを囲んでくる。

「死ぬがよい」

ジャン星人の言葉と共に提灯から一斉に放たれる殺人光線。
四方から放たれた光線をビクトリーは素早くかわし、一気に星人に肉薄する。

「何!?」

ビクトリーの予想外のスピードにジャン星人が驚いた直後、その腹に正拳突きがさく裂した。
鈍い音が響き、数歩後ずさる星人。
周囲に浮いていた提灯のような物が次々と消滅していく。

「ま…負けた、妾ではどう足掻いてもお前には勝てぬ」

力の違いを察し、苦しみながらそういうジャン星人。
星人は目をつぶり、覚悟を決める。

「殺せ」
「待て」

ビクトリーは潔く死を選んだ星人を制すると、床に転がっていた物を拾い上げ、星人に見せた。

「へ…ヘルクラーケン、私を庇ったのか?」

それは真っ二つになったスルメ、ヘルクラーケンだ。
ヘルクラーケンは正拳がさく裂する刹那に星人を庇い、本来ならば即死するはずだった星人を救ったのである。

「折角ヘルクラーケンに拾われた命だ、侵略を諦めて地球を去れ、そうすれば追わない」

そう言って、ヘルクラーケンの残骸をジャン星人に渡すビクトリー。
ジャン星人はそれを受け取ると、しっかりと胸に抱く。

「妾の…完敗だ」

それだけ言って、ジャン星人は空へと飛び立っていった。

「…見事だった」

カラテレンビクトリーは地面に散らばるスルメの破片にそう言って一礼すると、自分もまた夜の空へと飛んでいく。
後に残されたスルメは風に乗り、どこかへと散っていった。
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No6「七色の侵略者」

ある日突然、極彩色の光を放ちながら動物を襲う七色のカビが世界各地に出現した。
太陽の照らす昼は動かないものの、夜になると高速で動いて人間や動物を捕食していくそれは、脅威的な速度で繁殖し、次々と犠牲者を増やしていく。
火炎放射や毒劇物等、人類の抵抗を物ともしない七色のカビ。
その正体は、地球侵略に来た侵略星人、メルビ星人だ。
知的生命体であるメルビ星人は、太陽光という弱点があるもののそれを策略で補って、効率的に人類の主要な都市や重要な施設を破壊していく。

そんなメルビ星人から人類を救うため、天空の彼方から白い胴着姿の宇宙人が現れた。
宇宙道徳に従って戦う巨大な宇宙の空手家、カラテレンビクトリーである。
カラテレンビクトリーは月夜の晩、蠢く無数のメルビ星人の前に立ちふさがり、その体に人類の如何なる破壊兵器よりも強力な必殺の技を叩きこんでいった。
しかし、メルビ星人はビクトリーの猛攻に平然と耐え、体内で生成した強力な殺人光線を放ってカラテレンビクトリーを昏倒させ、包み込んで溶かそうとし始める。
あわやビクトリーが倒されてしまうというところで太陽が昇り、メルビ星人は活動を休止した。
休眠しているメルビ星人はあらゆる攻撃を受け付けない絶対防御力を持つため、やむおえずその場から飛び去るカラテレンビクトリー。

各国はビクトリーが敗れたため、メルビ星人に対して核兵器の使用を決定する。
昼は防御力が高まっているため、夜間の活動している星人めがけ、数発の核弾頭が放れた。
だが高度な科学力を持つメルビ星人は核兵器の制御を奪い、その照準を人類の主要な都市へと変更してしまう。
主要な都市に迫る核弾頭に、なすすべがない人類。
それを救ったのは、再び現れたカラテレンビクトリーだった。

宇宙空間で核弾頭を無力化させたカラテレンビクトリーは、しかし地球に背を向けてどこかへと飛び去ってしまう。
世界の人々はそれを見てビクトリーが逃げた、と落胆し、最早なすすべがない事に絶望する。
勝利を確信したメルビ星人の行動は大胆になり、曇りなどで太陽光が弱ければ、昼でも活動する様になりだした。

星人は更に効率よく人類を滅ぼすために核弾頭の強奪をもくろみ、核兵器を保有する亡国の基地を攻撃し始める。
核ミサイルが星人の手に落ちかけたその時、三度、カラテレンビクトリーが駆けつけてきた。
ビクトリーは星人の殺人光線を防御すると、今度こそ自分を飲み込もうと接近してくるメルビ星人めがけ、体から強い光を放射する。
光を浴びた星人は苦しみ、断末魔の様な怪音をあげて消滅した。
ビクトリーは太陽へ赴き、そのエネルギーを全身に蓄積し、それを放出したのである。
更にビクトリーは星人間の情報拡散能力を乗っ取って使い、撃破した星人群になりすまして誤情報をばら撒いて星人群を一か所にまとめると、強烈な太陽光を浴びせて一気にこれを殲滅した。
恐ろしい七色の侵略者は、カビから知的に進化しすぎたために、油断して足元をすくわれたのである。
No7「悪夢の人体侵略者」

巨大な生首、合体した二人の人間、小さな鬼のような小人、一つ目の男、横たわる骨、片脚の幼女…。
そんな妖怪のような人々が、騒ぎながらピザを食べている。
そう、「人々」、人間だ。
彼等は怪物では無い、れっきとした我々と同じ地球人類である。

昨日、彼らの街は巨大な侵略星人、ベベロッタ星人の急襲を受けた。
星人は周囲の物体を自在に変質させる能力を持っていて、彼等はその能力の犠牲になったのである。

昨夜だけで数えきれない程の人間が異形の姿にされ、病院や避難所はそんな人々で溢れかえり、そればかりか手足や感覚器を奪われて動け無くなった人々が今もまだ、路上に転がっていた。
星人は既にどこかへ去っているが、他の街でも多くの被害が出ているのだろう、救助がやってくる気配はない。
どうにか人間の形を保っている人達は路上に溢れる動け無い人々を近くの屋内へと運んで回り、そこで事態の収拾を待つ事にしていた。

「おい、しっかり動かせよ、食えねえじゃねえか」

同僚の男性と合体させられたタクシードライバーのMが、自分の半身になったYに言った。

「そんな事言ったってなんか自分の体なのにうまく動かせな…いてて」

抗議しながら手を動かし、Mの口元に右手に持つピザを運ぼうとするYだったが、なぜか左手が動いて自身の頬をつね繰り出す。
MとYは動かない腕を一本、右の背中から生やされた状態で体を融合させられ、両手はYが、脚はMが動かしていた。
一応立って歩く位はできるが、今の様に手足は思うように動いてくれず、ここに来るまでの間にも何度か転倒や衝突を繰り返し、二人は全身包帯だらけである。

「tヴぇサ背マsyおうヵ?」

それを見て隻腕、単眼の男、この家の主であり、冷蔵庫にあったピザを一同に振るまっている翻訳家のSが、滅茶苦茶な発音で二人に何事か述べた。
Sは目と腕の他に喉か舌、もしくは喋るのに必要な脳の機能をいじられたため、まともな発音で喋れなくなっているのである。

「ん」

そんなSに、彼の膝に乗っていた片脚の幼女が手にしたピザの切れ端を差し出してきた。
彼女はC、実際は長身の女医であるが、星人に知能と体系、そして足を奪われ、周囲の手を借りなければ何もできない体にされてしまっている。
医師としての技術は体に染み込んでいるようで、隻腕のSに代わってM達に包帯を巻いて手当てを施したのは彼女だが、複雑な会話や、難解な計算はする事ができなくなっているため、それ以上の治療は設備もない現状では期待できない。
皆生活に支障をきたすような変身をさせられた者ばかりだが、彼らはまだマシな方だ。

「おいしい、です」

先ほどSが近所の男性と協力して何とか家の中へ運びこんだ大きな首、小学生のI君が、一日ぶりの食事に今にも泣きそうになりながら、口に運んでもらったピザをゆっくりと噛みしめる。
I君は頭だけになった上で巨大化させられ、全く身動きができない状態だ。
そんな体で、昨日一晩、路上に放置されていた彼の不安と恐怖、そして助けられた安堵感は計り知れない。
I君の周りでは50cm程の小鬼のような姿にされた人が何人か、彼の体を拭いたり、ピザを渡したりして彼の世話している。
小動物のような思考になっているらしい彼らとは意思疎通ができなくなっており、どこの誰かもわからない、I君の世話は、彼らが自然と始めた事だ。
もしかすると彼らはI君の関係者なのかもしれないが、それを知る術は今は無い。

「戻れるのかねえ、俺達」

頭を前に出して何とかピザをかじりながら、Mがつぶやいた。

「星人が倒されれば戻るんじゃないですか?」

変に手を動かしてMからピザが離れるといけないため手を固定しつつ、Yが応える。

「あいつどうなったんだ?そういえば」

星人の行方を気にするMの言葉に、話を聞いていたSが動いてテレビのスイッチを入れた。

『星人はまっすぐにXX市を目指して進行しています!自衛隊による遅滞作戦が行われていますが、まるで効果が見られません!悠々と星人は進行しています!』

テレビでは、緊急特別放送が行われており、アナウンサーの必死の叫びが聞こえる中、画面には田園地帯を進むベベロッタ星人が映っている。
画面外から砲弾やミサイルが放たれているが、それらは着弾する前に煙のように消えたり、あらぬ方に飛んでいったりして、一発も星人に当たっていない。

「やっぱ駄目か…」
「化け物ですね…」

MとYが悔しそうにそう言った、その時、カメラの横からスタッフが画面に割って入り、空を指さした。

『カラテレンビクトリーだ!』

カメラがスタッフの指さす先を追うと、空の彼方から飛んでくる、胴着姿の宇宙人が映し出される。
宇宙道徳に従って、人類文明を守る、宇宙の空手家、誰が呼んだかその名はカラテレンビクトリー。
カラテレンビクトリーは地面に降りたつと、ベベロッタ星人に構えをとった。
だが、次の瞬間、ビクトリーの体は苦しみだし、その姿が歪み始める。
星人の物質を変質させる力がビクトリーを襲ったのだ。

「ああ!」

その光景に、悲鳴を上げるI君。
しかし、ビクトリーは気合一閃、叫びをあげると、歪みを消し去って元の姿へと戻って見せた。
驚く星人。

「おおおお!」
「いいぞいいぞいいぞお!」
「ikえええええ」
「勝てるよ!」

Mが、Yが、Sが、I君が、その光景に歓喜の声を上げる中、画面の中のビクトリーは星人に上段蹴りを放って、一撃で頭を跳ね飛ばした。
画面内外で大歓声が上がる中、空へと飛び去っていくビクトリー。

こうして奇怪な人体侵略者は文字通り一蹴され、変質させられた人々も元の体へと戻っていった。
侵略星人の起こした悪夢のような出来事は、それこそ夢の様に、一夜にして終わりを遂げたのである。
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No8 「霧の中の用心棒」

日本某所にある無人島を正体不明の濃霧が包み込み、衛星からも観測できるような強烈な光が何度も観測された。
原因究明のため海上保安庁の調査船が調査に赴くが、調査船は霧の中で消息不明になり、更にその調査船を救助に向かった船団までも、霧の中で次々と消えてしまう。

やがて消えた船団の探索に出動した自衛隊の偵察機が、霧の中で信じられない物に教われた。
全長数十mもある翼を持った巨大な怪物である。
その怪物は翼竜に似た翼を持っているが、脚を持たず、人間のような腕を生やし、背面には大きな二つの目を持っていて、明らかに地球の生物では無い。
そんな生物が、偵察機を追い越すほどの速度で飛んで、嘴で機体を狙ってくるのだ。

何とか逃げ戻った偵察機からの報告で、自衛隊は翼竜を討伐すべく、戦闘機部隊を派遣する。
しかし、翼竜は信じられない軌道と速度で飛行し、逆に戦闘機部隊を殲滅してしまった。
強力な力を持つ翼竜に対抗するため、海、空自衛隊は協力し、新たに護衛艦と戦闘機部隊を派遣し、苦戦しつつも、何とか翼竜を撃墜する事に成功する。
だが翼竜は倒された瞬間煙のように消えると、何と無傷で霧の中から出現した。
更に今度は島の一角から強力な破壊光線が放たれ、護衛艦を一撃で蒸発させてしまう。

光線の発射元へ近づいた航空隊はそこで不気味に光る灯台の様な建物を発見した。
それは宇宙から地球侵略にやってきた侵略星人、プロメルス星人の光線砲台だ。
プロメルス星人の光線砲台は光線を自在に湾曲させる事ができ、完成すれば地球の裏側を狙う程の射程距離を持っている。
星人はこの砲台を守るため、霧で島を隠し、あの翼竜、用心棒怪獣、モークプロメルスに島を守らせていたのだ。

航空隊はプロメルス星人の砲台を破壊しようと攻撃をかけるが、モークプロメルスが信じられない速度で飛んできて航空隊の攻撃の間に割って入り、防がれてしまう。
そしてダメージを受けたモークプロメルスは再び煙のように消えて、霧の中から無傷で現れた。
怯む航空隊をモークプロメルスの反撃が襲った、その時、霧の中から、白い胴着の姿の宇宙人が現れてモークプロメルスを抑えつけ、航空隊を救った。
宇宙道徳に従い、地球を守る宇宙の空手家、カラテレンビクトリーだ。

カラテレンビクトリーは航空隊を逃がすと、モークプロメルスを地面に叩きつけ、その胴体を正拳突きを叩きこみ、手刀で首を叩き切った。
だがモークプロメルスは先ほどと同じように煙のように消え、霧の中から戻ってくる。
それならばとビクトリーは正拳突きを連射してモークプロメルスをバラバラにするが、モークプロメルスの破片は煙のように消えて、無傷のモークプロメルスが霧の中から戻ってきた。
モークプロメルスと戦っても無駄だと察したビクトリーは今度は星人の砲台を攻撃しようとするが、瞬間移動に近い速度でモークプロメルスが割って入って妨害し、砲台に攻撃が当たらない。
そこに星人の砲台から強烈な破壊光線がカラテレンビクトリ―めがけて放たれた。
ビクトリーはそれを宇宙回し受けで弾き、横の海面に着弾させる。
海面で怒る大爆発、それによって吹き飛ばされる周囲の霧。
すると突然、モークプロメルスが口から泡を噴き、痙攣しながら高度を落として苦しみ始めた。
だが星人の砲台から円筒のような物が打ち上げられて上空でさく裂し、周囲を再び霧が包むと、モークプロメルスは元気を取り戻し、鋭い動きでビクトリーを襲ってくる。

一連の出来事から、この霧がモークプロメルスの力の源だと察したビクトリーは、モークプロメルスを弾き飛ばして上空に飛びあがり、高速で回し蹴りをして駒のように回り、巨大な竜巻を巻き起こした。
ビクトリーの起こした竜巻で霧は吹き飛ばされ、再度苦しみだすモークプロメルス。
そこにビクトリーが回転しながら突っ込み、その体を粉々に吹き飛ばした。
再度モークプロメルスが現れる気配はない。
実はモークプロメルスの正体は、周囲を覆っていた霧で、ごく小さな群生微生物だった。
プロメルス星人はそれを操って凝固させ、翼竜の様な怪獣を作りだしていたのである。
モークプロメルスを失ったプロメルス星人は砲台をロケットのように発進させて宇宙に逃げようとするが、ビクトリーがモークプロメルスを倒した勢いのまま回し蹴りで突っ込み、砲台を粉々に粉砕した。
砕けて島に降り注ぎ、大爆発するプロメルス星人の砲台。
破片は残らず炎に焼かれ、後には形あるものは何も残らない。
星人の企みを打ち砕いた事を確認すると、ビクトリーは再び空へと帰っていった。
No9「決闘!侵略怪獣を倒せ!」

宇宙の道徳に従って凶悪な侵略星人と戦う白い胴着に身を包んだ宇宙の空手家、カラテレンビクトリー。
地球を守るために幾多の侵略星人を葬ってきたビクトリーは、その日侵略星人に襲われ、異空間に囚われていた。

何もない真っ赤な空間で、目の前に現れた星人に構えをとるビクトリー。
白い毛玉から触手と人間の手が生えたような姿のその星人の名は、バクトル星人、生物兵器製造を得意とする侵略星人で、今までバクトル星人の手で滅ぼされた文明は、数知れない。

「カラテレンビクトリー、我々の地球侵略にはどうしても貴様が邪魔だ、そこで貴様にはここで我々が作りだした怪獣と戦い、死んでもらう」

ビクトリーを指さし、淡々と述べるバクトル星人。

「望むところだ!かかって来い!」

星人の挑戦を真っ向から受けて立つカラテレンビクトリー。

「いでよ、ンモデルガ」

そう言ってバクトル星人が下に手をかざすと、赤い空間からゲーム機の様な物を持った、星人の半分ほどの背丈の少女が現れた。

「それが怪獣…」

予想外の姿の怪獣に、ビクトリーは思わず呟く。
バクトル星人もカラテレンビクトリ―も40m以上の巨体であり、それと同等の大きさである時点で、目の前の少女が地球人類ではない事は明白だったが、それでもその容姿はあまりにも異様だった。

「ンモデルガは我々が誇る侵略怪獣だ、人類のあらゆる兵器に耐える防御力と耐久力、絶大な攻撃力と単体での繁殖能力、更にはコンピューターを駆使しての電子戦能力まで備わっている。
この怪獣の力なら、地球到達後1年弱で人類を根絶する事ができるだろう」

少女の姿をした侵略怪獣、ンモデルガの肩に手を置き、自慢気に語るバクトル星人。
やはり少女なのは外見だけらしい。

「そうはさせん、行くぞ!」

バクトル星人の解説で目の前の敵への躊躇いが消えたカラテレンビクトリーは、勇躍、ンモデルガに立ち向かっていく。
ンモデルガは星人から離れると、ビクトリーめがけて身を屈めて駆けだした。
正面から迫るンモデルガにビクトリーは正拳突きを放つが、ンモデルガはそれをひらりとかわし、ビクトリーの頭に飛び蹴りを放つ。
ビクトリーがそれを防いで空手チョップで反撃すると、ンモデルガは空中で空手チョップを蹴り落とし、逆にビクトリーの顔面に蹴りをさく裂させる。
それに怯まず、着地したンモデルガめがけて今度は回し蹴りを放つビクトリー、だがンモデルガは最小の動作でそれをかわし、ビクトリーの腹に拳をさく裂させた。
すさまじい衝撃に転倒するビクトリー、そこにンモデルガは眼から光線を放ち追撃する。

「あああ…!ぅうう!」

光線を喰らい、悶絶して苦しむカラテレンビクトリー。
ゲーム機を持ち、両手が塞がったまま、ンモデルガはビクトリーを圧倒していた。

「所詮は宇宙空手など科学の結晶たる生物兵器の前では児戯に等しい、死ね、カラテレンビクトリー」

勝利を確信し、高らかに宣言するバクトル星人。
しかし、カラテレンビクトリーは光線を受けながらも立ちあがると、体に裂ぱくの気合を込める。

「セイ!!」

ビクトリーは気合をエネルギーに変えて放出し、ビームを弾き返すと、ンモデルガの腹部に拳を見舞った。
予想外の出来事にそれを避けられず、もろに喰らって怯み、手にしたゲーム機をとり落とすンモデルガ。
ビクトリーはその腹に必殺の正拳を叩きこんで大穴を開けると、バクトル星人めがけて蹴り飛ばした。

「馬鹿な!?何故…」

驚愕するバクトル星人はンモデルガの爆発に巻き込まれて四散し、赤い空間が消滅して、ビクトリーは通常の宇宙空間に戻ってくる。

「背負う物が違う、覚悟と伝統が、宇宙空手を強くするのだ」

青い地球を背にして、カラテレンビクトリーはつぶやいた。
122, 121

  

No10 「お嬢ちゃん、地球をくれないか?」

「お嬢ちゃん、地球をくれないか?」

だらしなく太った薄毛の中年が、少女に尋ねてきた。
少女はそれは首を振ってそ断るが、男は何度もしつこく同じ事を尋ねてくる。

「お嬢ちゃん、おじさんに地球をくれると言ってくれないか?」

いやらしい視線で少女を見つめ乍ら繰り返される男の言葉に恐怖を感じつつ、少女が首を振っていると、やがて目覚ましが鳴り響き、彼女は現実に覚醒した。
全ては夢、だったのである。

しかし、その日から毎晩、少女の夢には同じ中年の男が現れる様になった。
最初はただ目の前に立って同じ事を繰り返してくるだけだったが、ある時から男は裸になり、やがて手に何かいやらしい物、例えば女の裸が写った本だとか、ゴムのちくわの様な物だとかをもちだして、卑猥にエスカレートしていく様になる。
やがて気持ちの悪い男の夢のせいで少女は寝不足になり、ある日つい、うとうとと授業中に眠りについてしまった。

その夢の中にもあの男が現れて、いつもどおり少女に同じ事を尋ねてくる。

「お嬢ちゃん、地球をおじさんにくれるって言おうよ」

男は裸の女が映る映像をパソコンで開いていて、それを眺めながら話していた。
少女は即座に首を振る。

「地球をおじさんにあげて…」

ゆっくりと振り返ってくる全裸の男。

「おじさんと気持ちい事を毎日しよう」


「いや!いやいやいやいや!絶対に絶対に嫌!助けて!カラテレンビクトリー!」
「な!?」

力いっぱいの拒絶と共に少女が叫んだ名前に、男が狼狽える。
カラテレンビクトリーとは、宇宙の道徳に従って地球の平和を守るために戦う宇宙格闘家で、男の様な侵略星人の天敵の名前だ。

「む…無駄だ、ここにカラテレンビクトリーは現れない」
「セイヤー!!」

気合と共に、次元の壁をたたき割って白い胴着姿の宇宙人が少女の夢の中に現れる。

「カラテレンビクトリー!」
「アイワン星人!夢に干渉して子供達の心を自分の物にし、ハーレムを作るなど、許さん!私が相手だ!」
「何故それを!?ひいい」

パソコンを投げだし、逃げだす男、アイワン星人。
ビクトリーは空高く飛びあがると、その頭に急行下キックを放った。
アイワン星人の頭が吹き飛び、倒れた胴体が爆発する。


「やった!!」


授業の真っ最中、突然大声を上げて飛び起きた少女に、沈黙する教室。
宇宙から来た変質者の野望はカラテレンビクトリーの手で打ち砕かれた。
だが、それとは別に少女の孤独な戦いが今、始まろうとしている。
No11 「ある日の出来事」

ある日の午後。
とある大学の研究施設前にある公園のベンチで食事をしていたOLのKは、奇妙な物を見た。
溶接のマスクの様な物をつけた、背の低い人物である。
その溶接マスクの何者かはKの横のベンチに座ってタバコを吸っていた男性に後ろから近づくと、手にした針の様な物で男性の首筋を突き刺した。
男性は心臓を抑えて苦しみながら倒れ、悶絶し始める。
それを見た周囲の人間が集まってきて、救急通報などをし始めるがが、誰も溶接マスクには反応しない。
異様なその光景に、Kが溶接マスクを凝視していると、溶接マスクの視線が自分の方を向いた気がして、Kはその場から走り去った。

その夜、Kはテレビであのベンチに座っていた男が死んだ事を知る。
そして…、テレビはその後起こった事と、あの溶接マスクの正体を事細かく話し始めた。

あの後、Kが去った公園に宇宙道徳に従って人類のために戦う宇宙の空手家、カラテレンビクトリーが現れ、溶接マスクを白日の下にさらし、一撃で粉砕したという。
しかもビクトリーはそれを唖然と見つめていた観衆に、この怪人が侵略星人で、遺伝子工学の権威達を狙っていた事。この星人が見える体質の人がいたかもしれないが、健康に影響は無い事を伝えたそうだ。
頼もしい宇宙の空手家のおかげで妙な不安を抱える必要がなくなり、Kは事件の事を頭から消すと、翌日の仕事の事を考え始める。
明日も何事もなく、一日が過ぎていくだろう。
124, 123

  

No12 「冷凍星人の最期」

はるか大宇宙の彼方から地球を侵略しに来た侵略星人、モルツィロ星人と、宇宙道徳に従って地球を守る宇宙の空手家、カラテレンビクトリーの戦いは、カラテレンビクトリーの勝利で終わった。
星人の体はビクトリーの回し蹴りで粉々に砕け散り、その破片は地球に降り注いでいく。

どこかの雪原で、星人は意識を取り戻した。
モルツィロ星人の生命力は強靭で、粉々になってなお、生き続けていたのである。
しかし、生命維持に必要な器官のほとんど全てを失った星人は、最早戦う事は勿論、満足に動く事もままならない。
地球にある物質では、モルツィロ星人の体を復元することはできないので、このままではその命は長くないだろう。

「ココマデカ」

最早、星人には何かをしようという気力も無い。
素直に状況を受け入れた星人は、じっと、最期の時を待ち始める。

「あ、あの氷光ってる」

そんな時、星人の感覚器に、声が聞こえた。
星人が音や光を感知する器官は、地球人の物とは全く異なっており、砕け散った今もなお、人間並みに周囲の音と光を察知する事が出来のである。

「ほんとだ、綺麗だな」
「綺麗だからこれも雪だるまの部品にしよう!」

見れば、地球人の少年少女が自分を見て嬉しそうにはしゃいでいる。
最早地球侵略の達成は不可能であると確信している星人に、二人に対して悪意ある行いをするつもりはない。
なので、星人はしばらく二人に身を任せてみる事にした。

「この氷は雪だるまの鼻にしよう」
「よいしょ、よいしょ…あ、崩れた」

笑顔で楽し気に雪だるまを作る二人の子供。
ぼんやりとその光景を見つめていた星人は、自分達の星の子供達もまた、こんな風だったなぁと、遠い母星のでの出来事を思い出していた。
どの星でも変わら無い、無垢な子供達を、自分は自分の都合だけで、氷漬けにして死滅させようとしていた事にそこで思い至り、星人の心に罪悪感が生まれてくる。
宇宙の道徳に背いて、崇高な目的があるわけでもなく私利私欲で始めた星人の侵略は、今、周囲の雪の様に、跡形もなく静かに消えてしまった。
自分の決めた事の結果なので、仕方がない事だが、それでも、一抹の寂しさがある。

そこで、星人はせめてここにいるこの二人に、自分を記憶してもらう事にした。

「できた」
「わー、うまくいったね」

星人を含んだ雪だるまは無事、子供たちの手で完成を遂げた。
自分達の考えていたよりもうまい具合に出来上がったので、素直に喜ぶ二人。

「うまく私に体を与えてくれてありがとう」

不意に雪だるまからした声に、二人は一瞬固まった。
だが、声の調子に悪意が感じられない事を感じ取り、二人は恐る恐る雪だるまへと近づいていく。

「私はモルツィロ星人、君達が体を作ってくれたおかげで、私はこの星から旅立つ事が出来る」
「え?」
「どういう事?」

不思議そうに星人の言葉を聞いている子供達に、星人は雪だるまの顔を操り微笑ませる。

「君達が私を雪ダルマに加えてくれたおかげで、私はとても助かったのだ、ありがとう」

子供達はどうやら、自分達が星人に感謝されているらしい事を察した。

「いやいやいや、いいんですいいんです!お礼なんて」
「どういたしまして」

謙遜する男の子と感謝を受け入れる女の子、二人に自分の想いが伝わった事を認識すると、星人は雪ダルマを念動力で動かして、子供達から少し距離をとる。

「本当にありがとう、さようなら」
「え?もう行っちゃうの」
「もっといて、ください」

子供達が驚いて、名残惜しそうに見つめる中、星人は雪ダルマの下部からエネルギーを噴射すると、空へと飛び立った。

「さようなら、ありがとう、さようなら」

別れの言葉を述べ乍ら、高度をあげていく星人。

「さよーならー」
「さよならーーー」

子供達は会ったばかりの星人との別れに、目に涙すら浮かべて必死に地上で手を振っている。

「本当に、ありがとう」

子供達の対応に満足し、最期に心からそうつぶやくと、モルツィロ星人の体は大気圏突入の摩擦熱で雪ダルマごと燃え尽き、その魂はどこかへと旅立っていった。
No13 「決戦怪獣ンモデルガⅤ」

バクトル星人地球侵略日誌。

1。
地球人類をベースとした怪獣の製造は成功し、高い性能を誇る宇宙怪獣、ンモデルガが誕生した。
しかし、ンモデルガは我々の地球侵略の最大の障害、カラテレンビクトリーの前に敗北し、私は更に強力な怪獣を必要としている。
そこで、ンモデルガをベースに、更に強力な怪獣、ンモデルガⅤを作りだす事にした。
そもそも我々がンモデルガを地球人の少女ベースに作ったのは、地球人の少女の肉体が、宇宙エネルギー学と宇宙魔法的に見て大変効率的かつ完成した形をしているためだ。
宇宙エネルギーと宇宙魔法とは全くかけ離れているはずのこの星で、何故これだけ優れた生物が生まれたのかは不明だが、もしかすると地球の環境の中で自然に育てた方が、より宇宙エネルギー学的、宇宙魔法的に優れた生物になるのかもしれない。
ンモデルガⅤは地球人として地上で生活させてみる事にした。

2。
実験は成功した。
小学校へ通い始めたンモデルガⅤはンモデルガよりもより美人に…もとい宇宙エネルギー学的、宇宙魔法的に優れた存在へと進化していった。
手足のリーチはンモデルガよりも長くなり、胸部エネルギータンクも、ティスティーク因子も、ンモデルガを上回っている。
だが、あまりにも急成長したため、通っている小学校では怪しまれ始めてしまった。
カラテレンビクトリーに嗅ぎつけられるとまずいので、学校は辞めさせ、体が安定するまで待機させることにする。

3。
体形が安定したので、ンモデルガⅤを高校に通わせる事にした。
ンモデルガⅤはそこで様々な文化に興味を示し、地球の物を部屋に持ち帰ってくる。
いい傾向だ、それらを吸収し、戦闘技能へ昇華する事で、ンモデルガは更なる能力を発揮していくだろう。

4。
最近、ンモデルガⅤからの金銭の要求が多くなった。
更に地球人の情報端末を複数与えてほしいと言っている。
文化吸収に必要なのだそうだ。
各種因子は更に高まっている、これを拒む理由は無い。

5。
何か最近ンモデルガⅤが私と余り口をきかなくなってきた。
学校での様子や、文化吸収の度合いを尋ねても、生返事ばかりが返ってくる。
どういうつもりだ?
金銭の要求は多くなる一方だ。
迂闊に金銭を増やすとカラテレンビクトリーに勘付かれるから自重しろと言うと、とても不快そうな様子を見せる。

6。
ンモデルガⅤが門限を過ぎても帰ってこなかった。
カラテレンビクトリーに遭遇したのかと思って心配していたが、朝には無事帰還したので、ほっとする。
しかし、何故か多額の金銭を所持し、体は妙に汚れていた。
問いただすと、その…地球人の男と…色々やって…あー…兎に角自分で金を稼いだと言う。
すぐやめさせようと思ったが、各種因子は更に高まっているし、私が注意するとンモデルガⅤは臨戦態勢に近い状態になるので、迂闊に話しかけられない。

7。
恐ろしい事が判明した。
ンモデルガⅤは人間と交配できる可能性があるのだ。
このままンモデルガⅤが地球人とアレを続けていると、ンモデルガⅤが妊娠してしまうかもしれない。
妊娠がンモデルガⅤの体に如何なる影響を及ぼすか刃わからないので、ンモデルガⅤに直ちに行為をやめるか、避妊具をつかう様に指示するが、ンモデルガⅤは聞く耳を持たず、更に強く指示すると、生の方が客が喜ぶだとか何とか口答えした挙句、私に対して攻撃を仕掛けてきた。
こっちはお前のために言ってるんだぞ!

8。
この前ンモデルガⅤの部屋を見に行ったら、小さな部屋にごちゃごちゃと乱雑に物が置かれていた。
あれは全部自分で手に入れたらしい。
こんな事を繰り返していたらいつ妊娠してもおかしくない。
だが、私にはンモデルガⅤを止める力は無い、どうすればいいんだ…。

9。
ンモデルガⅤの部屋を覗いていた地球人を発見、捕獲した。
ンモデルガⅤの通う学校の同級生だ。
殺すとカラテレンビクトリーが来そうなので、警察にでも突きだそうと思ったが、話を聞くとどうもこいつはンモデルガⅤを心配して様子を見に来たらしい。
地球人相手ならばンモデルガⅤは戦闘能力をセーブして、発揮しないようになっている。
これは侵略の本実施前に正体が露見しないための処置なのだが、その機能を利用して、この地球人にンモデルガⅤを止めさせる事はできないだろうか。
そうだ、この地球人は小さく、ひ弱そうだが、真面目そうで、何より行動力と勇気を兼ね備えている。
この地球人に任せていれば、ンモデルガⅤも間違った道に進む事は無いだろう。

99。
トシアキとンモデルガⅤが婚約した。
あれだけ荒れていたンモデルガⅤが丸くなり、真面目になったのは、彼がいたからに他ならない。
彼はンモデルガⅤにどんなに拒絶されても最後までンモデルガⅤを見捨てず、ずっと傍に寄り添っていてくれた。
何よりも彼女の正体を知ってなお、トシアキは彼女に寄り添い続けると言ってくれた。
これからも、彼はンモデルガⅤと共にあり続けるだろう、私も地球侵略を諦めたかいがあるという物だ。
二人に心からの祝福を送る、おめでとう、幸せになってくれ。
早く二人の子供の顔が見たい。
126, 125

  

No14 「地底都市の侵略者」

縦に、横に、空間一杯に広がった未来的な都市、そこを獣人のような人影が各所を行き来している
ここは別惑星でも未来の世界でも無い、現代の地球、その地底に宇宙から来た侵略星人、スドルボ星人が勝手に建造した巨大地底都市だ。
既に数十万のスドルボ星人がこの都市に移住していて、都市は地球の地下資源を使って更に拡大を続けている。

その都市の最下層に、宇宙道徳に従って地球を守る白い胴着姿の巨大な宇宙人、カラテレンビクトリーが出現した。

「スドルボ星人!すぐにこの都市を解体して地球から退去しろ!」

視界を覆う都市の建造物に向かって叫ぶカラテレンビクトリー。
だが、そこで暮らす獣人達は意に介さず、ビクトリーを無視している。
それならば、とビクトリーが何か行動を起こそうとしていると、イルカ型の戦闘艇に乗ったスドルボ星人の一団がサイレンを響かせながらビクトリーの周囲に降下してきた。

「カラテレンビクトリー、ここはもう我々スドルボ星人の都市だ、民間人も数十万入植している。そんな言葉は聞け無い。さっさと退去しろ、そうしないと不法入国罪と恐喝罪で逮捕するぞ」

ビクトリーを包囲した戦闘艇の内の一隻、英語でポリスと書かれ、パトランプまでついていた戦闘艇に乗る、狐にの星人が、ビクトリーを指さしてそう言った。
それに対し、ビクトリーはすぐに反論する。

「地球の地下資源はいずれ地球人類が使う大切な物だ、地上の地球人類に断りなく使うのは間違っている。それに、貴様等の都市建設の影響で地上では地震が起こって大きな被害が出ているんだ」

それを聞いて、周囲のスドルボ星人達は一斉に笑い始めた。

「そんな物は早い者勝ちだろう?それに、地上の被害なんか知ったこっちゃない!大体地球人が文句言ってくるなら兎も角、何でお前に言われなきゃならねえんだよ」

戦闘艇上のスドルボ星人達は手にした強力な銃火器を一斉にビクトリーへと向ける。

「帰れ!我々の都市への侵略は許さないぞ!」
「そうか…」

星人の返答に、ビクトリーはゆっくりと身を屈めた。

「こいつやる気か?この人数と」

人数で勝る余裕から、ビクトリーを嘲笑うスドルボ星人達。
スドルボ星人達の大きさは40mあるビクトリーの手のひらほどでしかないが、手にした火器は地球の如何なる兵器の装甲も容易く貫通でき、戦闘艇は音速でアクロバティックな動きをしつつ、搭乗者に負担をかけない作りになっている。
更に、星人達は四方八方上下かビクトリーを狙っているのである。

「構わねえ、やっちま…」

星人達が引き金にかけた指に力を入れた瞬間、ビクトリーの姿が描き消え、周囲を取り囲んでいた戦闘艇が一斉に爆発四散した。

「な…な…な!」

ビクトリーが、目に見えない速度で回し蹴りを放ったのだ。

「そちらがそちらの理屈で動くのなら、私も私の理屈で動こう」
「ま…待て、待った!ま…」

冷酷にそう言い放ち、反撃する暇もを与えずに残りの戦闘艇を拳で撃墜するビクトリー。

「ポリ公あっけなくやられてやんの」
「よえー、マジウケる」

次いで、ビクトリーは先ほどから逃げもせずに楽し気に戦いを見ていたスドルボ星人達の方を向いて、言い放つ。

「もう一度言う、地球から出て行け」

だが、非武装の民間人である自分達が攻撃を受ける事は無いと思っているのだろう、星人達はビクトリーの警告を無視して、その場から去ろうとはしない。

「わかった、死にたくない奴は逃げろ」

その様子を見たカラテレンビクトリーは、容赦なく都市の破壊を開始した。
壁にある都市の建造物を拳で砕き、天井から伸びる建造物を手刀で叩き切り、地面に立つ建物を踏み散らす。
自分達にも攻撃を始めたビクトリーに、流石の星人達も慌てふためいて逃走を開始する。
悲鳴と怒号が木霊し、降り注ぐ瓦礫と爆発が逃げ惑う星人に降り注ぐ。
時折イルカ型の戦闘艇や建造物に設置された迎撃装置などが反撃してくるが、ビクトリーはそれを苦もなくかわし、一撃で排除する。

「ま、待ってくれ!やめてくれ!俺達は関係ない」
「ならさっさと星へ帰れ」

命乞いする星人を追い払い。

「ここは病院だ!動かせない患者が大勢いるんだ!来るな!」
「ここは地球だ、ここに連れてくる方が悪い、それにスドルボ星の技術なら建物ごと移動させられるだろう!破壊されたいか!」

医療施設を追い散らし。

「子供がいるんです!やめて、お願い!家を壊さないで!」
「他人の星だと知って連れてくるお前が悪い、さっさと失せろ」

幼い子供も容赦なく追いだしていくビクトリー。
ビクトリーはまる二日暴れまわり、星人の地下都市を完全に破壊し、全ての星人達を追放、もしくは撃破した。

瓦礫の山と化した都市で、ビクトリーはじっと両手を見つめ、考える。
自分は今、理由はどうであれ都市を一つ粉砕し、大勢の星人達を殺したのだ。
いや、この都市の星人達だけではない、地球の平和を守るためとはいえ、今までも宇宙人や怪獣を殺してきた。
その行いは、侵略者ではない、破壊者、何も産みださない行為だ。
本当に、これが正しい事なのか、と。
しばらく両手と、瓦礫の山を見つめていた破壊者だったが、結局、応えは出なかった。
だが、この破壊が地震で苦しむ人々を救い、人類が将来つかう地下資源を守り、スドルボ星人よりも弱い地球人類に貢献したのは確かである。
No15 「宇宙死亡遊戯」

アメリカ人の青年、ジョージ・M・ギーワ26歳は、気がつくと古代の迷宮の様な場所に倒れていた。
突然の出来事に、頭を振って記憶をたどるジョージ。
いつものように職場から徒歩で帰宅していたところまでは記憶がある。
その道中、急に空から眩い光が照らしてきて…。

「あなたはアレント星人に拉致されたのよ」

後ろから、ジョージに声がかかった。
振り向くと、そこには白いコートを着た、ジョージより若く見える少女が立っている。
だが、ただの少女では無い、少女には本来ある二つの目の他に、額にもう一つ、目があり、背中には蝙蝠のような翼があったのだ。
驚くジョージに、少女は落ち着く様ジェスチャーで促すと、現状を語り始めた。

「私はスキーム星人、私とあなたはアレント星人という宇宙人に拉致されてしまったの」
「そりゃまたどうして」

不思議な事にこの迷宮で起き上がった瞬間から、ジョージの脳は信じられない程冷静に、動揺も混乱もなく状況を受け入れていた。
ジョージ自身もその事に驚いたが、今はとりあえず、スキーム星人の話に集中することにする。

「アレント星人には他の星の生物達が殺しあうのを見て楽しむ趣向の輩がいるの、私とあなたはペアでこれから別の宇宙人と殺しあいをさせられる。」
「まじかよ…」

スキーム星人の言葉に、強く動揺するジョージ。
しかし、ジョージの脳はやはり、恐ろしい位冷静になっていた。
現状への不満や恐怖を述べるよりも先に、殺し合いをするにあたってこれから必要と思われる事が、次々と頭の中に浮かんでくる。

「何か…武器は?君は宇宙人だろ?地球人にない超能力があったりしないのか?羽根あるし」
「この羽根はただの服の飾り、残念だけど私は地球人と同じ程度の力しかない。アレント星人が言うには相手が一人なんだからこっちは武器は無しなんですって」
「なんだそりゃ…って事は相手は武器をもってるのかい?」
「そうね」
「……一応聞いておくけれど…逃げられないんだよな?」
「それはわからないわ、もしかしたら何か希望があるかもしれない」
「じゃあまずはその可能性を探ってみよう」

すんなりと、恐らく現在最高と思われるこれからの行動目標が決まってしまった。

(体をいじられたのかもしれないな、あるいは催眠術か…)

あまりにも冷静な自分の脳に、ジョージは自分を疑ったが、仮にそうだったとしても、今はなすすべがない。
状況に流されるしか無く、ジョージは素直に自分の意見を聞いてくれたスキーム星人とこの迷宮の探索を始める事にした。



探索を始めてからほどなくして、二人は相手となる宇宙人を発見した。
鎧を着て槍を持ったトカゲの様な宇宙人が一人、大きな両開きの扉の前に立っている。

「あれが…相手かい?ちょっとアレと素手でやるのは勘弁だなぁ…」
「そうね、うん、私には無理」

トカゲ型星人を見たスキーム星人は、口の端を引きつらせていた。
地球人と同等程度の身体能力しかもたないという彼女も、やはりあの星人がまともに戦って勝てる相手には見えないらしい。
やっぱり駄目かぁと思いつつ、ジョージは星人の後ろにある扉に注目する。
扉には見た事の無い文字で何事か書いてあった。

「あの扉は?何が書いてるんだ?」
「わからない、それとあれは文字じゃなくて模様よ」

ジョージ達をさらったアレント星人がわざわざ出口を用意しているとも思えないが、扉以外に今のところ出口らしい物は無い。
そこで二人はトカゲ型星人が扉の前を離れるチャンスを伺う事にした。
そっと、ジョージとスキーム星人は物陰からトカゲ型星人を覗きこむ。

「あ」
「どうした?」

突如、スキーム星人が覗くのをやめ、自分の口を手で押さえてその場に座りこんだ。

「気づかれたかも」
「!?」

言われ、ジョージは物陰から再びトカゲ型星人を観察するが、星人はぴくりとも動かない。

「気のせいだって」
「絶対気づかれたよ…」
「じゃあなんで襲ってこないんだよ」
「知ら無いわよ」

もし星人の言う通り、相手がこちらに気づいているのなら、襲ってくるのが普通だろう。
しかし、それがないという事はやはり気づかれていないか、あるいは…。

「もしかしたら話しあう余地があるのか?」
「え?相手バケモノよ」

お前も同じバケモノだろっと言いかけて、スキーム星人も自分と同じ境遇の被害者であり、向こうから見れば自分もバケモノである事を察し、黙るジョージ。

「……ここにいろよ」

そう言って、ジョージは座りこむスキーム星人の頭を撫でると、物陰から出てトカゲ型星人の前へ姿を見せた。
トカゲ型星人はジョージの方を向くと、ゆっくりと槍を構える。

「おいあんた、あんたも星人に拉致されたんだろう?だったらこんな馬鹿な戦いはやめて…」

そこまで言ったところで、トカゲ型星人はジョージめがけて突っこんできた。
脳が冷静になっているジョージは星人の動きを目で追う事ができ、なんとかその刃の一撃をかわす。
攻撃をかわされたトカゲ星人だったが、素早く槍の柄でジョージの首を捉えると、力任せに彼を壁に押し付けた。

「ぐっ」

柄で首を圧迫され、苦しさにうめくジョージ。
トカゲ型星人がそこに顔を寄せ…。

「なんでもいい、俺を振り払って逃げ回れ、時間を稼ぐんだ、きっと助けが来る」

そっと、そう囁いた。

「え?」

驚いてジョージがトカゲ型星人を見たその時、スキール星人がトカゲ型星人に体当たりして、ジョージを拘束から解放した。

「逃げるわよ!」
「い…今…いやなんでもない」

先ほどの事を伝えようとして、ジョージはトカゲ型星人が軽く首を振ったのでやめた。
自分達をさらったアレント星人がどこから見ているかわからない、星人の興が覚めるような事はするべきではない。
ジョージは軽く頷くと、多少わざとらしく見える動作でよろよろとゆっくり立ちあがるトカゲ型星人を残して、スキール星人と共にはその場を走りさった。


「ありがとう、助かったよ」

扉から多少離れたところまで逃げ、息を整えながら、ジョージはスキール星人にお礼を言った。

「いいのよ、お互いさま」

そう言って、ジョージの方を向いて三つの目で笑顔を見せる星人。
その笑顔の可愛らしさに、ジョージははにかんで視線をそらす。

「まさか君に助けられるとは思わなかったよ」
「どうして?」

照れ隠しに言ったジョージの言葉に、スキール星人は心底不思議気にきょとんとした。

「どうしてって…、君、あんなに怖がってたじゃないか」
「怖かったけど、あなたあのままじゃ殺されそうだったじゃない」
「いや、そうだけど…スキール星人って皆君みたいに勇敢なのかい?」

余りにも当然の様に振舞うスキール星人に、思わずそう尋ねるジョージ。
それを聞いて、スキール星人は何かに気づいた顔になる。

「ああ、そう言えば地球人はまだ自分の星から抜けだせていなかったわね」
「それがどうしたんだよ」
「宇宙ではね、協力しあえる者同士は助け合うのは当然なの。ううん、他人と…他種族と協力しあえる種族だけが、宇宙へ出るほど文明を発展させる事ができるって言った方がいいかしら」
「そんな…だって地球は何度も侵略星人に襲われて…」
「けれどその侵略星人と戦ってくれた宇宙人もいたはずよ」

言われて、ジョージには思い当たる節があった。
幾度も傷つきながら、人類のために強大な侵略者に無償で立ち向かっている宇宙人が、地球にはいる。
その名は…。

「カラテレンビクトリー…」
「セイヤー!!」

ジョージがその名をつぶやいたその時、壁を破壊して、白い胴着姿の宇宙人、カラテレンビクトリーが姿を現した。
いつもは巨大なカラテレンビクトリーだが、今回は場所を考慮してだろう、ジョージ達と同じ程度の大きさになっている。

「アステル星人は倒した、さあ、ここから脱出しよう」

そう言って、壁の穴を指さすカラテレンビクトリー。
外には夜の砂漠が広がっていて、空には見慣れた地球の月が光っている。

「ああ…あ、ありがとう、ビクトリー、そうだ、この…」
「この奥にもう一人、別の宇宙人がいるの、その人も助けてあげて」

ビクトリーがあまりにも唐突に現れたためか、それともかけられた催眠術なり改造なりが星人が倒されたために解けたためか、頭の冷静さがとけて動揺してどもるジョージに代わり、スキール星人が当然の様にトカゲ型星人の救助をビクトリーに促した。
ビクトリーはそれに頷くと、迷宮の奥へと去っていく。

「知ってたのかい?」
「何が?」
「いや、だって…殺し合いしてた相手だぜ」
「この状況じゃ仕方ないわ、彼も被害者よ、皆で助かりましょう」

トカゲ型星人に自分達を攻撃する意思が無かった事をスキール星人が知っていた風には見えない。
彼女は単なる善意で、自分が恐ろしいと感じたトカゲ型星人の保護を申し出たのである。

「さあ、早く逃げるんだ」

まもなく、カラテレンビクトリーがトカゲ型星人を連れてやってきて、四人は壁の穴から外へと脱出した。
全員が外へ出ると、ビクトリーは巨大化してジョージ達を手に乗せ、その場からゆっくりと浮きあがって離れていく。
振り返ると、自分達が今脱出してきた物体、砂漠に着陸している巨大な黒い円盤が見えた。
その巨大な円盤が小さな点になったところで、突然、円盤は白く輝くと、跡形もなく消滅してしまう。
煙や、炎はあがらないので、爆発ではない、宇宙の科学技術で、跡形も残らずに消えたのだ。

3人を乗せたビクトリーはぐんぐんと加速し、やがて外の景色が目で追えない程の速度になった。
だが、ビクトリーが何か能力で守ってくれているのだろう、オープンカーにでも乗っているような感覚で、衝撃も加速感も感じない。
やがてビクトリーはジョージが連れ去られた場所に到着し、その場に降りたった。
ビクトリーは超能力で姿を隠しているのだろう、巨大なビクトリ―が現れても街は静かで、通りを走る車や、歩行者がビクトリーに気づく様子は無い。
時計を確認すると、ジョージの携帯は4時間程時間が経過していたが、外では30分ほどしか経過していなかった。

「災難だったな」

声がかかりって振り返ると、トカゲ型星人が穏やかな表情で手を差し出していた。

「ああ…お互いにね」

恐る恐る、その手を握るジョージ。
星人の手は彼の想像よりも温かかった。

「…」

次いで、スキール星人が横から歩み出て、両手を広げて見せる。
ジョージはそれに応じて、彼女をしっかりとハグした。

「そういえば、まだあなたの名前を聞いて無かったわ」
「ジョージ、ジョージ・M・ギーワ」
「私は…ギ、ギ・ツル・デンセ、いつかまた会いましょう、ジョージ」


二人の星人を故郷へ帰すために飛び去るカラテレンビクトリーを見送ったジョージは、一人、帰路につく。
ふと、ギが言っていた事を思いだす。

「他人と協力しあえる種族だけが、宇宙へ出るほどに文明を発展させる事ができる…か」

だとしたら、自分が彼女、ギと再会する事は無いかもしれないな、とジョージは思った。
何故ならもしあの場に参加したのが全員地球人だったなら、きっと、自分は今ここにいないからである。
128, 127

  

No16 「侵略老人」

東京湾に落下した飛来物から、人に似た容姿の巨大な宇宙人、マルド星人が2体現れた。
1体は肌が浅黒く、太っていて、もう1体は髪が長く、鼻の下に長い髭が生えていて、顔が細長い。
どちらも人間でいうと初老の外観で、現れてすぐにまっすぐ、東京へと進行する。

それに対し、これまで何度も侵略者の攻撃を受けた日本政府の対策は迅速で、すぐさま自衛隊を出動させ、星人の上陸予想地点に防衛線を展開した。
大量の戦車と戦闘ヘリが海岸に展開し、やがて姿を現したマルド星人に一斉に砲列を向ける。
マルド星人達は地球の火器群を見回すと、太った方のマルド星人が前に進みでた。

「聞け、この星はこれから我々、マルド星人の物になる!貴様等は皆殺しだ!!」

流暢な日本語で、高らかに宣言するマルド星人。

「オヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」

太った星人の背後にいた顔長のマルド星人も、扇子の様な物を振りながら笑い始める。

「星人が宣戦布告してきました!」
『直ちに攻撃しろ』

その宣言に、侵略星人との交渉が無意味である事をこれまでの戦いから知っている自衛隊は直ちに星人へ攻撃を開始する。
砲弾が、ミサイルが、雨あられと2体の星人に降り注ぐが、顔長の星人が扇子か紙吹雪の様な物を撒くと、砲弾もミサイルも星人を避けるか、中空で爆発してしまう。

「無駄だ無駄だ、はっはっはっは」
「オヒョヒョ、オヒョヒョヒョヒョヒョ、オヒョヒョ」

自衛隊の猛攻を笑って受け、進行を再開するマルド星人達。
遂に彼らが上陸しようとした、その時、天空の彼方から、宇宙道徳に従って地球を守る白い胴着姿の宇宙人、カラテレンビクトリーが飛んできた。
地上に降りたち、星人達に構えをとるビクトリー。
それを見て、ビクトリーを指さして叫ぶマルド星人。

「何者だ貴様!」
「カラテレンビクトリーだ!地球はお前達には渡さん!」
「小癪な、こおい!」

勇躍、ビクトリーがマルド星人に立ち向かおうとした、その時。

「待って!待って待って、待ってください!」

上空からもう一人、マルド星人が現れ、ビクトリーを制止した。
他のマルド星人よりも若々しく、耳のとがったマルド星人だ。
とりあえず足を止めるビクトリー、自衛隊も攻撃をやめ、様子を伺う。
それを見て、最初からいる太ったマルド星人が目を輝かせた。

「おお、ヴェルナスよくぞ来た!行け、あの宇宙人を倒せ!」

そう言ってビクトリーを指さし、若いマルド星人に命令する太ったマルド星人。
しかし、ヴェルナスと呼ばれた星人は動かず、心底呆れたように大きなため息をつく。

「どうした!ヴェルナス、マルド星の敵を倒すのだ!」

もう一度、ヴェルナスに命令する太ったマルド星人。
それに対しヴェルナスは拳を振り上げると、太ったマルド星人の頭を殴りつけた。
突然の展開に、唖然となるビクトリーと自衛隊を他所に、ヴェルナスは怒鳴り始める。

「なにやってんだじいちゃん!ボケるのも大概にしろ!他所の星の人に迷惑かけんな!」
「な…何をするかヴェルナス!わしはアルデヴェランを全滅させて、地球をわしらの手に取り戻すんじゃ!」
「アルデヴェランがこんな辺境の惑星にいるわけねえだろ!あれは現地の方々とボランティアの人だよ!大体地球は元々マルドの領地じゃねぇ!歴史間違えて覚えるなよ!」
「いいやいいや!わしが従軍しとった頃たしっかにここにマルド軍の要塞があった!」
「じいちゃん戦争行ってねぇだろ!」
「オヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」

思わず、ビクトリーは地上の戦車隊に視線を向けた。
茫然としていた戦車兵がそれに気づき、ビクトリーを見上げて両者の視線が交わる。
あ、どうも、いえ、こちらこそと会釈しあう二人。

「帰るよじいちゃん!賠償問題になる前に!」
「オヒョヒョヒョヒョ」
「カズアキおじさんも!ほら!ボケてなんでも言う事聞くようになってこの人は…、あ、地球の皆さん、カラテレンビクトリーさんすみませんでした、今連れて帰りますので」
「離せ!!テヘロン共の野望を砕いてボエラを救うんじゃ!」
「目的変わってんじゃんか!それにボエラ婆ちゃん一昨年亡くなったし、爺ちゃんはもう振られてて脈はないから!おらあ!帰るぞ!」
「嘘じゃあ!卑怯なりカラテレンビクトリー、孫を洗脳したな!」
「オヒョヒョ」
「手伝ってカズアキおじさん!」

やがて、ヴェルナスとカズアキが協力して太ったマルド星人を拘束し、宇宙の彼方へと消えていった。
マルド星人達がいなくなったのを確認すると、ビクトリーもまた、自衛隊に深々とお辞儀をして、空の彼方へと帰っていく。
後に残された自衛隊は、ボケた老人に全力で挑んで負けた事実に、ただただ頭を抱えるしかなかった。
No17 「死と絶望の赤い雨の中で―前編―」

歴史を感じさせる中世の建物が多く残り、観光名所になっているヨーロッパのとある街。
観光客や若者でにぎわうその街の空が突然赤い雲に覆われて、そこから真っ赤な雨が降り注いだ。
雨を浴びた人間はあっという間に肉や内蔵が溶け、骨になってしまう。
突然の事に、パニックに陥る人々。
雨は勢いを増しながら範囲を広げていき、逃げる人々を容赦なく溶かしていく。
建物に逃げ込んでも、恐ろしい赤い雨は建造物の外壁も簡単に溶かして、中の人間を溶解させてしまう。
やがて人骨が街のあらゆる場所に積み重なり、平和だった町はほんの数分で、赤い雨の降り注ぐ地獄へと変わってしまった。

赤い雨を降らせる赤い雲は爆発的な速度で広がり、瞬く間に複数の街を飲み込んで被害を増やしていく。
ヨーロッパ各国は突然現れた赤い雲に有効な対応策を講じる事ができず、情報の混乱や恐怖にかられた人々の暴走で事件や事故も多発し、あっという間に数万の人間が犠牲になってしまった
その時、天空の彼方からヨーロッパの人々を救うため、白い胴着を着た宇宙人が現れる。
その名はカラテレンビクトリー、宇宙道徳に従い地球を守る、宇宙の空手家だ。

ビクトリーは空中で高速回転して巨大な竜巻になると、赤い雲めがけて突っ込み、赤い雲を宇宙へと巻き上げていく。
すさまじい超能力を持ち、今まで地球を襲ってきた数多の侵略星人達を撃破してきたビクトリーの活躍に、人々が勝利を確信した、その時、雲の中から何かが現れ、ビクトリーを弾き飛ばした。
とっさにそれを防いだビクトリーだったが、すさまじい衝撃に姿勢が崩れ、地面に墜落してしまう。
その上空を赤い雲が覆い、赤い雨がビクトリーにも降り注いできた。
だが、ビクトリーは赤い雨に平然と耐え、雲から現れた物に構えをとる。
それは、昆虫や甲殻類を彷彿させる甲殻を持つ、巨大な星人だった。
星人はビクトリーを見おろし乍らしばらく浮かんでいたが、突然後方へ向けて飛行し、その場から飛び去っていく。
飛びあがり、それを追跡するビクトリー。
両者は赤い雨の中をしばらく飛んでいたが、やがて星人が壊滅した都市へと降りたち、ビクトリーもそこへ続けて降り立った。
都市は既に赤い雨のために全滅していて、建造物は全て屋根や床が溶け、地面には無数の人骨が転がっている。
足元に転がる屍を踏むまいと、少し浮きあがるビクトリー。
そこに、星人が強烈に大地を蹴って、すさまじい速度でビクトリーに突っ込んできた。
ビクトリーは正拳突きで迎撃するが、星人は空中を瞬間移動の様な速度で移動して攻撃をかわし、ビクトリーの腹を腕の刃で深く斬りつける。
よろめくビクトリーの背中を更に二度斬りつけ、ビクトリ―がなんとか体制を立てなおして後ろに構えようとしたところで上空に飛んで頭に強烈な蹴りを見舞い、ふらつきつつも距離を取ろうとするビクトリーに一瞬で近づき、袈裟斬りつけ、苦しむビクトリーを蹴り飛ばして昏倒させ、倒れたビクトリーに肩から雷撃を放って炎上させる。
ビクトリーは何とか気合を入れて雷撃を弾き飛ばし、反撃せんとするが、星人は強烈な脚力で地面を蹴って瞬間移動の様な速度で攻撃をかわし、両手の黄色く光る刃でビクトリーの体を斬りつけて反撃を許さない。
真っ赤な雨が降り注ぎ、無数の屍が見つめる中、凶悪な侵略星人に手も足も出ずに大地に倒れるカラテレンビクトリー。
傷口から、口から、真っ赤な血が噴き出し、空から降り注ぐ赤い雨と合わさって、周囲を更に赤く染める。
それでも、カラテレンビクトリーは立ちあがろうとした。
そこに星人が逆関節の脚からくる強烈な踏みつけを見舞い、ビクトリーを中心に巨大なクレーターを作る。
深く、赤く染まるカラテレンビクトリー。
降り注ぐ赤い雨は、一段とその勢いを増していった。
130, 129

  

No18 「死と絶望の赤い雨の中で―後編―」

大宇宙から強大な力を持った侵略星人が地球にやってきた。
その名は、バルデリオ星人。
物体を溶かす赤い雨でヨーロッパを覆い、万の人間を殺し、街を滅ぼしていく40mの巨人。
その体は、人類のあらゆる兵器を通さない強固な装甲で覆われ、黄色く光る両肩の角からは強烈な電撃を放ち、両手の刃は地球上に切断できない物質は無く、鳥獣を思わせる逆関節の両脚は大気圏内でも超音速の機動力を星人に発揮させる。
強い。
圧倒的に強い。
恐ろしく強い。
絶望的に強い。
それが、バルデリオ星人。

バルデリオ星人の攻撃で、ヨーロッパは物質を溶かす赤い雨を降らす赤い雲に覆われていこうとしていた。
地球人類の兵器は、赤い雨を浴びればいとも容易く溶けてしまうため、バルデリオ星人に近づく事も出来ず、仮に命中させる事ができてもバルデリオ星人にダメ―ジを与える事はできない。
なすすべのない人類に代わってバルデリオ星人と戦うべく、カラテレンビクトリーが現れた。
カラテレンビクトリーとは、白い胴着に身を包んだ宇宙人で、宇宙の道徳に従い、必殺の拳と、超能力で、これまで幾多の侵略星人を倒してきた、宇宙の空手家だ。

だが、バルデリオ星人は強かった。
赤い雨の降り注ぐ中、カラテレンビクトリーはバルデリオ星人に技を破られ、滅多打ちにされ、打ち倒されてしまった。
真っ赤な血を流し、地面に倒れ伏したビクトリーを、バルデリオ星人は何度も踏み付け、嬲り、蹴り飛ばす。
ビクトリーは、力が及ばないのを知ってなお、立ちあがろうとした。
だが、もう攻撃の手段がないビクトリーは、ただただバルデリオ星人に甚振られるしかない。
意地の悪いバルデリオ星人は、わざとビクトリーにトドメを刺さなかった。
立ちあがろうとするビクトリ―を蹴りつけ、地面に転がしては、また立ちあがろうとするビクトリ―を楽し気に眺め、適当なところで再び転がす事を繰り返す。
更にバルデリオ星人は放送設備をどこからか持ちだして、カラテレンビクトリーを甚振り、嬲るその様を広く世界に配信しはじめた。
ビクトリーは世界の人々が見つめる中で、何度も立ちあがろうとした。
何度も何度も何度も何度も何度も、数時間に及ぶ時間、必死に立ちあがろうとしては、バルデリオ星人に倒された。
やがて、再び立ちあがろうとする間隔は開いていき、やがて…ビクトリーは完全に動かなくなった。
バルデリオ星人は動かなくなったビクトリーを指さして笑うと、赤い雨を降らす黒雲の中へと消えていく。
残されたビクトリーは、もうぴくりとも動かない。
白かった胴着は、ボロボロに破れ、真っ赤に染まっていた。


無残に敗れ去ったカラテレンビクトリー。
だが、その姿は、世界の人達に、もう一度、バルデリオ星人に立ち向かう勇気を与えていた。
世界中の科学者がその持てる科学技術を結集して、バルデリオ星人の降らせる赤い雨の研究を行い、各国の軍隊は赤い雨の中での戦いを想定して、猛訓練を開始する。
軍人や科学者だけではない、政治家は予算を動かし、混乱を鎮静化させることに奔走し、警察官や消防官は赤い雨の脅威から人々を守るべく奮闘し、交通関係者は避難を手助けし、そして大勢の人々は赤い雨の恐怖をこらえて冷静な避難を行う。
人々は怒っていた。
理不尽に数万の命を奪った輩に、自分達の土地を奪おうとしている輩に、そして、宇宙から自分達を助けに来てくれた人類の仲間を、徹底的に甚振ったその輩に、絶望するよりも強い怒りを燃やしていた。

そして、人々の努力は身を結び、赤い雲を消し飛ばすためのミサイル、レッドバスターが完成した。
レッドバスターは、本来台風を消し去るために作られていたミサイルを改良した物で、赤い雲を構成する物質と化合して無害化する物質を、超広範囲に一瞬で散布する事ができるのだ。
計算では、レッドバスター十数発で、ヨーロッパの赤い雲を消し去る事が可能だったが、レッドバスターを長距離ミサイルで撃っても、バルデリオ星人に撃墜されてしまうだろう。
そこで、大量生産したレッドバスターを積んだ大型機を大量に動員し、それを戦闘機と地上兵器で守りながら、赤い雲に接近し、バルデリオ星人を護衛部隊が食い止めている間に、大型機からのレッドバスターで赤い雲を攻撃する事が決まった。
すぐさま世界中から勇敢な兵士達と、様々な機動兵器が大量に集まり、赤い雲への総攻撃が行われた。
大型機から発射されたレッドバスターは予想通りの成果を上げ、赤い雲を次々と消滅させていく。
だが、すぐに雲の中からバルデリオ星人が現れ、レッドバスターを次々と破壊してしまった。
戦闘機や戦車が攻撃しても、バルデリオ星人は意に介さずにレッドバスターを積んだ大型機を襲って撃墜してしまう。
人類の抵抗を笑い、わざとミサイルを体に受けたり、戦車を持ち上げて大型機にぶつけるなどして、必死に戦う人類を嘲笑うバルデリオ星人。

それでも戦う人類の戦闘機が、バルデリオ星人に特攻をしかけようとした、その時、カラテレンビクトリ―が上空からバルデリオ星人を強襲し、地面に叩き落とした。
人類の反撃で赤い雲が薄まり、雨が弱まった事で、雨に耐えるために回していた力を回復に回して、大復活を遂げたのだ。
真っ赤に染まった胴着から、雨なのか血なのかわからない液体を滴らせつつ、バルデリオ星人に構えをとるビクトリー。
苛立ちをあらわにしながら、もう一度切り刻んでやろうと凄まじい速度で襲ってくるバルデリオ星人。
だが、カラテレンビクトリーは体を丸め、反撃を捨てた完全防御姿勢をとってバルデリオ星人の攻撃を弾きかえした。
予想外のビクトリーの行動に、驚く星人、そこを人類の猛攻撃が襲う。
凄まじい総攻撃に不意を打たれて怯むバルデリオ星人。
その隙にビクトリーは撃墜された大型機からレッドバスターをとると、人類の攻撃で思うように動け無いバルデリオ星人に正拳突きでレッドバスターをねじ込んだ。
装甲の間で炸裂するレッドバスター。
すると装甲のわずかな間から赤い雨を無力化する物質が星人の体へ注入され、星人は断末魔をあげて苦しみ始めた。
赤い雨を構成する物質は我々の体にとっての酸素の様にバルデリオ星人の体にとって必要な物質で、それがレッドバスターによってバルデリオ星人の体から一瞬にして消滅したのだ。
痙攣して苦しむ星人。
それめがけ、ビクトリーは必殺の技を次々と叩きこんだ。
三段蹴り!
踵落とし!
飛び蹴り!
回し蹴り!
そして必殺の正拳突き!
滅多打ちにされた星人の装甲がひび割れて砕け、そこにもう一発、大型機から放たれたレッドバスターがさく裂する。
崩れ落ち、大爆発するバルデリオ星人。
世界中が湧き上がり勝利の大歓声を上げる。
それに見送られ、傷ついた体で空へ飛び去っていくカラテレンビクトリー。
雨が止んでできた虹と、共に戦った世界中の戦士達が、その背中を見送った。
No19 「全てが止まった街で」

その日、地球、いや、太陽系はわずか1秒にも満たない間に侵略されてしまった。
全てが「止まった」のである。
町を行きかう人間も、空を飛ぶ飛行機や鳥も、海の中の魚も、惑星の自転も、恒転も、太陽の運動、熱に至るまで、重力と光を除くほぼ全てがビデオの一時停止の様に空間に固定され、動かなくなっていた。
この壮大な出来事は、たった一体の侵略星人の超能力による物だ。
あらゆる物体を静止させる事ができる超能力を持つ恐るべき宇宙人、その名は、マルデーイル星人。

「ふっふっふっふっふ、成功だ」

全ての止まった太陽系のとあるビルの一室で、マルデーイル星人は言った。
星人は太陽系侵略のため、超能力を使うエネルギーを蓄えるべく、地球に潜伏していたのだ。

「これで太陽系の全ての物は私の物だ」

そう言いながら、ビルの外へと歩みでるマルデーイル星人。
外の街は昼間で、路上では大勢の人間や車が動いていた最期の瞬間、そのままの姿で止まり、空には鳥が空間に止まっている。
全てが止まった世界を一人、一本の足で飛び跳ね、自由を満喫するマルーデイル星人。
星人はこれから何をしようかと考える。
原子炉を暴走させてはどうだろうか、きっととても綺麗な花火が見れるだろう。
目についた人間を片っ端から解剖するのもいい、感覚だけ動かして、何もできない状態で解剖される苦しみを味合わせるのは楽しそうだ。
地球の人間を片っ端から時間を止めたまま孕ませ、しばらく動かしてみるのも、産んだ時の反応を見るのが面白いかもしれない。
わくわくと夢を膨らませながら街をうろつく星人。

ふと、その足が止まった。
その目の前に、一人の女が止まっている。
何の変哲もない地球人の女だ。
ただ、何かがおかしい。
その女からは、何か、言いようのない違和感を感じるのだ。

「…はだし?」

足元を見た星人は、その女の違和感の正体に気がついた。
女は、何故か靴を履いていないのだ。

「ふんっ」

女にどんな事情があるのかは星人にはわからないが、違和感の原因がわかってしまえば、もう怖くはない。
星人はレーザー銃を取り出すと、女に狙いをすませる。

「私を驚かせた罰だ、喰らえ!」

星人が引き金を引いた次の瞬間、女は素早く身を屈め、星人めがけて地を蹴って突っ込んできた。

「何!?」

女の拳が星人の頭にさく裂して吹き飛ばし、頭を失った胴体はその場に崩れ落ちると、炎を上げて爆発四散する。
それと共に、止まっていた太陽系のすべてが、何事もなかったように再び動きだしていく。

「危ない処だった」

突然出現した爆発に、周囲がどよめくなか、女は一人、路地裏に走りさると、その正体を現した。
その正体は、カラテレンビクトリー。
宇宙の道徳に従って、地球を狙う侵略星人と戦う、宇宙の空手家だ。
ビクトリーがマルデーイル星人の全てを止める能力下で動ける時間はわずかしかない。
そこでビクトリーは女性に擬態し、ギリギリまで星人に接近していたのである。
いつでも踏みこみ技を放てるように、靴は脱いでおいたのだ。
132, 131

  

No20 「安息を配る星人」

その日、突然、世界の人々は言いようのない安心感と充足感に体を満たされた。
人種、性別、年齢、職業、犯罪歴の有無、それにかかわらず、あらゆる人間が、何かに守られているような安心感と、孤独から解放されたような充足感を感じ始めたのだ。
それは日増しに強くなっていき、それに伴って犯罪発生率が減少し、紛争も規模を縮めていく。
原因不明の心の変化の原因を調査していた科学者たちは、それがどこからか送られている未知の波長による物である事を突き止めた。
波長の発信源は、太平洋上数千mの位置にあり、各国は直ちに偵察機を派遣し、発信源の調査を始める。
偵察機によってもたらされた波長の発信源の正体は、謎の女だった。
ギリシャ神話の登場人物のような服装の若い金髪の女が、数千mの高空で、空に浮かぶ3本のリボンのような物で編まれた綱の上を渡っていて、波長はその女から発信されているのだ。
各国は女に対してコンタクトを取ろうとするが、女は人類の呼びかけに対し何ら反応を示さず、太平洋上空で綱渡りを続け、女の綱渡りが進行すると、人々の心の安心感と充足感は増していく。
何らかの侵略行為か、あるいは人類の伺い知れない友好的な行為なのか、人々の間で意見は別れ、女に対する対応策は決まらない。

謎の女への対する、各国の人々の反応は様々だった。
女を信仰する者。
何か人類を陥れようとしているのだと警戒する者。
攻撃して排除すべきだと訴える者。
意見の異なる人々はやがて対立し始めた。

そして、女の目的をめぐって混乱する地球に、宇宙から更に別の宇宙人が現れる。
地球を侵略しようとした宇宙人達から、今まで地球を守ってきた白い胴着の宇宙人、カラテレンビクトリーだ。
地球に降りたったカラテレンビクトリーは足元に集まった人々に語り始める。

「地球の皆さん、この女性型のヒューマノイドの正体は、ジャデッル星人です。
ジャデッル星人の目的は、人類の、皆さんが心と呼んでいる部分に対し、独自の干渉を行う事です。
それが、皆さんが今感じている安心や充足感です。
皆さんとは精神構造の異なるジャデッル星人には、それ以上の目的はありません。
そして星人が干渉を終える時、その感覚は固まり、常に皆さんの物となり、これから生まれてくる子供達にも引き継がれていくでしょう。
そしてそれは、皆さんが不安に思うような後々に皆さんを害するような変化が起こったりはしません。
ですが、皆さんが星人の干渉を不要だと思うのであれば、排除するのもいいでしょう。
私はここで、ジャデッル星人と皆さんの動向を、見ていようと思います」

ビクトリーのその発表に、世界中は鎮静化するどころか、大いにもめてしまった。
ある者はビクトリーの言葉を信じて星人をより信仰し、またある者はビクトリーを疑い、星人の一刻も早い排斥を行おうとする。
今まで人類のために貢献してきたビクトリーですら、いや、強大な力を見せつけてきたビクトリーだからこそ、人々は大いにその言葉に揺れた。

やがて遂に、星人をめぐる人々の対立は、正面切っての戦いへと発展しようとし始める。
星人の排斥を訴えるα国が、自国領内に綱渡りしながら侵入した星人に対し、攻撃態勢に入ったのだ。
それに対し、隣接するβ国がα国に対する攻撃の姿勢をとり、両陣営が大量破壊兵器を向け合うにらみ合いになってしまう。
更に両国を支持する国家群も戦闘態勢をとり、世界大戦が起こりかねない状況になってしまった。

カラテレンビクトリーは地球人類が自滅しかかっている事を察すると、ジャデッル星人の下へと移動する。
ジャデッル星人をビクトリーが撃破しようとしているのだと判断したβ国が警戒する中、ビクトリーはジャデッル星人に言った。

「人類が君の行いのために争い、大変な事になろうとしている、君自身の対応で、事態の終息を図ってほしい」

人類の呼びかけには応じなかったジャデッル星人は、ビクトリーの言葉に、今までずっと続けていた綱渡りを止めてビクトリーの方を向くと、ゆっくりと首を振る。

「そのために、大勢の人間が犠牲になってもか?」

ビクトリーの言葉に、ジャデッル星人は無言で綱渡りを再開した。
その横に、人型をした黒い物体が数体現れ、ビクトリーを攻撃し始める。
素早い速度で飛びまわり、ビクトリーを翻弄する人型に対し、ビクトリーは相手が自分を攻撃するタイミングに合わせて空手チョップや正拳突きを放つ。
程なく黒い人型の物体は全滅し、次いでビクトリーがジャデッル星人に構えをとると、ジャデッル星人は、舌打ちのような動作をして、その場から飛びあがり、空へと消えていった。
それに伴って人々の心の中の安心感や充足感は消滅する。

ジャデッル星人が去った後、しばらくその場に集まった世界中の軍隊を見回すビクトリー。
やがて、ジャデッル星人に続いて、ビクトリーも空へと飛び去っていく。
人類は結局、何一つ自分達で決める事ができなかった。
その心に、もう安心も、充足感もない、ただ、虚しさと情けなさだけが残る。
No21 「異次元人への挑戦」

世界各地で、原因不明の行方不明者が続発した。
行方不明者に共通点は無く、失踪する理由もない人間達が、ある日突然、消えていくのだ。
やがて事件の規模はエスカレートしていき、大型バスや旅客機、タンカーまでもが消えてしまう。

やがて、各国は、人や物が消えてしまう際、異次元からの干渉があった事をつきとめる。
娘を異次元へとさらわれたI教授は、様々な観測データから、異次元からの干渉に重力が使われている事を解明した。
異次元からこちらの次元に干渉している何者かは、物体に発生する重力を操作し、それを零にする事で、次元が物体を捉えている力を消滅させて、こちらの次元の物体を異次元へと持ちだしているのだ。
如何にして相手がこちらの重力を操ったり、こちらの次元の存在を知ったか等は不明だが、重力の変動を探る事で、次の干渉点を察知する方法を教授は見つけ出し、次の犠牲者を割りだす事に成功する。
そして教授は相手が無力化できないだけの重力を人工的に発生させる事で、逆に相手をこちらの次元へと引きづり出せないかと考え、人工的にマイクロブラックホールを作りだす装置を持ちだし、犠牲者が重力零にされる瞬間、マイクロブラックホールを干渉させて干渉者の引きこみを図った。
だが、マイクロブラックホール発生装置の出力が足りず、相手をこちらの次元に引っ張りだす事ができない上、引きこまれる対象者もこのままでは無事では済まない。
計画が失敗しようとしたその時、白い胴着姿の宇宙人、カラテレンビクトリーが突如現場に現れ、ブラックホール発生装置の出力を強制的に増大させた。
カラテレンビクトリーはこれまで宇宙からの侵略者と戦い、撃破してきた宇宙の空手家である、その宇宙の空手家が、会然とする教授達の前でブラックホール発生装置を調整すると、重力を通じて繋がっていた二つの世界の間に亀裂が生じた。
ビクトリーはその亀裂に迷う事無く飛びこみ、異次元世界へと侵入する。

ビクトリ―が侵入した異次元空間、そこは時間の流れがあやふやで、何もかもが不確かな紫色の空間だった。
そして、その空間に確かな形をもって存在している物体が一つ。
薄紫色で、タツノオトシゴか、はたまた鶏のとさかのような姿をした、空間を漂う生物、それが、今回の物体消滅事件の犯人、異次元人だ。
ビクトリーは素早く異次元人との距離をつめると、正拳突きで逃げようとする異次元人を粉砕する。
すると、異次元空間は更に大きく歪んで消失し、こちらの世界の人々は元の世界の元の場所へと帰ってきた。
恐ろしい異次元人による誘拐行為を退けたビクトリーは、人々の無事を確認すると、空へと飛び去っていく。
消えていた人達は去っていくビクトリーを、ただ茫然と見送った。
134, 133

  

No22 「ぼくのおねえちゃん」

ぼくのおねえちゃんはおかあさんににています。
めがあおいし、かみもきいろだからです

おねえちゃんは、やさしいおねえちゃんです。
ぼくがこまっていると、かならずどうしたのってこえをかけてくれます
しゅくだいがわからないっていうといっしょにかんがえてくれます
おねえちゃんはすぐにこたえをだせるのでとてもすごいです

おねえちゃんはぼくときゅうさいとしがはなれています
しょうがっこうがおねえちゃんといっしょだったらよかったけど、おねえちゃんはぼくがはいるよりさきにちゅうがくせいになりました

おねえちゃんはみんなにやさしいです
おねえちゃんのともだちのおねえちゃんたちもやさしいです
みんな、ぼくにおかしをくれたりあそんでくれたりします

おねえちゃんはげーむがとくいです
ぼくのかてないてきも、おねえちゃんはかんたんにやっつけます
おねえちゃんはべんきょうでいそがしくないときはぼくとゲームであそんでくれます

おねえちゃんはぼくがやめてっていってもぼくのあたまをなでまわしてきます
おねえちゃんはいいにおいがするけど、あたまをなでられるとはげになりそうでいやです

おねえちゃんははたらきものです
おとうさんやおかあさんのしごともてつだいます
ばんごはんをつくったり、おとうさんのしごとをてつだったりします

もうおねえちゃんとあえないのはとてもつらいです

まちがうちゅうじんにおそわれたとき、おねえちゃんだけしんでしまいました
おねえちゃんだけがっこうにいたからです
うちゅうじんはなんでおねえちゃんたちをころしたのかかんがえると、とてもわからないです
なんでうちゅうじんはわらいながらまちをこわすのかわからないです
きっととてもわるいうちゅうじんだとおもいます
いやなうちゅうじんです

でもいいうちゅうじんもいます
カラテレンビクトリーです
カラテレンビクトリーはおねえちゃんたちをつぶしたうちゅうじんとたたかってくれました
なんどもなんどもさされてすごいいたそうだったけど、けんをもったうちゅうじんをやっつけてくれました

もっとはやくカラテレンビクトリーがきてくれたらよかったのにってぼくがないていたら、おかあさんが、きっとカラテレンビクトリーはほかのほしもまもっているから、ちきゅうにすぐにこれないのよっていっていました
うちゅうのしらないひとたちをまもるためにこわいしんりゃくしゃとたたかってくれるカラテレンビクトリーはすごいとおもいました
ぼくもおおきくなったらカラテレンビクトリーみたいにおおぜいのひとをたすけられるおとなになりたいです




No23 「一人の退屈者」

タラミーク星人。
姿形で地球人とタラミーク星人を区別する事が難しく、交配できる程に身体構造も近い宇宙人。
バリーダもまた、そんなタラミーク星人の一人だ。
ただ、彼は他の平和的なタラミーク星人達とは異なり、どす黒い趣味を持っている。
それは、異空間に作りだした部屋でから遠く離れた他の星に巨大怪獣を送りつけ、ドーナツやアメリカンドックに似たタラミーク星のジャンクフードを食べつつその星が破壊されて滅びゆく様を眺める事だ。
タラミーク星の法律ではそういった行為は禁止されていたが、バリーダは法の及ばない場所から、人知れず、その行為を繰り返し、今また、一つの星を滅ぼそうとしていた。
空間を繋げた窓の外、送りこんだ怪獣の吐きだした猛毒の白い粉により、最後の生物が死滅しようとしている惑星の様子を紙に記しつつ、ため息をつくバリーダ。

「皆似たような結果になるんだよなぁ…」

だが、このところ、彼はこの趣味に飽きてきていた。
強力な怪獣を用意して、必ず勝てる相手にそれを送っているのだから勝つのは当たり前だが、それだけでは面白くない。
かといって、手ごわい相手を選んだり、わざと負ける怪獣を送るような事はできない、戦いが長引けば、何らかの理由で銀河のネットワークに自分の行いが知れてしまう可能性があり、そこからタラミーク星行政執行機関にこの事がばれてしまったら、死よりも残酷な罰が待っているからだ。

「ちょっと趣向の違う星攻めてみるか」

そこで、バリーダは少し獲物の種類を変えてみる事にした。
これまではただ力が強いだけの生物がいる惑星、主に爬虫類が繁殖する惑星を標的にしていたが、今度は若干の文明を持っている生物がいる星を標的に変更する。
文明と言ってもひ弱で、銀河ネットワークに助けを求める事はできないし、そもそも存在を知ら無いだろうから罪が知れ渡る事は無く、文明がある分、途中の展開が変わってくるだろう。
だが結果は見えているし、大体どんな展開になるかはやる前からわかっている、玩具のような兵器が破壊されつくした後、大量破壊兵器が何度か使われ、その後は地下か宇宙に逃れようと抵抗した末に、死滅するのだ。
バリーダは自分を支配する退屈から、文明を持った生物が助け出してくれるとは思えなかった。
それでも、送らずにはいられない、何故なら、彼は退屈なのだから。
そして、バリーダは太陽系第三惑星、地球へ怪獣を送り込んだ。


異変はすぐに起きた。
バリーダが送った怪獣が、所用でバリーダが2日程目を離している間に撃破されたのだ。
地球の文明が持つ兵器や毒劇物、科学技術で倒せるような怪獣ではなかったはずである。

「そんなまさか…」

あまりにも早すぎる怪獣の敗北に動揺しつつ、怪獣の活動記録を確認して、バリーダは驚愕した。

「う…宇宙空手の使い手!?なんでこんな星に…」

宇宙空手、それは極めれば如何なる宇宙怪獣や星人とも渡り合えると言われる宇宙の必殺拳技で、宇宙剣技と並び称される宇宙殺法の一つだ。
その宇宙空手を使う宇宙人が地球人類を守ってバリーダの宇宙怪獣、シルヴェギラスと戦って、傷を負いつつも撃破していたのである。
宇宙人が、他の星の、しかも見返りを期待できないような宇宙人のために自分の身を危険にさらして戦う等、バリーダの中ではありえない事だった。
確かに、それは宇宙道徳に沿った事だが、正しい事でも、それを一個人で、見返りもなく、その身を危険を冒してまで行う意味が、彼には理解できないのだ。

「ここも…危ないかもしれない…」

兎に角、バリーダはその場から逃げる事にした。
宇宙人があの場にいたという事は、もう銀河のネットワークに自分の存在が知られている可能性が高いからだ。
だとすると、バリーダの元にタラミーク星の行政執行機関が現れるのは時間の問題である。
それが来る前に、安全な、どこかタラミーク星人のわからない銀河の僻地へと逃げねばならない。
バリーダは荷物をまとめると、すぐに宇宙船へと駆けだした。

程なく、宇宙道徳に従って地球を守った宇宙空手の使い手、カラテレンビクトリーからタラミーク星へ送られた情報により、バリーダはタラミーク星の行政執行機関に全銀河指名手配される事となる。
彼の退屈は、こうして永遠に終わりを告げたのだった。

136, 135

  

No24 「川の怪獣」

メキシコ某所、13歳の少女、モニカは、ある日、遠くの山に発光する物体が墜落するのを家の窓から目撃した。
だが、翌日、周囲の人間の誰に聞いても、誰も発光体を見ていないという。
不審に思いつつも普段通りの生活を送っていたモニカだったが、ある日、川で釣りをしていた男性が川から出現した触手のような物に水中へ引きずりこまれるのを目撃してしまう。
モニカはその後水死体となって発見された男の調査に来た警察に川の中から現れた触手の件を訴えるが、全く信じてもらえなかった。

それから、モニカは周囲の人間に必死に川から現れる触手の脅威を説明して回り、川に近づかないように呼びかけるが、誰一人、モニカを信じる者はおらず、モニカは段々と孤立していってしまう。
そうしている間にも、次々と行方不明者が続発していき、遂にモニカの知人までも犠牲になってしまった。
モニカはせめて自分だけでも助かりたいと村からの脱出を考えるが、13歳のモニカが村から脱出して自力で生活する事などできるはずもなく、逃れる術はない。

そんなある日、モニカの父が下流の街へ行く事になり川を下る事になってしまった。
父の身を案じたモニカは、言葉を尽くし、何度も止めようとするが、父は全く聞き入れず、きつく叱られてしまう。
それならばとモニカは漁師に頼んで怪獣を見た場所に電流を流してもらおうとするが、当然聞き入れてもらえない。
更に漁師が言うには、あの川は人を引きずりこめる程の巨大な触手を持った何かが潜める程に深くは無いという。
それを聞いて、モニカにも自分が見た物が幻ではないか、という考えが浮かんできた。

結局、何もできないまま、父の出発する日がやってきた。
ボートへ向かう父を見送りながら、仕方なかった、あれは見間違いだった、きっと何も起こる事は無い、必死に自分に言い聞かせるモニカ。
だが、何故かモニカには確信があった、あの触手は、必ず再び現れる、と。
確かに、川は浅い、自分の他に目撃者もいない、だが、自分が見た光景が、見間違いだったと、モニカはどうしても思えなかった。
何か、何か父を救う術はないか、モニカはもう一度、必死に考える。
そうだ、誰かが、誰かが代わりに襲われればいいのだ、今なら周囲に人がいる、怪物が現れれば必ず目につくし、助けてもらえるだろう。
そう思ったモニカは、勇気を出して、川へと飛びこんだ。

そこからは、あっという間だった。
必死に水上へ上がろうとするが、水が渦を巻き、手足に絡まって身動きできないモニカ。
モニカを助けようと川に飛びこむも、同じく溺れさせられてもがく父。
モニカの父の叫びを聞いて集まってきた人々の悲鳴、怒号。
どこからか鳴り響いてくる銃声。
そして、巨大な蛇の様に持ちあがり、村へと上陸してくる川の水。
川の水は、体から触手の様な細長い水を伸ばし、驚愕する人々を次々と捉え、体に飲み込んでいく。
怪獣は川に潜んでいたのではない、川が何らかの力によって40m程の巨大なアメーバの様な液体の怪獣になってしまったのだ。
そして、今までの獲物とは違う、若く、新鮮で、宇宙エネルギーの豊富な人間の少女が体に入った事で、興奮して活動を開始したのである。

大蛇の様に体をくねらせながら、モニカの村を蹂躙する川、その時、天空の彼方から白い胴着姿の宇宙人が飛んできて、川の前に立ち塞がった。
宇宙道徳に従い、地球人類のために戦う宇宙空手の使い手、カラテレンビクトリーだ。
ビクトリーは川に手を突っ込み、中にとらわれているモニカ達を助けだすと、上空に飛びあがり、凄まじい勢いで乱れ蹴りを放った。
川はビクトリーの乱れ蹴りで激しく四散し、あっという間に霧の様に霧散する。

怪獣化した川を撃破し、宇宙へ帰ろうと、空を見上げて飛び立たんとするビクトリー。
それを見て、意識を取り戻したモニカは叫んだ。

「待って、ビクトリー!お願い待って!!」

40mの巨体を持つビクトリーが、モニカの必死の叫びに反応し、動きを止めてモニカの方を見下ろした。
自分の叫びに反応したのが信じられず、茫然となるモニカ、それを見て、ビクトリーはモニカに近づいて膝をつき、話をするように手で促す。
モニカは意を決し、もう一度叫ぶ。

「あの、あの山に、何かが落ちたの!きっとそれで川がおかしくなったの!きっとあの山に、何かあるのよ!」

ビクトリーはモニカの訴えに頷くと、ゆっくりと飛びあがり、モニカが示した山、川の源流へと向かった。
その巨体は村からも見る事ができ、村の人々は固唾を飲んでその光景を見つめる。
ビクトリ―が川の源流に到着すると、地底からモニカが見たのと同じ発光と共に、蜂に似た巨大な侵略星人、バチッバ星人が現れた。
雄たけびを上げ、ビクトリーに両手の鋭い針で突きかかるバチッバ星人、ビクトリーはそれをひらりとかわすと、回し蹴りでバチッバ星人を地面に転倒させ、起き上がりに飛び回し蹴りを見舞って頭部を吹き飛ばす。
頭部を失って倒れ、爆発四散するバチッバ星人、大歓声を上げる村の人々、そしてモニカ、それに見送られ、カラテレンビクトリーは宇宙へと帰っていく。
村の大人達は自分達の非を認め、口々にモニカを褒め称え、彼女の名誉も回復し、こうして地球侵略を企み、川を怪獣化させたバチッバ星人の陰謀は、小さな少女の大きな勇気によって潰えたのだった。
No25「大廃獣対カラテレンビクトリー」

猫に似た宇宙人、マジョルラ星人が4体、朝鮮半島某所の廃墟の中に集まっていた。
彼らはこの廃墟の地下に秘密基地を作り、地球侵略の機会を伺っていたのだが、その企みは今まさに潰えようとしている。
培養していた怪獣、マジョル・デ・ビルガスが暴走し、基地を破壊し始めたのだ。
既に彼らの仲間の多くは死に、侵略司令部や研究設備は完全に破壊され、マジョル・デ・ビルガスは今、脱出用の宇宙船を破壊しようとしている。


「チーフ、何か手はないんですか?」

グレーの毛をしたマジョルラ星人、フェンリーが、牛柄の上司、チーフに焦り乍ら訪ねた。
だが、上司はただ無言で地下の光景を見ているだけである。
どんな相手が来ても勝てるように作った怪獣だ、制御が失われ、装備が何もない現状ではどうする事もできない。
そして、例えここから逃げたとしても、一度マジョルラ星人の肉の味を覚えたマジョル・デ・ビルガスが闘争本能のままに自分達に追いついてきて、瞬く間に皆殺しにするだろう。
その後地球人類が暴走したマジョル・デ・ビルガスに滅ぼされる事になるのだろうが、それは彼らにとって知った事では無い事だ。

「思えば短い人生だった…」

そう言って丸まる、チーフと同じく牛柄で、チーフよりも若干大きな地球侵略のリーダー、オックス。
完全に自らの命を投げた周囲をフェンリーは苛立たし気に一瞥すると、ふと、ただ一人だけ、真剣な顔で地下を見つめている人物がいる事に気がついた。
マジョル・デ・ビルガスの研究主任、薄いオレンジ色の毛並みをした、ブチャだ。
ブチャは聡明な人物だ、もしかすると、何か秘策があるのかもしれない。
フェンリーはそう思い、ブチャに話しかけた。

「ブチャさん、何か…」
「マジョル・デ・ビルガス…やはりお前は美しい、お前に喰われるなら…本望だ」

そう言って、ブチャは地下への入り口に飛びこんだ。
会然とするフェンリーの耳に、地下からブチャの悲鳴と肉を裂く音が聞こえてくる。

(だ…駄目だ、こいつらに、こいつらに頼ってはいけない)

若いフェンリーには夢があった。
それは、膨大な資源が溢れる惑星を開拓し、その資源をもってあらん限りの贅沢をする事だ。
だからこそ、この科学者達に協力して、研究所から資材を盗むのを協力し、研究の助力をしてきたのである。
それが、小さな失敗から起こった一連の出来事で、一気に無に帰ろうとしているのだ。

(こんな…こんな連中と一緒にいちゃいけねえ!いけなかったんだ!俺は何てバカなんだ、目先の欲に目がくらんで侵略なんかやらかしたばっかりに…)

いや、そうではない。
そもそもこのような悪事に加担したのが間違いだったのだ。
例えこの計画が成功していたとしても、この男達は別のどこかで必ず計算違いや間違いを犯し、同じ運命をたどっていたに違いない。
フェンリーにはそんな確信があった。
一時の感情や欲望に目がくらんで、とんでもない、取り返しのつかない事をしてしまったと感じた。
自分勝手な事で他人に…まして姿形も違う他の星の生物に迷惑をかけ、あまつさえ滅亡に至らしめる事、それが如何に邪悪な事か、彼は今、それを身をもって知った。
そして罪を償うべく、彼は声を大にして叫んだ。

「カラテレンビクトリいいいいいい!来てくれえええええええええええ!」

猫の叫びが朝鮮半島に響き渡り、チーフとオックスがぎょっとする。
慌てて自分を止めようとしてくるチーフを弾き飛ばし、フェンリーは叫ぶ!

「カラテレンビクトリいいいいいい!怪獣が暴れているんだ!カラテレンビクトリいいいいいいいいい!」

その叫び声に応えるように、天空の彼方から白い胴着姿の宇宙人が飛んでくる。
宇宙道徳に従い、地球の平和を守っている宇宙の空手家、カラテレンビクトリーだ。
地球侵略、その最大の障害になるはずだった存在である。


「なんてことをしてくれたんだ!」

怒り狂った目でこちらをにらんでくるオックス、しかし、フェンリーは怯まずにオックスに叫ぶ。

「こっちの台詞だ!俺を悪の道に誘いやがって!」
「はっ、俺達が誘わなくても、欲深い奴は必ず別の機会に同じような道へ行くはずさ」
「そんなもん、わからないさ!」
「母星で犯罪者になり、みじめな思いをする位なら!」

逃げようとするオックスだったが、カラテレンビクトリーが手を叩いて大きな音を出した途端、その体が金縛りにあったように動け無くなってしまう。
宇宙空手の技の一つ、コスモ猫ダマシだ。

「畜生、畜生…」

自分の死に方すら選べず、悪人は悔し気な声を上げ、悶絶する。
そんな悪人を他所に、フェンリーから事情を聞いたカラテレンビクトリーが地下の入り口をたたき壊し、地下施設へと侵入してマジョル・デ・ビルガスと交戦を始めた。

「共倒れろ!」

チーフがそれを見て、醜い叫び声を上げた。
だが、マジョル星人達が絶対の自信をもって作りだした怪獣に、カラテレンビクトリーの必殺の手刀や拳が次々とさく裂し、ほとんど抵抗を許さずその頭を踵落としが粉砕する。
断末魔を上げて倒れ伏し、溶け散るマジョル・デ・ビルガス。

「ほあああああああああああああああああああああああああああにゃあああああああああああああああああああああああああああああ」

その光景を見て、奇声を上げるオックス。
チーフは頭を垂れて、ピクリとも動かない。

「やっぱり、正義は強い…いや、悪はどうしても弱いんだ」

フェンリーは、ぼそりと思った事を口にした。
彼らを待つのは、母星に連行されての無期懲役である。
そこで、フェンリーはきっと、強い男へと生まれ変わるだろう。

















138, 137

  

No26 「友情の大決闘-前編-」

ある日突然、アメリカの都市に巨大な黒いドーム状の物体が出現し、都市をすっぽりと覆ってしまった。
内部との連絡が途絶え、アメリカ軍が出動して周囲を包囲する中、ドームから女の声が響き始める。

「カラテレンビクトリー、我々パンゲアラ星人は地球侵略の為にどうしてもお前が邪魔だ、そこでお前には私の用意した敵とこいつと戦ってもらう」

パンゲアラ星人と名乗るその侵略星人がそう宣言すると、ドームの黒い壁がわずかに透明になり、中に着流し姿の巨大なヒューマノイドが現れた。
日本人のような容姿をしており、腰には刀まで下げている。

「もし明日の朝までに貴様が現れなければ、我々はドーム内の地球人を無差別に、苦痛に満ちた殺し方でなるべく残酷に殺していく!」

そう言って星人の声は消え、ドームの壁も元の真っ黒い状態に戻ってしまう。
周囲を取り囲むアメリカ軍は直ちに壁の破壊を行うも、アメリカ軍の最新鋭の兵器をもってして、ドームには傷一つつける事ができなかった。



その夜、新たな侵略星人の出現に、ホワイトハウスで緊急対策会議が開催された。
しかし、政府にはドーム内の市民の救出を諦め、戦略核兵器による飽和攻撃作戦以外に打つ手がなく、カラテレンビクトリーに頼るしかない状況である。
カラテレンビクトリーとは世界中のどんな軍隊よりも強い武力と、科学力を持ち、宇宙道徳に従って人類に無償で味方してくれてきた宇宙の空手家だ。
カラテレンビクトリーが現れれば、市民の命が助かり、核兵器を使わずに事態を終息させる事が出来るかもしれない。
しかし、今回パンゲアラ星人はカラテレンビクトリーの存在を事前に知り、更に真っ向から戦いを挑んでいる。
あの着流しのヒューマノイドが圧倒的にカラテレンビクトリーよりも強いか、何か秘策があるのだろう。
そうすると、カラテレンビクトリーをアテにして彼が敗れてから戦うよりも、核兵器による先制攻撃を行った方が勝算があるかもしれない。
対策会議は先制核攻撃派とビクトリーによる対応を待つ派にわかれて論争になり、一向に対応策が決まら無かった。
そこで、会議場のドアが開き、以外な人物がホワイトハウスに現れる。
カラテレンビクトリーだ。
白い胴着姿の宇宙人、カラテレンビクトリーが、ホワイトハウスに堂々と現れたのだ。
あまりの出来事に、一瞬唖然とする大統領以下要人達。
だが、SPはすぐに反応し、カラテレンビクトリーに銃を向けて包囲し、大統領を逃がそうとする。
しかし、カラテレンビクトリーが大声で喝を唱えただけで、一流のSP達は体に強いショックを受け、その場にへたり込んでしまった。

「大統領、まず突然の非礼をお詫びしたい。だが時間が無かったのでこうして強硬手段をとらせていただいた。どうか話を聞いてもらいたい」

流暢な英語で大統領に申し出るカラテレンビクトリー、大統領は退避を促す周囲の要人達を手で制し、カラテレンビクトリーに正面から堂々と向きあう。
その隙をついて体制を建てなおした国防長官とSP数名が銃撃を見舞うも、カラテレンビクトリーは飛びくる弾丸を二本の指で全て止めてしまった。
再度、周囲を叱責し、無駄だと銃を降ろさせる大統領。
カラテレンビクトリーはそれを確認すると、ゆっくりと話し始めた。

「あのドームの中にいる宇宙人は、私の宇宙空手と同等の力を持つ武術、宇宙剣技の使い手、ケンゲキオーゼットだ。もし戦えば、私とて危うい相手である。だが、ケンゲキオーゼットは本来地球侵略を企む輩ではないし、広い宇宙に彼を洗脳する術は存在しない。恐らく、ケンゲキオーゼットはなにかしろの弱みをあの宇宙人に握られている可能性が強いのだ」

どよめくアメリカの要人達、それは何かと尋ねる声がどこからか上がる。

「恐らく人質だろう」

一同がさらにどよつく。
宇宙人が身内を人質にとられて脅迫されるなど、なんと地球的な理由だろう。
バカバカしい、という声も上がった。

「それで?君は我々に何を求めているんだ?」
「アメリカ軍に人質を救出してもらいたい」
「…宇宙人相手に我が軍の通常兵器が役に立つのかね?それに、その人質の場所は?」
「わからない」

一際どよめくアメリカの要人達、中には怒声すら聞こえてくる。

「だが、大体の場所はわかっている、北アメリカ大陸、それもアメリカ国内だ。私が場所を特定しすぎると星人がそれを察知して人質を移す可能性がある、そうなったらすべてが水泡に帰してしまう。だが星人はアメリカ合衆国の力を完全に侮っている、合衆国政府の行動には対応できないだろう」

そう言って、近くにいた要人に何かを渡すカラテレンビクトリー。

「これは?」
「パンゲアラ星人の使う通信機器や特殊な波長の詳細なデータだ、役立ててほしい」

それだけ言うと、カラテレンビクトリーは一同に背を向け、窓から去っていこうとする。
誰も、それを引きとめる事はできない。

「どこへ行くんだ?」

誰かが尋ねた。
ビクトリーは振り向かずにそれに応える。

「星人のドームへ向かう。あの街の人達を助けなければならない」
「まだ我々は協力するとも、君を信じるともいっていない」
「知っている、だが、私はどっちみち行かねばならない」

それを聞いて、思わず大統領が身を乗りだし、声を大にして尋ねた

「我々は地球人だ、君が我々を救う理由がない、そしてケンゲキオーゼットは君と互角かそれ以上の実力をもっていて…しかもドームには星人の罠があるかもしれない、それでも行くのかね?何故?」
「…?」

そこで、カラテレンビクトリーは不思議そうに振り返った。

「それが何故、私が助けに行かない理由になるんだ?」

大統領達は言葉を失い、茫然となる。
カラテレンビクトリーは空を仰ぐと、まっすぐに暗い夜空へと飛びたった。



やがて、黒いドームをゆっくりと朝日が照らしていく。
朝日を背に不気味に建つ巨大なドームの前にカラテレンビクトリーはゆっくりと降りたっていた。
No28 「友情の大決闘-後編-」

突如アメリカの都市を黒いドームで包みこんだ侵略星人、パンゲアラ星人は、都市の住人を人質にカラテレンビクトリーに自分の連れてきた宇宙人と戦うように命令する。
着流し姿のその宇宙人の名前は、ケンゲキオーゼット、カラテレンビクトリーのつかう宇宙空手と同等か、それ以上の技を持つ、宇宙剣技を使う宇宙人だ。
本来ならばカラテレンビクトリーと同じく、地球人に危害を加えるような宇宙人ではないはずだが、何故かパンゲアラ星人に味方し、カラテレンビクトリーに戦いを挑んで来たのである。
カラテレンビクトリーはそれを星人による人質工作と睨み、アメリカ政府に人質の救出を頼むと、パンゲアラ星人の挑戦を受け、単身、星人の作りだしたドームへと降り立つのだった。



「よく来たなカラテレンビクトリー、だが、如何にお前でも宇宙剣技には敵うまい」

どこからか聞こえてくるパンゲアラ星人の言葉に、しかし、カラテレンビクトリーは怯まない。

「パンゲアラ星人、ケンゲキオーゼットに何をした!彼は貴様のやっているような事に味方するような者では無かったはずだ」
「ふんっ、知る必要は無い!さあ、戦って殺しあえ!カラテレンビクトリー、脆弱な地球人を守る為に無駄に命を散らすがいい」

ドームの壁面が割れ、カラテレンビクトリーがその中に入ると、ケンゲキオーゼットは街から少し離れた森の中に立っていた。
街の外には民間人の姿は見られなかったが、超感覚を持つカラテレンビクトリーには、建物に籠る大勢の市民達の気配が感じ取れており、人々はなるべく大きく頑丈な建物か地下にまとまっているが、宇宙空手と宇宙剣技が正面からぶつかれば、地下だろうと高層ビルだろうとその余波で簡単に破壊してしまう。
ケンゲキオーゼットと市街地で戦う事だけは絶対に避けなければなら無い。

「ケンゲキオーゼット…」

カラテレンビクトリーは戦う前に、せめてその事をケンゲキオーゼットに伝えようとした。
だが、ケンゲキオーゼットは手を上げてカラテレンビクトリーを制し、無言で首を振る。
その目は深い深い悲しみに満ちていた。
カラテレンビクトリーはそれを見て、察っする。
言葉は無用、この場でどんな言葉を交わしても、何も状況は変わら無いのだ、と。

「地球の平和を乱すのならば、相手が誰でも容赦はしない」

覚悟を決め、構えをとるカラテレンビクトリー。
ケンゲキオーゼットも刀を構え、次の瞬間、凄まじい速度の斬撃が放たれた。
身を引いて攻撃をかわすカラテレンビクトリー。
そこ目がけ、再度ケンゲキオーゼットの剣が襲い掛かる。
カラテレンビクトリーはそれを蹴りで撃ち落とし、空手チョップを放つ。
身を翻してかわそうとするケンゲキオーゼットだが、その背中をチョップが掠った。
姿勢を崩しかけるケンゲキオーゼットに素早く追い打ちの下段蹴りを放つカラテレンビクトリー。
ケンゲキオーゼットはそれを飛びあがってかわし、カラテレンビクトリーへ斬撃を放つ。
身を引いてかわしたビクトリーに素早く体制を建てなおしたケンゲキオーゼットから斬撃が続けざまに放たれ、袈裟懸けにカラテレンビクトリーの胸を切り裂く。
素早い斬撃の連打からカラテレンビクトリーが反撃の機会をうかがっていると、その背後に火の玉が突然現れ、ビクトリ―を襲ってきた。
間一髪かわし、距離をとるビクトリー。
すると、ケンゲキオーゼットの横に、チャイナ服を着た少女の姿をした侵略星人、パンゲアラ星人が現れた。

「ふっふっふ、2対1だ」

そう言って得意げに笑うパンゲアラ星人。
パンゲアラ星人が傍に現れたにも関わらず、ケンゲキオーゼットは攻撃を仕掛けず、カラテレンビクトリーに構えをとっている。

(今星人を倒す事はできない、という事か)

恐らくパンゲアラ星人を倒しても、星人の死に反応して何かが起こる様になっている、そう判断し、慎重に構えをとるカラテレンビクトリー。
そこ目がけ、パンゲアラ星人が腕から高熱火球を放ってきた。
宇宙回し受けで跳ね返すカラテレンビクトリー。

「しまった!」

思わず、カラテレンビクトリーは叫んだ。
カラテレンビクトリーの弾いた火炎弾は、街の建物へと向かってしまったのだ。
だが、その進路上にケンゲキオーゼットが割って入り、火球を切り裂いて街を救う。

「何を余計な事をしている、ケンゲキオーゼット!」
「む…うう…」

それを見て怒りの声を上げる星人に、歯噛みするケンゲキオーゼット。
カラテレンビクトリーは、やはりケンゲキオーゼットが何かやむおえない事情で自分と敵対しているのだと察っし、パンゲアラ星人を指さし、叫ぶ。

「パンゲアラ星人、ケンゲキオーゼットから人質をとっているな!」
「ふっふっふ、だったらどうした?」
「貴様等外道な侵略星人が人質をいつまでも生かしている理由がない!もう殺しているはずだ!」
「何を言う、人質は生きている」
「そんな証拠は無い!ケンゲキオーゼット!こいつを信じてはダメだ!」
「証拠ならばある」

そう言ってパンゲアラ星人が手を振ると、空中に立体映像が現れ、白い毛で覆われた10人程の華奢な体系の宇宙人達の姿が現れた。
宇宙人達は金属の壁に囲まれた場所で、皆体を寄せ合って震えている。
それを見て、肩の力を少し抜くケンゲキオーゼット。

「サバララス星最後の知的生命体の生き残り…よかった、無事だったのか」
「私とてサバララス星人を必要なく滅亡させたくは無い、ケンゲキオーゼットがカラテレンビクトリーを倒し、この星から永久に手を引けば、彼らを解放しよう」

そう言って、ニヤリと笑ったパンゲアラ星人は、立体映像を消すとカラテレンビクトリーを指さした。

「さあ、行け、ケンゲキオーゼット、サバララス星人を根絶させたく無ければ、この星を私の物にするのだ」

そう言われ、やむなく再びカラテレンビクトリーに向けて構えをとるケンゲキオーゼット。
応戦すべく構えをとったカラテレンビクトリーの口が、一瞬だけ吊り上がる。

(頼むぞアメリカ合衆国、頼むぞ、人類、今のヒントで人質を見つけ出してくれ)


――――――――――――――――――


カラテレンビクトリーから星人の使う通信の波長の情報を受け取っていたアメリカ政府は、星人ががサバララス星人の人質の映像を映すための通信波をキャッチし、直ちに行動に出ていた。
合衆国各地に仕掛けられた電波系や探知機を用いて、通信波の出所を探し、程なく、その場所を発見する。
場所はごくありふれた山中で、軍が調査した結果、そこに何かしらの物体が透明になって隠れている事が判明した。
直ちに合衆国の最精鋭の特殊部隊が宇宙人の施設へと突入し、通信波に映されていたサババララス星人達を救出する。
怯えるサバララス星人達を落ち着かせ、身振り手振りで助けに来た事を伝え、歓喜して泣きついてくる星人達を誘導して施設から脱出する特殊部隊。
星人達を脱出させると、役目を終えた後に証拠を消すための装置が働いたのか、パンゲアラ星人の基地は音も無く発光して消滅してしまった。


―――――――――――――――――――


「…!!」

突然、黒いドーム内でカラテレンビクトリーと戦っていたケンゲキオーゼットの動きが止まった。

「どうしたケンゲキオーゼット!今度は何だ!?」

苛立たし気に声をかけるパンゲアラ星人に、ケンゲキオーゼットはそれまでの無表情を崩し、不敵に微笑んで見せる。

「サバララス星人達が解放された、今彼らからその旨を伝えるテレパシーが俺に届いたぞ」

その一言に、パンゲアラ星人は一気に青ざめ、身を翻して即座に逃げようとするが、その前にカラテレンビクトリーが立ち塞がった。

「ケンゲキオーゼット、君の手でこいつを倒すんだ!」
「ひ…ひいい」

悲鳴を上げるパンゲアラ星人の首を居合い一閃、ケンゲキオーゼットの刀が斬り飛ばし、星人の首が宙を舞う。
更にケンゲキオーゼットは残った星人の胴体をZ字に切り裂き、爆発四散させた。
黒いドームがそれと同時に消滅していき、街に残されていた人達が外に飛びだしてきて、二人の巨人を見上げて大歓声を上げる。
邪悪な侵略者をカラテレンビクトリーとケンゲキオーゼット、そして人類が協力して打ち破った瞬間だった。



その後、米政府からケンゲキオーゼットへのサバララス星人達の引き渡しが行われた。
一部ではサバララス星人をケンゲキオーゼットやカラテレンビクトリーへの交渉に使えないか、との声もあったが、それらは大統領の
「アメリカ合衆国が宇宙と地球、そして君達自身の良心に背を向け、二人の宇宙人と世界中を敵に回すのはどう考えても得策でない」
の一言で沈黙する。
星人達はヘリから降りてケンゲキオーゼットとカラテレンビクトリーの下に赴く際、口々に救出に当たったアメリカ特殊部隊にお礼をいい、巨大な二人の巨人もまた、深く礼の言葉を述べた。
米兵達もまた、命をかけて地球の為に戦ってくれたカラテレンビクトリー達に素直に心からの礼の言葉を述べ、去っていく星人達を敬礼で見送る。
そこに、国家だとか利害だとか、そう言った複雑な物は無い。
ただ、友情だけが光り輝いていたのだった。
140, 139

  

No29 「救出」

腹に圧迫感を感じて、彼女は意識を取り戻した。
口から水が吐き出され、体のあちこちに棒のような何か湿った物が乗っている感じがする。
体は鉛の様に重く、瞼が開かない。
呼吸すると、塩の味と臭いがした。

自分はどうしたのだろうか。
朦朧とする意識の中で、彼女は記憶を辿ってみる。

友人との船旅。
荒れる海。
現れる2体の巨影。
巨大な蛸の様な触手の化け物。
そしてもう一つ、あれは……鯨?
鯨の怪物と蛸の怪物の戦いで船が揺れ、船内に戻れなかった自分は海に…。


背筋を冷たい物がよぎり、彼女は体を震わせた。
もう一度体の感覚を確かめてみる。
全身の筋肉が疲れ果て鉛の様に重く、瞼がくっついて開け無いが、地面の感覚があり、指先も動く。
自分は生きている。
だが、体は動かない、そして腹に何かが乗っていて重い…。
…何だ?この腹の重さは?
手を動かして確認しようとして見るが、手が重くてあげられない。
やがて、首筋と腕にも何かが巻き付いてきた。
冷たい感触はするが、圧迫感はない。
何だ?蛸?あの蛸がいるのか?
恐怖を感じ、なんとか体を動かして身を捻ろうとする。
だが、腹に乗った触手が胴体に巻き付いてきて、体を仰向けに戻してしまう。
目を…目を開けて逃げなければ。
そう考えて必死に体を動かそうとするが、体が言う事を聞いてくれない。
どうにかうっすらと目を開けると、刺すような太陽の光と、塩の感触で、開けていられず、慌てて目を閉じる。
もう駄目だ。
そう思った。
だが、不思議と恐怖心は湧いてこない。
動く手を動かして目をこすり、何とか目を薄く開く。
眩い太陽の光の中に、何かが見える。
蛸…いや、違う、あれは…人?…胴着?
あれは…カラテレンビクトリー!!


カラテレンビクトリー、それは宇宙道徳に従って地球を狙う侵略者と戦ってくれている、宇宙の空手家だ。
そのカラテレンビクトリーが、彼女の横たわる横に、悠然と立っているのである。

「気がついたかな?」

心に直接、カラテレンビクトリ―が語りかけてきた。
返答する事が彼女にはできない事を察しているのだろう、カラテレンビクトリーは言葉を続けてくる。

「もう大丈夫だ、まもなくここに地球の救助隊が到着する」

徐々に、視界が明確になっていき、体も軽くなってきた。
身を起こそうとすると、体に絡み付いた触手が自然と離れていく。
触手が去っていった方を振り向くと、そこには巨大な蛸の様な生き物…あの時船上から見えた怪物の姿があった。
驚いて体をのけぞらせると、再び脳内にカラテレンビクトリーの声がする。

「彼が君を助けてくれたんだ」

その言葉に、思わず息をのむ。
目の前の蛸はどことなく穏やかな表情でこちらを見ながら、何十本もある大小の触手の内の一本を持ち上げて、振って見せた。

「君の乗った船は地球侵略を企むゴッポル星人の怪獣に襲われ、そこを通りかかったボセダ星の恒点観測員の彼が怪獣を倒して、海に落ちた君を助けてこの島に届けてくれたんだ」

不思議な程、ビクトリーの言葉は素直に受け入れる事ができた。

「…ありがとうございます」

感謝の言葉を口にすると、再び体が鉛の様に重くなってくる。
こんなに安心して眠りにつく事は無いな、と、薄れ行く意識の中で彼女は思った。
宇宙から来たヒーローが、二人も自分の傍にいてくれるのだから。
No30「キーホルダートラップ」

ごく、ありふれた昼下がり。
「死」が街中を移動していた。
親指ほどの大きさの、熊のキーホルダーの形をしたそれは、天空高くから黒いコードで垂れさがり、人が歩く程度のスピードで移動しながら、獲物がかかるのを待っている。
大都市東京の喧騒の中では少し不可思議な物があっても、誰もそれを気に留めない。
よくよく見ればおかしい物だと気がつくのだろうが、それに気を取られる程、誰しも暇では無かったのだ。
だから、地球人にはそれの対策が何もできておらず、そもそもその存在に気づいていなかった。

公園でタバコを吸っていたI美は、目の前に浮かぶ不可思議なキーホルダーに気が付き、それを目で追った。
(何これ?)
正体不明のキーホルダーに不用意に近づくI美。
迂闊だが、それも無理もない。
如何に空から吊るされていると言っても、所詮は小さなキーホルダーで、ここは昼間の街中だ。
気味が悪くはあっても、危険だと感じるのは、難しいだろう。
そしてI美は手を伸ばし、キーホルダーに触れてしまった。

一瞬、I美の視界は暗転する。
彼女が驚く間も無く、次の瞬間、周囲の風景が元の公園とは似ても似つかない紫色の煙が立ち込める沼のような場所へと変わってしまう。

「え?何?何!?」

突然の出来事に、狼狽するI美。
その眼前の煙の中に巨大な長い影が姿を現した。
恐怖に駆られ、後ずさるI美だったが、背後にも気配を感じて降り変えると、そこにも同じ、長い影がうごめている。

「何?何?何?」

恐怖から涙声になって縮こまるI美。
やがて、煙の中から蛇の様な体を持ち、頭からミミズの様な突起状の口を3本生やした怪物が姿を現した。

「我々はフォルソウ星人、女、絶望しろ、お前はこれから殺される」
「えぇ!?」


フォルソウ星人は唐突に、そう言い放つ。
人語を話す怪物に、狼狽え、逃げる事もできずに震えるI美。

「お前は我々の餌となった。お前は我々の罠にかかったのだ。お前は死ぬ」

そう言いながら、近づいてくるフォルソウ星人。
I美はどうする事もできず、ただ震えて立ちすくむしかない。
その頭に、フォルソウ星人の牙が喰らい付こうとした、その時、渾身の飛び蹴りが星人の脇にさく裂し、その体を二つに両断した。

「そこまでだ!」

霧を裂いて姿を現したのは、白い胴着姿の宇宙人、カラテレンビクトリーだ。
カラテレンビクトリー、それは、宇宙道徳に従って地球の文明を守る、宇宙空手の達人である。

「何故…ここに!?」
「ば…馬鹿な!」

信じられない、と言った風に声を上げる周囲のフォルソウ星人達。
その中心で、I美は状況について行けず、頭が真っ白になってただ茫然としている。

「そこに、宇宙からの暴力がある限り、カラテレンビクトリーは現れる!!行くぞ!!」

勇躍、フォルソウ星人の群れに飛びこんでいくカラテレンビクトリー。
そこで、I美の意識はゆっくりと闇に沈んでいった。



I美が気がつくと、そこは元の公園だった。
時計を見ると、時間はそれほど立っていない。

「…夢?」

思わず呟いて、I美は地面に何かが落ちているのに気が付いた。
それは…熊のキーホルダー。

「………忘れよっ」

首を振ってそれを無視すると、I美はその場から去っていった。



「おかーさん!こっちこっち、早くー!…ん?」

公園に遊びに来た7歳のAちゃんは、道に何かが落ちているのに気が付いた。
それは、Aちゃんの好きな熊の形をキーホルダー。

「おかーさーん!熊落ちてるー」

無垢な少女は、キーホルダーを拾おうと、手を伸ばしていった。
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No31「咲きほこる花、散り行く花」

「うう…く…」
「中々定着しないね、輪」

真夜中の廃校。
埃っぽい机に突っ伏して苦しむ輪に、横に立って彼女の腕を眺めている人間の女性に変身したホルビット星人が言った。
輪の伸ばした左前腕には、一輪の白い花が咲いている。

「大丈夫、計算じゃ確実にあなたと融合するはずだから」
「…うん」

顔を青ざめさせて苦しむ輪に、事もなげに言うホルビット星人。
冷淡な星人の態度はしかし輪には気になら無かった。

(こんな苦しみ、今までの地獄に比べれば何でも無い…この花が実を結べば…終わるんだ!全部!)

徐々に大きさを増していく花を見つめ乍ら、自らの決意を思いだし、輪は必死に苦しみに耐える。


今までの彼女の人生は、終わりの見えない地獄だった。
些細な事から始まった過度ないじめ、両親の不仲からくる虐待、成績不振、担任からのセクハラ、そして強姦…。
暗黒の日々を過ごし、自殺を考えていた彼女の下に、ある日突然現れたのが、地球侵略を企んでいる、というホルビット星人だった。

「君の不幸を力に変えて、盛大に暴れてみない?」

そう言って、星人は輪に侵略植物ビッグジャングルの種を渡してきた。
ビッグジャングルは人間の生命力をエネルギーにして成長し、宿主を巨大な植物怪獣に変えてしまう。
そして、人生への絶望が強く、適度に文明社会に対する嫌悪感を持っている輪が、ビッグジャングルのコアにふさわしいのだそうだ。
どうせ死のうと思っていた輪には、ビッグジャングルになる事にためらいはなく、世の中に復讐してやろうという気持ちもまた、彼女にはあった。
そして星人の言葉に流されるまま種を体に植えて、今に至っている。

「あ…あぐ…あ…あ」
「お、いい具合に成長してきたよー、一気に行くよー」

やがて、白い花は散り、花から緑色の無数の触手が生えて輪の体を包みこみ始めた。
同時に、星人の姿が女性の姿から、アゲハ蝶の羽が人間の女の形になったような黒と黄色い模様が全身を覆う本来の姿に戻り、校舎を破壊して巨大化し始める。

「うああああああああああああああああああああ」

絶叫しながら、輪もまた巨大化した。
強い破壊衝動と、言いようのない快感が、頭の中で溢れだし、やがて、輪は全身緑色の蔦と葉で覆われた怪獣、ビッグジャングルへと変わった。



山中の廃校から出現した2体の怪物に、侵略星人から幾度も攻撃を受けていた日本政府は直ちに周辺住民に避難命令を発令し、陸空自衛隊に出動を命令した。
だが、航空機とヘリによるミサイル攻撃も、戦車、火砲による砲撃も、2体の怪物には全く歯がたたず、ホルビット星人の手から放たれる熱光線を受け、戦闘機も戦車も次々と破壊されていく。
ビッグジャングルになった輪も何かしらの方法で近代兵器群を蹴散らしてやりたかったが、ビッグジャングルの体には飛び道具が無く、星人に任せるより仕方がない。
そして自衛隊が壊滅し、撤退していったその時、今度は天空の彼方から白い胴着姿の宇宙人が現れた。

(カラテレンビクトリー!!)

輪はその宇宙人を知っていた。
ホルビット星人の様な侵略星人から人類文明を守って戦う、宇宙から来た宇宙空手の達人で、これまで幾度となく人類文明を襲う侵略星人から地球を守った宇宙人、カラテレンビクトリーだ。
だが、それだけの存在を前にしても、輪の心に恐怖は無い、むしろ、こいつを倒しさえすれば、という強い目的意識さえ湧いてくる。

「輪、出番だよ、あなたの体にはカラテレンビクトリーの宇宙空手は通用しない!私達なら勝てるよ、カラテレンビクトリーに!」

ホルビット星人の言葉に後押しされ、カラテレンビクトリーに向かっていく輪。
ビクトリーはそれを飛び越えると、後ろのホルビット星人へ急降下キックを放った。
ホルビット星人はそれを両手で防いでビクトリーを撃墜する。

「輪」

ホルビット星人の声が響き、輪は反射的にカラテレンビクトリーに飛びかかった。
ビッグジャングルの姿になった輪は、獣の本能の様な物で、自らの力のすべてがわかる。
体制を崩したビクトリーに輪は後ろから組み付いて、口元に針を出現させてビクトリーの首筋にそれを突きたて、そこから毒液を注入した。
激しく苦しみ、抵抗するビクトリー、だが輪の方が力が圧倒的に強く、拘束はびくともしない。
そこに、ホルビット星人が自衛隊を倒した光線を両手から発射した。
光線が直撃し、苦しみもがくビクトリー。
それを、輪はがっしりと抑えつけ、首筋からの毒液注入を継続する。
再度光線を見舞うホルビット星人。

「グアーーー」

ビクトリーが絶叫を上げた。
勝てる!
輪がそう思った時、彼方から爆音が聞こえ、航空機の編隊が現れて空爆を見舞ってきた。
激しい爆撃の閃光と音に輪が一瞬怯んだ隙に、ビクトリーはするりと輪の体から離れてしまう。

(攻撃される!)

そう思って輪が身構えるが、ビクトリーは一瞬輪を見た後、すぐに背を向けてホルビット星人へと向かっていった。
自衛隊に応戦していたホルビット星人はビクトリーに気づくと、光線を放って応戦するが、ビクトリーはそれを宇宙回しうけで弾きかえし、星人の顔面に手刀を放つ。
しかしホルビット星人はひらりとそれをかわすと、輪の傍らに飛んできた。

「輪、もう一度ビクトリーに襲い掛かって、両手の触手をつかうの」

ホルビット星人の指示を受け、輪は両手をビクトリーに向け、そこから無数の触手を発射する。
触手はすさまじい速さで伸びて、ビクトリーへと絡み付いていった。
ビクトリーはそれをかわそうとするが、動きにキレが無く、捕らわれてしまう。

「やっぱり思った通り…」

何かをボソリと言うホルビット星人。
だが、輪がそれを気にして問いかけるより早く、星人は飛びあがると、ビクトリーの頭を急降下キックで蹴りつけた。
顔面を蹴られ、大きくのけ反り、苦しむビクトリー。
輪も触手に力を入れ、ビクトリーを締め上げる。
勝てる!
輪は今度こそ確信を持った。
今、自分とホルビット星人は、今までのどの宇宙人よりもカラテレンビクトリーを追いつめている。
邪魔な自衛隊も先ほど片づけたばかりだから、もう邪魔が入る事は無い。
先ほど輪が打ちこんだ毒が効いているのだろう、カラテレンビクトリーはどんどん弱っていっている。

「とどめよ」

ホルビット星人がそう言って、先ほどよりも高く飛びあがり、足に光線と同じ光を貯めた。

「死ねええ!」

そう言ってカラテレンビクトリーに突っ込んでいくホルビット星人。
だが、その体がビクトリーに命中するより早く、天空の彼方から飛んできた何かがホルビット星人を撃墜した。

「うわああああああああああああああああああああ」

断末魔を上げて地面に墜落し、転げまわる星人。
自衛隊のミサイル攻撃でも傷つかなかったその片脚は無残に切断され、緑色の血が噴き出していた。
輪が狼狽えていると、地響きを上げて地面に着地したそれが、輪の触手も切断してしまう。
それは、着流し姿の宇宙人だった。

「ケ…ケンゲキオーゼット!!」

その姿に、ホルビット星人が悲鳴のような声を上げる。

それは、カラテレンビクトリーと同じく、宇宙道徳に従って戦う宇宙人だ。
本来は別所で活躍しているケンゲキオーゼットが、カラテレンビクトリー絶対絶命のピンチに駆けつけてきたのである。
こんな事は初めてであり、輪は勿論、ホルビット星人も全く想定していなかった。

ホルビット星人と輪に刀を構えるケンゲキオーゼット。
カラテレンビクトリーもケンゲキオーゼットの後ろで立ちあがった。
その気迫に、ビッグジャングルになって忘れていた感覚、恐怖が輪の中で蘇ってくる。

「輪、輪喰いとめて!襲い掛かるのよ!」

後ろからヒスを起こしながらホルビット星人が叫んだ。
しかし、輪は恐怖から進む事ができない。

「行けって言ってンだよ!!行けええええええ!!」

背後からホルビット星人が半狂乱になって光線を連射した。
その一発が輪の背に当たり、凄まじい激痛が走る。

「痛い」
「戦え!お前も焼き殺すぞ!!」

最早当初の落ち着きや余裕は無くなり、半狂乱で輪に命令してくる星人。
ああ…この宇宙人はやっぱり悪人なんだ、こんな宇宙人の甘言にのっても、幸せになんかなれないんだ、やっぱり私は幸せになれないんだ。
輪はその時、心底からそう思った。
だが、もうやるしかない、死の恐怖が、彼女を突き動かし、戦わせる。

「ああああああああああああああああああああ」

両手を振るって、ケンゲキオーゼットに立ち向かっていく輪。
だが、ケンゲキオーゼットもカラテレンビクトリ―も、輪を飛び越えて、後ろのホルビット星人に襲い掛かっていった。

「な…あ…あああ」

逃走しようとしていた星人は、なすすべなく首を切断され、拳が体を貫通し、大爆発した。
残され、茫然としていた輪に、カラテレンビクトリーとケンゲキオーゼットが爆炎を背にゆっくりとふり返る。

「ああ……私……」

二人はゆっくりと、輪の方へ歩み寄ってきた。

「やっぱり……地獄からは抜けだせないんだね」

そう言って、輪は目をつぶる。
はるか遠くから、大勢の人々の大歓声が聞こえた気がした。
No32「侵略王」
破壊された巨大な未来都市。
そこに隣接する荒野にある丘の上には場違いな畳の床があり、この星の主がそこでテレビを眺めていた。

この星の主はその星で生まれ育った者では無い。
たった一人でこの星へ降りたち、破壊と殺戮の限りを尽くし、そして全てを死に絶えさせて、その星の頂点にたったのだ。
この星だけではない。
幾多の文明が、種族が、こいつの為に根絶やしにされてきた。
だが、それは彼にとって単なる過程にすぎない。
彼の目的は惑星の侵略では無い、もっとちっぽけで、もっと邪悪な事だ。

「宇宙道徳を守る強い戦士を殺し、そのパーツを集める事」

それが彼の目的であり、全てだ。
その目的のためだけに、彼は自分の母星を含む、多くの星を滅ぼしてきたのである。

そして彼はまた新たな標的を見つけ、その戦士、カラテレンビクトリーが守る星へと魔の手を伸ばしている。
彼は単体でも圧倒的な力を持っていたが、自らが出向く前に、必ず他の侵略星人達を誘導して、戦士と戦わせていた。

コスモピクシーを筆頭に、ミンサッカ星人も、スコール星人も、ビーヘイト星人も、グライカロッド星人も、ババム星人も、エゼロ星人も、
メルビ星人も、プロメルス星人も、アイワン星人も、溶接マスクに似た透明星人「ビーバベル星人」も、
スドルボ星人も、アイワン星人も、あのバルデリオ星人も、マルデーイル星人も、剣を武器に奇怪な笑いを浮かべて殺戮を繰り返す星人「ハベッツ星人」も、
バチッバ星人も、マジョルラ星人も、パンゲアラ星人も、ゴッポル星人も、フォルソウ星人も、ホルビット星人も…。

皆、彼が地球の存在を教えて、地球へ送ったのだ。

ジャン星人やベベロッタ星人、モルツィロ星人は違う。
恐らく他の侵略星人達が地球へ向かったのを感知して、地球の存在を知ったのだろう。
バクトル星人も違う、侵略経験豊富な彼は自力で地球の存在を見つけ出したのだ。
マルド星人の時は、認知症の星人に適当な事を言って地球へ誘導した。
ジャデッル星人や異次元人、タラミーク星人の時はそれも想定外だったが、自分にとって対して影響があるとは思えず、実際その通りだった。

そして、彼の計算通り、侵略者達は敗れ去っていった。
宇宙道徳を守り、現地の文明と力を合わせて戦う、宇宙の戦士に、自分の文明からはぐれただけの連中が勝てるはずがない。
そう、ただ一人、自分を除いて、の話だが。


「そろそろいいか」

彼の胴体にある顔が、楽しそうにそう言った。

「もうちょっと待ってもいいんじゃないか?」

彼の頭の右側にある顔がそう応える。

「いやいや、もう待てない」

再度、胴体がそう言った。

「君はどう思う?」

右の顔が、頭の左半分……彼の本体に尋ねた。

「……」

だが、本体は応えない。
応える代わりに、マジックハンドのような左手に持ったリモコンを畳の床に置き、ハサミとコルク抜きが合体したような右手で、遠くにいた一つ目の四足歩行の怪物を呼び寄せる。

「ウーン」

小さな男の子のような声を上げて、彼にすり寄る四足の怪物。
その名はニイトキング。
核兵器はおろか、反陽子爆弾の直撃にも耐える、宇宙最強の大怪獣だ。

「「どうする?」」

腹と右の顔が、再度本体に尋ねてくる。
本体は床から立ち上がると、空を仰ぎ、言った。

「行こう」

彼の名は、シャーニイト星人。
大宇宙に名をはせる、最強の侵略星人。
最強の怪獣と、最大の能力と、最悪の心を持った、侵略王である。
144, 143

  

No34「侵略王襲来」
タイ某所。

「津波だあああああああああああああああああ!!」

昼の海岸に男の声が響き渡った。
突然の、本当に突然の出来事に、悲鳴と怒声が響き渡り、パニックになった人々が外に溢れ、事故が連発する。

「なんで…、あんな大きな津波が…」

呆然と海を眺めながら、一人の女がぼそりとつぶやいた。
彼女の視線の先には、ビル程の大きさの巨大な津波が、浜めがけて迫ってきている。
なぜ、あんな津波が現れたのか、彼女は逃げることも忘れて考えた。
あれほど巨大な津波が起きるには、巨大な隕石でも落ちてこない限りはあり得ない。
だが、隕石はおろか、地揺れの一つもここでは起こっていないのだ。
というよりも、普通津波の時に起こるはずの、潮の引きが全く起こっていない。
だとすれば、考えられる事はただ一つである。

「…侵略星人の仕業なの?」

宇宙からの悪意の可能性が、彼女の脳裏をよぎった。
侵略星人とは、遠い宇宙のかなたからやってくる、人類文明を滅ぼして地球を奪わんとする宇宙人達の事だ。
近年になって突然、侵略星人が次々と来襲し、地球はたびたびその脅威にさらされているのである。
侵略星人達は皆単体でも恐るべき戦闘能力を持っていて、人類文明の力では全く太刀打ちできない。
人類文明が今日まで健在であったのは、そんな侵略星人達に、人類に代わって立ち向かう存在があったからだ。

「カラテレンビクトリーだ!!」

空を指さし、誰かが叫んだ。
空を見上げれば、天空のかなたから飛んでくる、白い胴着姿のヒューマノイドの姿がある。
宇宙道徳に従い、人類文明の為に戦う宇宙の空手家。
その名も、カラテレンビクトリーだ!

カラテレンビクトリーは津波の迫る海岸に着地すると、迫りくる津波めがけて構えをとる。

「ヤーーーーーーー!!エイッッ!!!」

裂ぱくの気合と共にカラテレンビクトリーが正拳突きを放つと、津波は砕け散り、水蒸気となってまとめて消滅した。

あまりの凄まじい出来事に、海岸は一瞬静まり返ったが、一泊おいて大歓声が沸き上がる。
人々が津波を消し飛ばして街を救ってくれたカラテレンビクトリーを見上げると、しかし、ビクトリーは油断なく、海のほうへ構えをとっていた。

『逃げるんだ』

人々の頭の中に、突然、声が響き渡った。

『ここから離れるんだ!すぐに!!』

それが、カラテレンビクトリーからのテレパシーだと人々が気付くのに、さして時間はかからず、再び人々は悲鳴を上げて走り出す。
何から逃げているかはわからない。
だが、何か、恐ろしい何かが現れようとしているのは間違いないのだ。
必死に逃げる人々を背に、海の向こうに構えをとるビクトリー。
そして遂に、水平線の彼方にそいつが現れた。

「現れたな……シャーニイト星人」

ぼそりとつぶやくビクトリー。
枝の様な細い手足。
ハサミとコルク抜きを足したような右手と、マジックハンドのような左手。
Tシャツのような胴体。
そしてツギハギされたような頭。
外見は全く強そうに見えないその侵略星人は、40mの巨体で、どういう原理なのか海面を歩きながら陸地へと向かって歩いてきている。

(なんだあんな宇宙人)

その姿を認めて、何人かの住民が足を止めた。
これまで、カラテレンビクトリーはもっと強そうな侵略星人達を一撃で葬り去ってきている。
それに比べれば、今回現れた侵略星人は余りにも非力そうに見えたのだ。

だが、彼等は次の瞬間、凍りつく事になる。

「おい、嘘だろ、アレ…」

カラテレンビクトリーへとゆっくり歩いてくる侵略星人。
その後ろ、空中に黒い穴の様な物が現れ、そこから次々と異形の怪物達が現れたのだ。
最初に現れたのは、巨大な妖精のような姿をした怪物、コスモピクシー。
次いで現れたのは、アゲハ蝶の模様がヒト型になったような宇宙人、ホルビット星人。
その次に現れたのは、猫を大型にしたような怪物、マジョル・デ・ビルガス。
触手をうねらせながら、イカのような怪物、ヘルクラーケンも穴から姿を現してくる。
更に穴から大量の水が落ちてきたかと思うと、その水が渦を巻き、生き物のように陸地を目指して進撃し始めた。
最後に、穴の中からゲーム機をもった幼い少女の姿をした怪物が降下する、バクトル星人の恐るべき侵略怪獣、ンモデルガだ。

侵略王、シャーニイト星人。
宇宙で最も恐れられる、宇宙道徳の敵。
その能力は、あらゆる侵略星人を生き返らせ、意のままに操る事である。

「「「行け」」」

胴体と、頭の左右にある顔から6大怪獣、宇宙人に指示を飛ばすシャーニイト星人。
それに応え、怪物達はビクトリー目指して突っ込んでいく。

「エイヤー!!」

裂ぱくの気合の籠った叫びを上げると、カラテレンビクトリーは怪物たちを迎え撃たんと駆け出した。



同じころ。
夜のアメリカ、ニューヨークにも同じ黒い穴が現れ、中から不気味な霧が立ち込め始めた。
侵略星人の出現であると察した米政府が市民の避難命令を即時発令した時、霧の中から人間の腕を持つ巨大な翼竜、モークプロメルスが現れる。
市街地を蹂躙し、破壊の限りを尽くすモークプロメルス。
それに対抗すべく直ちに米陸空軍が出撃すると、今度は穴の中からイルカ型の戦闘艇に乗った人間サイズの星人、スドルボ星人が数十体あらわれた。
スドルボ星人の戦闘艇は米軍の最新鋭戦闘機の機動能力を凌駕し、手にした携行火器は一撃で戦闘車両の重装甲を撃ちぬいてしまう。
なすすべのない米軍をあざ笑うかのように霧は徐々に広がり、ニューヨークだけでなく他の都市へも進行を始めていった。

朝のロシア、モスクワにも黒い穴が現れ、中から巨大なツインテールの少女が現れた。
少女が手を振って指示を下すと、避難しようとしていた子供達が突如として狂いだし、大暴れし始める。
人間の子供を自在に操る力を持った、ミンサッカ星人だ。
ミンサッカ星人の超能力に混乱するモスクワへ、星人を殲滅すべくロシア軍が駆けつけてくるが、突如穴から放たれた斬撃によって次々と撃破されてしまう。
やがて穴の中から骸骨のような怪物、スコール星人が姿を現した。
スコール星人に守られ、自分の能力を存分にふるって子どもを狂わせていくミンサッカ星人。

夜のブラジル、ブエノスアイレスに現れた黒い穴からは、七色に光るカビが降り注いできた。
それはただのカビではない。
知能を持つ侵略星人、メルビ星人だ。
過去メルビ星人による攻撃を受けた事があるブラジル政府は、この星人に対していかなる対応も無駄である事が周知されており、人々はただ逃げ惑うしかできない。
凶悪な七色のカビは、容赦なくそんな人々を次々と飲み込みこんでいく。

未明のエジプト、カイロ、立ち並ぶビル群の上に現れた黒い穴からは赤い雲が現れてカイロ上空を覆い、人々の頭上に赤い雨を降らせていく。
悲鳴と倒壊音が響き渡る中、穴の中から猛禽類のような足のような足と、黄色く輝く爪をもった怪物、バルデリオ星人が姿を現した
バルデリオ星人が両手を広げると、赤い雲は瞬く間に拡散し、エジプト全土へと広がって、各地を阿鼻叫喚の地獄絵図に変える。

オーストラリア、キャンベラの街には上空に出現した黒い穴から巨大なヒト型ロボット兵器が次々と降り立ち、市街地の破壊を開始した。
更に頭に角を生やしたトカゲを人型にして鎧を着せたような外見の星人、グライカロット星人が現れ、高熱火炎をはいて市街地を蹂躙していく。
軍の戦闘機隊がいち早く現地に飛来してくるが、戦闘機は突如、上空で見えない壁にぶちあがったかのようにひしゃげ、爆発四散してしまう。
それは、ビルの上から他の2人の星人、肩当をつけた金髪、ビーヘイト星人と、派な口ひげを生やしたスキンヘッドの男、エゼロ星人と共に立つ、髪で目を隠した普通の少年の外観をした侵略星人、ババム星人の仕業だ。
エゼロ星人の指揮で動くロボット群を引き連れ、暴れ狂うグライカロット星人、時折応戦に現れる軍隊は、エゼロ星人の手でなすすべなく撃破されてしまう。
瞬く間に、キャンベラの街は壊滅し、ロボット群を引き連れたグライカロット星人は、次なる町へと進撃を開始した。



シャーニイト星人に操られて蘇り、人類文明を蹂躙し、破壊と殺戮の限りを尽くす侵略星人達。
これまでカラテレンビクトリーによって何とか支えられてきた人類の平和が、今、まさに崩れ去ろうとしていた。
No35「立ち上がる者」
日本某所。
この日、とある高校で映画研究会の学生達が、中庭で自主製作映画の作成を行っていた。
3年生がメガホンを取り、2年の男子が主役を演じる恋愛映画である。

「白藤さん、ねえ、白藤さん」
「え?ああ、ごめん、どしたの?」

小柄なショートカットの可愛らしい友人、坂本に声をかけられ、呆然としていた赤毛長髪の少女、白藤 輝華(はくとうてるか)は返答する。

「もうすぐ出番だよ、準備して」
「…うん」
「なんかずーっとどっか遠く見てるけど、具合悪いの?」

純粋に心配している様子の友人に、白藤は愛らしさを覚え、いつもの様に彼女を抱きしめ、頬ずりを喰らわせた。

「もおおおおお、坂本やっさっしいいいいいいん」
「ぴゃあああ、やめてよおお」

慌てながらも嫌がりはしない友人に、白藤の心にどんどんと愛おしさが沸き上がり、キスの雨が坂本の顔に降り注がんとする。

「待った待った、イチャコラはそこまでにして、昼休み終わっちゃう」

そこに、3年の監督、純山が止めに入った。
残念そうに舌を出し、白藤は坂本を開放すると、もう一度空を仰ぐ。

(…何か、嫌な予感がする)



「それじゃあ、シーン3の頭から」

やがて主演の2年生がカメラの前にスタンバイし、いよいよ撮影が始まった。

「シーン3、カット無し、よーい」

純山の声に、坂本がカチンコを構える。

「アクショ…ン!?」

カチンコが鳴り響いた、次の瞬間、撮影を見ていた一同は我が目を疑った。
今さっきまでそこに立っていた2年生。
その2年生が、突然木に変わっているのだ。
カチンコを持っていた坂本も振り返ってそれに気づき、悲鳴を上げる。

「…まずい!坂本、離れて!!みんな逃げて!!」

それを見て、白藤が叫んだ。
坂本が彼女の方を向いて、何か言おうとした、その時、坂本の体がうねり、緑色の岩に変わってしまう。

「坂本っ!!」
「うわああああああ」
「助けてくれぇええ!!」

次いで、監督の純山が、カメラを回していた学生が、次々と倒れ、異形の物体に変貌していく。

「っく…」

そして白藤の体にも変化が現れ、彼女の体が黒ずんで行き始める。

「……舐めんじゃないよ!!」

しかし、白藤の目が一瞬黄色く輝くと、体の変化はあっという間に元に戻った。

「ごめん、皆」

そう言い残し、白藤は校舎の中に駆け込んでいく。
校舎の中では坂本達と同じように、生徒達が苦しみながら異形の物体へと変貌していた。
あちこちから悲鳴が響き渡り、逃げ惑う生徒で校舎内は大パニックに陥っている。

「逃げて!!ここからなるべく離れるんだよ!!」

何とか原型をとどめている生徒たちに叫びながら、廊下を走り、白藤は自分のクラスへと飛び込んだ。
教室の中でも数人の生徒が苦しみ、次々と異形へと変貌している。

「いた!トシアキ!!」

苦しむ生徒達の中に自分の恋人を見つけ、駆け寄る白藤。
その対象、眼鏡の小柄な少年、トシアキは下半身が臓物の塊の様になり、上半身も徐々に変貌していこうとしていた。

「今助けるよ」

そう言って、腕に黄金の光を貯めて、トシアキの下半身に掲げる白藤。
しかし、トシアキの手が伸びて、彼女の手を抑えた。

「ダメだよ、君は…君は人間だろ?そんな事、しちゃいけないんだ」
「何言ってんだ!こんな時に」

彼の手を振り払おうとする白藤だが、トシアキは頑強に手を離そうとしない。

「僕だけ助かるのも……嫌だ。それにもうすぐきっと…カラテレンビクトリーが来てくれる、君が力を使う事なんてないんだ」

そう言って、苦し気にしながらも、白藤の目をまっすぐに見つめてくるトシアキ。

カラテレンビクトリー。
それは、宇宙道徳に従って人類文明に降りかかる超常的な災厄や怪物と戦っている、超能力を持った宇宙の空手家だ。
これまで幾度となく、カラテレンビクトリーはこうした人類の危機に現れて、強大な敵と戦ってきてくれた。
今回もまた、彼が現れてすべてを解決してくれるだろう、彼女が、白藤が無理をする必要はないのだ、そう、トシアキは言っているのである。

「ん…そうだね、その通りだ」

そう言われて、少し納得した白藤は、ポケットからスマートフォンを取り出すと、ワンセグをつけた。
せめて現状がどうなっているのかを詳しく把握しようという試みである。

「早く来てよ…」

だが、彼女の祈りもむなしく、緊急特別報道ではカラテレンビクトリーがタイで複数体の侵略怪獣と交戦し、さらに世界各国を侵略者の集団が襲っているというニュースを流していた。

「嘘…」

思わずスマホを取り落とし、トシアキに縋りつく白藤。
トシアキはもうしゃべる元気もないのか、目を瞑り、ただ苦し気に呻いている。

「トシアキ!」

再び白藤がその下半身に手をかざそうとした、その時、何か巨大なものが落下した地響きがした。
窓を見ると、校舎から離れた位置に巨大なヒューマノイド型の宇宙人が降り立っている。
かつて地球人の体を愉快犯的に変質させ、カラテレンビクトリーに倒された侵略星人、ベベロッタ星人だ。

「あいつが…トシアキを…みんなを!!」

拳を握る白藤の体を、黄金の光が包み込んでいく。

「ダメだ!!輝華!!なっちゃダメなんだ!!」

最後の力を振り絞って、叫ぶトシアキ。

「キミが人間じゃないのはいいんだ!でも…でも戦ってほしくないんだ!!死なないで!僕のそばに…そばにいてくれよ!!」

目に涙を浮かべ、体が臓物のような異形に変わることも構わず、トシアキは叫んだ。
白藤がそれを聞いて振り返り、何事か言おうとした、その時、何かが地底から現れ、ベベロッタ星人に襲い掛かっていった。
それは、全身を植物の蔓と花で覆われた怪物、かつてカラテレンビクトリーを絶対絶体絶命に追い込んだ植物怪獣、ビッグジャングルである。

「なんだあれ!」

突然現れたビッグジャングルは、両腕をふるい、ベベロッタ星人を叩きのめしていく。
ベベロッタ星人は応戦するが、ビッグジャングルのほうが力が強く、星人は一方的に殴られるばかりだ。

「ああ、あれなら!」

白藤がビッグジャングルの優勢に頬を緩めたのも束の間、ベベロッタ星人の後ろの空間に黒い穴が現れ、そこから中華服を着た少女の姿の宇宙人が現れ、強力な火炎放射をビッグジャングルに浴びせてきた。
かつてドーム状のバリアを作り、アメリカ合衆国を襲った凶悪宇宙人パンゲアラ星人だ。
パンゲアラ星人の放つ強力な火炎を、ビッグジャングルは両手をふるい、花粉の様な物を放って必死に防ぐが、このままではほどなく焼き殺されてしまうのは目に見えていた。
続いてベベロッタ星人も手から砲弾の様な物を発射し、ビッグジャングルを攻め立てていく。
甲高い、少女のような悲鳴を上げて苦しむビッグジャングル。

「………トシアキ」

その姿に、覚悟を決めた白藤は、もう一度トシアキを振り返った。
トシアキはもはや頭以外すべて臓物のような異形に変わり、浅く呼吸するばかりである。
白藤はその頭を愛おしそうに一度撫でると、おもむろに口づけをした。

「大丈夫、絶対大丈夫、だって私の名前の最後の文字は……あの人と同じなんだもの。絶対に勝って、戻ってくるよ」

そう言って、白藤は窓から飛び出し、黄金の光をまとって巨大化する。
ビッグジャングルと戦っていたベベロッタ星人とパンゲアラ星人が驚愕した隙を逃さず、パンゲアラ星人の胴体に強烈な蹴りを見舞い、吹き飛ばす白藤。
次いで、白藤はベベロッタ星人の顔面にも拳をふるい、星人を後退させる。
火炎攻撃から解放されたビッグジャングルが、信じられない、といった調子で、白藤の方を見上げてきた。
白藤は、ビッグジャングルに微笑みかけて、手を差し出してみせる。
遠慮がちに手を取り、引っ張られて起き上がるビッグジャングル。

「この星はあたしの故郷だ、あんた達が何者かなんか知らないけど、好き勝手になんかさせないよ」

ビッグジャングルの無事を確認すると、拳を鳴らして、ンモデルガⅤは星人達に戦闘態勢をとった。
146, 145

  

No36「宇宙道徳」

カラテレンビクトリーの必殺の貫き手が、ンモデルガの腹を貫いた。
ビクトリーの後ろには両断された、あるいは粉砕された他の5体の怪獣、宇宙人の姿がある。
タイの海岸を舞台に始まった侵略王、シャーニイト星人の再生怪物軍団と、カラテレンビクトリーの激しい戦いは、激しい死闘の末、カラテレンビクトリーになんとか軍配があがったのだ。
既にビクトリーの周囲の街から住民は避難し終えてあり、あたりには海から聞こえる波の音だけが響いている。
6体の怪物を倒したカラテレンビクトリーだったが、決して無傷ではない。
怪物達の攻撃で、背に、脚に、腕に、腹に、傷を負い、血を滴らせている。
対し、水平線の向こうに立ち、戦いを眺めていたシャーニイト星人は全くの無傷だ。

改めてシャーニイト星人に構えをとるビクトリー。
幾多の惑星を滅ぼし、多くの宇宙道徳を守る戦士達を倒してきたシャーニイト星人。
その星人を前に、傷を負ってなお、カラテレンビクトリーは怯んでいない。
油断なく拳を構え、じりじりと間合いをつめ始める。

と、突如、シャーニイト星人の背後に、これまでよりも二回りは大きい巨大な穴が現れ、そこから見たこともない巨大な怪物が現れた。
身の丈はビクトリーの倍、100mはあるだろう。
一つ目で直立した人型をし、全身を筋肉で覆っているその怪物の名は、宇宙最強の怪獣、ニイトキング、その完全体だ。

「ウーーン」

低い男の様な声でそう鳴くと、巨大な波しぶきをあげ、巨体を跳躍させるニイトキング。
海岸に立つカラテレンビクトリーから見て、水平線に近い位置にいたにも関わらず、たった2歩でビクトリーとの距離をつめたニイトキングは、その巨体でビクトリーの正拳突き並みの速度で拳を放ってきた。
飛びのいてかわすビクトリーだったが、ニイトキングの拳が空を切っただけで地面の土が爆発し、ビクトリーの全身に舞い上がった土が激しくぶつかる。
反撃の貫き手を放とうとしたビクトリーだったが、背後に気配を感じ、身を翻すと、間一髪、その脇腹を背後に突然現れたシャーニイト星人のコルク抜きのような右手が掠っていった。
息つく間もなく、そこにニイトキングが拳の連打を放ってくる。
避けれないと判断し、宇宙回し受けで拳を迎え撃つが、受けきれずに弾き飛ばされ、後方の山脈に勢いよくたたきつけられるビクトリー。
体勢を立て直す間もなく、目の前に瞬間移動したようにシャーニイト星人が現れ、右手のコルク抜きを放ってきた。
星人の右手がビクトリーの右わき腹を貫通して回転し、激しい血しぶきが噴出する。
ビクトリーはそれをこらえると、シャーニイト星人の顔面に渾身の空手チョップを放った。
だが、シャーニイト星人は後方に瞬間移動して攻撃を容易くかわしてしまう。
続けてビクトリーは距離をつめ貫き手を、正拳突きを、腹の痛みをこらえながら必死に放つも、瞬間移動で攻撃をかわすシャーニイト星人を捉える事ができない。
更に星人はビクトリーの後ろに瞬間移動し、衝撃波を発生させて、ビクトリーをニイトキングの方へ吹き飛ばした。
腹から血をふきながら高速で飛んできたビクトリーめがけ、ニイトキングは高速で踏み込み、力いっぱい拳をたたきむ。

「ウ~ン~」

ニイトキングの鳴き声と共に凄まじい音がして、カラテレンビクトリーは近くの山まで吹き飛ばされ、2度バウンドした後山岳部に墜落し、動かなくなってしまう。
更にニイトキングの目が不気味に輝き、次の瞬間、ビクトリーを核兵器の爆発に匹敵する凄まじい閃光と熱が包むこんだ。

「ウウーーン」

次いで、もう一発、二発。
余りの熱と衝撃に、周囲の建造物や木々が燃え上がって吹き飛び、山が崩れ去ってしまう。
ニイトキングの攻撃が止むと、ビクトリーのいた場所はきのこ雲に包まれ激しい地揺れが周囲に発生した。
もうもうと上がる黒煙の中をにらむニイトキングとシャーニイト星人。
そこに、煙を割って再びカラテレンビクトリーが現れ、シャーニイト星人目掛けて飛び蹴りを放ってきた。
しかし、シャーニイト星人はそれをマジックハンドのような左手で受け止め、ニイトキングに投げ渡す。
ニイトキングは飛んできたビクトリーに拳を食らわせ、真下の地面に思いっきり叩き落とした。
潰れたカエルの様になりながらも、再び立ち上がろうとするビクトリー、それをニイトキングは巨大な脚で何度も踏みつけ、ビクトリーの口から血しぶきが飛ぶ。
更にニイトキングは今度は思い切り踵で踏み込んできた。
上からの強い圧力に身動きも取れず、口から吐血し、苦しむビクトリー。
それでも何とか、ビクトリーは這い上がろうと体に力を入れる。
力んだ事で穴が開いているビクトリーの腹と、全身の傷から血が噴き出し、ミチミチと嫌な音が響くが、構わず立ち上がろうとするビクトリー。
だが、ニイトキングの足はびくともしない。

「諦めずに最後まで戦うか、宇宙道徳の為に戦う戦士はいつもそうだな」

地面に這いつくばるカラテレンビクトリーの前に、シャーニイト星人が現れ、Tシャツのような体にある顔が、ビクトリーを見下しながらそう言った。

「私はそんな宇宙道徳を守る戦士が、自分の無力さに苛まれ、絶望しながら死んでいくのを見るのが好きだ」

シャーニイト星人の右側の顔が意地の悪い笑みを浮かべながらそう言うと、左手を上に向ける。

「教えてやろう、カラテレンビクトリー、今世界中を私の蘇らせた怪物達が襲っている」

必死にニイトキングの足の下から這い出そうとしていたビクトリーの動きが一瞬止まった。

「何…ぐがっ!」

ニイトキングの足に更に重さがかかり、顔を上げていられず、地面に潰れるビクトリー。

「カラテレンビクトリー、お前は自分が物語の主人公や何かだと思った事はあるか?」

シャーニイト星人はすべての顔で楽しそうにビクトリーを見下しながら、語り始めた。

「だとしたら、それは間違いだ。お前は何も特別ではない、私はお前よりも何倍も強い宇宙の戦士を何人も倒してきた。
そして地球よりもずっと高度な文明も滅ぼしてきた。
そんな私に、お前が勝てる道理は全くない」

カラテレンビクトリーはそれを聞くと、渾身の力で顔を上げ、シャーニイト星人を睨みつける。

「そんな事はない!」

力強く、ビクトリーは星人の言葉を否定した。
シャーニイト星人はそれを鼻で笑い、虚空に手を伸ばして穴を作り出す。

「見るがいい」

穴の中に左手を突っ込み、何かを取り出すシャーニイト星人
それは、ビクトリーと同じサイズの腕が幾つも重なった、なんともグロテスクなオブジェだった。

「お前と同じ事を言いながら、死んでいった戦士達の腕だ」

自慢げに、ビクトリーに腕の塊を見せるシャーニイト星人。

「それがどうした!」
「皆、お前と同じようにあがき、お前と同じように最後まで諦めず、そして最後にこうなった」
「だがそれは、私ではない!」
「同じさ、お前には逆転する要素が無い、他の連中と同じように、いや、やられた奴らよりも更に無い、ゼロですらなく、マイナスだ」
「違う、ここは地球であり、私はやられた戦士達とは違う、カラテレンビクトリーだ」
「…だからなんだと言うんだ」

そう言って、シャーニイト星人が腕を勢いよく振るうと、彼方から飛来してきたタイ空軍の航空隊が凄まじい衝撃波を受けて一撃で全滅してしまった。

「何故お前達はそんな愚かに現状を認識しようとしないんだ?どこにも希望がないという現実から、何故目を背ける、もっと絶望しろ」

シャーニイト星人は屈むと、ビクトリーの顔を覗き込んだ。

「カラテレンビクトリーよ、お前がもし、降伏し、私の配下となるのであれば、命だけは助けよう」
「断る」
「何故だ?ここで犬死するよりも、もっと多くの物を生み出す可能性があるというのにか?」
「貴様は間違っている。間違った者に付き従っても、最後には幸福はない」
「何を言う、私よりも強い者は無い、私を間違っているという者を全て撃破すれば、私は正しい者になるのだ」
「いや、お前は間違っている、例えお前がそれをなしたとしても、その先にある物にお前は永遠に満足できない、一個体の幸福を追求しても、その先に真の幸福なんか無いんだ」
「「「…何故言い切れる」」」」

ほんの少し、シャーニイト星人は動揺したのだろう。
全ての顔が、ビクトリーにそう問いかけてきた。
ビクトリーは力一杯星人を睨みながら、返答する。

「なら、お前は心から断言できるのか?たった一人で幸福になれると」
「っ……」

途端、黙るシャーニイト星人。
侵略者の王をと呼ばれ、圧倒的な力を振るうシャーニイト星人。
そのシャーニイト星人が、その言葉には反論できなかった。
星人はわなわなと震えながら、上空に幾つものモニターを展開する。

「最後に見せてやろう、お前の守っていた星がどうなったのかを。…絶望しろ」

やがて、モニターの向こうに世界各国の現在の様子が映し出された。
都市はどれも破壊され、無残な有様になっている。
その様子を見て、ビクトリーは不敵に微笑み、シャーニイト星人は驚愕した。

なぜなら、すべてのモニターの向こうでシャーニイト星人が送った星人と、別の星人が激しく戦っていたからである。






スドルボ星人の戦闘艇とは違う、サメ型の戦闘艇が夜のニューヨーク上空を飛びかい、スドルボ側の戦闘艇を次々と撃墜していく。
それに乗り込んでいるのは、三つ目の宇宙人、スキーム星人達だ。
スキーム星人達は、スドルボ星人を上回るアクロバティックな軌道で飛行し、正確な射撃をもってスドルボ星人を撃ち落としながら、ガス弾の様な物で霧を消滅させていく。
その様子を地上から眺めていた一人の青年が、自分の上空を飛んでいくスキーム星人の戦闘艇の乗組員を見て、会心の笑みを浮かべた。

「ギ…、来てくれたのか」

青年、ジョージ・M・ギーワは、かつて自分を助けてくれた少女、スキーム星人のギに両手を振った。
他人と協力しあえる種族だけが、宇宙へ出るほどに文明を発展させる事ができる、かつて彼女が言った言葉を体現するように、彼女は地球の危機に仲間を連れて助けに来てくれたのである。

「フォーメーションをとって!でかいのを落とす!!」

2丁拳銃を連射し、スドルボ星人の戦闘艇を撃墜したギは、仲間のスキーム星人達に合図を送った。
彼女の言葉に応じ、彼女を中心にⅤ字に展開するスキーム星人達。
巨大な翼竜、モークプロメルスはそれめがけ、口から高熱火球を放つが、スキーム星人達はそれを容易くかわし、モークプロメルスに四方から一斉に銃撃を見舞う。
体をレーザーが貫通し、苦しむモークプロメルス。
既に霧は消滅し、モークプロメルスは再生する事はできない。
相手の姿勢が崩れた隙を逃がさず、ギはモークプロメルスの真上に回ると、戦闘艇の後部の尾ひれのような部分を巨大な光の刃に変えて、急降下した。
閃光一線、首を切断され、崩れ落ちて灰になるモークプロメルス。
スキーム星人達はそれを確認すると、眼下で呆然と戦いを見つめているアメリカ人達に手を振って見せた。
星人達に悪意が無いことを感じ取った地上の人々から、一斉に歓声が沸き上がる。

「ギ!ありがとおおおお!!」

地上で自分の名を呼び、ジョージが手を振っていることに気づいたギは、彼に満面の笑みと共に手を振り返して見せた。






モスクワでは、ツインテールの少女の姿をした巨大な宇宙人、ミンサッカ星人は、両手をふるい、必死に子供達を操ろうしていた。
だが、星人の洗脳波は別の波長に妨害され、子供たちは正気を取り戻し、ロシア兵に保護されてと共に避難していく。
その頭上には、三本のリボンの上を綱渡りをしながらミンサッカ星人達の方へ向かっていく、ギリシャ神話の登場人物のような姿の女性の姿があった。
かつて地球人の精神に干渉し、カラテレンビクトリーと揉めた末に宇宙へ帰っていったジャデッル星人だ。
彼女もまた、自分が一度追い払われたにも関わらず、地球の為に戻ってきてくれたのである。
何故、そこまでの事をしてくれるのかは、地球人と精神構造の違うジャデッル星人なのでわからない。
だが、どうやら彼女も、根柢の部分は地球人と同じ様だ。

自分達の方へ接近してくるジャデッル星人に、スコール星人が斬撃波を発射する。
だが、ジャデッル星人は人型の黒い物体を多数展開し、前方にバリアを張って星人の斬撃波を弾き、反撃に光線を連射した。
スコール星人は瞬間移動する間もなく次々と光線に貫かれ、爆発四散する。
横でその様を見ていたミンサッカ星人は一瞬青ざめるが、包丁の様な武器を取り出すと、叫び声をあげてジャデッル星人目掛け突っ込んできた。
ジャデッル星人はそんなミンサッカ星人の周囲に黒い人型物体を多数展開し、一斉射撃を浴びせ、容赦なく粉砕する。
爆発四散するミンサッカ星人、避難していた人々から沸き上がる大歓声。
ジャデッル星人は歓声を上げて自分を見上げるモスクワの人々を見下ろしながら、にんまりと大きな笑みを浮かべた。






ブエノスアイレス一帯に広がったカビ、メルビ星人は、突如現れた無数の蛸の様な怪物によって次々と捕食されていた。

「お母さん、何アレ…、怖い」

大勢の人と一緒にカビから避難し、高層ビルの屋上から地上を眺めていた少女が、おぞましい蛸の出現に、震えながら母親にしがみつく。
母親はそんな少女を優しく抱きしめると、彼女に微笑んで見せた。

「大丈夫、あの蛸さん達は正義の味方よ」
「なんでわかるの?」
「前に私を助けてくれたのは、あの蛸さんの仲間だからよ」

母親の言葉が終わった途端、ビルが大きく揺れて傾いた。
ビルの1階にメルビ星人の群れが到達し、破壊活動を始めたのである。

「ああああ!!」

大勢の人と共に、ビルから落下して、メルビ星人の塊に落ちていく母子。
そこに横合いから素早く無数の触手が伸び、母子と大勢の人々を一人残らず救い上げた。

「地球の人々よ、我々はボセダ星惑星種保全軍だ。君達の文明を脅かすカビと戦う為に来た、恐れる事はない」

人々を触手に掴んで庇い、倒壊しようとするビルを支え、メルビ星人を巨大な口で食い荒しながら、テレパシーでそう語る、無数の触手を持つ蛸の様な宇宙人、ボセダ星人。
かつてこの星を訪れた彼らの恒天観測員がこの星を襲う多数の侵略星人の存在を発見し、彼等はこの星に巨大な危機が迫っている事を察知して、身の危険も顧みず助けに来てくれたのだ。

「本当だ!蛸さんいい人達なんだ!」

ぱっと笑顔になり、そう叫ぶ少女に、ボセダ星人の目が優しく微笑む。

「そうだ!もう安心だぞ!」

少女に頼もしくそう言って、触手につかんだ人々を別のビルの屋上に移すボセダ星人。
助けられた人々と、周囲の建造物から大歓声があがる。

「頑張って!蛸さん!!」

少女の声援に応える様に、ボセダ星人達はあっという間にメルビ星人を食い尽くし、全滅させた。






赤い雨を降らし、カイロ市街を全滅させ、悠然と進むバルデリオ星人。
あらゆる物体を溶かす赤い雨に守られたバルデリオ星人に対し、エジプト軍は成すすべが無く、その進撃を阻止できる者はいない…はずだった。

「オヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」

奇妙な笑い声が響き渡り、突如、空から紙吹雪の様な物が降り始めた。
すると、赤い雨は止み、上空の赤い雲が突然消滅し始める。
驚愕するバルデリオ星人の前に、空から三人の宇宙人が降下してきた。

「まだ幼い文明を襲い!罪もない民間人を虐殺するなど、言語道断である!!非道な侵略星人よ!このワシが成敗してくれる!!」
「…それ爺ちゃんが言えた事じゃないからね」

地球人に似た三人の宇宙人達、その三人の中で一番太った色黒の星人が声高らかに宣言すると、それに横から一番年若い外見の、色黒で耳の長い宇宙人が突っ込みを入れる。

「オヒョヒョヒョヒョヒョヒョーヒョヒョ」

最後の一人、髪が長く、鼻の下に長い髭が生えていて、顔が細長い宇宙人は、奇妙な笑い声を上げながら手にした扇子から紙吹雪の様な物をまき散らし、上空の赤い雲を消していく。

「カズアキおじさん、その調子で頑張ってくれ」

顔長の星人、カズアキにそう指示し、自身はバルデリオ星人に向かって構えをとる、若いマルド星人、ヴェルナス。
彼はかつて祖父と叔父が認知症の為に地球人類を襲撃した際の罪を償うため、こうして地球の危機に駆けつけてきたのだ。
なお、祖父、叔父はいつの間にかついてきており、本来連れてくる予定はなかった。

バルデリオ星人はヴェルナス達に気づくと、瞬間移動に近い速度で距離を詰め、紙吹雪を撒くカズアキに腕の刃を見舞わんとする。
だが、間に割って入ったヴェルナスがその刃を両手で受け止め、逆立ちして星人の頭に連続で蹴りを叩き込んだ。

「宇宙カポエラの技のキレ、味わえ!!」

ヴェルナスの蹴りを受け、後退するバルデリオ星人。
しかし、星人の体には大した傷はついておらず、星人は姿勢を戻したヴェルナスの飛び膝蹴りを回避すると、ヴェルナスの体を素早く袈裟懸けに斬りつけた。

「うわっ…」

怯むヴェルナス。
バルデリオ星人はそこでヴェルナスの背後に回ると、更に斬撃を見舞った。
一度はカラテレンビクトリーを撃破し、大宇宙にその強さを響かせているバルデリオ星人を相手にするには、ヴェルナスはまだ若く、未熟だったのだ。
ヴェルナスの技をことごとくかわし、防ぎ、斬撃を見舞っていくバルデリオ星人。
流血しながらも、何とか反撃せんと蹴りを放つヴェルナス、それを容易く弾き、星人が更に斬撃を見舞おうとした、その時、何者かが星人の腕を背後から捉え、思い切り握り潰してしまった。
腕を潰され、苦しみながら振り返るバルデリオ星人。
そこには、黒い巨体を怒りで震わせた、ヴェルナスの祖父の姿があった。

「…ヴェルナス、下がっておれ」

それだけ言って、勢いよく拳を放つヴェルナスの祖父。
バルデリオ星人は回避できず、拳をもろに喰らってよろめいた。
そこに、更に拳を放つヴェルナス祖父。
それは、認知症でまともな行動できなかった老人の動きではなかった。

「お前のじーさんはな、従軍はしとらんかったが……かつて宇宙道徳を守る為に戦っとったんじゃ」
「え…」

祖父の意外な強さに、呆然とするヴェルナスの横に、先ほどまで奇声を上げて扇子をふるっていたカズアキが立って、そう言った。
空の赤い雲は、すでに完全に消えている。

「聞いてないよ、なら…何であんな馬鹿な真似したんだよ」
「……」

凄まじい力を込めて振るわれた拳を受け、バルデリオ星人の首が吹き飛び、頭が宙を舞った。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

勝利の雄たけびを上げる、ヴェルナスの祖父。

「……老いだけは、どうしようもない」
「マジかよ……」

祖父を大切にしよう、カズアキの言葉に、何の見返りももらわずに数百の星を守り抜き、その疲れから母星に戻った後強力な認知症になってしまった英雄の孫は、そう誓ったのだった。






キャンベラの街を蹂躙するロボット群とトカゲ型宇宙人、グライカロット星人の頭上から、太鼓の音が響き始めた。
突然の事に警戒する侵略星人群。
と、突然その周囲に「御用」と書かれた提灯が現れ、熱線を放ってエゼロ星人のロボットを破壊しはじめた。
仲間を破壊され、提灯目掛けて応戦しようとするロボット群。
だが、ロボットの火器を提灯は容易くかわし、反撃の熱線を受けてロボットは次々と破壊されていく。

その様子をビルの上から見ていたババム星人が、超能力を使うべく腕を向けた、その時、星人の胸を高速で飛んできた扇子が貫いた。
血を吐いて倒れ、燃え上がるババム星人。
エゼロ星人とビーヘイト星人が扇子の飛んできた方向を見ると、そこには花魁姿の女性の姿がった。
かつて大怪獣ヘルクラーケンを地球に送り、カラテレンビクトリーによって侵略を阻まれた、ジャン星人である。

「一度捨てようとした命じゃ…」

剣を抜き、ジャン星人に斬りかかっていくビーヘイト星人。
ジャン星人は広げた扇子でビーヘイト星人の刃を受け止めると、かんざしを髪から引き抜いてビーヘイト星人の首に突き刺した。
崩れ落ち、炎に包まれるビーヘイト星人。

「こんな使い方も…アリ、であろ?」

ジャン星人に背を向け、逃走しようとするエゼロ星人。
それ目掛けてジャン星人は開いた扇子を投げつけた。
扇子は白熱しながら飛行し、エゼロ星人の胴体を切断して真っ二つにする。

「ふふっ」

薄く微笑むジャン星人。
その背後で、グライカロット星人が御用提灯型の攻撃兵器から熱線の集中砲火を受け、爆発四散した。






日本、某所。
ンモデルガⅤの放った拳がパンゲアラ星人の腹を貫き、ビッグジャングルの放った蔓がベベロッタ星人を締め上げ、体を寸断した。
2体の星人の亡骸は燃え上がり、それに伴ってべべロタ星人によって変化させられていた地上の人々は、元の人間の姿へと戻りはじめる。
それを確認し、安堵しつつ、ンモデルガⅤは、改めてビッグジャングルの方を向いた。
このビッグジャングルが、明らかに知性を持ち、人間の為に戦ってくれた事は間違いない、が、その正体がわからない。
彼女がビッグジャングルに警戒心を持ったその時、ビッグジャングルの全身の蔓と花がみるみる枯れていき、地面に崩れていった。
驚き、慌て、屈んでビッグジャングルを心配するンモデルガV。
と、枯れたビッグジャングルの残骸の中から、セーラ服姿の少女が這い出してきた。
それを見て、ンモデルガⅤも体を縮めて元の大きさに戻り、少女へと近づいていく。

「その……ありがとうございました」

近づいてきたンモデルガⅤ…白藤に気づくと、開口一番少女、輪はお礼を言った。

「え?あ…いや、こっちこそ」

突然のお礼に、少し動揺し、頬を染めながら返答する白藤。
それを見て、輪もはにかんだ笑みを返す。
二人は自然と、笑いあった。






「……信じられん」

各地で自分が送った侵略星人達が敗れ去っていくのを見て、驚愕し、震えるシャーニイト星人。
幾多の惑星を滅ぼしてきたシャーニイト星人だったが、他の惑星の星人、しかも、カラテレンビクトリーに敗れた星人までもが加勢に現れるなど、初めての事だった。

「何故だ?」
「こんな事は今まで無かった」
「おかしい!何かがおかしい」

動揺し、3っつの顔でそれぞれ喋るシャーニイト星人その背後で、悲鳴が上がる。
星人が振り返ると、そこでは着流し姿の宇宙人がニイトキングの足を切断し、カラテレンビクトリーを救出している最中だった。

「何も、おかしい事はない」

着流し姿の宇宙人、ケンゲキオーゼットは、カラテレンビクトリーに手を貸して立ち上がらせながら、語る。

「幾多の戦士を殺した事で宇宙の人々がお前を強く敵視し、協力して立ち上がったのだ!」
「があああああああああああああああああああ!!」

激昂し、腕から衝撃波を放つシャーニイト星人。
だが、ケンゲキオーゼットとカラテレンビクトリーはそれを飛びあがってかわし、背後から襲い掛からんとしているニイトキングに飛び掛かった。
鋭く振るわれるニイトキングの拳をかわし、その胸をZ字に切り裂いて、刀を突き立てるケンゲキオーゼット。
そこにカラテレンビクトリーが飛び蹴りを見舞って、刀をニイトキングの胸に更に深々と突き刺した。

「ウウウウウウウウウ」

断末魔を上げながら、両手をふるって両者を攻撃するニイトキング、だが、カラテレンビクトリーが正拳突きでそれを弾き返し、ケンゲキオーゼットがその隙にニイトキングの胸に刺さった刀を引き抜いて、空高く飛び上がる。
妨害しようとケンゲキオーゼットの前にシャーニイト星人が瞬間移動してくるが、ゼットの後ろから飛んできたビクトリーが加速してゼットを追い越し、拳を放って撃退した。
ケンゲキオーゼットはその隙にニイトキングめがけて加速し、その体を頭から一刀両断する。

「ウウウウウウウウーーーウーーーーーー!!」

真っ二つにされ、倒れ伏し、燃え上がるニイトキング。

「シャーニイト星人、覚悟!!」

続いて、カラテレンビクトリーがシャーニイト星人目掛けて正拳突きを放つも、瞬間移動でかわされ、反撃に星人の右手のコルク抜きが放たれる。
それを弾き、回し蹴りを放つビクトリーだが、やはり瞬間移動でかわされてしまう。

(瞬間移動を破らねば!)

シャーニイト星人は相手からの攻撃に自動的に瞬間移動で回避する能力を持っている。
この能力で、シャーニイト星人は今まで多くの宇宙格闘家を打ち破ってきた。
だが、星人には大きな誤算がある。
それは、カラテレンビクトリーが、過去に出現した星人を倒す為に、瞬間移動を破る特訓をしていた事だ。

ビクトリーはわざと星人から距離をとり、正拳突きの構えをとる。
正拳突きは届かない距離ではあるが、何事かと警戒し、衝撃波を放つシャーニイト星人。
だが、衝撃波は間に入ったケンゲキオーゼットの刀で両断され、無効化される。
その一瞬、ゼロコンマ何秒、ビクトリーは全能力を加速にあて、星人の能力が発動するよりも早く、星人に到達し、渾身の体当たりを見舞った。

「がばっ!!」

凄まじい衝撃に胴体の顔をつぶされ、動揺する星人。
その一瞬の隙に、ケンゲキオーゼットの渾身の居合抜きが星人の顔面に飛んでくる。

「ギャ!!」

かろうじてかわした星人の右側の顔を、ケンゲキオーゼットの刀が切り裂いた。

「宇宙空手奥義!!超・百裂拳」

トドメに、カラテレンビクトリーが無数の拳をシャーニイト星人に放つ。
体に多大な負担がかかっているのだろう、全身の傷という傷から血を噴き出しながら、それでも構わずに拳を連打するビクトリー。
それを受け、断末魔も残せず無数の拳の雨を受けて塵と化すシャーニイト星人。

「勝った!!」

カラテレンビクトリーはそれを確認すると、地面に膝をつき、崩れそうになりながら、しかし、よろよろと歩き、星人が持ってきた宇宙戦士達の腕で作ったオブジェの前に行く。

「…勝ったぞ!」

腕達に手を置いて、勝利を宣言した後、崩れ落ち、ビクトリーは光になっていく。
後に残されたケンゲキオーゼットは、それを見て、静かに頷いた。

世界中が大歓声に包まれ、人々は口々に喜び合い、涙し、自分達を助けてくれた存在達に感謝の意を述べ、人々を助けに来た宇宙の戦士達は、わずかの報酬も受け取らず、手を振り、笑みを浮かべ、元の場所へと帰っていく。
それは、最後まで諦めない不屈の心が、宇宙道徳を守る鋼の意思が、命を尊び他人の幸福を願う愛が、侵略王という邪悪を打ち破った瞬間だった。
宇宙の道徳に従い、多くの侵略星人と戦ってきた、宇宙の空手家、カラテレンビクトリー。
そのビクトリーが消えて、半年が経とうとしている。
半年前、地球はあらゆる侵略星人の中で、最も凶悪であると言われ、多くの宇宙の戦士を倒し文明を滅ぼしてきた侵略王、シャーニイト星人の侵略を受けた。
カラテレンビクトリーはそれに挑み、激しい戦いの末、見事、助けに来た多くの宇宙の仲間と力を合わせてそれを打ち破っている。
だが、ビクトリーはその戦いで、傷つき、倒れ、最後には消えてしまった。
これまでにも、ビクトリーは消えてしまうことがあったが、新たな侵略星人が現れると、ビクトリーは何事もなかったかのように天空から人類を助けに現れている。
だが、地球の存在を侵略星人達に広めていた元凶であるシャーニイト星人が倒された事で、この半年、これまで多発していた侵略星人は一体も地球に現れていない。
人々は平和を謳歌しつつも、何の見返りも求めず、あらゆる国のあらゆる人種の人々の為に必死に戦ったビクトリーの無事を祈っていた。
人は、神話の勇者の様に、彼の勇気と、献身を、その文明が途絶えるまで、忘れることはないだろう。

……いや。
正確に言うと、彼ではない。
彼女、である。

No37「ぼくらのカラテレンビクトリー」

「お姉ちゃんって、カラテレンビクトリー?」

それは、彼女が日課にしている社の掃除をしている時の事だった。
近くの木の陰に隠れ、こちらを伺っている少年を見つけ、声をかけたところ、第一声でそう、尋ねられたのだ。

地球人は、宇宙エネルギー学的、宇宙魔法的にとても優れた構造をしており、本来ならば外的な処置が必要な超能力…例えば変身している宇宙人の正体を見破るだとかを先天的に身に着けている個体が存在している。
予備知識として学んでいた事が、彼女の頭をよぎった。
だが、まだ確実に正体が見破られたと見るべきではない、こんな森の奥の、誰も来ない様な社の世話をしている巫女を見て、物珍しさから聞いてきた可能性もある。

「どうしてそう思ったの?」

彼女が笑顔で尋ねると、少年は少し顔を俯かせた。

「だって…お姉ちゃんの頭にはカラテレンビクトリーと同じ、角があるもん」

あ、確定だ。
と彼女は思った。
普段は地球人に見られてもいい様に、特殊な処置で隠している彼女の角がこの少年には見えている。
この角が普通の地球人には見えない事は、以前社に来た自治体の人間や、今はもう新しくできた親友のところに行ってしまった輪には見えていなかった事から、間違いない。
先天的に特別な才能を持った地球人に合う可能性は、砂漠に落ちた一粒の砂金を見つける様な物だから、全く対策をしていなかったのが、仇になってしまった。
さて、どうしたものか…と彼女は考える。
勿論、少年に害を与える選択肢は無い。
自分がここから去って、少年が伺い知らない遠い国に行くしかないだろう。
外国にもこの社の様に、宇宙人の手で作られた宇宙人が地球に静かに暮らすための場所は多くある。
地球に来てからずっとここに住み、慣れ親しんだこの町と別れるのに抵抗が無いわけではないが、この少年を通じて自分の正体が世間に知れ渡らせるわけにはいかない。

「わかっちゃった…か」

彼女が寂しげに笑うと、自分が正体を知ってしまった事が彼女にとって不利益を生じさせてしまった事を察したのだろう、少年は申し訳なさそうな顔になる。

「僕、誰にも言わないよ」
「うん、ありがとう」

彼女は少年の言葉に笑顔で応じるが、出ていく決心が変わったわけではない。
彼を疑っているわけではないが、彼の意としない形で自分の正体が彼の口から洩れる事があるかもしれないし、これからこの少年が成長するにつれて、彼に如何なる心境の変化があるかはわからないのだ。
そして、自分との関りを絶たせる事は、自分の力を狙うだろう大勢の汚い大人や、侵略星人から彼を守る事でもある。

「………あのね、僕の…ね、お姉ちゃん…、星人に殺されたんだ」
「!ごめんなさい…、私の力が及ばないばかりに…」

決意を固めていた彼女は、少年の次の言葉にはっとなり、反射的に謝意の言葉を述べた。
それは、自分の力が及ばなかった為に出てしまった犠牲者である事は間違いないからだ。

「違うよ!お姉ちゃんはビクトリーが来る前に殺されたんだ!だからビクトリーは悪くないんだよ!」

それを聞いて、少年は手を振って慌てて訂正する。
しかし、ビクトリーは首を振ると、深々と頭を下げた。

「それでも、私がもっと早く現れれば救えたかもしれない命だわ。力が及ばなくてごめんなさい」

カラテレンビクトリーは侵略星人が現れても、多くの場合直ちに迎え撃ったりはしていない。
だが、それにはやむおえない事情がある。
それは、第二第三の侵略星人や、敵の別動隊を警戒しての事なのだ。
ビクトリーは侵略星人が現れると、いつも新たな侵略の兆候等が無いかを入念に確認した後に出撃している。
それも人間の五感や観測機器が及ばない様な場所や範囲を、徹底的に、迅速かつ確実に行っているのだ。
それらの確認を行うと多くの時間がとられ、結果、目の前の少年の姉の様な犠牲者が生まれてしまっている。
それを怠れば、地球に重大な危機が迫るのだ、どうしようもない事だと人は言うかもしれない。
だが、彼女にとっては、それだって自分の努力でもっともっと時間を短縮できるはずであり、自分の不努力が招いた事であることに変わりはなかった。
それで死者が蘇るわけではないが、遺族を前にした時、彼女には相手の気を静める為に謝る事しかできない。

「ごめんね、ごめん」
「違う違う違う!」

何度も頭を下げ、詫びる彼女を、少年は両手を振って必死に否定した。

「僕、お姉ちゃんが何か理由があってすぐに来れないんだってわかってるんだ」

姉の事を思い出したのか、それとも、カラテレンビクトリーの謝意に感動したのか、少年は目に涙を浮かべながらそう言った。

「俺、お礼を言いたかったんだ、ありがとう!お姉ちゃん、地球を守ってくれて!お姉ちゃんを殺した侵略星人、カラテレンビクトリーじゃないと倒せなかったもん!」

力一杯、少年はそう言った。
その言葉には、ありったけの、ビクトリーへの感謝の気持ちだけが籠っている。
それを聞いて、ビクトリーは頭を上げた。
目の前には、目に涙を浮かべた少年が微笑んでいる。
ビクトリーには守れなかった命があった。
だが、目の前には確かにビクトリーが守れた命があった。

「……ありがとう」

少年の手を取って、カラテレンビクトリーは心からのお礼を述べる。
傷ついて、苦しんで、迷って、悩んで、諦めかけて…必死に守ってきたもの、守れたもの。
それが、確かにそこにあった。

「私、この星に来てよかったよ」

これから、この星で何があるかはわからない。
この少年の心の変化を自分はさっき考えていたが、自分だってどう心境が変わるかはわからないし、宇宙の道徳への物の見方が変わるかもしれない。
未来は誰にもわからない。

だが、今、この時、守りたいもの、大切な物は確かにそこにある。
最強の守護者は、それをこれからも、大切に守っていこうと思った。
148, 147

参加者一同 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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