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第1話② ヤバい依頼って?

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「クロ、総合格闘技って知ってるか?」

 藤原刑事は客用のソファに座り、白猫から出されたほうじ茶をすすりながらゆっくりと話し始める。

「あぁ、よく年末の放送で見たよ。裸の男がくんずほぐれつなアレね。あたしゃ興味ないけどな」

「くろさん、その言い方変態ぽくてダメです」

 自分のティーカップを持った白猫はそっと黒猫の横に座り、軽く突っ込みを入れる。

「まぁ、どう思っているのかはお前らの勝手だ。んで、その格闘家の一人が事件に巻き込まれた」

 藤原刑事は少し前かがみになりながら胸ポケットから手帳を取り出し、3枚の写真をテーブルに置いた。
先月の豚の内臓よりも生生しい肉片、人の死体が切り刻まれた物と気づいた白猫は「うぇええ」と思わず言葉を漏らしてしまった。

「ヤカン、これは?」

「白川 十三(しらかわ じゅうぞう)総合格闘技の団体、白川イズムの社長兼選手だ」

「あ、あたし聞いたことありますよ。コンクリートブロックをパンチで壊すとかで有名な人ですよね!」

「そう、被害者は驚異的なパンチ力を持つ事から、ブレーカーアタッチメントと呼ばれていた奴だ」

「たいそうな名前だねぇ。名前の通り機械でも手に仕込んでんじゃないの?」


 黒猫はポケットから煙草を取り出し、卓上ライターで火をつけた。
煙草をふかしながら3枚の写真を手に取る。1枚は被害者の顔写真、2枚目と3枚目にはずたずたにされた死体。
いずれも人ではなくグリズリーやライオンといった人外の何かに襲われたような状態だった。


「んで、この仏さんはこのイケメンの白川さんってわけね」

「無論だ、まずは右腕が原型を留めていないほどズタズタになっていた事、そして首が切断されていた。そして現場に
こんなのがあったのだが……」

 藤原刑事はさらにポケットから鑑識と書かれた小さいビニ―ル袋を取り出し、黒猫に渡す。中には白いカプセル状の物が一粒入っていた。

「これ……フェアリー……」

「あぁ、これが数個落ちていた。一部を分析に出しておいたんだが、間違いなくフェアリーの成分だった。しかも純度がかなり高い」

「純度が高いって、使ってる本人もただじゃ済まないはず。よっぽど被害者は恨まれてたんだねぇ……ナンマンダブ……」

 黒猫は右腕が写っている写真をよくみてみると、ある不審な点に気が付く。吸っている煙草を灰皿に押し付けながらさらに凝視し始める。
隣を見ると半分青ざめた顔の白猫が一生懸命写真を観察していた。

「何か気が付いたか?」

「いや、なんでこんな削がれるように右腕がズタボロにされてんだろうかと……」

「確かにねぇ……」

「っと、早速わかりました!! 何でも壊す右腕を封じるために犯人が怪我をさせたんですよ!ほら、まともに勝負にならないから手負いにさせて……少年漫画の手法ですね!」

「あのな、ノラ。こんな回りくどーく怪我させる暇あったらとっととぶち殺せるだろ。まわりくどく勝負するメリットがあたしには解らないね。」

「あぁ……そう言われてみればそう……かも」

「それに、相手はコンクリぶち壊す格闘家だ。いくら薬の力を借りたとしても、短期決戦に持ち込まないと犯人がぶち殺される可能性だってある」

 二人が話し合いをしている間、藤原刑事は手帳のページを3枚ほどめくり、当時の状況を記したメモを読み上げる。

「発見されたのは朝の5時。現場は飲み屋街として有名な猫鍋町の雑居ビル裏だ。そして、第一発見者はそのビルの管理人のじいさん。早朝に裏口を掃除しようとした所、カラスの大軍を見つけ追い払うと死体がころがっていたそうだ」

「あ、あたしちょっとお手洗いに……うえ……」

真っ青な顔をした白猫が口を押えてトイレに逃げて行った。藤原は「大丈夫か?」と尋ねたが、黒猫は写真を見たまま手のひらを頭の上でひらひらさせて「続けて」と頼んだ。

「……と、まぁ被害者はそん時にすでに死んでいたわけだ。前の日の晩は20時まで若手と隣のビルの居酒屋で試合後の打ち上げをしていたそうだ」

「20時からの足取りは掴めてんのか?」

「いや、団体の若いのに聞いたんだが……突然急用ができたと言って、全員の飲み代を置いて出て行ってしまったそうだ」

「ふーん、で被害者はその後に殺されたと……」

「あぁ、だが謎が多いんだ。死亡推定時刻が午前2時から5時の間で、20時からその時間までの足取りが掴めていないんだ。早朝という事と場所が場所なだけに口論した声や悲鳴を聞いた人間も、目撃も無い。」

「2時から5時ってなんでわかったの?」

「午前2時に1度裏口のゴミ箱に管理人がゴミ出しをしている。その時は特に変わった様子も無かったそうだ。とにかく、被害者はその3時間の間に手をズタズタにされて首を何か鋭利な物でぶった切られたという事だ」

 黒猫はもう1本煙草に火をつけ、ふうっと煙を上向きに吹きながら写真を見つめ続ける。勘と経験、イメージ力をフルに活用して当時の状況を想像する。

「まぁ、なんとなく解った。んで、あたしにどうしろと?」

「お前にこの空白の数時間を調査してほしい。何でもいい、気づいたことを報告してくれ」

「ずいぶんまたイージーな仕事じゃない。犯人逮捕してくれーとか言うもんだとてっきり……」

「馬鹿野郎、逮捕は俺の仕事だ。それに前回の件でお前らに任せすぎると大変だったしな」

「蒸し返すなよ……了解、あんたらのプライドを傷つけないように仕事するさ」

 不機嫌そうにに藤原刑事へ返答する黒猫。そして、沢山の疑問を抱えながら再び難解な事件へ巻き込まれていくのであった。
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